エリアマーケティングラボ

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~業界の最新動向~

関東三大酉の市
~2025年の会場を人流データで分析~

2025年12月4日号(Vol.198)


酉の市コラムサムネイル

吐く息が白くなり、木枯らしが冬の訪れを告げる11月。この時期、江戸の昔から変わらず、人々の心を熱くする伝統的なお祭りがあります。それが「酉の市(とりのいち)」です。 一年間の無事を神様に感謝し、来るべき新しい年の「開運招福」「商売繁盛」を願うこの市は、特に縁起物である「熊手」を買い求める人々で未明から深夜まで、あるいは24時間、すさまじい熱気に包まれます。

2025年(令和7年)の酉の市は、11月12日(水)の「一の酉」、そして11月24日(月・振替休日)の「二の酉」と、2回にわたって開催されました。
単なるお祭りという言葉では片付けられない、人々の切実な願いと感謝、そして江戸っ子らしい「粋」な文化が凝縮された一日。それが酉の市です。
このコラムでは、酉の市とは一体何なのか、その深い歴史と魅力的な文化を解き明かすとともに、中でも特に大規模で個性豊かな「関東三大酉の市」と呼ばれる浅草・鷲神社、新宿・花園神社、府中・大國魂神社の三つの市について、その特色と2025年の開催情報を徹底的に解説していきます。
さらに当社とKDDI株式会社が共同開発・共同提供している人流分析ツール「KDDI Location Analyzer」を使って、酉の市の会場の人流分析結果についてもご紹介します。

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第一章:そもそも「酉の市」とは? ~歴史と縁起の謎を解く~

酉の市は、毎年11月の酉の日に各地の鷲神社などで開催される祭です。商売繁盛や開運招福を願う人々で賑わいます。酉の市が具体的にどのようなお祭りなのかその基本的な知識と歴史的背景から紐解いていきましょう。

酉の市とは何か

酉の市は、前述の通り、毎年11月の「酉の日」に開催される縁日(祭り)です。
「酉の日」とは、日付を12日周期で割り振る「十二支」に基づいたもので、11月中に2回または3回巡ってきます。人々はこの日、主に「鷲(おおとり)神社」や「酉」にゆかりのある寺社に集まります。
その目的は二つ。一つは、過ぎゆく一年の収穫や成果(商売の成果)に感謝すること。そしてもう一つは、来たる新年の幸運、特に商売繁盛や金運上昇を力強く願うことです。
この祭りの主役は、色鮮やかな装飾が施された「縁起熊手」。境内には熊手を売る「熊手商」の露店がずらりと軒を連ね、そこかしこで熊手が売れるたびに、威勢の良い「手締め(手拍子)」が響き渡ります。この音こそが、酉の市が来たことを実感させる最大の風物詩なのです。

夜の酉の市のイメージ


起源と歴史 ~日本武尊(やまとたけるのみこと)の伝説~

酉の市の起源は古く、神話の時代に遡ると言われています。
その主役は、伝説上の英雄、日本武尊(やまとたけるのみこと)です。
日本武尊が東国(関東地方)を平定(東征)するために遠征した際、現在の東京都足立区にある大鷲神社(おおとりじんじゃ)(※諸説あり。浅草の鷲神社も発祥の一つとされる)に立ち寄り、戦勝を祈願しました。
無事に戦に勝利し、その帰途に再びこの神社に立ち寄り、お礼参りをしたのが、奇しくも11月の「酉の日」であったと伝えられています。この時、日本武尊は「三の酉」の戦勝祈願の際、当時武具であった「熊手」をかざして勝利を収めたとも、お礼参りの際に「熊手」を奉納したとも言われています。
この故事から、11月の酉の日は日本武尊に感謝し、武運長久(現代では開運招福)を祈る日として、祭祀が行われるようになったのです。これが酉の市の原型とされています。

ヤマトタケルノミコトの伝説


第二章:一の酉、二の酉 ~2025年の日程とグルメ~

酉の市は、毎年同じ日に開催されるわけではありません。

2025年(令和7年)の開催日

前述の通り、11月の「酉の日」に開催されます。十二支は12日周期で巡ってくるため、11月(30日間)の中に「酉の日」が2回ある年と、3回ある年が生まれます。 2025年は、酉の日が2回ある年です。
• 一の酉(いちのとり): 11月12日(水)
• 二の酉(にのとり): 11月24日(月・振替休日)
一般的に、熊手商や屋台は「一の酉」も「二の酉」も(三の酉がある年はそれも)全ての日程で出店します。

