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広島SC対決の勝敗を見る

広島市の郊外を舞台に、大手小売の新型ショッピングセンター(SC)が激突している。どちらも新業態であることから流通関係者の注目を集めている。この2店をGPSを用いて比較した。 (流通情報誌「激流」2019年6月号掲載)

2019年6月18日号(Vol.94)

■新業態同士が5kmの距離で相まみえる

広島市の郊外を舞台に、大手小売りの手がける新型ショッピングセンター(SC)2店が激突している。1つが2017年4月にオープンしたイズミの「LECT(レクト)」。もう1つが18年4月にオープンしたイオンの「THE OUTLET HIROSHIMA(ジ・アウトレット広島)」だ。両者の距離は5km離れておらず、車なら約15分で行き来できる至近エリアに立地。加えて、そのどちらもがチャレンジングな新業態であることから、広島の2大SC対決として流通関係者の注目を集めている。

一足先にオープンしたレクトは、館のテーマに「知・食・住」の3つのキーワードを掲げる。39000㎡の売り場の中で、特に力を入れたのが「食」ゾーン。イズミの食品館を核テナントに、約60店の飲食店や専門店を集積した。また「知」ゾーンでは、カルチュア・コンビニエンス・クラブと組み、25万冊の本とスターバックスを備えた蔦屋書店を誘致。「住」ゾーンではホームセンターのカインズにDIY工房を導入するなど、買い物に加え、日常に寄り添った居心地の良い空間や体験を提供するSCを目指している。

一方のジ・アウトレット広島はイオン初のアウトレット業態。2層に分かれる総賃貸面積は53000㎡。上層階のアウトレットにはナイキやプーマなどのスポーツブランドのほか、フェラガモやコーチといった服飾の高級ブランドなど127店が入る。下層階はアミューズメントと飲食を主体に構成。スケートリンクや複合映画館といった施設も備え、日常使いを前提としたSCとの差別化を図る。

今回、ジ・アウトレット広島の開業1年に合わせ、2店の戦いの模様にフォーカス。来訪者のデータを分析することで、お客の取り込み状況や使われ方の違いなどを比較検証してみたい。データの提供は商圏分析サービスを手がける技研商事インターナショナル社に依頼した。

■広域から集客するアウトレット日常使いにも対応するレクト

まず両者ともに広域をにらんだ業態ということで、それぞれのお客がどこからやって来ているのかを割り出してみた。スマートフォンのGPS位置情報を基にして、来訪者の分布を地図上にドットで示したのが図表1・2だ。

これを見ると、いずれも予想以上に広いエリアから集客をしていることに驚く。瀬戸内全域のみならず、山陰地方、さらには福岡、大阪にもドットの密集が見られる。ただし車で1時間ほどの足元を除くと、ジ・アウトレット広島の方がよりドットが広く濃く分布しているようだ。アウトレットという業態コンセプトや、備える機能からしても戦略通りと言えるが、広域からの集客という意味ではイオンに軍配が上がった。

では、いよいよ実際の客入りの状況を見てみよう。図表3において、昨年の3月(ジ・アウトレット広島オープンの1カ月前)から一年間の来訪者データを抽出。2店の合計を100とした時の構成比を示した。

これを見ると、やはりジ・アウトレット広島のオープンを境にお客が一気にそちらに流れている。その後、約2カ月間はアウトレット優勢が続いたようだ。だが、7月あたりからはオープン特需が収束し、レクトと拮抗。現在に至るまでほぼ互角の状況が続いている。

より詳しく見ると、ジ・アウトレット広島には特需の後に客入りが跳ねたタイミングが2度ほどある。横軸の日付に照らすと、これはお盆と正月の時期に相当しそうだ。来訪者分布の広がりと合わせて考えると、やはり帰省や旅行、ハレの日のタイミングでの来店が多いようだ。

一方、レクトは広域からの集客ではジ・アウトレット広島に後れを取ったものの、客数では負けていない。このことからレクトは日常使いの需要に応え、多頻度来店を促すことで、足元のお客を囲い込んでいるのではないかと考えられる。

裏付けとなるデータもある。2店の平均訪問回数の比較だ(図表4)。

ジ・アウトレット広島への平均訪問回数が1年に2.27回なのに対し、レクトは3.55回。それだけレクトに足繁く通うお客が多いことを意味する。

2店の使われ方の違いは、図表5の平均滞在時間にも表れている。レクトは日常的な買い物に利用されることも多いためか、2時間以上の滞在は少ない。それに比べると、ジ・アウトレット広島は時間に余裕のあるお客が多く来店する傾向がある。いくつものショップを見比べたり、映画館などを利用することもあるため、2時間半近く滞在するお客も多いようだ。

■新業態といえど絶え間ない進化が必要

ここまでの分析をまとめよう。まず現状、両SCは互角の戦いを繰り広げている。しかしそれは真っ向から対立しているというより、お客の使い分けによってある程度の棲み分けが成立しているからと考えられる。今のところは、それぞれがテナント揃えなどで打ち出す差別化戦略が効果を上げているようだ。

ただし経年とともに新規性や話題性は徐々に薄れていく。足元の広島市も人口減少が進む中で、どちらがより柔軟にニーズに対応し、多くの固定客をつかめるかが今後の勝負の分かれ目となりそうだ。

広島市の中心市街地においては、百貨店や専門店のテコ入れも相次いでいる。そごう広島店は建て替えも見据えた要望把握のための改装を進めており、本館1階に観光案内所を開設。食品売り場の改装も検討する。広島パルコは昨年秋の改装で本館1階の売り場の9割を刷新し、新たにカフェを出店した。停滞のSC市場で勝ち残るためには、新業態といえど絶え間なく進化し続けることが必要といえそうだ。

(イズミのレクト(上)とイオンのジ・アウトレット広島(下)。それぞれ異なった魅力を打ち出す)

著者プロフィール

国際商業出版株式会社
「激流」編集部 中村 秋紀
2016年入社。スーパー、コンビニ、ドラッグストアなど小売業全般を対象とする月刊誌「激流」の編集部に所属。同誌にて、話題店舗のその後や競合ひしめく激戦地の状況などをデータから分析する「商圏を読み解く」を連載中。

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