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エリアマーケティングラボ
2023年9月6日号(Vol.112)※2025年11月28日更新
人流データは、人々がどのように移動しているかを把握できるデータです。ビジネス活用では、顧客行動の理解、マーケティング施策の立案、競合調査、店舗立地分析など様々な場面で役立てることができます。
人流データの解析には、分析手法や留意点など、一定の知識が必要です。しかし、正しく活用すれば、ビジネスの精度を大幅に向上させる強力な武器となるでしょう。
今回のコラムでは、位置情報を基にした人流データの活用について、データの種類や取得方法、業界別の利用例や実際の具体事例、無料で使えるオープンデータなどを紹介します。
※本コラムは、2025年11月に一部内容を更新いたしました。
人流データは、特定エリアにおける人々の動きを定量的に捉え、可視化する情報です。主にスマートフォンの位置情報を基に、特定の時間にどこにどれだけの人がいたか、どこから来てどこへ向かったかなどを把握できます。
データは、性別・年代といった属性情報を含むものや、特定の移動手段に分類されたものなど、目的に応じて様々な種類が存在します。
これらのデータは地図上のメッシュと呼ばれる区画単位で集計され、特定の地点の滞在人口や移動経路を分析することで、これまで把握が難しかった人の動きを直感的に理解できるようになります。
人流データの活用が注目されている主な理由は、以下の4点があげられます。
• 高精度なデータ取得
デジタル技術とモバイル端末の普及により、以前は困難だった精度の高い位置情報が容易に取得できるようになったため。
• 社会的認知度の向上
コロナ禍での混雑状況把握や行動制限の効果測定等、人流データが社会課題の解決に役立つ認知が広がったため。
• 解析の容易化
AIの進化により、専門知識がなくても大量の人流データを容易に分析できるツールが登場したため。
• マーケティングへの親和性
顧客行動の理解、商圏分析、効果測定など、マーケティング施策への応用範囲が広く、効果も期待できるため。

人流データをビジネスに活用することで、企業は様々なメリットを享受できます。これまで経験や勘に頼りがちだった意思決定を、客観的なデータに基づいて行うことが可能になるため、戦略の精度を飛躍的に高めることが可能です。
具体的なメリットとして、顧客の行動を深く理解した上でのマーケティング施策の立案、出店計画における商圏分析の精度向上、イベント開催時の安全対策などが挙げられます。
データに基づいたアプローチは、コストの最適化や新たなビジネスチャンスの創出にも貢献します。

人流データの取得には多様な技術が用いられており、それぞれの取得方法によってデータの特性や精度、カバー範囲が異なります。ビジネスで活用する際は、目的に応じて最適な手法を選択することが重要です。
例えば、広域の動向を把握したい場合と、特定の店舗内の動きを詳細に分析したい場合では、適した技術が異なります。ここでは、代表的な5つの取得方法を紹介し、それぞれのメリット・デメリットを比較しながら、どのようなシーンで有効かを解説します。
携帯電話キャリアが保有する基地局の通信情報を基に、利用者の位置情報を推定する方法です。この手法の最大の特長は、特定のアプリのインストールを必要とせず、キャリアの契約者全体を対象とした大規模かつ網羅的なデータを取得できる点にあります。
国内の人口動態を広範囲にわたって把握するのに適しており、都市計画や観光動態分析などで活用されます。ただし、位置の特定は複数の基地局との距離から算出するため、後述するGPSに比べると位置情報の精度はやや低くなる傾向があります。
【メリット】
1. 広域データ取得: 全国レベルでの人の流れを把握するのに適する
2. 継続的なデータ取得: 携帯電話の電源が入っていれば、継続的にデータ取得が可能
3. 匿名化データ: 通常、個人が特定できないように匿名化処理されたデータが提供される
【デメリット】
1. 精度の限界: 詳細な行動追跡やピンポイントなエリア分析は不向き
2. 屋内での精度低下: 建物内や密集地では精度が低下
【主な用途】
都市計画、地域間の動態分析、災害時の避難状況把握、マクロなエリアマーケティング分析

スマートフォンに搭載されたGPS(Global Positioning System)機能を利用して、人工衛星からの電波を受信し、緯度経度情報を取得する方法です。ユーザーが許諾したアプリを通じてデータを収集します。
この手法は、数メートル単位での正確な位置情報を取得できるため、個人の詳細な移動経路や滞在場所の分析に適しています。取得された膨大な位置情報データを機械学習などの技術で解析することで、交通手段の推定や特定の施設への来訪検知など、より高度な分析が可能となります。
通信キャリアのサービス例:
