技研商事インターナショナル技研商事インターナショナル
エリアマーケティングラボ
2026年1月22日号(Vol.211)

AIと機械学習の進化は、長らくアルゴリズムの洗練とモデルの巨大化によって支えられてきました。研究者や現場の関心も「いかに深く複雑なモデルを作るか」という「モデル中心(Model-Centric)」のアプローチが主流でした。
しかし近年、「データ中心のAI(Data-Centric AI)」への転換が急速に進んでいます。ハイパーパラメータの微調整に時間を費やすよりも、学習データの質を高め、特徴量を磨き上げる方が、実用的な精度向上に直結する――。この「原点回帰」とも言える潮流が、今のAI開発の最前線です。
データサイエンティストの間では「業務時間の80%をデータの前処理に費やしている」という事実がよく語られます。このリソースの偏りは、単なる業務効率の問題にとどまらず、企業のAI投資対効果(ROI)を著しく低下させる要因となっています。
本コラムでは、データ分析の現場で特に扱いが難しい「空間データ」に焦点を当て、公的統計等のデータをそのままAI学習に使えない理由から、どのようにすれば活用できるようになるかまで、分かりやすく解説します。
地理情報システム(GIS)の役割もまた、劇的に変化しています。かつては地図を作成・可視化するためのツールでしたが、ビッグデータ時代の到来とともに、その価値は再定義されました。
現代のデータ分析において、GISデータは単なる「地図」ではありません。予測モデルの精度を左右する、極めて重要な「説明変数(特徴量)」の宝庫として注目されています。

しかし、国勢調査などの「Raw Data(生のデータ)」をそのままAIに投入すれば良いわけではありません。そこには、空間データ特有の構造的な問題が潜んでいるからです。
例えば、「人口」「世帯数」「年齢構成」といった変数は、互いに強い相関関係を持ちます。「人口が多い地域は、世帯数も多い」のは当然だからです。
これらをそのままモデルに投入すると、統計学で言う「多重共線性(Multicollinearity)」が発生します。結果としてパラメータ推定が不安定になり、予測結果の信頼性が著しく損なわれるリスクがあります。
単なる「人口密度」の数値だけでは、その場所が「昼間だけ賑わうビジネス街」なのか「夜に人が戻るベッドタウン」なのか、AIは判断できません。数値の背後にある「街の文脈(コンテキスト)」が欠如しているため、ビジネス判断に使える「理由」を導き出せないのです。

店舗周辺にどれだけの顧客が存在し、どの程度の購買力を持っているかを示す基礎データです。
・人口・世帯: 夜間人口や世帯数に加え、「単身世帯率」や「高齢化率」等、業態に合わせた構成比を特徴量といいます。
・昼間人口:オフィス街や学生街のポテンシャルを測るために不可欠な、勤務・通学時間帯の人口です。
・富裕度・消費支出:高級店等では、単なる人口数より「年収1000万円以上の世帯数」等の商圏の「質」が決定打となります。
この課題を解決する鍵が、「特徴量エンジニアリング(Feature Engineering)」です。
これは、ドメイン知識と数学的処理を駆使して、ノイズの多いRaw DataからAIが学習しやすい純粋なエッセンス(特徴量)を抽出する工程です。
技研商事インターナショナルは、35件以上の特許技術を用い、扱いづらい空間データを「分析即戦力データ(Analysis-Ready Data)」へと変換します。
我々のエンジニアリングでは、数多くの変数を統計的に独立した(相関のない)少数の指標へと変換します。
独自のアルゴリズムで「都会っぽさ」「富裕度」「流動性」といった軸を抽出。指標同士が無相関(相関係数0)になるよう「直交化」されているため、多重共線性の問題を根底から解消します。
これにより、以下のメリットが生まれます。
● 計算効率の最大化: 情報を圧縮し、AIの学習コストを劇的に削減。
● 説明可能性(XAI)の向上: 「なぜその予測になったのか」を人間が理解できる言葉で説明可能に。

理論上、これらの縮約処理はアナリスト自身でも可能です。しかし、無数にある変数から何を選び、どう解釈するか(特徴量エンジニアリング)には、統計学だけでなく、都市構造に関する深いドメイン知識が不可欠です。
当社が提供するのは、専門家によってこの「蒸留」プロセスが完了した「Analysis-Ready Data(分析即戦力データ)」です。 アナリストは、多重共線性の懸念がないクリーンなデータを即座にモデルに投入できます。
これにより、最も時間を要する「データ準備」の工数を劇的に削減し、モデルの構築やインサイトの発見という、本来注力すべきコア業務に集中できるのです。
当社の技術を結集したデータベース「c-japan®」は、国勢調査などの公的統計に独自の推計モデルを組み合わせ、日本全土を「そこに住む人・活動する人の特性」に基づいてセグメンテーション(分類)したものです。

