エリアマーケティングラボ

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~業界の最新動向~

店舗開発とは?
仕事内容と必要なスキル・新規出店の進め方

2025年9月10日号(Vol.173)

はじめに

企業の成長戦略において、新規出店は最も重要な経営判断の一つです。店舗開発とは、単に最適な物件を探し、契約を締結する業務に留まりません。それは、企業の未来を創り、多額の投資を永続的な利益へと転換させるための戦略的な職務です。
新規店舗の出店には、物件の取得や建設、改装費用など、莫大な初期投資が発生します。この投資が失敗に終われば、企業の経営に深刻な打撃を与える可能性があります。そのため、現代の店舗開発においては、 勘や経験といった属人的な判断に依存するのではなく、データに基づいた客観的かつ論理的な意思決定が不可欠 となっています。
本コラムは、店舗開発の全体像を俯瞰しつつ、特に現代において成功を収めるために欠かせない「データ駆動型アプローチ」に焦点を当てます。具体的な仕事内容や必要なスキルを詳細に解説するとともに、日本を代表する大手チェーン企業の事例を通して、データ活用の最前線を明らかにします。これにより、店舗開発を「企業の成長エンジン」へと進化させるための実践的な知見を提供します。


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店舗開発とは何か?その意味と仕事の重要性

店舗開発の定義:「出店から開店まで」の一連の業務フロー

店舗開発とは、小売、量販店、飲食店などのチェーン展開・多店舗展開を行う企業における専門職の名称であり、新規出店候補地の調査から、設計・施工、契約、そして開店に至るまでの一連の業務フロー全体 を指します。その業務範囲は多岐にわたり、新規出店のためのエリア選定、周辺環境のリサーチ、土地利用に関する交渉などが主要な仕事内容となります。
この職務の成功は、その企業の成長と直結します。なぜなら、店舗開発は単なる物件探しの専門家ではなく、市場と顧客のニーズを深く理解し、企業の事業戦略を形にしていく役割を担っているからです。

なぜ店舗開発は「会社の成長エンジン」なのか?

新規店舗の立ち上げは、企業にとって巨額の先行投資を意味します。この投資を成功させるには、永続的に利益を上げられる店舗を創り出すことが求められます。企業が掲げる「増収増益」という目標は、店舗開発という職務が最前線で創り出すものだと位置づけられることもあります。

店舗開発が企業の成長を左右する戦略的役割を担うことは、多くの成功事例からも明らかです。
例えば、焼き鳥チェーンの鳥貴族の創業期には、3号店の立地選定が悪かったことで失敗を経験していますが、1号店、2号店の成功が事業の基盤を築きました。この事例は、一店舗の成否が企業の命運を分けることもあるという事実を示唆しています。
このことから、 店舗開発は単なるコストセンターではなく、企業の存続と成長を左右する「戦略的投資」であると捉える ことができます。多額の資金を投じる以上、その判断は個人的な勘や経験に頼るのではなく、客観的なデータに基づいた確固たる根拠が不可欠となります。店舗開発は「事業規模拡大」というミッションだけでなく、「企業価値向上」というより上位の目標に直結する、経営の中核を担う仕事であると言えます。


企業価値向上のイメージ

新規出店の進め方:仕事内容と具体的な8つのステップ

店舗開発の仕事内容を俯瞰する

店舗開発担当者の仕事内容は、出店計画の初期段階から開店後の準備まで、広範囲にわたります。主な業務としては、店舗企画、物件調査・選定、収支計画策定、そして地主や不動産業者との契約交渉などが挙げられます。各業務は密接に連携しており、一つのステップでの判断ミスが、プロジェクト全体の成否に影響を及ぼす可能性があります。

