エリアマーケティングラボ

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商勢圏(しょうせいけん)とは?店舗の枠を超えた「広域エリア支配」の考え方

2026年2月27日号(Vol.220)

コラムカバー

現代の店舗ビジネスにおけるエリアマーケティングは、単なる「立地選定」の枠を超え、地域全体での市場支配力を高める「戦略的な勢力圏づくり」へと進化しています。 特に多店舗展開を行う企業にとって、個々の店舗の集客力を結集させ、地域を「面」で捉える商勢圏の把握は、競合を退け、揺るぎない市場ポジションを築くための最重要課題です。

本記事では、商圏の基本構造から、データに基づいた実態把握の手法、そして社会変化に伴う最新の戦略までを詳しく解説します。

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商勢圏の意味とは:経営戦略における「自社の縄張り」の再定義

エリアマーケティングの基本である「商圏」と、今回のテーマである「商勢圏」は、その範囲と目的において明確に使い分ける必要があります。

商圏と商勢圏の違いと、戦略上の重要性

商圏が「ある特定の店舗が顧客を引き寄せる範囲」を指すのに対し、商勢圏とは、複数の店舗が持つ影響力を統合し、企業やブランドが実質的に支配している広域的なエリア(=自社の縄張り)を指します。

• 点から面へ
一店舗の商圏が「点」の集客力だとすれば、商勢圏はそれらの点が結びつき、地域を「面」でカバーしている状態です。

• 戦略的優位性
多店舗展開において、各店舗が互いの商圏を補完し合い、ブランド認知と物流効率を最適化することで、地域全体のシェア最大化を図ります。

• 業態による重要性
ドラッグストアやコンビニなど、一定の人口規模を必要とする業態では、来店頻度を高める工夫により、小さな街でも強力な商勢圏を構築することが可能になります。

以下は、単一の商圏と広域の商勢圏の特性を比較した表です。


比較項目

商圏

商勢圏

定義の主体

単一店舗または特定の商業地

同系列の複数店舗の集合体

地理的形状

店舗を中心とした円形や多角形

複数の商圏が重なり・連結した広域

主な目的

個店売上の最大化、販促の効率化

シェア独占、競合排除、物流効率化

戦略的視点

立地選定、店舗ごとの品揃え

ドミナント戦略、広域ブランド構築

時間軸

現状の顧客分布の把握

将来的な市場支配と防衛



商勢圏を意識した経営とは、単なる個店の成功の積み上げではなく、「いかにしてエリア全体を自社の勢力下に置くか」というマクロな視点を持つことを意味します。

商圏の種類と階層:1次商圏の設定基準と最適化

強固な商勢圏を構築するための最小単位は、個々の店舗が形成する「商圏」です。 一般的に商圏は、来店頻度や到達時間に基づき、以下の3層構造で捉えます。

一次商圏イメージ

1次商圏とは:店舗運営を支える最重要エリア

1次商圏は、店舗売上の60%〜70%を支える顧客が居住する、最も重要かつ密度の高いエリアです。 顧客の来店頻度が非常に高いため、このエリアでのシェア獲得が経営安定の鍵となります。

• 都市部(徒歩圏型):半径500m〜1km以内、徒歩10分〜15分圏内が目安
• 郊外(車移動型):車で10分圏内、半径3km程度が目安

2次商圏・3次商圏の役割


1次商圏の外側に位置するエリアも、週末の集客や広域販促において重要な役割を果たします。

● 2次商圏:来店は週に1〜2回程度、売上の20〜30%を占めるエリア。都市部なら自転車15分、郊外なら車で20分程度が目安。
● 3次商圏:来店頻度は月1回程度。移動に30〜40分以上かかる広域エリアで、大型施設など「目的型」の集客に重要です。

商圏区分

売上構成比

来店頻度

到達目安(都市/郊外)

主な交通手段

足元商圏

最重要エリア

ほぼ毎日

徒歩5分以内

徒歩

1次商圏

60〜70%

週3〜毎日

10〜15分 / 10分

徒歩、自転車、車

2次商圏

20〜30%

週1〜2回

自転車15分 / 車20分

自転車、車など

3次商圏

5〜10%

月1回程度

30分以上

車、公共交通



実際の商圏は、河川、幹線道路、競合店の位置などの影響を受けるため、理論上の円ではなく、実際のデータに基づいた「実勢商圏」を把握することが不可欠です。



実勢商圏とは:データに基づく地図分析での現状把握

理論上の商圏予測に対し、実際の顧客データや行動パターンから導き出されるリアルな集客範囲を実勢商圏と呼びます。

実勢商圏の算出と顧客の可視化

実勢商圏可視化イメージ

実勢商圏の特定には、会員データやアプリの利用履歴を地図上にプロットする手法が有効です。 一般的には全顧客の70%〜90%が含まれる範囲を指し、顧客密度が急落する地点を分析することで、競合の存在や交通の障壁(壁)を特定できます。

最近では、GPS位置情報ビッグデータの活用も進んでいます。弊社の「KDDI Location Analyzer」等のツールを使えば、自社でデータを持たない店舗でも、来店客が普段どこに住み、どのような経路で来ているのかを、数千万規模の人流データから高精度に推計できます。

