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エリアマーケティングラボ
2025年9月22日号(Vol.176)
ニュウマン高輪は、JR東日本が進める大規模開発「TAKANAWA GATEWAY CITY」の中核をなす商業施設です。この都市開発は「100年先の心豊かなくらしのための実験場」を掲げ、環境・モビリティ・ヘルスケアをテーマに未来のライフスタイルを創造する社会実験と位置づけられています。
2025年9月12日(金)に本格開業し、オープン時に約2,500人の行列ができたと話題です。
本コラムでは、前半でニュウマン高輪のコンセプトや概要を説明し、さらに後半で、当社とKDDI株式会社で共同開発した人流分析ツール「KDDI Location Analyzer」
を用いて、来訪者の属性や分布を自主分析しました。
※コンセプトや概要部分はインターネット上の公開情報を基に当社が独自に作成したものです。
【コンセプトは「都市の中の、新しい居場所」】
ニュウマン高輪が掲げるコンセプトは、シンプルでありながら奥深い「都市の中の、新しい居場所」です。ファッションやグルメ、ビューティーといった商業施設ならではの魅力はもちろんのこと、その先にある「体験」と「心地よさ」を追求しています。
目指すのは、「大人も子どもも、誰もが楽しく心地よく」過ごせる空間の提供。その思想は、ペット同伴可能なエリアの設置や、親子が一日中楽しめるような空間づくりといった具体的な形となって現れており、多様化する現代のライフスタイルを優しく包み込み、訪れる人々の日常に深く寄り添おうとする姿勢がうかがえます。
ニュウマン高輪が位置するTAKANAWA GATEWAY CITYは、JR東日本が推進する過去最大級のまちづくりプロジェクトであり、そのコンセプトは「100年先の心豊かなくらしのための実験場」と定義されています。これは、単なる商業・オフィスエリアの開発ではなく、社会課題の解決と未来のライフスタイルの創造を目指す、一種の社会実験であることを示唆しているでしょう。このビジョンは、以下の3つの核心的テーマに基づいています。
1. 環境: CO2排出実質ゼロを目指す。
2. モビリティ:人とロボットが共存する。
3. ヘルスケア: 誰もが100年心豊かに生きられる社会の実現。
ニュウマン高輪は、そのコンセプトを具現化するために、5つの戦略的な価値創造の柱を掲げています。
1. 多様な出会いと、体験を
人々が集い、つながる、ひらかれた空間を創出する。大人も子どもも自由に過ごせる「こもれびら」のような空間は、新たな交流を生むための装置として設計されている。
2. 街に息づく、新しい価値
高輪という土地ならではの、新しい暮らしの時間を生み出す。
3. 五感を満たすリアル体験
クラフトマンシップに焦点を当て、新たな食体験を提供する。
4. 普遍と上質のショッピング
一時的な流行に流されず、永く愛されるモノとの出会いを提案する。これはファストファッションとは一線を画す価値観である。
5. 未来を紡ぐ、共創の場
社会と連携し新たな価値を育む場所となる。衣料品循環の取り組み「anewloop」や将来計画されているコミュニティビレッジ「MIMURE」は、この柱を具体化するプロジェクト。
ニュウマン高輪は、それぞれが独自の目的を持つ3つの主要エリアで構成されており、複数の建物にまたがって展開されています。
• South & North(1~5階)
約150から200店舗が集結する主要な商業ハブ。ファッション、コスメ、ライフスタイル、グルメなど、幅広いニーズに応える施設の中心部である。
• LUFTBAUM(ルフトバウム)(28~29階)
高層階に位置するプレミアムなデスティネーション。ダイニングと特別な時間の過ごし方に特化している。
• MIMURE(ミムレ)(将来開発)
2026年春に開業予定のコミュニティ形成を目的としたゾーン。日本の食文化をテーマに、オープンファクトリーなどを併設する計画である。
地上150mに「都心の別荘」を創り上げるという大胆な発想のもと、500本以上の植物が配され、富士山を望む屋外庭園が広がります。圧巻なのは、商業施設として日本で初めて常設されるイマーシブ・オーディオシステム。時間や場所に応じて立体的な「音の風景」が変化し、訪れる者を深い没入体験へと誘う。
これは、オンラインでは決して再現不可能な、五感を揺さぶるリアル体験の極致と言えるでしょう。
South棟の5階に広がる「こもれびら」は、延床面積約4,000㎡を誇る、大人と子どものための融合空間です。このゾーンは、核テナントである滞在型書店「BUNKITSU TOKYO」を運営する株式会社ひらくと共同で構想され、フロア全体が「小さな“街”」のように設計されています。
ニュウマン高輪の特徴は、そのテナント構成に最も色濃く表れています。中核をなす「THE LINKPILLAR 1」ビルは、South棟とNorth棟で明確にその役割を分けているようです。
South棟は、トレンドとラグジュアリーの発信拠点。2階には「シャネル」「プラダ ビューティ」「エルメス・イン・カラー」など、世界的なラグジュアリービューティーブランドが一堂に会し、東京の新たな美の目的地となることを宣言しているよう。高感度なファッションや、ウェルネス志向のブランドも集積。そして5階の「こもれびら」が文化的な深みを与えています。
North棟は、「上質な日常生活」を支えるハブです。「成城石井」「明治屋」「茅乃舎」といった高品質な食の専門店、大規模な「無印良品」、そしてレストランを併設した調理器具ブランド「バーミキュラ」の旗艦店などが軒を連ねます。さらに「アークテリクス」や「サロモン」などのアウトドア・スポーツブランドも充実させ、アクティブな都市生活者の日常に寄り添っています。
この配置は、単なる棲み分けではなさそうです。
