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オルタナティブデータとは?多店舗チェーンの店舗開発・経営企画が知っておくべき活用の全貌

2026/06/25

オルタナティブデータコラムサムネイル

「この立地は感覚的に悪くない」「競合が増えて客足が鈍った気がする」——長年の経験から来る勘を否定するつもりはありません。しかし、多店舗チェーンが数十・数百の拠点を同時に管理し、年間数件の出店判断を下すとき、その勘を裏付ける客観的な根拠がなければ、経営会議を通すことも、失敗のリスクを下げることも難しくなります。

近年、こうした「感覚」を可視化・定量化する手段として急速に普及しているのが、オルタナティブデータです。人々の実際の移動履歴、クレジットカードの決済動向、SNS上のリアルな口コミ——従来の統計データでは捉えかったリアルタイムの「生活者の行動」が、今やビジネスの意思決定を変えつつあります。

本コラムでは、店舗開発・経営企画に携わるマネジメント層の方々に向けて、オルタナティブデータの基本から、多店舗チェーン特有の経営課題への具体的な活用方法まで、実務に直結する形でお伝えします。

目次

1. オルタナティブデータとは何か——定義と「なぜ今、注目されるのか」
もともとは金融・投資の世界から生まれた概念
「トラディショナルデータ」との本質的な違い——鮮度・粒度・網羅性
チェーン企業にとっての転換点——「エリアを統計で見る時代」から「エリアをリアルで感じる時代」へ
2. 多店舗チェーンが扱うべきオルタナティブデータの種類と特性
人流データ(GPS位置情報)——来訪者の行動軌跡が明かす「商圏の真実」
決済データ(クレジットカード・電子マネー)——「いつ・いくら・何に使ったか」のリアル購買行動
POSデータ・レシートデータ——他社購買動向が見える「競合分析」の武器
口コミ・SNSデータ——テキストマイニングが拾う「顧客の生の声」
気象・カレンダーデータ——販促タイミングと需要予測を精緻化する環境変数
3. オルタナティブデータが解決する、多店舗チェーン特有の3つの経営課題
課題① 「勘と経験に頼りがちな出店判断」——候補地の通行量・滞在傾向をデータで評価する
課題② 「既存店の商圏侵食と自社競合(カニバリゼーション)」——来訪者の重複分析で適正出店密度を割り出す
課題③ 「一律的な販促施策の非効率」——エリア・時間帯・天候別の需要変動を捉えて投資対効果を最大化する
4. オルタナティブデータ活用の「落とし穴」——導入前に知っておくべき課題
データの品質・サンプル偏りの問題——「全員」のデータではないことを理解する
プライバシーへの配慮と法令対応——個人情報保護法・利用規約の確認が必須
単体では動かない——既存の商圏データ・社内データとの組み合わせが前提
5. オルタナティブデータを「使える状態」にする——GIS・エリアマーケティング基盤との統合
データを地図に落とすことで初めて「意味」が生まれる——GISとの連携の重要性
人流データ×商圏データ×自社データの三層統合で何が見えるか
分析ツールの選定ポイント——自社の分析リソース・活用フェーズに合わせた導入設計
6. 業態別・活用フェーズ別のオルタナティブデータ活用ロードマップ
小売チェーン——出店評価から販促エリア最適化まで
飲食チェーン——立地の通行量評価と時間帯別集客戦略
サービスチェーン(クリニック・美容・学習塾等)——商圏内の潜在顧客プロファイリング
7. まとめ——データは「答え」ではなく「問いを立てる力」を与えてくれる

1. オルタナティブデータとは何か——定義と「なぜ今、注目されるのか」

1. オルタナティブデータとは何か

もともとは金融・投資の世界から生まれた概念

オルタナティブデータとは、企業の財務諸表・政府統計・業界レポートといった「公的統計(トラディショナルデータ)」に対し、それ以外のあらゆるデータソースを総称した言葉です。語源は英語の「Alternative Data」で、「代替データ」とも訳されます。

もともとこの概念が注目されたのは、ヘッジファンドや機関投資家の世界です。四半期ごとにしか更新されない財務データでは市場の先を読めないと考えた投資家たちが、衛星画像から小売駐車場の混雑度を計測したり、クレジットカードの決済動向から消費トレンドをいち早く察知したりするアプローチを採り始めました。この「公式統計の外側にある生のシグナル」こそがオルタナティブデータの本質です。

