技研商事インターナショナル技研商事インターナショナル
エリアマーケティングラボ
2022年12月12日号
※2026年1月16日更新


まず、商圏分析の基本となる「商圏」の定義から、なぜビジネスにとって重要なのかを理解していきましょう。
商圏とは、自社の店舗に来店する可能性のある顧客が住んでいる地理的な範囲を指します。一般的に、この範囲は店舗からの距離や移動時間によって設定されます。
商圏は、顧客が来店する可能性の高さに応じて、主に3つのエリアに分類されます。
1次商圏:
最も来店頻度が高いと期待される中心的なエリア。徒歩や自転車で5分~10分圏内が目安。
2次商圏:
1次商圏の外側で、週に1回程度の来店が見込めるエリア。車や公共交通機関で5分~15分圏内が目安。
3次商圏:
最も範囲が広く、月に1回程度の来店が見込めるエリア。車や公共交通機関で15分以上かかる範囲が該当する。
ただし、この範囲はあくまで目安です。スーパーマーケットのような日常的に利用する店舗と、専門性の高い家具店では商圏の広さが全く異なります。自社の業種や業態、ターゲット顧客の行動パターンに合わせて適切な商圏範囲を設定することが重要です。
商圏の定義の仕方は様々で、他に下記のようなものもあります。
物理的商圏:距離や移動時間を基準とした絶対的な範囲。
実勢商圏:
実際の顧客データ(ポイントカード住所等)に基づいた実績としての範囲。
戦略的商圏:競合との兼ね合いや、将来の都市計画を見越してターゲットと定めるべき範囲。

商圏分析とは、これらの商圏内に存在する「消費者(生活者)」の量と質を定量・定性の両面から把握し、自社のビジネスに与える影響を予測するプロセス全体を指します。具体的には、人口や世帯数といった「ボリューム」の把握から、年収、消費支出傾向、ライフスタイルといった「ポテンシャル」の評価、さらには競合店の配置や吸引力を加味した「シェア」のシミュレーションまでを含みます。
商圏分析の主な目的は、データに基づいて客観的な意思決定を行い、ビジネスの成功確率を高めることにあります。具体的には、以下のような目的で活用されます。
新規出店の意思決定:
複数の出店候補地を比較し、最も売上が見込める場所を選定する。
既存店の売上改善:
店舗周辺の顧客特性や競合状況の変化を把握し、品揃えや販促活動を最適化する。
売上予測の精度向上:
商圏内の人口や競合店の数などから、より正確な売上予測を立てる。
効果的なマーケティング戦略の立案:
ターゲット顧客が多く住むエリアを特定し、チラシ配布や広告出稿の費用対効果を高める。
これらの分析により、「なぜこの場所に出店するのか」「なぜこの施策が有効なのか」を論理的に説明できるようになり、社内での合意形成や金融機関からの融資交渉もスムーズに進められます。

商圏分析とよく似た言葉に「エリアマーケティング」があります。
エリアマーケティングとは、特定の地域(エリア)にターゲットを絞り、その地域の特性に合わせてマーケティング活動を行う手法のことです。
そして、商圏分析は、このエリアマーケティングを成功させるための土台となる、極めて重要な分析手法です。商圏分析によって地域の特性を深く理解することで、初めてそのエリアに最適化された戦略を立てることができるのです。つまり、商圏分析はエリアマーケティングに不可欠な第一歩と言えます。
商圏分析には、古くから研究されてきた理論的なモデルから、実践的な調査まで、いくつかの代表的な手法があります。
ライリーの法則は、2つの都市(店舗)がその中間にある町の消費者をどれだけ引きつけるかを説明する古典的な法則です。「小売引力の法則」とも呼ばれます。
この法則では、都市の人口(店舗の魅力度)が大きく、距離が近いほど、より多くの消費者を惹きつけるとされています。単純なモデルですが、2つの競合する店舗や都市の関係性を理解する上で基礎的な考え方となります。

ハフモデルは、ライリーの法則を発展させ、消費者が複数の店舗の中から特定の店舗を選ぶ確率を予測するモデルです。
店舗の魅力度(売場面積など)と、顧客の居住地から店舗までの距離(時間)を考慮して、各店舗への吸引力を計算します。複数の競合店が存在する実際の状況に近い分析ができるため、特定の地点に出店した場合の売上予測などに活用される、より実践的な手法です。

理論モデルだけでなく、実際に自分の足で現地を調査することも非常に重要です。

最近では、GPS位置情報を用いた分析ツールも進化しています。任意の場所や店舗を指定し、ある一定期間の中で、そこに来た人がどこから来ているのか、どこに住んでいるのかを地図上に可視化することも可能です。

