技研商事インターナショナル技研商事インターナショナル
エリアマーケティングラボ
2025年10月14日号(Vol.186)
店舗マーケティングの第一歩は、店舗の売上がどのような要素で成り立っているのかを数学的に理解することです。すべての戦略はこの基本構造の理解から始まります。店舗の売上は、次の普遍的な方程式で表すことができます。この方程式を構成する3つの要素こそが、店舗が常に監視し、改善を目指すべき最重要指標(KPI)となります。
店舗の売上は、以下の3つの要素の掛け算で構成されています。
売上=来店客数×購買率×平均客単価
それぞれの要素を詳しく見ていきましょう。
• 来店客数
店舗に訪れたお客様の総数です。これは、あらゆる売上の源泉となる、マーケティングファネルの最上流に位置します。来店客数は、店舗の存在を初めて知って訪れた「新規顧客」と、再来店してくれた「リピート顧客」に分けて考えることができ、それぞれに適したアプローチが必要です。
• 購買率
来店したお客様のうち、実際に商品やサービスを購入したお客様の割合を指します。この指標は、店内の品揃え、ディスプレイ、接客、店舗の魅力といった、店内の取り組みの効果を測るバロメーターです。計算式は「購買率=購入客数÷来店客数」で表されます。
• 平均客単価
購入客1人あたりが1回の会計で支払う平均金額のことです。この数値を向上させるためには、関連商品を提案する「クロスセル」や、より高価格帯の商品を推奨する「アップセル」といった手法が有効です 7。計算式は「
平均客単価=店舗売上高÷購入客数」で求められます。
これら3つの要素は、単なる分析指標ではなく、店舗運営における最も重要なKPI(重要業績評価指標)です。戦略的な売上向上は、これらのKPIを個別に伸ばすための施策を立案し、実行・検証・改善を繰り返すPDCAサイクルなくしては実現できません。
この方程式の強力な点は、各要素の改善が掛け算となって全体の売上に大きく影響することです。
例えば、「来店客数」「購買率」「平均客単価」のそれぞれをわずか10%ずつ改善できたとします。その結果、全体の売上は 1.1×1.1×1.1=1.331 となり、約33.1%も向上するのです。
しかし、ここで注意すべきは、これらのKPIが相互に影響し合う関係にあるという点です。例えば、大幅な割引セールを実施すれば、「来店客数」と「購買率」は大きく増加するかもしれません。しかしその一方で、「平均客単価」は下落し、結果的に利益率を圧迫する可能性があります。逆に、高価格帯商品の販売に注力すれば「平均客単価」は上がりますが、「購買率」はわずかに低下するかもしれません。
したがって、
優れた店舗マーケティングとは、3つのKPIを盲目的に最大化しようとするのではなく、事業全体の目標(市場シェアの獲得、利益の最大化など)に応じて最適なバランスを見つけ出すこと
です。そのためには、各施策がこれらのKPIに与える複合的な影響を正確に測定・分析できる、統合的なデータ分析基盤が不可欠となります。
店舗マーケティングを成功に導くためには、体系的かつ継続的な改善プロセスが不可欠です。そのためのフレームワークが、多くのビジネスシーンで用いられる「PDCAサイクル」(Plan, Do, Check, Action)です。データに基づいたPDCAサイクルを回すことで、マーケティング施策の精度を高め、持続的な売上成長を実現できます。
技研商事インターナショナルが提供するソリューションは、このPDCAサイクルの各段階を有機的に連携させ、データに基づいた意思決定を強力に支援します。
PDCAサイクルの出発点である「計画」フェーズでは、自店舗を取り巻く環境と顧客を深く理解することが求められます。
市場調査では、店舗の外側に目を向け、商圏(店舗が影響を及ぼす地理的範囲)を客観的に定義し、競合店の位置や市場全体のポテンシャル(人口、世帯年収、消費傾向など)を把握します。
エリアマーケティング用GIS(地図情報システム)である「MarketAnalyzer® 5」は、この課題に対する最適なツールです。
地図をクリックするだけで、半径や自動車での移動時間に基づいた商圏を簡単に作成し、そのエリアの特性をAIが文章で解説するレポートを自動で生成します。この分析を支えるのが、国勢調査から年収、消費支出、ライフスタイルに至るまで、多岐にわたるエリア単位のデータベースです。これにより、経験や勘に頼らない客観的な市場評価が可能になります。
「計画」フェーズで得られた知見を基に、「実行」フェーズでは売上方程式の最初の変数である「来店客数」を増やすための施策を展開します。チラシなどの従来手法に加え、近年ではSNSマーケティングやWeb広告といったデジタル施策の重要性が増しています。ここでの課題は、いかにして広告予算の無駄をなくし、適切なターゲットに的確にアプローチするかです。
ここに、技研商事インターナショナルが持つ独自の強みがあります。