新規出店の進め方:ビジネスを成功に導く8つのステップ

再現性のある成功を収めるためには、体系的なプロセスに従って新規出店を進めることが重要です。一般的な店舗開発のプロセスは、以下の8つのステップに集約できます。

1. 出店コンセプトの整理
新規店舗を立ち上げる第一歩は、その目的とコンセプトを明確にすることです。どのような顧客に来店してもらいたいのか、どのような商品やサービスを提供したいのかといった具体的なビジョンを策定します。新しい地域への進出か、既存エリアでの店舗網拡大かによっても、その後の戦略は大きく変わります。

2. 物件情報の収集
策定したコンセプトと会社の成長戦略に沿って、出店に適した物件情報を幅広く収集します。不動産会社とのネットワークを活用し、立地条件、建物の規模、賃料などの基本情報を確認し、候補物件を絞り込んでいきます。

3. 現地調査
書類上の情報だけでは判断できない、現場のリアルな情報を得るための重要なステップです。人や車の交通量、周辺の競合店の分布状況、街の雰囲気など、商圏の特性を肌で感じ取ります。

4. 商圏分析・周辺リサーチ
現地調査で得た感覚的な情報に加え、客観的なデータを活用して綿密な分析を行います。ターゲットエリアの人口動態、消費者の購買行動、競合店の動向などをGIS(地理情報システム)や商圏分析ツールを用いて詳細に調査します。

5. 収支シミュレーション
候補物件での売上予測を立て、初期投資費用と照らし合わせながら、収益性の実現可能性を検証します。このステップは、出店が事業として成り立つかどうかを判断するために不可欠です。

6. 社内稟議
収集・分析したすべてのデータを整理し、出店計画を社内の関係部署や経営層に提案します。客観的なデータに基づいた根拠を示すことで、スムーズな意思決定を促します。

7. 契約締結
貸主と最終的な契約条件の交渉を行い、賃貸借契約を締結します。この段階で、出店条件に関する合意を形成します。

8. オープン準備
契約締結後、いよいよ店舗のオープンに向けた準備が始まります。内装工事のスケジュール管理、従業員の採用・教育、開店前のプロモーション活動など、多岐にわたる業務を計画的に進めます。


会議の様子

成功する店舗開発に不可欠なスキルと資質

専門知識とデータ分析スキル

店舗開発の仕事は、多様な専門知識を必要とします。まず、物件選定や契約交渉には不動産に関する深い知識が不可欠です。また、収支シミュレーションや投資判断には、財務・会計の知識が求められます。さらに、ターゲット顧客や競合を理解し、市場に適した戦略を立てるためには、高度なマーケティングスキルが必須となります。
これらの専門知識を統合し、意思決定の質を高めるのがデータ分析スキルです。勘や経験に頼りがちな「立地の良し悪し」を、GIS(地理情報システム)のようなツールが提供する客観的なデータ(地理空間情報や人口統計)で裏付けることが、現代の店舗開発では特に重要となります。これにより、個人的な「嗅覚」だけでなく、チームや上層部を説得できる「エビデンス」が生まれます。このアプローチは、属人的な判断から脱却し、誰でも再現可能なロジックに基づいた戦略策定を可能にします。

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コミュニケーションと交渉能力

店舗開発のプロセスには、地主、不動産業者、設計事務所、施工業者、そして社内の関係部署など、多岐にわたるステークホルダーが関与します。彼らと円滑な関係を築き、交渉を成功に導くためには、高いコミュニケーション能力と交渉力が不可欠です。沖縄ファミリーマートの事例でも、地主や店長と「思いをこめて真摯に対応すること」が重要だと述べられています。