現在では、その活用領域は金融・投資にとどまらず、小売・飲食・サービスといったチェーン企業のビジネス戦略にも急速に広がっています。なぜなら、チェーン企業が抱える「エリアの市場性を正しく評価したい」という課題は、「企業価値を正しく評価したい」という投資家の課題と本質的に同じ構造を持っているからです。


「トラディショナルデータ」との本質的な違い——鮮度・粒度・網羅性

オルタナティブデータを正しく理解するために、従来からある「トラディショナルデータ」との違いを整理しておきましょう。

比較軸 トラディショナルデータ オルタナティブデータ
主な例 国勢調査・商業統計・業界レポート・財務諸表 GPS位置情報・決済データ・口コミ・レシートデータ
更新頻度 年次・四半期(タイムラグが大きい) 日次・時間帯別・リアルタイム
空間粒度 都道府県・市区町村単位が中心 数十〜数百メートル単位の高精度
取得方法 公的機関・業界団体からの入手 センサー・アプリ・決済端末等から収集
活用難易度 構造化されており扱いやすい 加工・統合の工夫が必要

注目すべきは「鮮度」と「粒度」の差です。例えば、国勢調査の人口データは5年に1度の更新ですが、GPS位置情報を用いた人流データであれば数日前の通行量を今日確認できます。また、市区町村や町丁目単位ではなく、特定の交差点や商業施設の前を何人が通過したかを把握することも可能です。この「いつ・どこで・誰が・何をしたか」という行動の粒度こそが、チェーン企業の実務に直結する価値を生み出します。


チェーン企業にとっての転換点——「エリアを統計で見る時代」から「エリアをリアルで感じる時代」へ

かつてのエリアマーケティングは、「人口構成」「世帯数」「競合数」といった統計値を積み上げて市場ポテンシャルを評価するアプローチが主流でした。これはこれで有効な手法ですが、一つの弱点があります——それは「平均値しか見えない」という点です。

例えば、ある商圏に20〜40代の女性が多いというデータがあっても、その女性たちが実際にその候補地の近くを通っているのか、競合他社の店舗に先に吸い込まれているのか、特定の曜日や時間帯にしか動線が重ならないのか——こうした「動的な行動の実態」は、従来の統計データからは読み取ることができませんでした。

オルタナティブデータは、この「静的な平均値」を「動的な行動の実態」に変換します。これは単なるデータの追加ではなく、マーケティングの思考フレームそのものの転換を意味します。


2. 多店舗チェーンが扱うべきオルタナティブデータの種類と特性

2. 多店舗チェーンが扱うべきオルタナティブデータの種類と特性

オルタナティブデータには多種多様なカテゴリがありますが、多店舗チェーンのビジネス実務に特に関連性の高いものを以下に整理します。それぞれのデータの「何がわかるのか」「どんな課題に使えるのか」という実務視点で捉えることが重要です。


人流データ(GPS位置情報)——来訪者の行動軌跡が明かす「商圏の真実」

スマートフォンのGPS機能やアプリの位置情報許諾から生成されるデータです。特定のエリアに「どこから・何時に・どのくらいの滞在時間で」人々が訪れているかを時系列で把握できます。

〈チェーン企業における主な活用場面〉

  • 候補物件の前を通行する人数・属性の実測(通行量調査の代替)
  • 既存店への来訪者がどのエリアから訪れているか(実勢商圏の把握)
  • 競合店への訪問者と自店への訪問者の重複率(競合シェアの把握)
  • 時間帯・曜日・季節別の人流変動パターン(営業時間・スタッフ配置の最適化)

なお、人流データはその取得方法や集計粒度によって精度に大きな差があります。また、データ提供会社によってサンプルサイズや年代別の偏りが異なるため、活用目的に合ったデータソースを選定することが重要です。


決済データ(クレジットカード・電子マネー)——「いつ・いくら・何に使ったか」のリアル購買行動

クレジットカード会社や電子マネー事業者が保有する決済履歴を、個人が特定されない形で集計・加工したデータです。業種カテゴリ別の支出額、利用頻度、客単価の推移などが含まれます。

〈チェーン企業における主な活用場面〉

  • 商圏内の消費者が飲食・小売・サービスにどの程度支出しているか(購買力の把握)
  • 競合ブランドへの支出傾向との比較(ウォレットシェアの把握)
  • 地域ごとの消費水準の季節変動(出店タイミングや販促施策の設計)

