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レポート
【THE NOVEL開発の舞台裏 第2回】商圏分析のノウハウを、AI・売上予測・レポートへ
2026/10/28
売上予測AI機能をはじめ出店判断・店舗開発を支えるAIサービス「THE NOVEL®」は、技研商事インターナショナルが長年培ってきた商圏分析のノウハウを、どのようにプロダクトへ落とし込んでいるのか。本コラムでは、出店候補のスクリーニングから、重回帰分析・機械学習による売上予測、既存店のポートフォリオ分析、そして意思決定に使えるレポート出力まで、「候補地選び」の一連を支える機能設計の考え方を、開発会議の記録とともに解説するコラムの第2回です。
目次
こんにちは。THE NOVEL®のPM(プロジェクトマネージャー)を担当している合同会社InkFieldの越口です。
THE NOVEL®の根っこには、技研商事インターナショナルが数十年にわたって積み上げてきた商圏分析(※ある店舗が集客できる地理的範囲=商圏を、人口・世帯・競合・交通などのデータから分析すること)のノウハウがあります。商圏分析システム「MarketAnalyzer®」をはじめとするGIS(地図情報システム)製品や、数多くのGIS運用支援を通じて培ってきた知見です。
このコラムでお伝えしたいのは、その知見を「AIで売上予測を行う機能」に閉じ込めなかった、ということです。私たちが作ろうとしたのは、候補を減らし、比べ、次の調査へ進む一連の仕事を支えるツールです。その設計過程を、会議記録からたどります。
出店候補は、一気に予測しない ―― 商圏分析の「スクリーニング」という発想
店舗開発の実務を思い浮かべてください。数百の候補地すべてに、いきなり売上予測をかけるでしょうか。実際にはそうしません。
ある分析シナリオの検討では、まず人口・競合・商圏といった条件で候補をスクリーニング(※条件に合わないものをふるい落として絞り込むこと)し、そのうえで売上予測を適用して優先順位をつける、という流れが示されました。条件による絞り込みと、モデルによるランキングを分ける考え方です。これはまさに、技研商事が商圏分析の現場で標準としてきた手順そのものです。
AI機能の検討では、売上予測の使い方を二つに分けて議論しました。一つは地図上で地点を選び、その場所の予測値を確認する方法。もう一つは、候補地のリストに予測値をまとめて付与する方法です。後者は便利に見えますが、用途を確かめると論点が増えました。既存店で実績と予測の差を見るのか、まだ出店していない候補地を順位づけるのか。入力する説明変数(※予測の根拠に使うデータ項目。人口や競合数など)を候補ごとに揃えられるのか。データの書式に誤りがあったとき、どう利用者へ返すのか。同じ「売上予測」でも、単店と一括処理では必要な準備も例外処理も違います。
そこで会議では、二つを一度に完成させる前提を置かず、まず必要性と利用場面を確認し、機能をフェーズで分ける案を検討しました。機能の有無を先に決めるのではなく、「何の判断に使うのか」を問うことでスコープ(※開発の対象範囲)を調整したのです。
売上予測モデルの選び方は、「精度比べ」ではない ―― 重回帰分析と機械学習の使い分け
分析機能というと、「いちばん精度の高い手法を採用すればよい」と考えたくなります。しかし実際の業務でモデルを使うには、結果の良し悪しに加えて、なぜその結果になったのかを説明できること、利用者がどこまで操作できること、入力データに問題があったときに1つ手前の分析ステップに戻れることも必要です。
THE NOVEL®では、重回帰分析(※複数の要因から結果を予測する、古くからある統計手法。結果の根拠を数式で説明しやすい)と機械学習(※データからコンピューターがパターンを自動的に学習する手法。精度が出やすい一方、根拠が見えにくいことがある)を並べて検討しました。初期の検討では、両方を一度ずつ実行し、その結果を見て次の処理を分ける流れが図にされています。
ここで重要だったのは、この段階で一つの手法に決め打ちしなかったことです。二つを同じ画面に載せる利点がある一方、分岐が増えれば説明も操作も複雑になります。ある会議では、重回帰と機械学習で使われる変数が異なる場合、「なぜ違うのかを説明する必要がある」という論点が出ました。精度指標だけを表示しても、その意味を知らない利用者には判断材料になりません。精度が高くても、業務感覚から見て関係が薄い変数が大きく影響していれば、そのまま受け入れてよいのか疑問が残ります。
係数の一覧についても、凝った可視化を増やすより、まず表で見せるほうが分かりやすいのではないか、という検討が残っています。高度な処理を高度な見た目で包むのではなく、利用者が読み取れる形を選ぶ。説明可能性を画面設計へ落とし込む作業です。
既存店を多面的に見る「ポートフォリオ分析」ができるまで
新規出店の予測だけでなく、既存店舗のポートフォリオ分析(※自社の店舗群全体を複数の観点から評価し、店舗ごとの位置づけや特徴をつかむこと)も、THE NOVEL®の重要な柱です。開発プロジェクト内では「Story2」というコードネームで呼んで開発しています。実装は、もう少し先になりそうです。
最初期のたたき台では、データを選び、分析軸を設定し、散布図・レーダーチャート・クラスター分析(※似た特徴を持つ店舗を自動でグループ分けする手法)で既存店舗を眺める流れが置かれました。ただし、画面案があることと、機能の目的が定まっていることは同じではありません。会議では、散布図で何と何を比較するのか、レーダーチャートの基準をどう置くのか、クラスターを何の軸で分けるのかが問い直されました。