まず、「MarketAnalyzer® 5」を用いて自社の顧客データやエリアの統計データを分析し、ターゲット顧客が多く居住しているにもかかわらず、まだ来店に繋がっていない「ポテンシャルの高いエリア」を町丁目レベルで特定します。
次に、その分析結果をジオターゲティング広告配信プラットフォーム「MarketAnalyzer® Ads」に連携させます。このプラットフォームの最大の特徴は、MarketAnalyzer® 5で特定したエリアに「今いる人」に対してのみ、リアルタイムでデジタル広告を配信できる点です。
これにより、ターゲットエリア外での広告表示(インプレッション)やビッディング(入札)が一切発生せず、広告費の無駄を徹底的に排除した、極めて効率的な店舗 デジタルマーケティングが実現します。
来店客数を増やした後は、「購買率」と「平均客単価」を高めるための店内の取り組み、すなわち「店頭販売促進」が重要になります。これらの施策は、マーケティングの古典的なフレームワークである4P(Product, Price, Place, Promotion)に沿って整理できます。
• Product(製品): 地域の顧客特性に合わせた商品構成、マーチャンダイジング。
• Price(価格): 戦略的な価格設定、割引施策。
• Place(場所・流通): 店舗レイアウト、商品陳列、魅力的な買い物環境の創出。
• Promotion(販促): 店頭POP、スタッフによる推奨、ポイントカードなどのロイヤリティプログラム 。
これらの店内施策の精度は、「計画」フェーズで得た顧客理解の深さに大きく左右されます。MarketAnalyzer® 5で分析した地域の年収レベルや家族構成、そして
KDDI Location Analyzerで把握した実際の来訪者の中心的な年齢層や性別といったデータを基にすることで、店舗は自店の顧客層に真に響く商品(Product)を揃え、適切な価格(Price)を設定し、効果的な販促(Promotion)を企画することができるのです。
マーケティングは施策を実行して終わりではありません。「測定」し、その結果に基づいて「改善」するプロセスこそが、継続的な成功の鍵です。技研商事インターナショナルのソリューションは、このPDCAの最終段階において、施策の効果を明確に可視化する「閉じたループ」を構築します。
1.施策実行 (Do):
MarketAnalyzer® 5で特定したエリアに対し、MarketAnalyzer® Adsでジオターゲティング広告キャンペーンを実施します。
2. 効果測定 (Check):
キャンペーン終了後、KDDI Location Analyzerを用いて、ターゲットにしたエリアからの来店者数が実際に増加したか、来訪者の属性に変化はあったかを測定します。これにより、広告が「誰を」「どこから」動かしたのかを具体的に把握できます。
3. 売上分析 (Check):
同時に、MarketAnalyzer® 5にキャンペーン期間中の売上データを取り込み、広告を配信したエリアと売上向上の相関関係を地図上で分析します。広告が実際の購買に結びついたかを検証します。
4. 洞察と改善 (Act):
この一連の分析から、「どのエリアへの広告が最も効果的だったか」という明確な知見が得られます。成功したエリアは次回のキャンペーンでも重点的に狙い、効果が薄かったエリアはアプローチを見直す、といった具体的な改善アクションに繋がります。このデータに基づいたフィードバックループが、次の「Plan」フェーズの精度を飛躍的に高め、マーケティングROIを最大化させていくのです。
このプロセスは、従来のマーケティング分析が陥りがちだった「相関関係」の推測から一歩踏み込みます。「広告を配信したら、全体の売上が上がった」という曖昧な評価ではなく、「この特定の地域に広告を配信した結果、その地域からの来店客がX%増加し、売上がY%向上した」という、施策と成果の因果関係に近い、極めて明確な効果検証を可能にするのです。
理論やツールを理解した上で、それらが実際のビジネスシーンでどのように活用され、成功に繋がるのかを具体的な事例を通じて見ていきましょう。現代の成功する店舗は、例外なくデータを活用して顧客を深く理解し、戦略を最適化し続けています。
全くのゼロから飲食店を立ち上げ、3店舗のチェーン展開に成功した経営者の事例を考えてみましょう。
この経営者は、マーケティング0の状態から、データ活用を事業の根幹に据えました。1号店の出店前、彼はMarketAnalyzer® 5を駆使して商圏分析を実施。ターゲットとする顧客層(例:30代単身者、世帯年収600万円以上)が多く、かつ強力な競合店が少ないエリアをピンポイントで特定し、出店を成功させました。
次に2号店、3号店の展開を計画する際、彼は1号店の成功を再現するため、KDDI Location Analyzerで実際の来店客データを分析。どこから、どのような属性の顧客が来ているのかを詳細に把握し、自店の「成功顧客プロファイル」と「成功商圏モデル」を定義しました。