人流データが「どこに行ったか」を示すのに対し、決済データは「何を買ったか・いくら使ったか」を示します。両者を組み合わせることで、来店行動と購買行動の両面から商圏の実態を把握できます。


POSデータ・レシートデータ——他社購買動向が見える「競合分析」の武器

小売・飲食業の販売時点情報(POS)や、消費者が登録したレシート情報を集計したデータです。商品カテゴリ別の購買頻度、価格帯の分布、購買の組み合わせパターンなどを把握できます。

〈チェーン企業における主な活用場面〉

  • 競合他社の実売動向の把握(自社POSデータと比較した市場シェアの推定)
  • 商圏内の消費者がどのカテゴリに購買傾向を持つかの分析
  • 新商品・プライシング施策の市場反応のモニタリング

特に多店舗チェーンにとって重要なのは「自社データだけでは競合に対する自社の立ち位置が見えない」という点です。外部POSデータ・レシートデータを活用することで、初めて市場全体の中での相対的な位置づけが把握できます。


口コミ・SNSデータ——テキストマイニングが拾う「顧客の生の声」

Google マップのレビュー、食べログ・ホットペッパーなどのグルメサイト、X(旧Twitter)や Instagram への投稿など、消費者が自発的に発信したテキストデータです。感情分析(ポジティブ・ネガティブの判定)や話題抽出(何が評価されているか)に活用されます。

〈チェーン企業における主な活用場面〉

  • 候補出店エリアにおける競合店の評判・弱点の把握
  • 自社既存店のサービス品質の定点観測(クレーム傾向の早期発見)
  • エリア別の生活者ニーズの把握(どんな店・サービスが求められているか)

気象・カレンダーデータ——販促タイミングと需要予測を精緻化する環境変数

気象情報(気温・降水量・日照時間)や祝日・イベントカレンダーは、それ単体ではなく売上データや人流データと組み合わせることで真価を発揮します。「雨の日は来客数が何%落ちるか」「近隣でイベントがある日の通行量がどう変わるか」といった環境変数として機能します。

特に飲食・小売チェーンでは、天候と売上の相関関係をエリア別・店舗別に把握しておくことで、食材の仕込み量調整・スタッフシフト最適化・タイムリーなプッシュ通知配信など、オペレーション精度の向上に直結します。


3. オルタナティブデータが解決する、多店舗チェーン特有の3つの経営課題

3. オルタナティブデータが解決する、多店舗チェーン特有の3つの経営課題

課題① 「勘と経験に頼りがちな出店判断」——候補地の通行量・滞在傾向をデータで評価する

【課題の構造】
新規出店の意思決定は、多くの企業にとって最もリスクの高い経営判断のひとつです。物件情報を受け取ってから判断するまでの時間は限られており、商圏調査に十分な時間を取れないことも珍しくありません。その結果、「ベテランの店舗開発担当者の経験則」が意思決定の中心に置かれがちです。
経験値は確かに重要ですが、多店舗展開が進むほど「過去の成功パターンと異なるエリア」への出店が増えます。既存店の多い地域は経験知が通用しても、初進出のエリアや競合構造が変化した市場では、勘だけでは精度を保てません。

【オルタナティブデータによる解決アプローチ】
人流データを活用すると、候補物件の前を通行する人数・時間帯・性年代のプロファイルを、現地調査なしに把握できます。さらに、その通行者たちが「競合他社の店舗にも立ち寄っているか」「どのエリアから来ているか」といった移動行動のパターンまで可視化できます。
加えて、既存店と類似した通行量・商圏プロファイルを持つ候補地を定量的にランキングする「類似地スコアリング」も可能になります。これにより、「感覚的によさそう」な候補地と「データで見てもよい」候補地を比較し、より根拠のある意思決定が可能になります。

重要なのは、オルタナティブデータは「担当者の経験を不要にする」のではなく、「経験を数値で検証・補強する」ためのツールという位置づけです。経営会議での説明責任を果たす上でも、データによる裏付けは大きな力を発揮します。


課題② 「既存店の商圏侵食と自社競合(カニバリゼーション)」——来訪者の重複分析で適正出店密度を割り出す

【課題の構造】
多店舗展開が進むほど避けられない問題が「カニバリゼーション(共食い)」です。新店が既存店の商圏を侵食し、グループ全体の売上は増えないのに店舗数だけが増えるという状態です。
従来の商圏分析では、「商圏の半径」「人口密度」「競合距離」といった静的な指標を用いてカニバリリスクを評価していました。しかし、これらの指標では「実際にどこから来店しているか」という行動実態を捉えられず、カニバリの発生後に売上データを見て初めて気づくというケースが少なくありませんでした。

