【2025年版】人流データで読み解く日本のハロウィン
2025年11月12日号(Vol.190)
ハロウィンは、もともと古代ケルトの祭り「サウィン(Samhain)」に由来し、秋の収穫を祝い、先祖の霊を迎える行事として始まりました。現代においては宗教的儀式というよりも、仮装・イベント・商業的プロモーションを中心とした季節イベントとして定着しています。日本でも10月末を中心に、多様な業態が顧客接点を強化する重要なマーケティング機会となっています。
本コラムでは、
国内主要6エリア(渋谷、池袋、アメリカ村、久屋大通公園、天神、すすきの)の人流ビッグデータに基づき、コロナ前の2019年との比較、およびイベント直前週との比較分析を行いました。目的は、エリア別の人流動向の差異を定量的に解明し、現代のハロウィンイベントの「構造的変容」を明らかにすることにあります。
ただし、ハロウィンの“実質的な開催時期”は地域特性によって変動します。真に有効な示唆を得るため、エリアごとにハロウィン開催期間の定義を変えてデータを抽出していることにご留意ください。
主要エリアの人流は、当社の人流分析ツール
「KDDI Location Analyzer」を活用しました。
2025年のハロウィンは、メディアが象徴的に切り取ってきた「渋谷スクランブルの大群衆」を代表とする巨大消費イベントから、よりパーソナルでコミュニティ型の祝祭へと移行する重要な転換点にあるようです。その変化を「データ」という客観的指標から可視化していきます。
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2019年(コロナ前)との比較分析:ハロウィンの「熱狂」は回復したか
2019年と比較し、ハロウィンの盛り上がりはエリア、時間帯、年代で異なる様相を見せています。
エリア別では、「池袋」への集中と「無秩序型」の衰退が見られます。時間帯別では、「昼型」への移行、もしくは「夜型」の縮小が示唆されます。年代別では、「20代」の渋谷離れと「高齢者」の減少が確認できます。
これらの変化から、ハロウィンの楽しみ方に変化が見て取れます。各要素の詳細については、以下で詳しく解説していきます。
【総数比較】エリア別 回復状況の全体像:「池袋」への一極集中と「無秩序型」の凋落
イベントの全体的な勢いを測る総人流の比較は、エリア間の大きな相違点を示しました。
分析結果は明確です。かつてハロウィンの代名詞であった渋谷(-35.5%)、アメリカ村(-38.1%)は、人流が3分の2以下に激減
しました。また、地方中核都市の天神(-41.4%)、久屋大通公園(-38.3%)も同様に深刻な落ち込みを見せています。
唯一の例外が池袋です。
池袋は +1.0% と、分析対象エリアで唯一、コロナ前の水準を回復・維持しました。
この対照的な結果は、人流が単純に「減少」したのではないことを示しています。渋谷やアメリカ村は、「主催者不在」で参加者が路上に集積する「無秩序型」イベントの典型でした。対照的に、唯一成長した池袋は「池袋ハロウィンコスプレフェスティバル」という、地元商店街や企業、行政が主催・管理し、日中に開催される「管理型」イベントです。
これは、コロナ禍や国内外の雑踏事故(例:2022年 梨泰院)を経て、消費者のマインドが「カオスな熱狂」から「安全・安心に管理された体験」へと根本的にシフトしたことの表れではないでしょうか。人々はハロウィンへの参加を辞めたのではなく、参加する「場所」と「形態」を変えたと結論付けられます。
【時間帯別比較】イベント特性の変容:「昼型」への健全化か、「夜型」の縮小か
総数の「量」の変化に加え、時間帯分布の「質」の変化は、イベント特性の変容を明確に示しています。
■ 2025年 vs 2019年 人流のピーク時間帯の比較(主要エリア抜粋)
渋谷(10/31-11/2)
2019年の渋谷は16時頃(約7.1万人)から人流が急増し、19時(約8.4万人)にピークを迎える典型的な「夜型」イベントでした。
