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エリアマーケティングラボ
2026年2月16日号(Vol.215)

ロケーションテックとは、GPS、Wi-Fi、ビーコン、携帯電話基地局などの技術を用いて取得された位置情報を、AI(人工知能)やビッグデータ解析技術と掛け合わせることで、新たなビジネス価値や社会的解決策を生み出す技術およびサービスの総称です。
ロケーションテックの本質は、「現実世界の動き」を「デジタルデータ」に変換し、そこから「意味」を見出すプロセスにあります。このプロセスを支える技術基盤は、測位技術、通信インフラ、そして解析アルゴリズム(計算手順)の三層構造で成り立っています。

位置情報の取得方法は、精度、網羅範囲(カバレッジ)、屋内対応の可否によって大きく4つに分類されます。
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取得技術 |
特徴・メリット |
課題・デメリット |
主な活用シーン |
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GPS |
スマートフォンのアプリを通じて人工衛星から取得し。屋外での位置精度が高く(誤差数m〜)、移動経路の追跡が可能。 |
地下街、トンネル、屋内、高層ビル群では電波が遮断・乱反射し、精度が低下。バッテリー消費への配慮が必要。 |
商圏分析、観光動態調査、道路交通量分析、屋外広告の効果測定等。 |
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Wi-Fi |
スマートフォンのWi-Fi機能がオンの状態で、通信機器(アクセスポイント)が発する電波を受信して測位。GPSが届かない屋内や地下でも検知可能。 |
Wi-Fiがオンである必要があり、機器の設置場所に依存するため、移動中の連続的な追跡には不向きな場合があります。 |
地下街の人流計測、商業施設内の動線分析、来店検知等。 |
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Bluetooth |
店舗や施設に設置した発信機(ビーコン)からの信号をスマホが受信。数cm〜数m単位の超高精度な測位が可能。 |
機器(受信機・発信機)の設置コストがかかります。ユーザー側でBluetoothをオンにし、かつ対応アプリを入れる必要があります。 |
店舗内の棚前での行動分析、クーポン配信、工場内の資産管理・動線管理等。 |
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携帯電話 |
携帯キャリアの通信網を利用します。電源が入っていれば位置を把握でき、データ数が膨大(数千万単位)。人口統計としての信頼性が高いのが特徴。 |
基地局の密度に依存するため、GPSに比べて精度が粗くなる(数百m〜数km)。ピンポイントな施設来訪分析には不向き。 |
大まかな都市間移動、人口分布調査、災害時の広域避難状況の把握等。 |
収集された位置情報は、そのままでは単なる座標の羅列に過ぎません。AI(人工知能)と機械学習を用いた解析プロセスを経て、ようやくビジネスに役立つ洞察(インサイト)へと変わります。
●マップマッチング: GPSの誤差で道路外に飛び出した軌跡を、道路データに合わせて補正する技術
●ノイズフィルタリング: 異常値を検出し、データの信頼性を高める処理
●属性付与: 位置情報に時間帯、天気、周辺施設情報、さらには個人の行動履歴に基づく推定属性(「20代男性」「会社員」など)を紐付けることで、マーケティングデータの価値を飛躍的に高める

日本の位置情報ビジネスは、初期の実験段階を脱し、社会インフラとして定着する「社会実装」の段階(フェーズ)に突入しました。当社も加盟している「一般社団法人LBMA Japan」が公開した「カオスマップ2025年版」は、この業界の成熟と多様化を物語っています。
※位置情報ビジネス&マーケティングカオスマップ2025年版(https://www.lbmajapan.com/locationchaosmap2)
日本の「Location of Things(位置情報)」市場は、2024年時点で約800億円(5億5000万米ドル)と評価されており、2025年から2032年にかけて年平均26.5%という驚異的なペースで拡大すると予測されています。
※Oracle社の調査による(https://japanlocationofthingsmarket20321.docs.apiary.io/)