【オルタナティブデータによる解決アプローチ】
人流データの「来訪者の居住・勤務エリア分析」を活用することで、自社の各既存店がそれぞれどのエリアの顧客をどの程度カバーしているか、そして候補地の出店によってどの既存店の商圏が侵食されるかを事前に定量的に評価できます。
具体的には、既存店Aに来訪している人々と、候補地Xに立ち寄る人々の居住エリアの「重複率」を計算します。この重複率が高いほど、候補地Xへの出店がA店の来客を奪うリスクが高いと判断できます。逆に、重複率が低く、かつ候補地周辺に未開拓の来訪ポテンシャルがある場合は、チェーン全体の売上増加につながる「真の新商圏」と評価できます。

この分析は、出店判断だけでなく、「既存店の統廃合」「業態転換の検討」にも応用できます。チェーン全体のポートフォリオを俯瞰的に最適化するための意思決定基盤として機能します。


課題③ 「一律的な販促施策の非効率」——エリア・時間帯・天候別の需要変動を捉えて投資対効果を最大化する

【課題の構造】
多店舗チェーンの販促施策において、よくある問題のひとつが「全店一律の施策」です。本部主導で策定したチラシ配布エリア・クーポン配信タイミング・メニュー改定が、立地特性の異なるすべての店舗に均一に適用されます。結果として、一部の店舗では過剰な販促費が投じられ、別の店舗では潜在需要を取り逃がしています。

【オルタナティブデータによる解決アプローチ】
人流データを用いると、各店舗の「ピーク来訪時間帯」と「来訪者が出発するエリア」を把握できます。例えば、ある店舗は近隣のオフィスワーカーが昼時間帯に集中して来訪するパターンなのに対し、別の店舗は週末の家族客が主軸だとわかったとします。この場合、同一の平日昼間クーポン配信は前者には有効でも、後者には的外れになります。
さらに、気象データとの組み合わせにより「気温が○度以下の日は来客数が△%減少する傾向がある」といった店舗ごとの感度を把握し、天候連動の動的プライシングや在庫調整に活用しているチェーンも出てきています。

決済データとの組み合わせでは、商圏内の消費者が競合他社にいつ・どのくらい支出しているかを把握し、競合の販促タイミングに合わせた対抗施策を機動的に打つことも可能になります。


4. オルタナティブデータ活用の「落とし穴」——導入前に知っておくべき課題

オルタナティブデータのポテンシャルをお伝えしてきましたが、実際の活用にあたってはいくつかの重要な注意点があります。「データを購入すれば答えが出る」という過信は禁物です。

オルタナティブデータ活用の「落とし穴」——導入前に知っておくべき課題

データの品質・サンプル偏りの問題——「全員」のデータではないことを理解する

人流データの多くは、特定のアプリや通信サービスを利用するユーザーのGPS情報を元にしています。そのため、スマートフォンの利用率が低い高齢者層や、特定のキャリア・アプリを使わない層はサンプルに含まれにくいという偏りが生じます。
決済データも同様に、現金のみで購買する消費者層は捕捉できません。年代・地域によってキャッシュレス普及率に差があるため、「このエリアは購買力が低い」という判断が、実は「このエリアには現金利用者が多い」というバイアスを反映している可能性があります。

オルタナティブデータはあくまで「推計値」「傾向値」であり、絶対的な真値ではありません。複数のデータソースを照合し、既存の統計データとの整合性を確認しながら活用することが、誤った意思決定を防ぐ上で不可欠です。


プライバシーへの配慮と法令対応——個人情報保護法・利用規約の確認が必須

オルタナティブデータの多くは、元をたどれば個人の行動履歴です。個人情報保護法の改正(2022年施行)では、個人関連情報の第三者提供に関する規制が強化されており、データの調達先・利用目的・加工状態を適切に確認することが法的義務となっています。
また、特にソーシャルメディアデータの収集・活用については、各プラットフォームの利用規約が頻繁に改定されており、適法な利用範囲が変化します。法務部門と連携しながら、調達するデータの法的根拠を確認するプロセスを社内に整備しておくことが重要です。

信頼できるデータプロバイダーを選定する際は、「データがどのように収集・匿名化されているか」「個人情報保護法および関連ガイドラインへの準拠を明示しているか」を確認のポイントとしてください。