North棟が、周辺住民や約2万人のオフィスワーカーの日常的な利用を促す強力な「集客エンジン」となり、そして、North棟が生み出した安定的な客足を、特別な体験を提供するSouth棟へと巧みに誘導しています。
North棟が「頻度」を、South棟が「単価」と「ブランド価値」を担うとも言えます。この「共生的なマーチャンダイジング戦略」こそが、施設全体に持続可能で強固な収益構造をもたらそうという意図の表れではないでしょうか。
2026年のグランドオープン時には、以下の施設が加わり、TAKANAWA GATEWAY CITYはその全貌を現すことになります。
• MIMURE(ミムレ)(2026年春開業)
日本の食文化をテーマにした「コミュニティビレッジ」。ビールやチョコレートなどのオープンファクトリーを併設し、人々が地域や社会とつながる場を目指す。
• THE LINKPILLAR 2(2026年春開業)
泉岳寺駅に隣接する複合棟。オフィス、クリニック、フィットネス施設に加え、ニュウマン高輪の最終区画が入居する。また、街全体のエネルギーセンターとしての機能も担う。
• MoN Takanawa: The Museum of Narratives(2026年春開業)
街の文化的シンボルとなる複合文化施設。建築家・隈研吾氏がデザインを手掛け、展示施設やホールを備え、次世代の文化育成・発信拠点となる。
• TAKANAWA GATEWAY CITY RESIDENCE(2026年春開業)
国際水準のプレミアムレジデンス。低層部にはインターナショナルスクールも併設され、グローバルなコミュニティの形成を目指す。
ここからは当社の専門分野である商圏分析・エリアマーケティングの切り口でニュウマン高輪を分析していきます。
分析の軸としては、「ニュウマン高輪にどんな人がどこから来ているのか」を人流データで見ていくというものです。
使用した人流分析ツールは、当社とKDDI株式会社による協業で共同開発・共同提供している「KDDI Location Analyzer」です。
「KDDI Location Analyzer」とは
KDDIの高信頼な位置情報と、技研商事インターナショナルの商圏分析ノウハウを用い開発したGIS(地図情報システム)です。姓・年代や、居住、勤務、来街に関する属性データ(※)を活用し、店舗やエリアへの来訪者の時間帯別傾向等を、Webブラウザで何度でもすぐに調べられます。
※ 個人情報とは紐づかない秘匿化されたデータです。
ニュウマン高輪のNorth棟とSouth棟にジオフェンス(下記地図内の赤い枠線)を設定し、ジオフェンス内に滞在したGPS位置情報を集計。全人口推計という拡大推計処理を行い図表を出力。
2025年9月13日(土)~15日(月:祝日)の3日間で、1回以上来訪し、30分以上滞在した位置情報を集計対象としました。
■ 性別・年代
まずは来訪者属性として性別と年代を見ていきます。20代のみ男性のほうが多いですが、全体的に女性、特に30代と40代の女性が目立ちます。
■ 市区町村別来訪者居住地
次はどこから来たのかという視点で見ていきます。設定した条件において、ニュウマン高輪に滞在していた人の居住地を分析しました。
下記グラフは市区町村別の来訪者居住地の上位10市区町村です。港区、大田区、品川区という順番です。上位10市区町村で全体の来訪者の6%程度を占めていました。交通アクセスの良さか、オープン直後ということもあるのかかなり広範囲から来ているのでしょうか。
■ 仮想ペルソナ分析とエリアセグメンテーションデータ
ここまで「どんな人が来訪したのか?」ということで、性別・年代に注目してきました。
来訪者のペルソナ像をさらに深堀りする当社の特許技術を生かした独自の手法として「仮想ペルソナ分析」というものがあります。GPS位置情報から得た来訪者分布データを、統計学的に処理し、そのペルソナ像を類推するというものです。
▶ 仮想ペルソナ分析の詳細はこちら
分析結果の一部をご紹介します。
来訪者分布とc-japan® Homeというエリアセグメンテーションデータを重ね合わせた分析結果です。
ニュウマン高輪は、TAKANAWA GATEWAY CITYが掲げる「100年先の心豊かなくらしのための実験場」という壮大なビジョンを、一般の人々が体感できる魅力的な形で具現化しています。
ただ、その成否は、単一の商業施設の成功にとどまらず、未来の都市開発のあり方、そしてリアルとデジタルの境界が曖昧になる社会における「場所」の価値を再定義できるかの試金石となるのではないでしょうか?
東京の新たな「グローバル・ゲートウェイ」として、国内外から人々を惹きつけ、新たな文化とビジネスを創出し続ける拠点となることが大いに期待されています。
さらに本コラムによって、このような注目を集めている施設・エリアを商圏分析・エリアマーケティングの観点と人流データによって、来訪者の傾向や商圏を自ら分析できる世界に興味を持っていただけたら幸いです。
監修者プロフィール市川 史祥技研商事インターナショナル株式会社 執行役員 マーケティング部 部長 シニアコンサルタント |
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医療経営士/介護福祉経営士 流通経済大学客員講師/共栄大学客員講師 一般社団法人LBMA Japan 理事 Google AI Essentials Google Prompt Essentials 1972年東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。不動産業、出版社を経て2002年より技研商事インターナショナルに所属。 小売・飲食・メーカー・サービス業などのクライアントへGIS(地図情報システム)の運用支援・エリアマーケティング支援を行っている。わかりやすいセミナーが定評。年間講演実績90回以上。 |
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