しかし2025年では、ピークが17時30分(約5.2万人)へと大幅に前倒しされています。特に注目すべきは、かつてのピークであった19時時点の人流が約4.8万人と、2019年(8.4万人)比で -43% も激減している点です。
これは、自治体や警察による夜間の警備強化や路上飲酒禁止といった抑制策が、消費者の回避行動(暗くなる前に帰宅する)と相まって、結果的に「夜間問題の鎮静化」に繋がったことを示しています。これは安全確保の観点では成功ですが、夜間の飲食業にとっては深刻な影響を及ぼしていると考えられます。
池袋(10/24-10/26)
池袋は2019年から明確な「昼型」イベントでした。当時は14時30分(約11.8万人)にピークを迎えていましたが、2025年ではピークが15時(約13.8万人)にシフトし、かつピーク時の人流が2019年比で約17%増加しています。総数比較(+1.0%)で見た池袋の「勝利」は、イベントの「コアタイム」である昼間帯の集客力がコロナ前を大幅に上回る形で強化されたことによって裏付けられました。
これは、池袋が「安全・昼間・コスプレ」というブランドを確立し、他のエリアから流出した需要の「受け皿」として機能していることを証明しています。
すすきの(10/31-11/2)
すすきのは2019年、20時(約16.1万人)にピークを迎える明確な「夜型・深夜型」でした。2025年もピークは夜間(19時30分、約10.7万人)にありますが、ピークの高さは2019年比で約33%減少しています。
渋谷とは異なり「夜型」の性質は維持されましたが、これはすすきののハロウィンが「路上パーティ」ではなく、日本最大の歓楽街という既存の「夜の生態系」(飲食店、バー、クラブ)と不可分であるためと推察されます。
【年代別比較】参加者デモグラフィックの変化:「20代」の渋谷離れと「高齢者」の消失
イベントの「主役」である参加者層の変化は、参加ニーズの移行を決定づけているのではないでしょうか。
若年層の「大移行」の証明
渋谷の総数減(-35.5%)の最大の要因は、イベントの「主役」であった20代(-33.4%)と30代(-27.3%)の激減です。
では、彼らはどこへ行ったのか。池袋のデータがその答えを明確に示しています。池袋は20代が +12.3%、30代が +9.3% と、主要エリアで唯一、若年層・中年層が「増加」しています。これは、ハロウィンを楽しみたいアクティブな層が、カオスな渋谷を避け、コスプレという明確な「参加目的」があり安全な池袋に「鞍替え」したことを示していると思われます。
渋谷:「見物客」の消失
渋谷の減少で若年層以上に深刻なのが、60代(-53.6%)と70歳以上(-61.3%)の「高齢層」の大幅な減少です。この数字は、単なる“全体減少の余波”ではありません。特定世代がイベント参加のスタイル自体を見直した可能性を強く示唆しています。
パンデミックを経て、大規模群衆イベントへの心理的距離、夜間外出の変化、健康リスク回避行動、これらが複合的に影響したと考えられます。
アメリカ村:「30代」の卒業
アメリカ村(総数 -38.1%)の減少は、20代(-21.3%)よりも30代(-44.0%)の落ち込みが遥かに激しいという特徴があります。2019年時点では30代が20代を上回る構成でしたが、2025年には彼らがごっそり抜け落ちました。コロナ禍を経て、この層がライフステージの変化(結婚、出産等)を迎え、路上パーティ型のハロウィンから卒業した可能性が示唆されます。
池袋で顕著なジェンダーバランスの変化—「女性が主役のハロウィン」へ
池袋のデータをさらに読み解くと、特筆すべき変化があります。それは、女性比率の上昇です。池袋の男女別来訪者数は、
2019年:男性 209,035人 / 女性 206,073人(ほぼ1:1)
2025年:男性 154,077人 / 女性 187,221人(女性が3.3万人多い)
この変化を説明するのが、池袋のカルチャー特性です。乙女系コンテンツ、アニメ、コスプレなど、女性ファンコミュニティの基盤が強く、ハロウィンと親和性の高い表現文化が集中しています。