酉の市グルメ ~縁起物の食べ物~

酉の市には、熊手以外にも伝統的な縁起物の食べ物があります。

• 八頭(やつがしら)
里芋の一種。一つの芋から多くの子芋が連なって育つため、「子孫繁栄」の縁起物とされます。また、「人の頭(かしら)に立つ」として「出世」の願いも込められます。

• 切り山椒(きりざんしょう)
餅粉に砂糖と山椒(さんしょう)の粉を練り込んで作られたお菓子です。山椒のピリッとした辛さが「邪気を払う」「風邪を防ぐ」とされ、縁起物として売られています。独特の風味は、大人の味わいと言えるでしょう。

酉の市の開催日とグルメ


第三章:徹底比較! 「関東三大酉の市」の魅力

さて、ここからは本コラムの核心である「関東三大酉の市」について、その詳細を比較しながら解説していきます。
一般的に「三大酉の市」とは、浅草・鷲神社、新宿・花園神社、府中・大國魂神社の三つを指します(※諸説あり、大國魂神社の代わりに大森・鷲神社や、発祥の地とされる足立区・大鷲神社が入る場合もありますが、ここでは参拝客の多さと知名度から前者の3者を紹介します)。
2025年の「二の酉」(11月24日)を念頭に、それぞれの魅力を見ていきましょう。

【浅草】鷲神社(おおとりじんじゃ)

~日本最大! 24時間眠らない「元祖」の熱気~

浅草酉の市のようす

酉の市といえば、まず「浅草」を思い浮かべる人が多いでしょう。その知名度、規模、歴史、どれをとっても「日本一の酉の市」と呼ぶにふさわしい場所です。

• 歴史と由緒
第一章で触れた日本武尊の伝説が直接伝わる、「酉の市発祥の地」の一つとされています。江戸時代には、隣接する長國寺(ちょうこくじ)と一体となって「鷲大明神(わしだいみょうじん)」として信仰を集めました。今でも、神社の鷲神社と、お寺の長國寺の両方でお参り(「神様と仏様、両方からご利益をいただく」)のが、浅草の酉の市の伝統的な参拝方法です。

• 最大の特徴:「24時間開催」
浅草・鷲神社の最大の特徴は、何と言っても開催時間が24時間であること。
酉の日の午前0時、「一番太鼓」の音とともに市が始まり、翌日の午前0時まで、文字通り「不眠不休」で祭りが続きます。
深夜や早朝は、プロの商売人や、混雑を避けたい「通」な人々が多く訪れ、日中とはまた違った真剣な熱気が漂います。

• 圧倒的な規模
境内と周辺道路を埋め尽くす露店の数は、熊手商が約150店、飲食などの屋台が約750店(!)とも言われ、その規模は圧巻の一言。参道は人波で埋め尽くされ、前に進むのも困難なほどの混雑となりますが、この「人いきれ」と「熱気」こそが浅草の酉の市の醍醐味です。

• 2025年(二の酉)開催情報
本祭: 11月24日(月・休) 午前0時 ~ 午後24時(24時間)
宵宮祭(前夜祭): 11月23日(日)の夜から屋台などは営業を開始します。

★ こんな人におすすめ ★
「これぞ酉の市!」という日本一の熱気と規模を体感したい人。
24時間営業のため、深夜や早朝など、自分の都合の良い時間にお参りしたい人。

【新宿】花園神社(はなぞのじんじゃ)

~大都会のオアシスで出会う、昭和レトロな非日常~

新宿花園神社の酉の市

JR新宿駅から徒歩数分。日本一の繁華街・歌舞伎町のすぐ隣に、花園神社は鎮座しています。大都会の喧騒の中にありながら、酉の市の日だけは、ここが江戸時代から続く「異空間」であったことを思い出させてくれます。

