業界の最新動向をチェック

エリアマーケティングラボ

レポート

位置情報データ活用セミナーレポート GIS人流データで読み解く商圏分析・出店戦略の最前線

2026/07/22

GIS位置情報分析のすべて~各サービス・データ・事例を一挙紹介~

技研商事インターナショナル株式会社は2026年6月17日(水)、オンラインセミナー「GIS位置情報分析のすべて~各サービス・データ・事例を一挙紹介~」を開催しました。スマートフォンなどから取得される位置情報データは近年、ビジネス活用が急速に進んでいる分野です。本セミナーでは、当社が提供する複数の位置情報分析サービスを横並びで紹介しながら、商圏分析・出店戦略・販促施策など幅広い活用シーンを解説しました。本コラムでは、講師を務めた当社パートナーグロースセクター長、河井の講演内容を、「初級編:ロケーション分析の全体像と事例」「応用編:ますます広がる活用シーン」の2部構成でレポートします。

商圏分析や都市計画、観光動態調査の実務に携わる方、あるいは位置情報データのビジネス活用を検討し始めた方にとって、各社サービスの違いや具体的な活用シーンを横並びで把握できる内容となっています。

拡大を続ける位置情報データ市場、まずは基礎知識から

商圏分析や出店戦略で扱うデータは、大きく「自社保有データ」「公的統計などのトラディショナルデータ」「位置情報データなどのオルタナティブデータ」の3種類に分類できます。今回のセミナーが特集したのは、このうちオルタナティブデータ、なかでも位置情報データです。なお、講演内では位置情報データと公的統計を掛け合わせて分析する取り組みを総称して「Smart Census®」と呼んでいることも紹介しました。

さまざまなデータの種類

急成長するオルタナティブデータ市場

米国調査会社(IMARC Group:2025年)の試算によれば、オルタナティブデータ市場は今後10年で10倍以上に拡大する見込みです。人流データもこの成長トレンドの一翼を担う分野であり、すでに多くの企業が活用を始めていますが、浸透度としては「全体の半数程度」というのが現状の到達点です。

取得方式によって異なるデータの強み

位置情報データには、GPS・基地局・Wi-Fiビーコン・AIカメラなど複数の取得方式があります。実数に最も近いとされるのはAIカメラですが、カメラを設置した地点でしか計測できないという制約もあります。一方、GPS・Wi-Fi系データは、居住地や日頃の行動範囲など、現地での目視では把握できない情報を取得できる点が強みです。現地に機器を設置する必要がなく手軽に分析を始められることから、今回のセミナーではGPSデータを中心に紹介しました。

LBMA Japanへの加盟とプライバシーへの配慮

技研商事インターナショナルは、ロケーションビジネスの業界団体「LBMA Japan」(加盟企業120社以上)に参画しています。位置情報データの活用とロケーションプライバシーの保護は表裏一体の課題であり、業界全体で歩調を合わせた啓発活動にも取り組んでいます。

初級編:3つの人流データサービスで読み解くロケーション分析の全体像

セミナー前半では、技研商事インターナショナルのGISプラットフォーム「MarketAnalyzer® 5」を軸に、人流データを取り込んで分析できる3つのサービスが紹介されました。それぞれデータの出自や得意分野が異なるため、目的に応じた使い分けがポイントになります。

MarketAnalyzer® Traffic|広域の通行・滞在動態を可視化

MarketAnalyzer® Traffic」は、ソフトバンクの子会社であるAgoop社の位置情報データをMarketAnalyzer® 5に搭載した共同ソリューションです。ソフトバンクユーザーに限らずマルチキャリアのデータを統合しているためサンプル数が多く、可視化はもちろん「通行量の多い場所はどこか」という逆引き検索や、統計解析と組み合わせた売上予測まで対応する懐の深さが特徴です。

MarketAnalyzer Traffic

セミナーでは荻窪駅や東京都全体を題材に、125メートルメッシュでの滞在人口の時間帯別可視化(朝9時~12時は公的統計の昼間人口に近く、深夜は夜間人口に近い)や、広島市における自動車通行量トップ500の逆引き抽出がデモンストレーションされました。