LBMA Japanの分析によれば、2025年の国内位置情報業界のトレンドは以下の5点に集約されます。
● 産官学連携の深化と社会実装の加速
従来の「企業対消費者」という枠組みを超え、自治体、大学、民間企業が一体となったプロジェクトが増加しています。例えば、災害時の避難誘導や観光客の周遊促進など、公共性の高い課題解決において位置情報が不可欠なインフラとして機能し始めています。
● リアルタイム位置情報の集約化(データ統合)
これまでは通信キャリアやアプリごとに分断されていたデータが、システム連携などを通じて横断的に統合されつつあります。これにより、例えば「今、東京全体で人がどう動いているか」という広い視点と、「特定の店舗に誰がいるか」という細かい視点を自由に行き来することが可能になりました。
● 三次元計測・可視化技術の実用化
国土交通省が主導する3D都市モデル「PLATEAU」などに代表されるように、地図情報の3次元化が進んでいます。屋内においても、気圧センサーによる「高さ(階数)」判定や3Dスキャン技術が普及し、立体的な空間管理が当たり前になりつつあります。
● プライバシー強化技術の進化
データの精度が上がるほど、プライバシーリスクも高まります。これに対応するため、秘密計算などの「データの中身を見ずに解析する」技術が実用化段階に入っています。
● データ分析の役割分担とカテゴリ細分化
業界地図の分類は、「AI・科学(解析)」「GIS・エリアマーケティング(可視化)」「コンサルティング(活用支援)」と細分化が進んでいます。これは業界のエコシステムが成熟し、各社が専門領域で価値を発揮する分業体制が整ったことを意味します。

従来、商圏分析や都市計画においては、国勢調査などの「静的」な公的統計データが主に利用されてきました。これらは信頼性が高い一方で、調査頻度が数年に一度に限られるため、急速に変化する市場環境や、日々の細かな人の動きを捉えることには限界がありました。
これに対し、ロケーションテックが提供するのは「動的」なデータです。「昨日のイベントでどのくらい人が集まったか」「今の時間の店舗前の交通量はどうか」といったリアルタイム性の高い情報を、24時間365日捉え続けることが可能です。特に、感染症の流行以降、人々の行動様式が劇的に変化する中で、過去の統計ではなく「今」を可視化できる人流データの価値が決定的となりました。
ロケーションテックの産業構造は大きく4つの層に分類されます。
第一に、生データを生成する「データ取得層」。第二に、利用可能な形式に変換する「データ加工・集約層」。第三に、データから意味を抽出する「分析・プラットフォーム層」。そして第四に、具体的な解決策を提供する「ソリューション提供層」です。

この層に位置する企業群は、物理世界のアナログな動きをデジタルの座標データに変換する役割を担います。彼らが生成する生データの質と量が、全体のサービスの精度を決定づけるため、業界全体の基盤となる重要な分野です。
● 通信キャリア型プレーヤー
大手通信事業者は、自社の通信基地局と携帯端末との通信ログを保有しており、これを基にした人口統計データを提供しています。端末が接続している基地局の情報などを利用して、端末の大まかな位置を特定しています。
これらのプレーヤーは、プライバシー保護の観点から、データを格子状(メッシュ)に集計し、特定のエリアに何人いたかを示す「人口統計データ」として加工して提供しています。主な顧客は自治体や観光協会などで、災害時の避難状況把握など、社会インフラとしての側面も強いです。
● アプリケーション・開発キット型プレーヤー(GPS活用)
地図、天気、乗換案内などのアプリ提供者や、それらのアプリに組み込まれる位置情報取得プログラム(SDK)を提供する企業です。スマートフォンのGPS機能を利用し、屋外であれば数メートル程度の誤差で位置を特定可能です。
「旅行中」「家を探している」といったユーザーの文脈(コンテキスト)を推測できるのが強みですが、バッテリー消費やプライバシー設定への配慮が必要です。
● 接通信・インフラ型プレーヤー(ビーコン・Wi-Fi活用)
GPSの電波が届かない屋内や地下、特定の棚の前といった限定的な範囲での位置特定を担います。数センチから数メートルの精度で位置を特定でき、「何階にいるか」や「屋内での回遊行動」を正確に把握できますが、専用機器の設置が必要です。
● 視覚・物理センサー型プレーヤー(カメラなど活用)
AI搭載カメラやセンサーで映像を解析し、人の数や属性、動線などをデータ化します。スマートフォンを持たない人々も含め、空間内の「全数」を把握できるのが特徴です。個人の特定を行わないため、純粋なカウンターとして利用されます。

収集された生の「位置情報」は、そのままではノイズが多く、プライバシーリスクもあります。この層のプレーヤーは、いわば「原油」を「ガソリン」に精製する役割を担っています。
● データクレンジングとマップマッチング
GPSデータの誤差や欠損を補正します。特に、道路から外れた位置情報を地図上の道路に合わせる「マップマッチング」は、移動経路を正確に再現するために不可欠です。
● データ統合管理
複数のアプリやデータソースから吸い上げた位置情報を統合管理する企業です。天気、ニュース、ゲームなど多様なアプリからのデータを集約することで、単独のアプリでは捉えきれないユーザーの行動全容を把握します。
● プライバシー保護・匿名化
個人情報保護法などの規制に対応し、データを安全に利用するための処理(秘匿化)を専門に行います。特定の個人を識別できないようにデータを曖昧にする技術などを提供し、データの「信頼の仲介者」として機能しています。