難しかったのは、分析結果を元データへどう戻すか、という保存方法でした。クラスターや区分を付けた結果を元のデータに上書きするのか、コピーして別名で保存するのか。複数の経路から同じデータを編集できると、どれが最新か分からなくなります。議論の末、元データを複製して分析を始め、結果を別名で保存する方向に合意が見えましたが、「分析時の設定をどこまで残すか」は要検討として残りました。全部を一度に決めるのではなく、確定できた範囲と未確定の範囲を分けたのです。
さらに見えてきたのは、予測に良いデータと、ポートフォリオ分析に良いデータは違うという事実です。売上予測モデルだけを考えると、似た情報を増やしすぎることで多重共線性(※互いに似通ったデータ項目が多いと、分析結果が不安定になる現象)といった問題が起きやすく、項目を絞る考え方が出ます。一方、店舗群を多面的に眺めるには、分析できる観点は多いほうがよい場合があります。同じデータ基盤を使っていても、用途によって望ましい条件が異なる。共通化を急ぐと、一方の使いやすさを損なう。これは、多様な分析目的を扱ってきた技研商事だからこそ見抜けた論点でした。
分析結果を、「誰でも読めるレポート」にする ―― 出力形式は用途から決める
分析の価値は、結果が次の判断に使われて初めて生まれます。予測モデルが数字を返しても、それだけで業務が進むわけではありません。結果を読むのは分析担当者だけでなく、会議で説明する人、意思決定する人、元データを確認する人もいます。
初期の全体定例では、レポートの出力形式としてPowerPoint・PDF・Excelが比較されました。画面のグラフを画像として貼れば説明資料は作りやすくなりますが、Excelのグラフとして出力できれば、受け取った人が数値を確認したり加工したりできます。これは単なる好みではなく、「説明の安定性を優先するのか、データを扱える自由度を優先するのか」の比較です。画面の評価結果とダウンロードするレポートが別々の情報を示せば、利用者はどちらを正とすべきか迷います。出力形式を選ぶことは、情報の一貫性を決めることでもありました。
レポートの形が具体化すると、既存製品のExcelレポートと感覚を合わせること、作成日の位置、印刷時に含める情報が議論されました。そして追加要件の会議では、印刷用・お客様が加工するためのローデータ(※加工前の生のデータ)・内部的な参照情報という三つの用途が区別されました。フォント、横幅、上位・下位の表示件数までも、単なる装飾ではなく「紙面で読めるか、必要な情報へたどり着けるか」という利用条件として扱っています。ここでも、既存の商圏分析製品で積み上げてきたレポートの作法が下敷きになっています。
数式以外の品質
完成した機能だけを見ると、売上予測や散布図・クラスター分析が目立つかもしれません。しかし開発の中心にあったのは、どのデータを母集団とし、利用者がその条件を理解でき、例外時に誤った対象でモデルを作らないかという、数式以外の品質でした。
商圏分析は、精度という一つの数字だけで完結する仕事ではありません。候補を絞り、手法を選び、結果を説明し、次の意思決定へ渡す。その一連を、技研商事が長年培った知見とともにプロダクトへ落とし込んだこと。それが、THE NOVELという製品の中核にあります。
次回は、この分析機能を「本当に使えるか」「導入する価値があるか」を、どう確かめてきたのかをご紹介します。
筆者プロフィール
越口 渉
合同会社InkField代表社員
株式会社リクルートにてPOSレジアプリ「Airレジ」のプロダクトマネージャーとして、サービス開発を牽引。顧客の要望に徹底的に向き合い、開発スピードを事業成長に直結させる手法で業界のデファクトスタンダードへと導いた。AI翻訳で有名な「ポケトーク」の開発PMを経て、合同会社InkField設立後、THE NOVELのプロジェクトマネージャーに就任。複雑な技術とユーザーニーズの間に立ち、真に価値ある製品体験を創造するプロダクトマネジメントのプロフェッショナル。
〇 合同会社InkField:https://inkfield.net/

監修者プロフィール
市川 史祥
技研商事インターナショナル株式会社
執行役員CMO シニアコンサルタント
一般社団法人LBMA Japan 理事
ロケーションプライバシーコンサルタント
流通経済大学客員講師/共栄大学客員講師
統計士/医療経営士/介護福祉経営士
Google AI Essentials/Google Prompt Essentials

1972年東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。不動産業、出版社を経て2002年より技研商事インターナショナルに所属。 小売・飲食・メーカー・サービス業などのクライアントへGIS(地図情報システム)の運用支援・エリアマーケティング支援を行っている。わかりやすいセミナーが定評。年間講演実績90回以上。
電話によるお問い合わせ先:03-5362-3955(受付時間/9:30~18:00 ※土日祝祭日を除く)
Webによるお問い合わせ先:https://www.giken.co.jp/contact/
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