KDDI Location Analyzerは、GPS位置情報ビッグデータ ※ および属性 (性別・年齢層等) 情報を搭載したクラウド型GIS(地図情報システム)。定額で何度でも、店舗や施設、特定エリアの来訪者数や時間帯・平休日別傾向、来訪者属性等を分析できます。
多店舗展開のチェーン企業や消費財メーカー、各種サービス業、商業開発のデベロッパー、自治体、金融・不動産向けのコンサルタントが活用する人流分析ツールとして導入が進んでいます。
〇詳細はこちら:https://www.giken.co.jp/service/kla/
※ 位置情報ビッグデータとは、KDDIがauスマートフォンユーザー同意のもとで取得し、誰の情報であるかわからない形式に加工した位置情報データおよび属性情報 (性別・年齢層等)を指します。
商業施設や駅、空港などに設置されたWi-Fiアクセスポイントへの接続情報を基に、人の流れを把握する手法です。特定の施設内やエリアにおける人の動きを計測するのに適しており、特にGPSの電波が届きにくい屋内での人流分析に強みを発揮します。
来訪者の滞在時間や移動経路、リピート率などを分析し、店舗レイアウトの改善やテナント構成の最適化に活用されます。
デメリットとしては、Wi-Fiに接続しない利用者のデータは取得できないため、来訪者全体の一部しか捉えられない点が挙げられます。
ビーコンと呼ばれる小型の発信機を店舗や施設内に設置し、その周辺を通過するスマートフォンのBluetooth信号を検知して位置を特定する技術です。
数メートルから数十メートルという近距離での高精度な検知が可能で、特定の売り場や展示物の前に立ち止まった人数をカウントするなど、マイクロな行動分析に適しています。
データは個人を特定できないよう匿名化された上で統計情報として扱われるため、個人情報保護の観点にも配慮されています。クーポン配信など、位置情報と連動した販促施策にも応用可能です。
店舗の入口や通路などに設置したカメラの映像をAIで解析し、通行する人の数を計測する方法です。最新の技術では、単に人数をカウントするだけでなく、性別や年代といった属性情報を推定することも可能になっています。
この手法は、特定のエリアを通過した人数や滞在時間をリアルタイムで正確に把握できる点が強みです。
具体的な活用例として、店舗前の通行量と入店率を計測してディスプレイの効果を測定したり、時間帯ごとの客層の変化を分析して商品構成に反映させたりするなどの応用が進んでいます。
人流データはビジネスに多くの可能性をもたらす一方で、その活用にはいくつかの注意点が存在します。
特に個人情報の取り扱いについては、法令を遵守し、プライバシーに最大限配慮する必要があります。また、データから有益な知見を引き出すためには専門的な知識が不可欠です。 単一のデータだけでは分析に限界がある場合も多く、目的に応じて複数のデータを組み合わせ、多角的に分析する視点も重要になります。
これらの点を理解した上で、計画的に導入を進めることが成功の鍵です。
人流データは、その元となる情報によっては個人情報保護法における「個人情報」や「個人関連情報」に該当する可能性があります。
そのため、データの取得から活用に至るまで、法令を遵守し、個人のプライバシーを侵害しないよう細心の注意を払わなければなりません。
多くの人流データ提供サービスでは、個人が特定できないように氏名などを削除し、統計的に処理されたデータを提供しています。
自社でデータを扱う際には、匿名加工情報や仮名加工情報に関するルールを正しく理解し、適切な安全管理措置を講じることが不可欠です。
人流データは、その元となる情報によっては個人情報保護法における「個人情報」や「個人関連情報」に該当する可能性があります。そのため、データの取得から活用に至るまで、法令を遵守し、個人のプライバシーを侵害しないよう細心の注意を払わなければなりません。
多くの人流データ提供サービスでは、個人が特定できないように氏名などを削除し、統計的に処理されたデータを提供しています。自社でデータを扱う際には、匿名加工情報や仮名加工情報に関するルールを正しく理解し、適切な安全管理措置を講じることが不可欠です。
最適な人流データ・人流分析ツールを選択するには、目的を明確にすることが重要です。
人流データ分析ツールは多種多様であり、それぞれ得意とする分析内容や機能が異なります。自社の課題や目的に合致したツールを選ぶことで、より効果的なデータ活用が可能になります。
最終的には、無料トライアルなどを活用して、実際にデータを分析し、使い勝手を確かめることをお勧めします。
位置情報等のデータを用いると常に最新の人流を把握できるため、人口動態の把握に最適といわれています。こうしたタイムリーな人流の把握は、民間のエリアマーケティングや官公庁・自治体の都市計画、観光分析、防災計画等において、機動的な戦略立案のためのエビデンスとして活用されています。




(飲食業界での具体事例)
