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エリアマーケティングラボ
2026年2月26日号(Vol.219)

マーケティング担当者や事業戦略担当者の皆さま、従来の「住んでいる人(定住人口)」だけをターゲットにしたエリアマーケティングに限界を感じていませんか?
人口減少と東京一極集中が進む今、ビジネスの次なる成長エンジンとして注目されているのが「関係人口」の活用です。本記事では、この約2,200万人規模の巨大な未開拓市場をどのように分析し、戦略に組み込むべきか、論理的に解説します。

現在、日本の少子高齢化や東京一極集中といった構造的な課題により、特定の地域に住む人々だけをターゲットにした従来のビジネスモデルは多くの場所で限界を迎えつつあります。
これまでのエリアマーケティングでは、店舗を中心とした一定範囲内の「住んでいる人の数(定住人口)」や、駅前などを一時的に通る「昼間にいる人の数(昼間人口)」を地図上の「面」として捉え、市場を分析するのが一般的でした。しかし、テレワークなどのデジタル技術(DX)の普及により生活スタイルが多様化したことで、消費者の動く範囲はかつてないほど流動的になっています。
こうした構造的な変化の中で、国や自治体、そして先を見据える企業が新しい市場として注目しているのが「関係人口」という考え方です。これは、地図上の「面」で市場を捉えていた従来の手法に対し、消費者と地域との継続的な「線(つながり)」を見えるようにする新しいアプローチであり、これからの地域戦略における重要な指針となっています。

総務省は関係人口を「地域と多様に関わる人々」と定義していますが、ビジネスに活用するにはその「グラデーション」を理解することが不可欠です。具体的には、消費者が地域に対して持っている「関わりの強さ」と「想いの強さ」の2つの視点で整理する必要があります。地域との関わりは以下のように分類できます。
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人口の区分 |
地域との関わりの性質 |
具体的な人物像の例 |
ビジネス上の意味合い |
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交流人口 |
観光が目的の一時的な訪問。 |
「話題の観光地だから来た」という一度きりのお客様。 |
短期的な集客の対象。何度も利用してくれる確率は低い。 |
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関係人口 (つながりが緩やか) |
過去にその地域で働いたり住んだりした経験がある人、出身者など。 |
帰省客、頻繁に出張で訪れる人、ふるさと納税を続けている人。 |
継続的な購入が見込める優良な顧客層。顧客との関係を維持する(CRM)上での主要な対象。 |
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関係人口 (関わりが深い) |
地域の活動に直接参加している人や、頻繁に行き来する人。 |
二拠点生活をしている人、週末移住者。 |
住民に近い買い物をしつつ、都市の流行も持ち込む、強力な広報役(アンバサダー)。 |
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定住人口 |
その地域に移住した人、あるいは元々住んでいる人。 |
地域の生活を支える一般の住民。 |
これまでの分析で最も重要だった層。しかし、全体としては減少傾向。 |

国土交通省の令和5年度調査(推計)によると、日本の18歳以上の約22%が「どこかの地域の関係人口」に該当します。
全体規模: 約2,263万人(日本人の5人に1人)
訪問系(約1,884万人): 定期的に訪れ、交通・飲食・宿泊などの直接的経済効果を生む層
非訪問系(約379万人): 訪れないが、ECやふるさと納税で継続的に支援する熱心なファン層
約2,263万人という規模は、日本全体に非常に強い経済的な影響を与える数字です。
特にチェーン企業にとって、住民数だけでは出店が難しかったエリアを「ビジネスが成立する場所」へと変える可能性を秘めています。同時に、「訪れない人」に対してもオンラインを通じて商品を届けるなど、お店とネットを組み合わせた販売戦略(オムニチャネル戦略)が求められます。

「新しい事業の機会を広げ、競合他社と差別化できること」です。
お店周辺の住民数や収入等の静的データに頼る従来型の分析では、人口が減っているエリアでの新規出店を判断するのは困難です。しかし、仕事と休暇を組み合わせた過ごし方(ワーケーション)で訪れるビジネス層や、週末だけ滞在する人の動きを「関係人口」として見えるようにすれば、これまで気づかなかった新しいビジネスチャンス(例:平日のランチ需要や、週末限定の家族向け高単価商品の販売)を発見できます。
また、その地域独特の文化や習慣を分析し、住民と関係人口の双方が身近に感じる商品を作ることで、どこにでもあるチェーン店との差別化が可能になります。
「自分らしい生き方や、自己実現の機会」を得られることです。
今の消費者は、物の豊かさ以上に、地域社会とのつながりや「第二の故郷」を持つことによる心の満足を求めています。企業が自分たちのサービスを通じて「地域と関わるきっかけ」を提供することは、お客様のブランドへの愛着心(ロイヤルティ)を飛躍的に高めることにつながります。
「人手不足の解消と新しいアイデア(イノベーション)の創出」です。
企業が事業を通じて地域に関係人口を送り込む(あるいは呼び込む)ことは、地方創生への大きな貢献になります。自治体との連携が深まれば、良い場所への出店や共同での宣伝活動など、中長期的にビジネスを強化できる形で企業に還元されます。