Raw Dataには数百〜数千の項目があり、それらは強い多重共線性を持っています。例えば、「高所得世帯数」と「持ち家率」の連動などです。 そこで当社は、年齢、家族構成、年収、地価といった多変量を独自のアルゴリズムで圧縮(次元削減)し、日本全国を11の中分類、35の小分類にカテゴライズしました。
アナリストにとって、この「セグメントID」は、多重共線性を回避しつつ、地域の「質」を単一で表現する強力な説明変数(カテゴリカル変数)として機能します。
従来のデータは「夜間人口(居住者)」が中心でした。しかし、ビジネスの現場では「昼間、そこに誰がいるか」も重要です。
例えば、東京・丸の内のオフィス街は、夜間人口(住民)は極めて少ないものの、昼間は高い購買力を持つ人々が集まります。逆に、原宿には住民とは異なる若者が溢れます。夜のデータだけに頼ると、こうした重要なエリアを「人がいない無価値な場所」と誤判定するリスクがあります。
2025年に開発された「c-japan® Daytime」は、以下の技術で「昼の顔」を可視化しました。

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エリア分類 |
特徴(文脈) |
ビジネス活用例 |
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ビジネス街 |
高層オフィス、高所得者層 |
BtoB広告、タクシー配車予測 |
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学生街 |
若者が多い、安価な飲食需要 |
カフェ出店、リクルート広告 |
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繁華街 |
商業施設、休日来訪者 |
イベント企画、品揃え最適化 |
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工業・流通団地 |
トラック交通量、昼夜差大 |
物流拠点配置、ロードサイド店舗 |
ChatGPTをはじめとする大規模言語モデル(LLM)のビジネス活用においても、エンジニアリング済みの空間データは重要な役割を果たします。

LLMは言語操作能力には長けていますが、物理空間の位相関係やエリア特性を本質的には理解していません。これを「空間的幻覚(Spatial Hallucination)」と呼びます。
例えば、「Cエリアの出店リスク」を問われた際、LLM単体では詳細な商圏データを持たないため、一般的な論にお茶を濁すか、事実に基づかない「もっともらしい嘘(Hallucination)」を出力するリスクがあります。これは、AIが座標の持つ「意味」を学習していないことに起因します。
この課題には、当社の「c-japan®」のような構造化された地理空間データを「外部知識」としてAIに参照させるRAG(Retrieval-Augmented Generation)アプローチが有効です。
Web上のテキスト情報(非構造化データ)だけでなく、当社が提供する「エンジニアリング済み特徴量(エリアの富裕度、流動性等)」をプロンプトに注入することで、AIはファクトに基づいた論理的な推論が可能になります。

「分析対象地(メッシュコード: 5339xxxx)の情報
・エリア特性: 都心富裕層・ニューファミリー(c-japan分類)
・世帯年収: 800万円(全国上位5%)
・人口増減率: +4.2%(流入超過)
・競合店の多さ: 低(空白地帯)
このように数値を「文脈」として与えることで、不動産投資レポートの自動生成や、エリアマーケティングのチャットボットなど、実用的なAIサービスの構築が可能になります。
AI開発は「モデルの複雑さ」を競う時代から、「データの品質」を問う時代へと完全に移行しました。
未加工のビッグデータを大量に持つだけでは、もはや競争優位にはなりません。ノイズを除去し、ビジネスの文脈を付与した「特徴量」へと磨き上げるエンジニアリング能力こそが、勝敗を分ける鍵となります。
データを「数」から「意味」へと昇華させる「c-japan®」は、長年にわたる当社の空間情報技術と、数多のプロジェクトで培った「集合知」の結晶です。
多重共線性のリスクから解放され、説明可能なAI(XAI)を実現するために。私たちのデータ技術が、皆様のデータドリブンな変革を強力に支援します。

監修者プロフィール市川 史祥技研商事インターナショナル株式会社 執行役員CMO シニアコンサルタント |
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| 一般社団法人LBMA Japan 理事 ロケーションプライバシーコンサルタント 流通経済大学客員講師/共栄大学客員講師 医療経営士/介護福祉経営士 Google AI Essentials/Google Prompt Essentials 1972年東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。不動産業、出版社を経て2002年より技研商事インターナショナルに所属。 小売・飲食・メーカー・サービス業などのクライアントへGIS(地図情報システム)の運用支援・エリアマーケティング支援を行っている。わかりやすいセミナーが定評。年間講演実績90回以上。 |
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