丸亀製麺をはじめとする飲食チェーンを運営されるトリドールホールディングスでの、人流データ活用事例です。
店舗開発において、売上予測の精度向上と、より実態に即したデータ活用が課題となっていた同社は、GPS位置情報データを活用できる「KDDI Location Analyzer」を採用。これにより、商業エリアの分析精度が高まり、出店判断におけるリスク低減に貢献しています。
また、コロナ禍のような予測困難な状況下においても、エリアの変化を迅速に捉え、柔軟な対応を可能にする効果もあるとしています。エリアマーケティングにおける人流データ活用に関心をお持ちの方にとって、示唆に富む事例となるでしょう。
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〇事例詳細はこちら
https://www.giken.co.jp/case-study/toridoll_kla/
(マーケティング支援会社の具体事例)
小売・食品業界向けコンサルティングを手掛ける株式会社アットテーブルにおける人流データ活用事例です。
同社は、顧客企業の店舗と競合店の来訪者や商圏の比較が難しいという課題がありました。そこで、人流データを活用できる「KDDI Location Analyzer」の導入により、自店舗と競合店の顧客の居住地や属性情報をタイムリーに把握し、比較分析を容易に行うことが可能になりました。
この結果、データに基づいた客観的な分析を通じて、顧客視点での店舗づくりをロジカルに支援できるようになっています。
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〇事例詳細はこちら
https://www.giken.co.jp/case-study/attable/
(不動産業界での具体事例)
国内外で幅広い不動産サービスを展開するシービーアールイー株式会社は、これまで人手による通行量調査に依存していましたが、調査地点や期間に制約があり、データ蓄積や比較に課題がありました。
人流データを容易に収集できる「KDDI Location Analyzer(KLA)」の活用により、継続的かつ多角的なエリア分析を実現しました。特に、KLAの通行人口データと自社の不動産賃料データを組み合わせることで、物件のポテンシャルを可視化し、顧客への提案力を向上させています。
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〇事例詳細はこちら
https://www.giken.co.jp/case-study/cbre/
(総合プロモーション会社の具体事例)
リテール企業向けに店舗マーケティング・プロモーションを展開する株式会社電通tempoによる人流データ活用事例です。
以前は、人流データは“データ購入方式”で活用していましたが、分析エリアや条件の変更の度にコストと時間がかかっていたため、定額制で自由に人流データを収集・分析できる「KDDI Location Analyzer」を導入。これにより、店舗の客層把握、販促エリアの最適化、キャンペーン効果測定などが容易になり、顧客への提案精度向上と、PDCAサイクルの迅速化を実現しました。
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〇事例詳細はこちら
https://www.giken.co.jp/case-study/dentsu-tempo/
〇 定額制人流分析システム「KDDI Location Analyzer」詳細はこちら
※2週間の無償トライアル実施中、お申し込みは こちら から。
〇より広域かつ詳細な分析を実現する「MarketAnalyzer® PPLA」詳細はこちら
〇 GPS位置情報ログベースで人流を把握できる「流動人口データ」詳細はこちら
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監修者プロフィール市川 史祥技研商事インターナショナル株式会社 執行役員 マーケティング部 部長 シニアコンサルタント |
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| 医療経営士/介護福祉経営士 流通経済大学客員講師/共栄大学客員講師 一般社団法人LBMA Japan 理事 1972年東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。不動産業、出版社を経て2002年より技研商事インターナショナルに所属。 小売・飲食・メーカー・サービス業などのクライアントへGIS(地図情報システム)の運用支援・エリアマーケティング支援を行っている。わかりやすいセミナーが定評。年間講演実績90回以上。 |
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