それでは、実際に商圏分析を進めるための具体的な手順を5つのステップで解説します。
最初に「何のために分析するのか?」という目的をはっきりさせることが最も重要です。目的が曖昧なままでは、どのようなデータを集め、どう分析すれば良いのかが定まりません。
目的の例
•新規出店候補地AとBを比較し、どちらが有望か判断したい。
•既存店Cの売上が落ちている原因を特定し、改善策を考えたい。
•新しいチラシを配布するにあたり、最も反響が見込めるエリアを絞り込みたい。
次に、分析の対象となる商圏の範囲を具体的に設定します。ステップ1で決めた目的と、自社の業種・業態を考慮して決定します。
設定方法の例
•距離で設定:店舗から半径500m、1km、3kmなど。
•時間で設定:徒歩10分圏内、車で15分圏内など。
•行政区画で設定:〇〇市〇〇町など。
•実際の顧客分布で設定:既存店の顧客データから、顧客の8割が住んでいる範囲など。

設定した商圏範囲について、分析に必要なデータを集めます。どのようなデータが必要かは、次の「商圏分析に必要なデータと収集方法」で詳しく解説します。この段階では、信頼できる情報源から正確なデータを集めることが重要です。
収集したデータを分析し、地図上に落とし込んで可視化(見える化)します。この作業には、後述するGISツールや商圏分析ツールが役立ちます。
分析・可視化の例
•人口分布を色分けした商圏マップを作成する。
•地図上に自店舗と競合店舗をプロットし、位置関係を把握する。
•特定のエリアの年齢構成をグラフ化し、ターゲット層の多さを確認する。
データを地図上で見ることで、数値の羅列だけでは気づかなかったエリアの特性や課題が直感的に理解できます。

最後に、分析結果とそこから導き出される考察を分析レポートとしてまとめます。このレポートが、最終的な意思決定の根拠となります。
レポートに含める要素
• 分析の目的
• 商圏の概要(人口、世帯数など)
• 競合の状況
• 分析から分かったこと(強み、弱み、機会、脅威)
• 結論と具体的なアクションプラン(出店するべき、〇〇エリアへの販促を強化するべき、など)

商圏分析の精度は、投入されるデータの「質」「量」「鮮度」によって決定づけられます。現代の商圏分析では、国勢調査などの「静的データ」と、GPS位置情報などの「動的データ」を高度に組み合わせるハイブリッドなアプローチが標準となっています。
公的統計を中心とした静的データは、エリアの構造的な特徴を把握するために不可欠です。これらは更新頻度こそ低いものの、全数調査に基づいた圧倒的な信頼性を誇ります。
スマートフォンの普及により、GPS位置情報ビッグデータ(動的データ)が利用可能になりました。これにより、「そこに住んでいる人」だけでなく、「そこに今いる人(来街者)」を分析することが可能になりました。
商圏内にどのような人がどれくらい住んでいるかを知るための最も基本的なデータです。ターゲットとなる顧客層がそのエリアに存在するかを判断するために不可欠です。
主なデータ項目
• 総人口、男女別人口
• 年齢階級別人口(例:10代、20代、30~40代ファミリー層、65歳以上など)
• 世帯数、世帯人員(単身層かファミリー層か)
• 住宅所有(例:持ち家か借家か、一戸建てか共同住宅か)
• 就業状態
エリア内の事業所数、従業者数、小売業の年間販売額、売場面積などを把握します。
これは「昼間人口(働く人々)」の推計根拠となるだけでなく、競合環境の激しさを測る指標(オーバーストア状態か否か)としても機能します。
国勢調査には直接的な年収データは含まれません。そのため、当社では独自のロジックを用いて、町丁目単位での平均年収や、品目別(食料、被服、教養娯楽など約600品目)の支出額を推計したデータを提供しています。
例えば、富裕層向けの高級スーパーを出店する場合、人口密度よりも「年収1,000万円以上の世帯数」や「高品質食品への支出傾向」の方が重要な指標となります。

「いつ(時間帯・曜日)」「どこから(居住地)」「どんな人が(性年代)」その場所に訪れたかを可視化します。
オフィス街のランチ需要予測、観光地の集客分析、イベント時の混雑状況把握など、公的統計(静的データ)だけでは見えない需要を捕捉します。
自社と同じ、あるいは類似の商品・サービスを提供する競合店の情報は、市場の競争環境を把握するために必須です。
主なデータ項目
• 競合店の位置、店舗名
• 業種、規模(売場面積)
• 営業時間、定休日
• 集客力のある大型商業施設や公共施設の位置