単体では動かない——既存の商圏データ・社内データとの組み合わせが前提

オルタナティブデータは、単体で導入しても即座に成果が出るものではありません。その真の価値は、既存の商圏統計データ(人口・世帯・業種別事業所数など)や自社の売上実績・顧客データと組み合わせることで初めて発揮されます。
例えば、人流データで「この物件の前は通行量が多い」という事実がわかっても、その通行者の購買力や年齢層が自社のターゲットと合致しているかどうかは、人口統計データとの照合が必要です。さらに、「通行量が多い→売上が高い」という仮説を検証するには、既存店の実績データとの相関分析が欠かせません。

つまり、オルタナティブデータは「既存の分析基盤の上に乗せることで精度と解像度を上げる」という性格を持ちます。データ活用の基盤が整っていない段階でオルタナティブデータだけを導入しても、その価値を引き出すことは難しいでしょう。


5. オルタナティブデータを「使える状態」にする——GIS・エリアマーケティング基盤との統合

オルタナティブデータを使える状態にする

データを地図に落とすことで初めて「意味」が生まれる——GISとの連携の重要性

オルタナティブデータの多くは、位置情報(緯度・経度)を持つ地理空間データです。このデータを最大限に活用するためには、GIS(Geographic Information System:地理情報システム)との連携が不可欠です。
GISとは、地理的な位置情報と属性データを統合し、地図上で可視化・分析するシステムです。人流データを例にとると、「座標データをGIS上に展開して地図に重ねる」ことで初めて、候補地の周辺にどのエリアから人が集まっているか、競合との位置関係と人流の関係がどうなっているかを直感的に把握できます。

逆に言えば、GIS基盤なしにオルタナティブデータを扱おうとすると、数値の羅列から意味を読み取る作業が非常に困難になります。「どこ」という空間的な文脈なしに人の行動データを解釈することには限界があるのです。


人流データ×商圏データ×自社データの三層統合で何が見えるか

実務上、最も高い分析精度を実現しているチェーン企業は、「三層統合」とも言えるデータアーキテクチャを構築しています。

  • 第一層:商圏データ(ベースレイヤー)
    国勢調査・商業統計・住宅地図などの公的統計。エリアの人口構成・世帯特性・競合分布といった「静的な市場環境」を把握します。この層が分析の土台となります。
  • 第二層:オルタナティブデータ(ダイナミックレイヤー)
    人流データ・決済データ・口コミデータ。「動的な消費者行動」を時系列で把握します。第一層の統計データが「エリアの属性」を示すのに対し、この層は「エリアで起きていること」を示します。
  • 第三層:自社内部データ(パフォーマンスレイヤー)
    既存店の売上実績・客数・顧客属性データ。この層を第一層・第二層のデータと紐づけることで、「どういう環境条件の立地がどういう売上パターンを示すか」という予測モデルの構築が可能になります。

この三層を地図上で統合・可視化することで、「なぜあの店は好調なのか」「あのエリアへの出店はなぜ期待通りの成果が出なかったのか」といった問いへの構造的な答えが得られます。


分析ツールの選定ポイント——自社の分析リソース・活用フェーズに合わせた導入設計

オルタナティブデータを活用するためのツール選定においては、「自社の現在地」を正直に評価することが出発点です。以下の観点で整理してみてください。

  • 社内に専任のデータ分析担当者はいるか(GIS操作スキルの有無)
  • どの意思決定(出店判断・販促設計・商圏見直し)にデータを使いたいか
  • 既存の分析ツール(表計算ソフト・BIツール等)との連携が必要か
  • 導入コストと期待ROIのバランスは合うか

専任の分析担当者がいない企業であっても、近年は操作が簡便なクラウド型のGIS・エリアマーケティングツールが普及しており、現場担当者が直感的に人流データや商圏統計を地図上で確認できる環境が整いつつあります。一方で、売上予測モデルの構築や多変量解析を行うフェーズに進む場合は、統計解析機能を備えた専門的なGISプラットフォームが必要になります。

重要なのは「全部一度に導入しようとしない」ことです。まず特定の課題(例:出店評価の属人性を下げる)に絞ってデータ活用を始め、成果確認しながら段階的に活用範囲を広げていくアプローチが、多くのチェーン企業で成功を収めています。