地図分析で活用する統計データ

商圏の範囲がわかったら、次はそのエリアのポテンシャルを精査します。国勢調査などの統計データを地図上で重ね合わせ、市場のボリュームを算出します。主な分析項目は以下の通りです。

1. 人口・世帯数: 町丁目単位で、単身、ファミリー、高齢者などの世帯構成を把握
2. 昼間人口: 働く人や学生の動きを把握し、昼と夜の人口変動を評価
3. 年収・消費支出: 推計年収や品目別の支出データを分析し、ターゲットの購買力を判定
4. サイコグラフィック属性: 居住者のライフスタイルや価値観を可視化し、より深く分析

これらのデータを実勢商圏と掛け合わせることで、「ターゲット層がこのエリアに何世帯あり、そのうち何%を獲得できているか」という具体的な評価が可能になります。



商圏シェアを高め、広域な商勢圏を築く拡大戦略

個店の実態が把握できたら、次はそれらを戦略的に配置し、地域全体の支配力(=商勢圏)を広げていく段階です。ここで重要になるのが「商圏シェア率」です。

商勢圏拡大イメージ

商圏シェア率の目標設定

商圏シェア率は、特定の地域でどれだけ市場を獲得できているかを示す指標で、以下の式で算出します。

● 商圏シェア率(%)= 自社顧客数 ÷ 商圏内の総世帯数(または人口)× 100

これを地域ごとに計算して地図上で色分けすると、勢力が強いエリアと、まだ伸び代がある(あるいは競合に負けている)エリアが一目でわかります。また、競合との力関係を測る「相対的市場占有率」も有効です。これが1.0を超えていればトップシェアを維持していると言えますが、下回っている場合は販促の強化や新店による包囲網などの対策が必要になります。

ドミナント戦略:点から面へ広げる仕組み

特定の地域に集中出店し、シェアを独占する手法が「ドミナント戦略」です。これは商勢圏構築の最も強力な手段です。

・認知度の向上:エリア内での視認性が高まり、信頼感が醸成されることで集客コストが低下します。
・コスト削減:物流ルートの短縮や店舗間のスタッフ融通、管理効率の向上が図れます。
・競合排除:優良な立地を自社で押さえることで、他社の参入障壁を高めます。

ただし、過度な集中は自社店舗同士での顧客の奪い合い(カニバリゼーション)を招きます。戦略的な視点では、これを「競合を入れないための必要経費」と捉えることもあります。

スマート・ゾーニングによる配置の最適化

カニバリを抑えつつ利益を最大化するために有効なのが、弊社の「MarketAnalyzer® 5」に搭載された「スマート・ゾーニング機能」です。これは店舗間の商圏の重なりを精密に計算し、各店舗が重点的に担当すべき「最適化された商圏」を自動で算出するものです。

これにより、一律の「半径○km」ではなく、実態に合わせてどの地域の顧客をどの店舗がフォローするかをロジカルに決定でき、店舗網全体のポテンシャルを最大限に引き出せます。


ステップ

内容

活用データ・ツール

1. 現状把握

実勢商圏の特定とシェア算出

会員データ、人流データ

2. 余白探索

ポテンシャルが高い未開拓地を探す

国勢調査、年収、競合分布

3. 出店計画

ドミナント戦略に基づく立地選定

売上予測モデル

4. 重複解消

スマート・ゾーニングで役割分担

スマート・ゾーニング機能

5. 防衛・拡大

地域の変化をモニタリングし修正

GPS人流、経済センサス



地域特性と構造変化:名古屋と北海道のケーススタディ

商圏構造は、地域の交通手段や地理的条件により大きく異なります。成功のためには、その地域特有の「文脈」を読み解くことが欠かせません。名古屋と北海道を例に考えてみましょう。

名古屋商圏:高い自動車依存と都心回帰

名古屋商圏イメージ


名古屋商圏は全国屈指の「車社会」です。居住者の半数以上が持ち家一戸建てで、移動手段として自家用車への依存度が非常に高いのが特徴です。都心部への移動でさえ車が主要な選択肢になります。
そのため、商圏設定では「駐車場の広さ」や「幹線道路からの入りやすさ」が徒歩圏人口以上に重要になります。郊外店では半径10kmを超える広域集客も珍しくなく、他都市よりも広めに商圏を捉える必要があります。一方で、名古屋市内では「都心回帰」も進んでおり、中心部での高密度な商圏形成も同時に進行しています。

北海道商圏:札幌一極集中と広域物流

北海道商圏イメージ


北海道は広大な面積を持ち、札幌市への「一極集中」という独特な構造をしています。道内の人口シェアの約4割が札幌に集まっており、この傾向は今後も進むと予測されています。

ここでの課題は「人口の偏り」と「移動距離」です。札幌市内では高密度な出店が可能ですが、郊外では拠点都市を繋ぐ長い物流網をいかに効率化するかが死活問題です。函館の「ラッキーピエロ」のように、あえて広域展開せず特定の狭いエリアに集中してシェア1位を維持する戦略は、商勢圏がブランド力を守る防波堤になる好例と言えます。