成功する店舗開発担当者に求められるスキルセット

成功する店舗開発担当者に求められるスキルセットを、スキルカテゴリごとに以下の表にまとめました。

店舗開発に求められるスキルセット

データ駆動型店舗開発の最前線:GIS・AI・ビッグデータ活用事例

現代の店舗開発を革新するGIS・AI・ビッグデータの力

現代の店舗開発において、AIやビッグデータは、業務のあり方を根本から変えつつあります。例えば、生成AIは、複雑なデータを統合的に分析し、「カフェの出店をするならどこがふさわしいか」といったプロンプト入力だけで、町丁目単位で最適な出店候補地を提案できます。これにより、これまで多大な業務負荷を伴っていたマーケティング調査や候補地の絞り込みが効率化され、熟練した経験がなくても店舗開発業務を担うことが可能となります。
このことは、AIやビッグデータが店舗開発の「属人化」を解消し、業務を「民主化」することを示しています。ベテランの勘や経験に頼りがちだった意思決定プロセスに、客観的なデータという根拠が加わることで、経験の浅い担当者でも高度な分析を行えるようになります。同時に、ベテランは単純なデータ分析作業から解放され、地主との信頼関係構築や斬新な店舗コンセプトの立案といった、より高度な業務に注力できるようになります。これは、人の「感性」とAIの「理性」が融合し、店舗開発という職務をより創造的かつ戦略的なものへと進化させる未来を示唆しています。


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主要企業の店舗開発戦略に見るデータ活用の事例

※以下の3つの事例はインターネット等の公開情報から当社調べで作成したものです。

■ 日本マクドナルド 店舗開発
日本マクドナルドは、国内で最も早くGISを本格的にビジネス活用したパイオニアの一つとして知られています。約30年前から、海外の先進事例を参考に自社でシステムを開発し、地理情報システムを活用して店舗開発を加速させました。このデータ駆動型アプローチにより、商圏の人口や競合店の分布状況を詳細に分析し、出店した場合の売上予測を立てることで、効率的な店舗展開を実現しました。その結果、国内トップシェアを確立し、現在も約2,988店舗(2024年6月公式発表)を展開しています。
マクドナルドの事例は、データ活用がもたらす「持続的な競争優位性」を証明しています。当時まだGISが普及していなかった時代に、いち早く科学的なアプローチを取り入れたことで、競合に先んじた大規模な店舗展開が可能となりました。モバイルオーダーやセルフレジといった顧客体験の向上に繋がるデジタル化(DX)は、その基盤を支える店舗開発というバックエンド業務のデータ活用から始まっていたと言えるでしょう。
■ ファーストリテイリング 店舗開発(ユニクロ)
ファーストリテイリングのユニクロは、時代とともに店舗開発戦略を進化させてきました。1990年代には、郊外のロードサイド店を中心とした多店舗展開で成長を遂げ、その後はショッピングモールへの出店を加速させました。そして、2004年頃からは「立地創造型開発」の時代へと移行しています。これは、既存の標準型店舗に合う立地を探すのではなく、まず商売に適した立地を確保し、それに合わせてユニクロの店舗形態を開発していくという戦略です。
この戦略は、単純な「良い立地」ではなく「立地が持つ可能性」を創造するものです。例えば、商圏の核となる500坪以上の「大型店舗」や、地方の気候やライフスタイルに合わせた商品展開を行う「地域密着型店舗」を開発しています。このような多様な店舗形態の展開には、都市部のトレンドや地方ごとの需要を正確に捉えるデータ分析が不可欠です。この戦略の背景には、GISなどのツールを駆使して地域ごとの消費者のニーズを把握し、最適な店舗コンセプトを設計する、緻密な店舗開発マーケティングがあると考えられます。
■ マツモトキヨシ 店舗開発
マツキヨココカラ&カンパニーは、多様な顧客ニーズに対応するため、地域特性に応じて5つの店舗フォーマット(「スタンダードタイプ」「郊外型デイリータイプ」「都市型フラッグシップタイプ」「matsukiyoLABタイプ」「グローバルタイプ」)に再構築する戦略を進めています。例えば、訪日観光客が多い福岡や札幌では免税店を拡大し、主要ターミナル駅の駅ビルには美と健康に特化した店舗を出店しています。また、ドミナント化していた地域では、調剤薬局を併設するなど、幅広い年齢層に対応した店舗展開を行っています。
この事例は、現代の店舗開発が、顧客プロファイリングとセグメンテーション戦略の最前線であることを物語っています。エリアごとのターゲット顧客を明確に定義し、彼らのニーズに合わせて「店の中身」を最適化する戦略です。貴社のGISソリューションは、顧客データの分布状況や商圏の特性を可視化・分析し、マツキヨのような多角的な店舗フォーマット展開の強力な根拠を創出することができます。