• 歴史と由緒
徳川家康が江戸に入府する以前からの「新宿の鎮守様」として、この地を守ってきました。商売繁盛や芸能の神様としても信仰が篤く、境内には芸能浅間神社もあります。

• 最大の特徴 :「見世物小屋」
花園神社の酉の市を語る上で欠かせないのが、現在ではほとんど見ることができなくなった「見世物小屋(みせものごや)」の興行です。
お化け屋敷やサーカスとはまた違う、蛇女やカッパのミイラ、特異な芸当など、昭和のアングラ文化の香りを色濃く残す興行は、強烈な非日常感とレトロな魅力を放っています。(※2025年も開催予定です)

• アクセスの良さと混雑
「新宿三丁目駅」の出口のすぐ裏という抜群のアクセスを誇ります。その反面、特に夕方(18時以降)の混雑はすさまじく、境内への入場に1時間以上待つことも珍しくありません。仕事帰りの人々がどっと押し寄せるため、三大酉の市の中でも「混雑のピーク」が最も激しい場所と言えるかもしれません。

• 2025年(二の酉)開催情報
本祭: 11月24日(月・休) 正午頃 ~ 深夜24時頃まで
前夜祭: 11月23日(日) 15時頃 ~ 深夜24時頃まで

アクセス重視の人。
仕事帰りなどに立ち寄りたい人。
昭和レトロやアングラ文化、「見世物小屋」といった非日常的な体験に興味がある人。

【府中】大國魂神社(おおくにたまじんじゃ)

~武蔵国の総社で祝う、厳かな「神事」としての市~

大國魂神社

東京の多摩地区を代表する古社、大國魂神社。武蔵国(現在の東京都、埼玉県、神奈川県の一部)の全ての神様を祀る「総社」として、非常に高い格式を誇ります。ここの酉の市は、浅草や新宿の「賑わい」とは少し趣が異なる、厳かな「神事」としての一面を強く持っています。

• 歴史と由緒
神社の創建は約1900年前とも言われる古い歴史を持ちます。酉の市は、境内にある「大鷲神社(おおとりじんじゃ)」の例祭として執り行われます。

• 最大の特徴:「花火」と「神楽」
大國魂神社の酉の市は、他の二つにはない「音」の演出があります。 一つは、市の開催を告げる「花火(煙火)」の打ち上げ。午前8時、午後12時15分、午後6時の3回(各3発)、冬の澄んだ空に花火が上がります。
もう一つは、境内の神楽殿で奉納される「江戸の里神楽」。夕方(15時、17時、19時)に披露される伝統芸能は、祭りに一層の風情と厳かさを加えてくれます。

• 落ち着いた雰囲気
もちろん、熊手商(約45店)や屋台も数多く立ち並び賑わいはありますが、浅草や新宿のような「殺気立つ」ほどの混雑はありません。境内が広大であることもあり、家族連れでも比較的ゆっくりと市を見て回ることができます。

• 2025年(二の酉)開催情報
本祭: 11月24日(月・休)
開門時間: 午前6時30分 ~ 午後10時
熊手市・露店: 午前9時頃 ~ 午後10時頃

家族連れでゆっくりと参拝したい人。
混雑は苦手だが、酉の市の雰囲気は味わいたい人。
花火や神楽といった伝統的な神事や芸能にも触れたい人。


第四章:「酉の市会場」の人流分析

ここからはこれら関東三大酉の市の会場の中で、会場が比較的広い、新宿の花園神社と府中の大國魂神社について、「どんな人が、どこから、どれだけ来訪したか」を人流分析ツール「KDDI Location Analyzer」を用いた分析していきます。

「KDDI Location Analyzer」とは

来訪者の属性把握や時系列比較が手軽にできるサブスク型人流分析ツールです。KDDIの高信頼な位置情報と、技研商事インターナショナルの商圏分析ノウハウを用い開発しました。
姓・年代や、居住、勤務、来街に関する属性データ※を活用し、店舗やエリアへの来訪者の時間帯別傾向等を、Webブラウザで何度でもすぐに調べられます。
※個人情報とは紐づかない秘匿化されたデータです。