地域

移動手段

商圏の広さ

人口動態

戦略のポイント

東京23区

徒歩・鉄道

非常に狭い

増加継続

超高密度、駅周辺活用

名古屋市

車・地下鉄

広い(車中心)

中心部で大幅増

駐車場、ロードサイド重視

北海道(札幌)

地下鉄・車

中〜広域

一極集中加速

札幌圏のシェア独占

北海道(地方)

広域(拠点間)

人口減少・高齢化

物流効率、拠点集中



小商圏化とは:人口動態とEC拡大による構造変化

現在のエリアマーケティングで最も注視すべき変化が「小商圏化」です。これは、店舗が有効に集客できる範囲が以前よりも狭まっていく現象を指します。

高齢化による「生活圏」の縮小

最大の要因は社会の高齢化です。高齢層は移動手段が限られ、日常の買い物でも「近場」を選ぶ傾向が強いため、かつての車中心の広域消費から、徒歩や自転車で行ける範囲への回帰が起きています。これにより、店舗側には「広域から呼ぶ」のではなく「狭い範囲の生活を丸ごと支える」運営が求められています。

商圏とEC:物理的限界を超える戦略

ECの普及は物理的な商圏の壁を取り払いましたが、リアル店舗にとっては「ECを商圏補完ツール」として活用するチャンスでもあります。

• オムニチャネル:店舗を受け取りや体験の場とし、デジタルとリアルで顧客接点を構築。
• データ活用:ECの購買データを新店候補地の選定や販促の精度向上に活かす。
• デリバリー:配送サービスにより、小商圏化した店舗のリーチ範囲を拡張。


要因

影響

対応戦略

高齢化

移動の短縮、頻度の重視

超小型店の多店舗展開、配送対応

EC拡大

商圏の境界が曖昧に

オムニチャネル、店舗体験の強化

単身世帯増

小口化、即時性の追求

惣菜強化、24時間、ピックアップ



技研商事インターナショナルが提供する次世代の分析

GIS分析イメージ

弊社は30年以上にわたり、GIS(地図情報システム)と多様な統計データを駆使し、日本のチェーンストア経営を支えてきました。

統計データとテクノロジーの融合

当社の強みは「データの質と深さ」にあります。

SMART Census®:
公的統計に独自のロジックを掛け合わせ、通常の調査では見えない世帯年収や消費支出などを町丁目単位で可視化します。

● サイコグラフィック・データ:
生活者の価値観や趣味嗜好を地図上に投影する「c-japan®」などを活用し、地域の気質に合わせた戦略を支援します。

KDDI Location Analyzer:
膨大なGPS位置情報を活用した人流分析ツール。自店や競合への来店数、移動経路などを数クリックで可視化します。

意思決定を加速させるソリューション

近年では、より直感的に高度な分析ができる機能をリリースしています。

商圏レポートAI:
生成AIを活用し、膨大なデータから街の特性や課題を自然な文章で要約します。店長から経営層まで、共通の理解でエリアを把握できます。

● Snowflake連携:
クラウド上で当社のデータを直接利用でき、自社のシステムとのシームレスな統合が可能です。

売上予測モデル:
機械学習などを用いた高度なロジックで、出店判断の精度を高め、投資リスクを最小化します。

当社の導入実績は2,000社を超え、小売、飲食、金融など幅広い分野で活用されています。多くの日本を代表する企業が、弊社のGISを「経営のエビデンス」として活用しています。



まとめ

商勢圏という概念は、変化の激しい現代において、企業が自らの「領土」を定義し、守り、広げていくための指針となります。個店の分析から始まり、実態を反映した商圏の特定、そして最適配置を行うドミナント戦略。この一連のプロセスを精度高く実行できるかどうかが、競争力を左右します。

高齢化による「小商圏化」やECの拡大は、一見するとリアル店舗の領域を狭めているように見えますが、データに基づいた戦略を立てれば、これらは「より深く顧客と繋がるチャンス」へと変えることができます。

技研商事インターナショナルは、これからも最新のテクノロジーとデータを通じて、皆様が「真の商勢圏」を築き、持続的な成長を遂げるためのパートナーであり続けます。エリアマーケティングの力で、より豊かな商いの未来を創るためのエビデンスは、すでに地図の中に揃っています。



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監修者プロフィール

市川 史祥
技研商事インターナショナル株式会社
執行役員CMO シニアコンサルタント 市川 史祥
一般社団法人LBMA Japan 理事
ロケーションプライバシーコンサルタント
流通経済大学客員講師/共栄大学客員講師
統計士/医療経営士/介護福祉経営士
Google AI Essentials/Google Prompt Essentials

1972年東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。不動産業、出版社を経て2002年より技研商事インターナショナルに所属。 小売・飲食・メーカー・サービス業などのクライアントへGIS(地図情報システム)の運用支援・エリアマーケティング支援を行っている。わかりやすいセミナーが定評。年間講演実績90回以上。




電話によるお問い合わせ先:03-5362-3955(受付時間/9:30~18:00 ※土日祝祭日を除く)
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