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エリアマーケティングラボ
月刊GSI 2019年1月号(Vol.91)
出店エリアの拡大で生き残りを図るドラッグストアの中においても着実に勢力を拡大し続ける「クスリのアオキ」。
今回は同社の「生産フルライン店」に焦点をあて実際に競争力を発揮できているかについて検証していきます。
(流通情報誌「激流」2019年1月号掲載)
「攻撃は最大の防御」とばかりに、出店エリアの拡大で生き残りを図るドラッグストアが増えている。中でも北陸から始まり、信越、関東、東海、近畿に着々と勢力を伸ばすのがクスリのアオキだ。その出店ペースはすさまじく、昨年9月から今年11月までの1年あまりで100店を出店し、店舗数は500店の大台を突破。今期も80店を出す強気の計画を進めている。
同社の出店戦略を支えるのは標準化された300坪のフォーマット。HBC(ヘルス&ビューティーケア)商材を核にして、立地に応じて調剤を併設したり、自前で青果を扱うことで消費者のニーズに応える。そして近年、新たに開発を強めているのが450坪の次世代フォーマットだ。特徴は生鮮の扱いを深めたこと。テナントの導入によって青果、精肉、鮮魚、惣菜の生鮮4品をフルラインで取り扱う店もある。
背景にあるのは競争環境の変化だ。元々、生鮮強化店のモデル化にいち早く取り組んでいたクスリのアオキだったが、これに追随するように、北陸、東海でバッティングするGenky DrugStores(ゲンキー)が生鮮の扱いを全店に拡大。バローホールディングス傘下の中部薬品も実験的に生鮮、惣菜を扱う店に着手しており、クスリのアオキもより競争力のある店舗を模索するに至ったのだ。
そこで今回は同社の「生鮮フルライン店」に焦点をあて、現状どこまでフォーマットとして仕上がってきているか、実際に競争力を発揮できているかについて検証したい。店舗の商圏分析、競合比較分析に際しては、技研商事インターナショナルのGIS(地図情報システム)を活用した。
まず現在の展開状況について確認しよう。クスリのアオキのホームページによると、この11月時点で生鮮4品を取り扱う店舗は28店ある。生鮮フルライン店とそれ以外で区別して同社の店舗分布を表したのが図表1だ。
これを見ると、濃淡の差はあるものの、既にフルライン店は同社が展開する地域に満遍なく広がっていることがわかる。店舗数が多いのはやはり地盤である北陸エリア。県別の内訳は、富山と福井に5店ずつ、岐阜と群馬に4店ずつ、新潟に3店、愛知と石川に2店ずつ、栃木、滋賀、奈良に1店ずつとなっている。
次に、フルライン店が出店している商圏について詳しく見てみよう。図表2は店舗周辺2kmの商圏特性について、フルライン店と全店で平均を出し、比較したものだ。
フルライン店の周辺人口は全店平均より約5000人少なく、足元の人口の張り付きが薄い郊外立地であることがわかる。当然世帯数も少なくなるが、一方で世帯あたりの構成員は多い。特に4~5人以上世帯比において、フルライン店は全店平均を大きく上回っている。フルライン店の出店立地は大人数のファミリーが多い商圏であり、よって生鮮食品の需要の高いエリアをピンポイントで押さえているといえそうだ。
また、6歳未満の子どものいる世帯比は両者であまり変わらなかったが、65歳以上のいる世帯比には大きな差が出た。フルライン店の商圏には高齢者も多く住んでおり、こうしたお客のワンストップの買い物需要も見越していると考えられる。
では実際にフルライン店は商圏内のお客を取り込めているのだろうか。競合店と比較分析することでその力量を推し量ってみたい。
今回取り上げるのは富山県射水市の新大門店だ。17年10月11日オープン。同店は元々大門店という標準タイプの店舗で、これを200mほどリロケートして生鮮4品を備える新型フォーマットに転換したという経緯がある。
比較対象には、旧大門店の向かいにあった地場スーパーのサンコー大門店を選定した。生鮮をフルラインで揃えるからには、スーパーとの真っ向勝負は避けられない。その上できちんとお客に選ばれる店になっているかが重要だ。
スマートフォンのGPS位置情報を基にして、オープン1カ月前から約半年間の来訪者の推移をまとめたのが図表3だ。
これを見ると、新大門店は大きく飛躍している。転換を機に客数が大幅に増加し、これまでサンコーにつけられていた差が一気に埋まった。オープンから1カ月はスーパーとほぼ同程度のお客が来店。その後はお客を取ったり取られたりという山谷が生まれているが、期間によってはクスリのアオキがサンコーを上回る時もあり、決して一方的な戦いにはなっていない。年末商戦ではやや苦戦した様子のアオキだが、年明けからは復調。オープンから4カ月経過した時点でも、両者はほぼ互角の戦いを繰り広げている。
また、図表4はクスリのアオキに来店したお客がどこから来ているかを割り出し、転換前後で比較したもの。転換前は店舗近隣の限られた範囲にドットが密集。一方、転換後は足元のお客を確保したまま、より広いエリアから満遍なく人を集めることができている。
生鮮4品を扱うことで商圏も広がり、地域住民の支持も高まったように見受けられる。
見てきた通り、クスリのアオキの生鮮フルライン店は、至近に立地するスーパーとも渡り合うだけの競争力を備えている。異業種の向こうを張って戦えるフォーマットだけに、商圏のあらゆる競合にとって脅威となりそうだ。
もし、同社のフルライン店に懸念材料があるとすれば、それは店舗拡大がテナント頼みであることだろう。もちろん、テナントを活用するメリットも多分にある。品揃えの専門性に始まり、ロス管理や人材育成など、生鮮を扱う上でのハードルが大幅に軽減されるのは確かだ。しかし、いくらクスリのアオキがフルライン店を出そうと思っても、テナントが集まらなければそれまで。実際、生鮮強化店の位置付けだが鮮魚はなし、という店もいくつかあり、カテゴリーに欠落が出ればお客から見たワンストップの利便性は途端に崩れる。
同社は今期、テナント導入店を15店上積みする計画。だが、うち何店がフルラインかは示されていない。今後に向けては、テナント企業との関係強化も重要なポイントとなりそうだ。
国際商業出版株式会社
「激流」編集部 中村 秋紀
2016年入社。スーパー、コンビニ、ドラッグストアなど小売業全般を対象とする月刊誌「激流」の編集部に所属。同誌にて、話題店舗のその後や競合ひしめく激戦地の状況などをデータから分析する「商圏を読み解く」を連載中。
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