技研商事インターナショナル技研商事インターナショナル
エリアマーケティングラボ
2025年5月30日号(Vol.148)
購買データは、現代マーケティングにおいて顧客理解を深め、効果的な施策を展開するための強力な手段です。この記事では、購買データの基本概念から分析手法、マーケティング施策への活用法、さらにはGISやサイコグラフィックとの連携といった先進的なアプローチまで幅広く解説し、読者が自社のマーケティング活動を革新するための知識とヒントを提供することを目指します。
収集した購買データを価値ある情報に変えるためには、適切な分析が不可欠です。ここでは、購買データを分析し、顧客インサイトを引き出すための基本的な手法を紹介します。
購買データ分析の基本は、個々のデータポイントから顧客の行動パターンを読み解くことです。以下のような基本的な指標があります。
• 購買頻度:顧客がどのくらいの頻度で商品やサービスを購入しているかを示します。購買データは、顧客を共通の特性を持つグループに分類する「顧客セグメンテーション」に非常に強力な情報源となります 。一般的なセグメンテーションの軸には、以下のようなものがあります。
RFM分析は、顧客の購買行動を以下の3つの指標で評価し、顧客をランク付け・分類する手法です。
バスケット分析(マーケットバスケット分析、アソシエーション分析、併売分析とも呼ばれる)は、一度の購買で、どのような商品が一緒に購入されやすいかの組み合わせを発見するための分析手法です 。
これらの分析結果は、具体的なマーケティング施策に活かすことができます。
• クロスセル戦略: 商品Aを購入した顧客に対して、一緒に購入されやすい商品Bを推奨する。
• アップセル戦略: 商品Aの代わりに、より高価格帯だが関連性の高い商品Cを提案する。
• 店舗レイアウト・棚割り: 関連性の高い商品を近くに陳列することで、顧客の購買意欲を高める。
• セット販売・バンドル: 一緒に購入されやすい商品をセットにして割引価格で提供する。
• キャンペーン企画: 関連性の高い商品を組み合わせたプロモーションを実施する。
購買データ分析の最も強力な応用の一つが、パーソナライズです。顧客一人ひとりの購買履歴、RFM分析の結果、所属するセグメントなどの情報に基づいて、コミュニケーションの内容やタイミング、提供するオファーを最適化します。例えば、以下のような施策が考えられます。
• パーソナライズドEメール
• Webサイトのコンテンツ最適化
• アプリ通知
• ターゲティング広告
購買データは、顧客体験(Customer Experience: CX)全体の向上にも貢献します 。
•ペインポイントの特定と改善
購買データや関連データ(Webサイトでの離脱箇所、コールセンターへの問い合わせ内容など)を分析することで、顧客が購買プロセスで感じる不便や不満を推測し、改善策を講じることができます。
•シームレスな体験の提供
顧客がオンラインとオフラインを行き来する中で、一貫性のあるスムーズな体験を提供できるよう、購買データと他の顧客接点のデータを統合・分析します。
•期待を超える価値提供
顧客の過去の購買履歴や嗜好に基づいて、パーソナライズされた情報提供やレコメンデーションを行うことで、顧客満足度とロイヤルティを高めることにつながります。
ABC分析は、「全体の数値の大部分(例:80%)は、全体を構成する要素の一部(例:20%)が生み出している」というパレートの法則に基づき、売上や利益への貢献度が高い順に商品や顧客をランク付けし、管理の優先順位を明確にする分析手法です 。
• Aランク:累積構成比0%~70%(売上への貢献度が最も高い、重点管理対象)
• Bランク:累積構成比70%~90%(Aランクに次いで貢献度が高い、維持・改善対象)
• Cランク:累積構成比90%~100%(売上への貢献度が低い、効率化・見直し対象)
ABC分析は、限られたリソース(時間、コスト、人員)を最も効果的な対象に集中させるための、シンプルかつ強力な意思決定ツールです。
ABC分析の具体的な手順や活用事例については、こちらの記事で詳しく解説しています。
RFM分析やABC分析以外にも、顧客を多角的に理解するための分析手法があります。
顧客の多様なニーズを理解する重要性については、「顧客ニーズとは?把握・分析方法やビジネス成功のポイントを解説」もご参照ください。