関係人口活用の最大の壁は「特定と分析」ですが、現在はスマートフォンのGPSデータを活用した人流分析ツール(GIS)で解決可能です。しかし、単に数字を出すだけでは、駅の乗り換え客やたまたま通りかかっただけの人も含まれてしまい、ビジネスに直結する有効なデータにはなりません。
■ 分析のポイント:目的によるチューニング
関係人口の分析は「何のために分析するのか」という目的設定から始めることが不可欠です。単なる「通行人」を除外するため、自社が狙うべき層に合わせて「訪問頻度」や「滞在時間」を細かく設定し、地図情報システム(GIS)を活用して地図上に見えるようにすることで、初めて精度の高い商圏分析が可能になります。
以下に、分析の目的とツールの活用事例をまとめました。
仙台駅を中心に半径1km圏内に住んでもいないし、働いてもいない人で、2025年12月の1ヶ月間で2回以上、仙台駅から半径0.5km圏内に来て、30分以上滞在した人の性別と年代。

大津駅を中心に半径1km圏内に住んでもいないし、働いてもいない人で、2025年12月の1ヶ月間で2回以上、大津駅から半径0.5km圏内に来て、30分以上滞在した人の性別と年代。

安曇川駅を中心に半径1km圏内に住んでもいないし、働いてもいない人で、2025年12月の1ヶ月間で2回以上、安曇川駅から半径0.5km圏内に来て、30分以上滞在した人の性別と年代。

さらに一歩進んだ分析として、「その場所にいた人が、その前後3時間以内にどこにいたか」を調べる手法もあります。山梨県鳴沢村での分析では、訪問者が周辺の市町村や隣の静岡県など、非常に広い範囲から来ていることが判明しました。
山梨県南都留郡鳴沢村に住んでも働いてもいない人で、2026年12月の1ヶ月間で30分以上滞在した人の、滞在前後3時間以内でいた場所。

先進的な企業は、関係人口を分析するだけでなく、自らの事業を通じて積極的に関係人口を「生み出し」、収益を上げる仕組み(エコシステム)を作っています。

航空業界にとって、繰り返し移動してくれる関係人口を増やすことは、将来の需要を守るための生命線です。
■ JAL:JALは「JALふるさとプロジェクト」を軸に、観光を超えた継続的な地域関与を生む関係人口創出に取り組んでいます。北海道釧路市のサウナ体験や三重県伊賀市の忍者体験など、地域固有の文化・資源を活かした体験型プログラムを企画し、再訪意向を高める設計が特徴です。また、学生による農業ボランティアや滞在型プログラムを通じ、若年層が地域産業や暮らしに触れる機会を創出しています。航空ネットワークと体験コンテンツを組み合わせることで、移動需要の創出と地域課題解決を両立させ、地域と都市を継続的につなぐモデルを構築しています。
参照元:https://www.jal.com/ja/sustainability/community/regional_revitalization/
■ ANA(ANAあきんど):ANAあきんどは、地域の人手不足解消と関係人口創出を目的に、多様な外部連携を推進しています。代表例が「おてつたび」との連携で、農家や旅館と都市部の若者をマッチングし、短期労働と旅行を組み合わせた仕組みを提供しています。航空券と組み合わせた商品設計により参加障壁を下げ、地域滞在を促進しています。参加者の高い再訪意向は、単発の観光ではなく、地域との継続的関係を生んでいる証左です。輸送需要の創出と地域産業支援を統合した、航空会社ならではの関係人口モデルといえます。
参照元:https://www.ana-akindo.co.jp/activities/

■ サントリー:サントリーは「天然水の森」プロジェクトを通じ、水源涵養を目的とした長期的な森林保全活動を全国で展開しています。単なるCSRではなく、地域自治体や住民と協働しながら森づくりを進める点が特徴です。植樹活動や環境教育「水育」などを通じて、地域住民や次世代と継続的な関係を構築しています。本業である水事業と直結した活動であり、企業理念「水と生きる」を体現する形で地域社会との信頼関係を深化させています。環境を軸にした持続的関係人口創出モデルと位置付けられます。
参照元:https://www.suntory.co.jp/sustainability/