顧客の来店しやすさ(アクセシビリティ)を評価するためのデータです。
主なデータ項目
• 道路網、鉄道網
• 駅、バス停の位置
• 主要道路の交通量
• 川や線路、幹線道路など、商圏を分断する要因
以下では、技研商事インターナショナルの商圏分析ツール「MarketAnalyzer® 5」内でダウンロードできるレポートサンプルの一部をご紹介します。以下はほんの一部ですので、すべてのレポートサンプルをご希望のかたは、こちらまでお問い合わせください。








専門的なデータを購入しなくても、公的機関が提供する無料のデータを活用することで、精度の高い分析が可能です。
e-Statは、日本の政府統計データを集約したポータルサイトです。国勢調査をはじめとする、信頼性の高い様々な統計データを誰でも無料で利用できます。特に、商圏人口の調べ方として最も基本となる情報源です。
e-Statサイトトップ:https://www.e-stat.go.jp/

e-Statの機能の一部で、地図上で統計データを閲覧・分析できる無料のGIS(地理情報システム)です。住所や任意の地点を中心に円を描き、その範囲内の人口や世帯数を集計するなど、本格的な商圏分析が無料で行えます。商圏マップの作成にも非常に役立ちます。これらの公的データを活用すれば、コストをかけずに商圏リサーチを始めることができます。
jSTATMAP:https://jstatmap.e-stat.go.jp/

商圏分析を効率的かつ高度に行うためには、専用のツールが欠かせません。ここでは、本格的なものから無料で使えるものまで、代表的なツールを紹介します。
GIS(Geographic Information System)とは、地理情報(地図データ)と、それに関連する様々な情報(人口、店舗情報など)を統合して、分析・可視化するためのシステムです。
本格的なGISソフトは高機能な分、導入コストが高額になる場合がありますが、以下のような高度な分析が可能です。
•複雑な条件でのエリア抽出(例:30代人口が500人以上で、競合店から500m以上離れているエリア)
•ハフモデルを用いた精緻な売上予測
•顧客データと連携した詳細な分析
•出店候補地の商圏調査レポートの作成
•統計解析機能と連携した売上予測モデルの構築
「いきなり高価なソフトは導入できない…」という方でも、無料で使える商圏分析ツールやアプリがあります。
jSTATMAP
前述の通り、国が提供する無料のGIS。機能は限定されますが、基本的な商圏分析(指定範囲の人口集計、統計グラフ作成など)は十分に可能です。まずはここから試してみるのがおすすめです。
その他
フリーソフトやアプリ「QGIS」のようなオープンソースのGISソフトや、簡易的な商圏分析機能を持つスマートフォンアプリも存在します。
最も手軽な方法は、普段から使い慣れているGoogleマップを活用することです。専門ツールほどの高度な分析はできませんが、基本的な情報収集には非常に役立ちます。
【活用方法】
• 競合店の検索とリストアップ
キーワード(例:「カフェ」「スーパーマーケット」)で検索し、周辺の競合店を地図上に表示させる。
• 距離や移動時間の測定
自店舗(候補地)から特定の場所までの距離や、徒歩・車での移動時間を簡単に調べられる。
• ストリートビューでの周辺環境確認
現地に行かなくても、道路の広さや街の雰囲気を視覚的に確認できる。
商圏マップとは、地図上に商圏の範囲、人口分布、競合店の位置などを書き込んだものです。jSTATMAPなどのツールを使えば、以下の手順で比較的簡単に作成できます。
1.中心となる地点(自店舗や候補地)を設定する。
2.商圏の範囲(例:半径1kmの円、車で10分圏など)を指定する。
3.表示したい統計データ(例:年齢別人口)を選択する。
4.地図上に競合店などの情報を追加でプロットする。
この商圏マップを作成することで、エリアのポテンシャルが一目でわかるようになります。
最後に、商圏分析が実際のビジネスシーンでどのように役立つのか、目的別の活用事例を見ていきましょう。以下は当社GIS(MarketAnalyzer® 5等)のユーザー企業の活用事例です。
【課題】
以前は無料のGIS(jSTAT)を使用していましたが、データ抽出と加工作業に膨大な時間がかかっていました。また、毎日届く百件以上の物件情報を、担当者の「肌感」で精査しており、判断基準が属人化していました。
【解決策】
MarketAnalyzer® 5の導入
【導入後の変化】
・作業の自動化
住所を入力するだけで、必要な統計データが入ったレポートが即座に出力されるようになり、資料作成時間が劇的に短縮された。
・ロジカルな出店候補地の精査
「3つの人口(夜間、昼間、商業)」などの客観的指標に基づき、物件の一次審査を機械的に行うフローを確立。
・逆引き検索による攻めの開発
良い物件が来るのを待つのではなく、成功パターンの条件を満たすエリアをリストアップし、不動産業者に「このエリアの物件はないか」と逆指名する攻めの店舗開発へと転換した。
・需給バランスの可視化
競合チェーンや居酒屋業態の店舗数を地図上に重ね合わせ、供給過多のエリアを避ける戦略を徹底している。