購買データ分析を効率的・効果的に行うには、適切なツールやプラットフォームの活用が不可欠です。
• BI (Business Intelligence) ツール:
Tableau, Microsoft Power BI, Google Looker Studioなど。
• 統計解析ソフト/プログラミング言語:
R, Python, SPSS, SASなど。
• MA (Marketing Automation) ツール:
顧客データに基づいてマーケティング施策を自動化するツール。
• CRM (Customer Relationship Management) ツール:
顧客情報や対応履歴を一元管理するツール。
• GIS (Geographic Information System) ツール:
顧客データや購買データを地図上に可視化し、エリアマーケティングや商圏分析を行うためのツール。
技研商事インターナショナルの MarketAnalyzer® 5 などが代表的です。
ツール選定においては、分析目的、データ量と種類、必要な機能、操作性、連携性、サポート体制、コストを考慮することが重要です 。
また、ツール導入以前の段階として、データのクレンジングや整理が非常に重要です。欠損値の処理、表記ゆれの統一、異常値の検出などを行い、分析に適した状態にデータを整える作業が、分析の質を大きく左右します。さらに、これらのツールを使いこなし、データから意味のある洞察を引き出すためには、データ分析スキルを持つ人材の確保・育成も不可欠です。
サイコグラフィックデータの価値をさらに高めるのが、ジオデモグラフィックデータとの連携です。ジオデモグラフィックデータとは、国勢調査などの公的な統計データに、年収や地価といった様々な情報を加味し、特定の地域(例:町丁目、メッシュ)にどのような属性(年齢構成、世帯構成、所得水準など)の居住者が多いかを示すデータです。技研商事インターナショナルが提供する「c-japan®︎」は、全国を小地域粒度で35のクラスターに分類した代表的なジオデモグラフィックデータです。
これらサイコグラフィックデータとジオデモグラフィックデータ「c-japan®︎」を組み合わせた消費者ライフスタイルの分析は、具体的なビジネスシーンで様々に活用されています。
購買データは、現代マーケティングにおいて顧客理解を深め、効果的な施策を展開するための強力な手段です。本記事では、その基本的な種類や収集方法から、RFM分析、バスケット分析、ABC分析といった具体的な分析手法について解説してきました。
購買データは、顧客一人ひとりに合わせた提案を行うパーソナライゼーション、プロモーション効果を最大化するプロモーション最適化、顧客ニーズを反映した商品開発、そして顧客満足度を高める顧客体験向上など、多岐にわたる活用が可能です。
さらに、単なる購買履歴(What)に留まらず、その背景にある顧客の意識(Why)を探るサイコグラフィックデータや、地理的な文脈(Where)を捉える**GIS(地理情報システム)**と連携させることで、より多角的で深い顧客インサイトを獲得し、エリアマーケティング戦略を革新する可能性も秘めています。
データに基づいた客観的な意思決定は、変化の激しい現代市場において、企業が競争優位性を確立し、成長を続けるための鍵となります。本記事が、貴社の購買データ活用における一助となれば幸いです。
監修者プロフィール市川 史祥技研商事インターナショナル株式会社 執行役員 マーケティング部 部長 シニアコンサルタント |
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医療経営士/介護福祉経営士 流通経済大学客員講師/共栄大学客員講師 一般社団法人LBMA Japan 理事 1972年東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。不動産業、出版社を経て2002年より技研商事インターナショナルに所属。 小売・飲食・メーカー・サービス業などのクライアントへGIS(地図情報システム)の運用支援・エリアマーケティング支援を行っている。わかりやすいセミナーが定評。年間講演実績90回以上。 |
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