売上予測モデルへの実装:公的統計×人流データで精度はどこまで変わるか

特に印象的だったのが、都内85店舗を展開するチェーンが86店舗目を検討する事例です。立地区分(オフィス立地・繁華街立地・ショッピング立地など)ごとに、売上と公的統計・人流データとの相関分析を実施したところ、国勢調査の夜間人口との相関はほぼ見られなかった一方、昼間人口や人流データとは高い相関が確認されました。

重回帰分析の結果は次のとおりです(調整済みR²は0から1の範囲を取り、1に近いほど売上の変動をその式でよく説明できていることを意味します)。

重回帰モデル

公的統計のみを用いた場合の調整済みR²は0.54でしたが、人流データを加えることで0.81まで向上したといいます。一方で、人流データだけに絞ると相関はかえって低下する結果に。世帯構成や年収、消費支出といった情報は人流データでは取得できないため、「公的統計と人流データは車の両輪」というのが講師の見解でした。

出店判断のように数百万円から数千万円規模の投資判断を伴う場面では、こうした説明変数の精度向上が収支見込みの確度に直結します。すでに公的統計だけで売上予測モデルを運用している企業にとっては、人流データを追加投入することが次の精度改善ステップになりそうです。

コンビニ業態における出店余地の発見(ホワイトスペース分析)

全国に5万7,000店舗以上が展開するコンビニ業態のように、出店余地の発見自体が難しくなっている市場へのアプローチも紹介されました。「出店余地検索」と呼ばれる手法では、平日12時時点の人流データをもとに、コンビニ1店舗あたりが「背負っている」人口を算出します。東京23区のコンビニ6,500店舗のサンプルで分析した結果、1店舗あたりの平均背負い人口は1,555人、中央値は1,484人でした。この平均値を上回るエリアを逆引きで抽出することで、出店候補地の一次スクリーニングに活用できると示しました。

店舗スクリーニング例

MarketAnalyzer® PPLA|施設来訪者を起点にした分析

MarketAnalyzer® PPLA」は、ブログウォッチャー社の位置情報データを活用し、建物や施設をポリゴンで指定することで、その場所への来訪者を分析できるサービスです。従量課金制のため、小さく始めやすい点もメリットです。

MarketAnalyzer PPLA

千葉県・テラスモール松戸を題材にしたデモでは、来訪者の居住地分布を可視化したところ、再開発が進む流山おおたかの森エリアからの流入が顕著であることが判明しました。さらに、来訪者の70%をカバーする範囲を演算すると車で43分という広域に及ぶことや、国勢調査の人口データ(ポテンシャル)と来訪実績の人流データを掛け合わせることで、人口は多いものの来訪実績がまだ少ない「伸びしろのあるエリア」を可視化できます。

来訪者の勤務地分析でみえる商圏の実像

PPLAならではの特徴的な機能として紹介されたのが、来訪者の勤務地分析です。IKEAの首都圏郊外4店舗を例に、東京都心勤務者は三郷・東北方面の店舗を、日本橋方面の勤務者は船橋方面の店舗をよく利用する傾向が明らかになりました。こうした分析は、都心型店舗の出店検討や広告出稿先の選定などに活用できます。

店舗来訪者分析イメージ

KDDI Location Analyzer|時系列・複数地点比較に強み

KDDIと共同開発した「KDDI Location Analyzer」は、MarketAnalyzer® 5とは別のWebプラットフォームで、2018年からのデータを蓄積しています。大阪駅前を題材にしたデモでは、国内客・訪日客それぞれの滞在人口を任意の期間で切り出して比較できることが示されました。

KDDI Location Analyzer

参加者からのリクエストで実施された大井町駅のデモでは、滞在人口の分布が同心円状ではなく、鉄道路線に沿って伸びる形状を示すことが確認されました。

前後の立ち寄り場所分析で見える来訪者の生活動線

今年新たに追加された機能として、平日夕方5時以降の来訪者について、来訪前後の立ち寄り場所を分析できる機能が紹介されました。大井町のケースでは、品川・有楽町・日本橋方面のオフィス街からの来訪が多いことが判明し、来訪者の勤務地把握や交通広告の出稿検討などへの応用が期待されます。また、複数店舗をまとめて分析する機能では、ヤマダ電機4店舗合計、ビックカメラ10店舗合計といった単位で、来訪者属性や併用率を横並びで比較できることも紹介されました。