6. 業態別・活用フェーズ別のオルタナティブデータ活用ロードマップ

ここでは、業態別の代表的な課題とオルタナティブデータの活用ステップを整理します。自社の業態と現状フェーズに照らし合わせながら読み進めてください。

業態別・活用フェーズ別のオルタナティブデータ活用ロードマップ

小売チェーン——出店評価から販促エリア最適化まで

  • STEP 1(基礎):候補物件周辺の人流データ取得と来訪ポテンシャル評価。既存の商圏統計データと組み合わせ、徒歩・自動車別の商圏範囲を定義する。
  • STEP 2(応用):来訪者の居住エリア分析により実勢商圏を把握し、チラシ配布エリアをポテンシャル密度に応じて最適化する。競合店への来訪者との重複分析でウォレットシェアの奪取余地を評価する。
  • STEP 3(高度化):決済データ・自社POSデータを統合した売上予測モデルを構築し、出店評価の精度を定量的に高める。気象データとの連動で需要変動を在庫・発注計画に反映させる。

飲食チェーン——立地の通行量評価と時間帯別集客戦略

  • STEP 1(基礎):候補物件前の時間帯別通行量と滞在者プロファイルを把握する。ランチ・ディナー・深夜といった時間帯ごとの人流パターンが業態適合性の評価指標になる。
  • STEP 2(応用):競合飲食店への来訪者と自店への来訪者の行動比較を行い、メニュー・価格帯・営業時間の差別化ポイントを明確化する。口コミデータのテキスト分析で競合の強み・弱みを特定する。
  • STEP 3(高度化):気象データ×人流データ×売上実績の三層分析により、日次の来客予測モデルを構築し、食材廃棄率の削減とスタッフシフトの最適化を実現する。

サービスチェーン(クリニック・美容・学習塾等)——商圏内の潜在顧客プロファイリング

  • STEP 1(基礎):商圏内の居住者属性(年齢層・世帯構成)を人口統計データで把握するとともに、来訪者の実勢居住エリアを人流データで検証し、ターゲット層の人口集積地を特定する。
  • STEP 2(応用):潜在顧客が利用している競合サービス・施設への訪問傾向を人流データから把握し、自院・自店のポジショニングを明確化する。決済データで商圏内の同業カテゴリへの支出水準を把握する。

7. まとめ——データは「答え」ではなく「問いを立てる力」を与えてくれる

まとめ

オルタナティブデータの本質的な価値は、「答えを出してくれること」ではありません。「これまで問えなかった問いを立てられるようにしてくれること」にあります。

「あの立地、なんとなく人通りが少ない気がするんだよな」という直感を、「昨年対比で通行量が15%減少しており、特に30〜40代の減少が顕著」という問いに変換する力。「最近あのエリアは厳しい」という体感を、「競合B社への来訪者と自店への来訪者の重複率が半年前の28%から41%に上昇している」という問いに変換する力。

これが、オルタナティブデータを活用するチェーン企業が手にする「意思決定の質の転換」です。勘を否定するのではなく、勘に裏付けを与え、経験を再現可能なノウハウとして組織に蓄積できるようになります。

一方、改めて強調しておきたいのは「データ万能論」への戒めです。オルタナティブデータはあくまで推計値であり、サンプル偏りや取得方法の差異による誤差を内包しています。複数のデータソースを照合しながら、最終的な判断に人間の文脈理解と経験を加えるハイブリッドなアプローチが、実務では最も効果的です。

多店舗チェーンにおけるオルタナティブデータの活用は、まだ全体的に見れば「先進企業の取り組み」の段階ですが、その裾野は急速に広がっています。今から基盤を整え、自社の意思決定プロセスにデータを組み込んでいく企業が、次の出店競争・販促競争において優位性を持つことは間違いないでしょう。



監修者プロフィール

市川 史祥

技研商事インターナショナル株式会社
取締役CMO シニアコンサルタント 市川 史祥

一般社団法人LBMA Japan 理事
ロケーションプライバシーコンサルタント
流通経済大学客員講師/共栄大学客員講師
統計士/医療経営士/介護福祉経営士
Google AI Essentials/Google Prompt Essentials

市川 史祥

1972年東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。不動産業、出版社を経て2002年より技研商事インターナショナルに所属。 小売・飲食・メーカー・サービス業などのクライアントへGIS(地図情報システム)の運用支援・エリアマーケティング支援を行っている。わかりやすいセミナーが定評。年間講演実績90回以上。

電話によるお問い合わせ先:03-5362-3955(受付時間/9:30~18:00 ※土日祝祭日を除く)
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