【課題】
埼玉県を中心にドミナント展開する中で、既存店とのカニバリゼーションを避けつつ、収益性の高い新規出店地を見つける必要がありました。
【解決策】
出店検討時に、商圏ボリューム(人口・世帯数)だけでなく、将来人口推計や年収階級別世帯数などの「質のデータ」を活用。
地域特性(住民の年齢層や家族構成)に合わせた業態の使い分けや、MDの最適化にデータを活用しています。

【課題】
コインランドリーの売上は、単純な人口だけでなく、天候、世帯構造(共働きか)、住宅事情(ベランダがあるか)、競合店の稼働状況など、複雑な要因が絡み合います。
【解決策】
IoTランドリーシステムと商圏データの融合。
自社のビッグデータ(稼働率など)と、MarketAnalyzer®5の商圏情報、周辺居住者特性を加味した独自の売上予測モデルを構築。
【導入後の変化】
フランチャイズオーナーに対し、「なぜこの場所なのか」「どれくらい売れるのか」をロジカルかつ納得感のあるデータで提案できるようになり、成約率と信頼性が向上しました。

【課題】
線価値の向上と、商業施設(スーパーマーケット等)の最適なテナントリーシング
【解決策】
候補地周辺の人流属性分析を行い、「どのような人が通るのか」を把握。
競合施設への来訪者属性分析を行い、自社施設との差別化ポイントや、誘致すべきテナントのジャンルを特定。
単なる「駅の乗降客数」ではなく、街全体の回遊性や人の流れを捉えることで、面的なエリアマネジメントに活かしています。

【課題】
まちづくりや交通計画の研究において、従来のアンケート調査(パーソントリップ調査)ではサンプル数が少なく、コストも高大でした。
【解決策】
GPS位置情報を元にした人流分析ツール「KDDI Location Analyzer」を導入。
【事例】
豊橋技術科学大学:コロナ禍前後における駅周辺滞在人口の変化要因を分析し、日本環境共生学会「優秀発表賞」を受賞。
北海道大学/東北大学:位置情報ビッグデータを活用し、地方都市の中心市街地活性化や、公共交通機関の最適配置に関する論文を執筆。

今回は、商圏分析の基本から具体的なやり方、ツール、事例までを網羅的に解説しました。
• 商圏分析とは、エリアの市場性をデータに基づいて評価し、ビジネスの成功確率を高める手法。
• やり方は、「目的設定→商圏設定→データ収集→分析・可視化→レポート作成」の5ステップ。
• データは、人口統計や競合情報が中心。e-Statなどの無料データを大いに活用できる。最近ではGPS位置情報などの人流データの活用も進化。
• ツールは、無料のjSTATMAPやGoogleマップからでも始められる。
•GISやデータを活用することで、新規出店、売上改善、販促の効率化など、様々な経営課題を解決できる。
勘や経験も大切ですが、それらを裏付ける客観的なデータがあれば、あなたのビジネスはさらに力強く前進します。このコラムを参考に、まずは無料のツールを使ってあなたのビジネスの「商圏」を調べてみることから始めてみてはいかがでしょうか。その一歩が、未来の成功への確かな道筋を描き出すはずです。
監修者プロフィール市川 史祥技研商事インターナショナル株式会社 執行役員 マーケティング部 部長 シニアコンサルタント |
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一般社団法人LBMA Japan 理事 ロケーションプライバシーコンサルタント 流通経済大学客員講師/共栄大学客員講師 医療経営士/介護福祉経営士 Google AI Essentials/Google Prompt Essentials 1972年東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。不動産業、出版社を経て2002年より技研商事インターナショナルに所属。 小売・飲食・メーカー・サービス業などのクライアントへGIS(地図情報システム)の運用支援・エリアマーケティング支援を行っている。わかりやすいセミナーが定評。年間講演実績90回以上。 |
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