店舗来訪者居住地分析イメージ

3サービスの使い分け

セミナーの最後に示された簡易比較は次のとおりです。店舗への来訪分析にはMarketAnalyzer® PPLAやKDDI Location Analyzerが、統計解析とのセット活用にはMarketAnalyzer® Trafficが、それぞれ強みを発揮するとのことです。目的に応じてサービスを使い分けることが、人流データ活用を成功させるポイントです。

項目 MarketAnalyzer® Traffic MarketAnalyzer® PPLA KDDI Location Analyzer
データ提供元 Agoop(ソフトバンク子会社) ブログウォッチャー KDDI
得意な視点 広域の通行・滞在動態、統計解析とのセット活用 施設・店舗単位の来訪者分析 時系列比較・複数地点の同時分析
料金体系の特徴 MarketAnalyzer® 5搭載型 従量課金制で小さく始めやすい サブスクリプション型

初めて人流データ分析に取り組む場合は、まず自社が「どの問いに答えたいのか」を整理することが出発点になります。出店の収支見込みを立てたいのであれば公的統計と相関の取りやすいMarketAnalyzer® Trafficから、既存店や競合店の来訪者像を把握したいのであればMarketAnalyzer® PPLAやKDDI Location Analyzerから着手するのが分かりやすい進め方といえそうです。

応用編:人流データ×統計・アンケートで広がる分析の可能性

セミナー後半では、人流データを他のデータと掛け合わせることで広がる活用シーンが紹介されました。

仮想ペルソナ分析で顧客像を解像度高く描き出す

MarketAnalyzer® 5とKDDI Location Analyzerの連携機能(MKA連携)を使うと、来訪者の居住地データを重ね合わせた分析が可能になります。さらに公的統計に加え、楽天インサイトと連携したアンケートデータを組み合わせることで、来訪者の性別・年代・居住地だけでなく、富裕度や消費傾向、価値観までを深掘りする「仮想ペルソナ分析」が実現します。

仮想ぺルソナ分析

事例として紹介された麻布台ヒルズの来訪者分析では、20代~40代が中心で年収1,000万円以上の比率が高く、職業は情報通信・金融保険・学術研究関連が多いという結果に。これをエリアセグメンテーションデータ「c-japan®」で一言解釈すると「都心のセレブ」と表現されるといいます。年収・年代・世帯構成・店舗集積などの指標を統合して言語化することで、異なるエリア間でも似た客層が集まる場所を相対比較しやすくなる点がメリットです。

c-japan 都心のセレブ

さらに、楽天インサイトと連携した約1,000項目のアンケートデータからは、品質重視でのネットショッピング利用や、贅沢・高級食品志向、高級スーパー・百貨店の利用頻度の高さといった、公的統計だけでは到底捉えきれない消費傾向も読み取れました。こうした分析は推計ではあるものの、従来の手法では把握しにくかった消費者像を描き出せる点に大きな価値があるといえそうです。

消費者ライフスタイルデータ

自転車通行データとサイクルツーリズムへの応用

道路交通法の改正による自転車の車道通行ルールの厳格化や、自転車レーンの全国的な整備の進展を背景に、自転車関連データへの注目が高まっています。国土交通省が主導する「ナショナルサイクルルート」の指定など、サイクルツーリズムを軸とした観光振興・地域創生の動きも進んでおり、インバウンド観光客の関心も高まっているといいます。

MarketAnalyzer® Trafficでも自動車・自転車・徒歩別の交通分担データを取得でき、都市計画分野での活用が進んでいますが、自転車専用道に絞った可視化や観光客・地元客の区別など、標準サービスでは対応が難しいニーズも存在します。こうした場合は生データのカスタマイズで対応しており、鳥取県のサイクルルート(自転車専用道)における通行量推計を支援した実績が紹介されました。