精製されたデータから「意味」や「インサイト」を引き出すのがこの層です。ここでは、地理情報システム(GIS)の知見と、最新のAI技術が融合しています。
● GIS(地理情報システム)ベンダー
クラウド上で高度な地図分析を行える環境を提供しています。人流データだけでなく、国勢調査データや消費データなどを重ね合わせ、店舗を出店した場合の集客数を予測する機能などは、小売業の戦略において標準的なツールとなっています。
● AI・予測特化型プレーヤー
過去のデータを可視化するだけでなく、「予測」に重点を置いています。タクシーの配車需要や飲食店の来店客数をAIで予測したり、既存の繁盛店と似たエリアを自動抽出したりします。
● 可視化ツール提供者
膨大なデータを、直感的に理解できる「ダッシュボード」として提供します。混雑状況を色で表すヒートマップなどが代表的です。

分析結果を具体的なビジネスアクションに変換し、顧客の課題を解決する最終段階の層です。
● エリアマーケティング・出店戦略コンサルティング
小売や飲食業向けに、人流データを用いた科学的な立地評価を提供します。競合店への客層分析や、自社の新店舗が既存店の客を奪ってしまう「自社競合(カニバリゼーション)」の予測などを行います。
● 位置情報広告プレーヤー
位置情報を活用して、適切な場所とタイミングで広告を配信します。特定のエリアに入ったユーザーにクーポンを送ったり、過去の行動履歴に基づいて広告を出したりします。広告を見て実際に来店したかを計測することも可能です。
● 観光・まちづくり・公共ソリューション
自治体や官公庁向けに、観光客の動きや交通状況を分析し、政策立案を支援します。災害時の避難ルートの特定など、命に関わる領域でも活用されています。
● 屋内測位・業務効率化ソリューション
工場や倉庫、病院などで、人やモノの動きをデータ化し、作業効率の向上や在庫管理の効率化に役立てています。
位置情報は極めて繊細な個人情報になり得るため、その取り扱いには厳格な管理が求められます。

2022年の改正個人情報保護法の全面施行により、個人の権利保護が強化されました。利用目的の明確化、第三者提供の制限、海外へのデータ提供規制などが厳格化されています。
法律の遵守に加え、業界団体による自主規制も重要です。LBMA Japanのガイドラインでは、ユーザーからの許可取得やデータの匿名化処理に関する基準を定めており、適切な体制を持つ企業を認定する制度も運用されています。

ここまで見てきたように、ロケーションテック/位置情報業界は、「データの生成」から「データの活用」すなわち社会実装へと重心を移しつつあると言えるでしょう。
● データから「洞察」への価値転換
初期はデータの販売が収益源でしたが、データが一般的になるにつれ、そのデータをどう解釈し、どうビジネスに活かすかという「処方箋」を提供できる企業が重要になっています。「人がいた」という事実だけでなく、「だからここに出店すべき」という具体的な提案への昇華が求められています。
● プライバシーと信頼の競争
プライバシー保護の強化は、不透明な手段でデータを収集していた企業を排除し、透明性の高い企業だけが生き残る環境を作っています。「プライバシー保護」は、もはや法令順守の問題ではなく、製品の品質そのものとなっています。
● システムの融合
今後は、異なるソースのデータを安全に統合し、分析できる環境が重要になります。位置情報業界は、現実世界をデジタル空間に再現する「デジタルツイン」構築の中核産業として、今後も拡大を続けるでしょう。
監修者プロフィール市川 史祥技研商事インターナショナル株式会社 執行役員CMO シニアコンサルタント |
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| 一般社団法人LBMA Japan 理事 ロケーションプライバシーコンサルタント 流通経済大学客員講師/共栄大学客員講師 統計士/医療経営士/介護福祉経営士 Google AI Essentials/Google Prompt Essentials 1972年東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。不動産業、出版社を経て2002年より技研商事インターナショナルに所属。 小売・飲食・メーカー・サービス業などのクライアントへGIS(地図情報システム)の運用支援・エリアマーケティング支援を行っている。わかりやすいセミナーが定評。年間講演実績90回以上。 |
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