企業の店舗開発におけるデータ活用事例

▶ その他大手企業の店舗開発事例はこちら

店舗開発職のやりがいとキャリアパス

街に「形」を残す、社会的意義のある仕事

店舗開発のやりがいは、自分が手がけた店舗が実際に街に建設され、地域に根ざした存在として成長していく過程を間近で見られることです。店舗は単なる箱ではなく、人々の生活に溶け込み、新しい食文化やライフスタイルを広める役割を担います。自らの判断と努力が、街づくりに参加し、地域社会に貢献していることを実感できることは、この仕事ならではの大きな魅力です。

会社の成長を最前線で支える「経営視点」

店舗開発職は、企業の成長戦略において極めて重要なポジションです。多額の投資を伴う新規出店を通じて、会社の成長を最前線で支えることができます。この仕事は、経営陣や事業部と密接に関わりながら、会社の未来を創る役割を担うため、常に経営者としての視点が求められます。

AI時代を生き抜く、将来性の高いキャリアパス

AIやビッグデータが進化する現代においても、店舗開発職の将来性は非常に高いとされています。AIが業務を効率化する一方で、最終的な判断には「人間的判断」や、様々なスキルを統合した「総合力」が不可欠だからです。
AIは、業務負荷の高い調査や候補地の絞り込みといった作業を効率化できます。これにより、担当者は単純作業から解放され、地主との深い信頼関係構築、地域社会との協業、斬新な店舗コンセプト立案など、AIには真似できない創造的な業務に時間を割けるようになります。つまり、AIは人間の仕事を奪うのではなく、人間が本来得意とする「創造性」「共感」「直感」といった能力を最大限に引き出すための強力なパートナーとなるのです。
また、店舗開発職は、現場職である店長やスーパーバイザーから本部職へとキャリアアップする明確なパスがあることも大きなメリットです。現場での経験と、本部での戦略的思考を組み合わせることで、精度の高い意思決定を行うことができる人材として、キャリアを築くことが可能です。


データと情熱が未来の街を創る

現代の店舗開発の成功には、もはや勘や経験だけでは不十分であり、客観的なデータに基づく論理的判断が不可欠です。本稿で紹介した日本マクドナルドやファーストリテイリング、マツモトキヨシの事例は、データ活用が企業の成長と競争優位性をもたらすことを明確に示しています。GIS(地理情報システム)やAIといった技術は、これまでの店舗開発を「アート」から「サイエンス」へと進化させました。 しかし、データはあくまで「意思決定の羅針盤」にすぎません。最終的に人々の生活を豊かにし、未来の街を創るのは、店舗開発担当者の情熱と、人々に喜んでもらいたいという強い思いです。データという羅針盤を手に、その情熱を最大限に活かすことが、現代の店舗開発マーケティングの成功法則と言えるでしょう。 技研商事インターナショナル株式会社のGISソリューションは、まさにその羅針盤として、お客様の情熱を成功へと導く強力なパートナーとなり得ます。データと情熱を融合させ、未来の街を共に創り出すために、貴社の事業へのご関心を深めていただけますと幸いです。


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監修者プロフィール

市川 史祥
技研商事インターナショナル株式会社
執行役員 マーケティング部 部長 シニアコンサルタント
医療経営士/介護福祉経営士
流通経済大学客員講師/共栄大学客員講師
一般社団法人LBMA Japan 理事
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1972年東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。不動産業、出版社を経て2002年より技研商事インターナショナルに所属。 小売・飲食・メーカー・サービス業などのクライアントへGIS(地図情報システム)の運用支援・エリアマーケティング支援を行っている。わかりやすいセミナーが定評。年間講演実績90回以上。




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