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酉の市会場の設定

今回は比較的会場面積の広い新宿の花園神社と府中の大國魂神社を対象としました。まずはそれぞれの会場にジオフェンス(仮想の境界線)を設定します(地図内の赤い枠)。

会場にジオフェンスを設定した様子
【会場にジオフェンスを設定】

ここからは、二の酉の本祭が開催された11月24日(月:祝日)のデータを見ていきます。

どんな人が来ていたか。

2025年11月24日(月)にそれぞれの会場の来訪者を性別×年代で集計しました。

姓年代別来訪者属性
【性×年代別来訪者属性】

男女比:新宿花園神社は男性寄り、府中大國魂神社は女性寄りの傾向が見られました。
年代:新宿花園神社は30代~40代の働き盛りの層が中心でした。府中大國魂神社は40代~50代中心ですが、70歳以上の高齢者も目立ちます。

どこから来ていたか。

来訪者の居住地分布をお示しします。

新宿花園神社に24日来訪した人の居住地
【新宿花園神社に24日来訪した人の居住地】

来訪者が「どこから来たか」という居住地分析においても、アクセスの違いが顕著に表れています。新宿花園神社は、新宿というターミナル駅の立地特性から、アクセスの良い西側エリアからの来訪傾向が強く読み取れます。広域から集客しつつも、特に鉄道網の利便性が高いエリアからの流入が中心です。

府中大國魂神社に24日来訪した人の居住地
【府中大國魂神社に24日来訪した人の居住地】

府中大國魂神社は、最寄りの府中駅(京王線)を中心とし、京王線沿線の東西からの来訪が多く見られます。沿線住民の生活圏内でのイベントとして定着している様子がうかがえます。

時間帯別来訪傾向

GPS位置情報は最短数分に1回データを取得できているので、時間帯別の傾向も知ることができます。

それぞれの会場の時間帯別来訪者推移
【それぞれの会場の時間帯別来訪者推移】

新宿花園神社は24時まで、府中大國魂神社は22時までの開催ということもあり、夜の時間帯の差が顕著なところがまず見て取れます。
立地特性上、新宿はビジネス街・繁華街型、府中大國魂神社はベッドタウンということで午前中の差が大きいことがわかります。周辺住民が近場から来訪する府中、電車などを使ってお昼すぎから増えてくる新宿ということです。

【分析のまとめ】
新宿花園神社は、 「都市型・ビジネス型」の酉の市であり、30〜40代の男性を中心とした活気ある層 が、アクセスの良さを活かして来訪しています。
府中大國魂神社は、 「地域密着・郊外型」の酉の市であり、女性や高齢者を含む幅広い年代層 が、沿線から訪れる大規模な地域イベントとしての側面が強いです。
同じ「酉の市」であっても、立地と歴史的背景により、参加する層や人流の構造が大きく異なることがデータによって裏付けられました。



~あなたに合った「福」を探しに行こう~

本コラムでは、江戸の風物詩「酉の市」の歴史や2025年の開催情報、そして「関東三大酉の市」の個性について解説してきました。
24時間眠らない圧倒的な熱気の「浅草」、都会の真ん中で昭和レトロな非日常を味わえる「新宿」、そして厳かな神事と地域の温かみを感じる「府中」。
同じ「酉の市」であっても、その土地の歴史や立地によって全く異なる表情を持っていることがお分かりいただけたかと思います。
さらに、 「KDDI Location Analyzer」を用いた分析結果は、各会場の「性格」を如実に表していました。ビジネスパーソンが集う都市型の新宿、沿線住民に愛される地域密着型の府中と、データが示す来訪者の違いは、会場選びの新たな視点となるはずです。
2025年の「酉の市」は終了しましたが、来るべき新年、皆様にも「福」が訪れますように。

それぞれの酉の市


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監修者プロフィール

市川 史祥
技研商事インターナショナル株式会社
執行役員 マーケティング部 部長 シニアコンサルタント
医療経営士/介護福祉経営士
流通経済大学客員講師/共栄大学客員講師
一般社団法人LBMA Japan 理事
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1972年東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。不動産業、出版社を経て2002年より技研商事インターナショナルに所属。 小売・飲食・メーカー・サービス業などのクライアントへGIS(地図情報システム)の運用支援・エリアマーケティング支援を行っている。わかりやすいセミナーが定評。年間講演実績90回以上。




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