そして、MarketAnalyzer® 5のエリア検索機能を使い、その成功モデルに合致する他のエリアを探し出したのです。このアプローチにより、彼は勘に頼ることなく、データに基づいた再現性の高い多店舗展開戦略を実行できました。
アパレル業界は、顧客が店舗で試着だけしてオンラインで購入する「ショールーミング」や、激しい競争下での顧客の囲い込み(リテンションマーケティング)といった特有の課題を抱えています。顧客を理解せずにプロモーションを繰り返すだけでは、利益を削りながら疲弊していく「アパレル ぬま(沼)」に陥りがちです。
この沼から抜け出す鍵もまた、データにあります。KDDI Location Analyzerで来店客の属性(流行に敏感な若者層か、上質なものを求める富裕層かなど)や居住エリアを把握することで、店舗の品揃えや接客スタイルを最適化できます。さらに、このデータはリテンションマーケティング事業にも活用可能です。一度来店した顧客が多く住むエリアに対し、「MarketAnalyzer® Ads」で新商品やセールの情報を配信することで、ブランドを思い出してもらい、再来店やオンラインストアでの購入を促すことができます。
これからの店舗 魅力を考える上で欠かせないのが、店舗のデジタルトランスフォーメーション(DX)と、オンラインとオフラインを融合させるOMO(Online Merges with Offline)戦略です。
OMOとは、単にECサイトを持つことではなく、オンラインで注文して店舗で受け取る(クリック&コレクト)、店内のQRコードから商品の詳細情報やレビューをオンラインで確認できるなど、顧客がデジタルとリアルを自由に行き来できるシームレスな体験を提供することです。
店舗経営のように事業を拡大していく上で、このOMO戦略の基盤となるのが、オフライン、すなわち実店舗の顧客データの深い理解です。例えば、KDDI Location Analyzerで店舗ごとの来客のピークタイムを正確に把握すれば、クリック&コレクトの受け渡しスタッフを最適に配置でき、顧客の待ち時間を減らしてOMO体験の満足度を直接的に向上させることができます。
未来の実店舗の魅力とは、このようなデータに基づいた利便性とパーソナライズされた体験の提供によって創造されるのです。
本コラムでは、店舗マーケティングが売上を構成する「来店客数」「購買率」「平均客単価」という3つの要素の最適化を目的とする、データに基づいた科学的な活動であることを解説しました。そして、その実践的なフレームワークとしてPDCAサイクルを提示し、各段階でデータがいかに重要であるかを明らかにしました。
ECサイトとの競争が激化し、消費者の価値観が多様化する現代において、もはや経験や勘だけに頼った店舗運営で持続的な成長を遂げることは困難です。成功の鍵は、自店の商圏を正確に把握し、顧客を深く理解し、施策の効果を客観的に測定し、改善を続けるデータドリブンな経営体制を構築することにあります。
私たち技研商事インターナショナルは、このデータドリブンな店舗マーケティングを実現するための、国内でもユニークな統合ソリューションを提供しています。
商圏のポテンシャルを深く分析する「MarketAnalyzer® 5」、
リアルな人の動きを捉える「KDDI Location Analyzer」、
そして分析結果を具体的な集客アクションに繋げる「MarketAnalyzer® Ads」。
これらが連携することで、計画から実行、検証、改善に至るPDCAサイクル全体を一気通貫で支援します。
データは、もはや複雑で難解なものではなく、競争の激しい小売市場で自社の進むべき道を照らし、確信を持って次の一手を打つための最も強力な羅針盤です。売上向上と顧客との強い絆を築くための第一歩は、自社のエリアと顧客をデータで正しく知ることから始まります。
より詳しい情報や、貴社の課題に合わせた具体的な活用方法については、ぜひお気軽にお問い合わせください。
監修者プロフィール市川 史祥技研商事インターナショナル株式会社 執行役員 マーケティング部 部長 シニアコンサルタント |
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医療経営士/介護福祉経営士 流通経済大学客員講師/共栄大学客員講師 一般社団法人LBMA Japan 理事 Google AI Essentials Google Prompt Essentials 1972年東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。不動産業、出版社を経て2002年より技研商事インターナショナルに所属。 小売・飲食・メーカー・サービス業などのクライアントへGIS(地図情報システム)の運用支援・エリアマーケティング支援を行っている。わかりやすいセミナーが定評。年間講演実績90回以上。 |
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