通行量の逆引き分析

自転車レーンの整備状況や交通分担率は、観光振興や沿線商業施設の出店検討、自治体との連携施策などにおいて、今後さらに参照されるデータになっていきそうです。

訪日外国人データで捉えるインバウンド需要

日本政府観光局の公表資料によれば、足元では国際情勢の影響を受けつつも、訪日外国人数は過去最高水準で推移しています。訪日外国人の人流を捉える代表的な手法として、ナビタイムジャパンのデータを活用した2つのサービスが紹介されました。

施設単位の滞在分析を得意とする「KDDI Location Analyzer(訪日外国人版)」では、大阪駅前のデモを通じて、北エリア(昼の街)と南エリア(夜の街)のように、訪日外国人の滞在場所が時間帯によって大きく偏ることが示されました。訪日客は国内客に比べ滞在場所の偏りが顕著であるため、インバウンド需要を定量的に評価する用途に適しているといいます。

訪日外国人の人流分析イメージ

一方、移動・周遊ルートの解析に特化した「インバウンドプロファイラー」では、乗換案内アプリ由来の強みを生かし、駅単位の移動人数や降車後の移動先といった分析が可能とのことで、観光や鉄道分野での活用が想定されます。

インバウンドプロファイラーイメージ

インバウンド需要を取り込みたい小売・サービス業にとっては、施設単位の滞在分析と広域の周遊分析を組み合わせることで、出店候補地の検討だけでなく、多言語対応や営業時間の最適化といった販促・運営面の打ち手にもつなげやすくなりそうです。

まとめ:位置情報データは「公的統計と組み合わせる」フェーズへ

今回のセミナーを通じて見えてきたのは、位置情報データを単体で使うのではなく、公的統計やアンケートデータと組み合わせることで分析の精度と解像度が大きく高まるという点です。売上予測の調整済みR²が、公的統計のみで0.54、人流データを加えて0.81まで向上した事例は、その象徴といえるでしょう。

最後に、本セミナーで紹介された活用テーマと相性の良いサービスを一覧表に整理しました。自社の検討テーマに近いものから、サービス選定の参考にしていただければと思います。

検討テーマ 相性の良いサービス・機能
出店候補地の売上予測・収支見込み MarketAnalyzer® Traffic(公的統計×人流データの相関・回帰分析)
既存店・施設への来訪者の居住地・勤務地把握 MarketAnalyzer® PPLAKDDI Location Analyzer
多店舗展開時のチェーン全体の商圏・併用率分析 KDDI Location Analyzer(複数地点まとめ分析)
顧客像・ペルソナの解像度を高めたい 仮想ペルソナ分析c-japan®
インバウンド需要の把握 KDDI Location Analyzer(訪日外国人版)

技研商事インターナショナルでは、こうした人流データの活用に関するセミナーを定期的に開催しています。商圏分析や出店戦略、販促施策の精度向上を検討されている方は、ぜひ次回セミナーへの参加もご検討ください。
→https://www.giken.co.jp/seminar-event/



監修者プロフィール

市川 史祥

技研商事インターナショナル株式会社
取締役CMO シニアコンサルタント 市川 史祥

一般社団法人LBMA Japan 理事
ロケーションプライバシーコンサルタント
流通経済大学客員講師/共栄大学客員講師
統計士/医療経営士/介護福祉経営士
Google AI Essentials/Google Prompt Essentials

市川 史祥

1972年東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。不動産業、出版社を経て2002年より技研商事インターナショナルに所属。 小売・飲食・メーカー・サービス業などのクライアントへGIS(地図情報システム)の運用支援・エリアマーケティング支援を行っている。わかりやすいセミナーが定評。年間講演実績90回以上。

電話によるお問い合わせ先:03-5362-3955(受付時間/9:30~18:00 ※土日祝祭日を除く)
Webによるお問い合わせ先:https://www.giken.co.jp/contact/

人気のコラム

キャンペーン
期間限定無償提供キャンペーン