■ 無印良品:良品計画は、無印良品の店舗を地域コミュニティのハブとして機能させています。地域限定商品の開発や防災イベント、ワークショップなどを通じて、地域住民と消費者を結び付けています。自治体との包括連携協定や対話型イベントも実施し、店舗を地域課題解決や交流の場として活用しています。消費者は商品購入やイベント参加を通じて地域を応援する立場となり、訪問せずとも地域とつながる関係人口が生まれています。小売拠点を社会的プラットフォームへ転換した事例といえます。
参照元:https://www.ryohin-keikaku.jp/business/activity-muji
企業だけでなく、受け入れる側の自治体も、関係人口を戦略的に獲得するための基盤(プラットフォーム)作りを急いでいます。企業が新しい地域に進出する際、こうした自治体の仕組みを活用することが成功の近道になります

ヒダスケ!は、飛騨市の“困りごと”やイベント支援を全国の参加者とマッチングする関係人口創出プラットフォームです。農作業や祭りの運営補助など多様なメニューを用意し、誰でも関わりやすい設計が特徴です。参加者には地域通貨などの特典もあり、交流を通じて地域との継続的な関係を育みます。単発の観光ではなく、地域課題解決に関わる体験を通じてファンを計画的に増やすモデルとして注目されています。
参照元:https://hidasuke.com/

しまっち!は、島根県が運営する関係人口マッチングサイトで、地域団体と地域活動に関心のある人をつなぎます。草刈りやイベント運営など多様な活動を掲載し、関わりの深さを選べる仕組みが特徴です。事例集の発行や滞在型制度の整備も行い、企業や団体が地域と連携する際の基盤として機能しています。ゆるやかな参加から継続的な関与へ発展させる設計が強みです。
参照元:https://shi-match.jp/
「関係人口」は、ただ待っていれば自然に増えるものではありません。
企業がビジネスとしてこの層を取り込むためには、消費者がその地域に対して抱く「関心の階段」を一段ずつ登ってもらうための仕掛け作りが必要です。ここでは、企業が主導して関係人口を増やすための3つのステップを解説します。

オンラインショップやSNSで、地域の歴史や生産者の日常に隠れた魅力(ストーリー)を発信し続けることは、「単なる買い物」を「その地域への応援」に変え、物理的な距離を超えた「心のつながり」を先に作ることにつながります。将来の訪問予備軍を育てる(関係人口を創出する)うえでの第一歩となります。

全国展開するチェーン企業にとって、都市部の店舗は「地域の魅力を伝えるショールーム」になります。 店舗の一角に地域産品のコーナーを設けたり、その地域の観光情報を紹介するイベントを開催したりすることで、都市部の顧客に対して「今度、ここに行ってみようかな」という動機付けを行います。>
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地域の魅力を体験できるワークショップを店内で実施することも効果的です。お店を単に「物を売る場所」から、地域と人を結びつける「中継地点(ハブ)」へと進化させることが、訪問系関係人口の増加に直結します。

一度訪れた人を「継続的な関係人口」に変えるためには、リピーターを優遇する仕組みが不可欠です。
例えば、特定の地域を頻繁に訪れる人向けに、宿泊施設や飲食店で特典が受けられる「デジタル住民票」や「地域限定ファンクラブ」のような仕組みを自治体と共同で導入します。
また、単なる観光ではなく、収穫体験や地元の清掃活動といった「地域活動への参加」をプログラム化することも有効です。人は「その地域に自分の役割がある」と感じたとき、単なる訪問者から深い関係人口へと変わります。
これらの施策をより確実にするのが、前述した位置情報データやGISの活用です。
自店を訪れた客が、その後どの地域に興味を持っているか、あるいはどこから来ているかをGISで分析し、ピンポイントで情報を届ける(ターゲティング)ことで、効率的な創出が可能になります 。

人口減少社会において、限られた定住人口を奪い合う戦略はすでに「レッドオーシャン」です。一方、住民でも観光客でもない「関係人口」は、人口の22%を占める巨大な「ブルーオーシャン(未開拓市場)」です。
この見えない市場をデータで可視化し、地域の課題解決と自社の利益を両立させる持続可能なモデルを構築することこそ、これからのマーケターに求められるスキルなのかもしれません。

監修者プロフィール市川 史祥技研商事インターナショナル株式会社 執行役員CMO シニアコンサルタント |
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| 一般社団法人LBMA Japan 理事 ロケーションプライバシーコンサルタント 流通経済大学客員講師/共栄大学客員講師 統計士/医療経営士/介護福祉経営士 Google AI Essentials/Google Prompt Essentials 1972年東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。不動産業、出版社を経て2002年より技研商事インターナショナルに所属。 小売・飲食・メーカー・サービス業などのクライアントへGIS(地図情報システム)の運用支援・エリアマーケティング支援を行っている。わかりやすいセミナーが定評。年間講演実績90回以上。 |
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