つまり、池袋は「女性が主役となる、新しいタイプのハロウィン空間」として進化しているのです。
これは、従来の“男性中心のストリート中心型イベント”から、“カルチャーコミュニティ中心型ハロウィン”への転換を象徴するデータと言えます。
2025年 直前週との比較分析:ハロウィンの「集客効果」の定量化
ここからは、ハロウィンが「通常の週末」と比較して、どれだけの人流「純増(アップリフト)」を生み出したかを測定します。これにより、そのエリアにとってハロウィンが「集客力のある特別イベント」として今なお機能しているかを判定します。
渋谷、天神、すすきの(10/31-11/2開催エリア)の集客効果
渋谷、天神、すすきのにとって、10/31-11/2の週末が、直前の週末(10/24-10/26)と比べてどれだけ「特別」だったのかを検証します。
渋谷・天神の「イベント力の消失」
渋谷(+2.4%)、天神(+0.5%)の増加率は、天候等による「誤差の範囲」と言っても過言ではありません。これは、2025年の両エリアにおいて、ハロウィンが「集客イベント」として機能していないことを示しています。渋谷39万人、天神42万人は、「ハロウィンだから来た」のではなく、「(ハロウィンとは無関係に)通常の週末として訪れた」人々が大多数であると推察されます。かつての熱狂は、今や純粋な集客力を失い、日常の週末の風景に吸収されてしまったのでしょうか。
すすきのの「ハロウィンによる空洞化」
すすきの(-5.6%)は、ハロウィン期間中の人流が「直前の週末よりも減少する」という結果となりました。これは、かなり思い切った仮説ですが、ハロウィン目当ての来訪者の数を、ハロウィンの混雑や治安悪化を嫌気して来訪を「回避」した一般客(地元住民、ビジネス客、観光客)の数が上回ったことを意味するかも知れません。すすきのの飲食店やバーにとって、ハロウィンは「プラスの経済効果」どころか、むしろ「マイナスの影響(機会損失)」をもたらしている可能性も否めません。
池袋、久屋大通公園、アメリカ村(10/24-10/26開催エリア)の集客効果
池袋、久屋大通公園、アメリカ村にとって、10/24-10/26の週末が、直前の週末(10/17-10/19)と比べてどうだったかを検証します。
池袋の「目的型イベント」としての集客力
+11.0%(実数で+3.8万人)という増加は、誤差では説明できない、明確な「イベント・アップリフト」です。池袋のコスプレフェスティバルは、他の5エリアとは異なり、「そのイベントがあるからこそ、人々がわざわざ訪れる」というデスティネーション(目的地)型イベントとして確固たる地位を築いています。これは、先にで示した2019年比の成長(+1.0%)と、若年層(20代 +12.3%)の増加と完全に一致する結果です。
アメリカ村の「日常化」と久屋大通り公園の「減少」
アメリカ村(-0.8%)も渋谷・天神と同様、イベント集客力としては変化が認められませんでした。久屋大通公園(-7.8%)は、すすきの(-5.6%)と同様に、イベント週が直前週を下回りました。2019年比で -38.3% と大幅に縮小した上、直前週比でもマイナスになりました。
巨大な熱狂の終焉ではなく、パーソナルな祝祭の幕開け
2010年代後半の日本のハロウィンは、「渋谷を埋め尽くす大群衆」を象徴とする、巨大で画一的なイベントとして語られてきました。しかし、2025年の人流データが描くのは、まったく異なる景色です。
• 群衆規模は縮小
• イベント時間は夕刻に前倒し
• 参加者の属性が変化
• 地域ごとにカルチャーが分化
• ジェンダーバランスにも地域差
こうした変化は、“衰退”ではなく多様化と個別化です。ハロウィンは、かつてのような一極集中の大衆イベントではなく、
• 推し活
• コミュニティイベント
• 屋内型の参加体験
• カルチャー特化型の催し
といった、多層的な楽しみ方を内包する都市型イベントへと進化しつつあります。巨大な熱狂が終わったのではなく、無数の小さな祝祭が生まれる、新しい時代が始まったと言えるでしょう。
当社の人流分析ツールを活用することで、こうした都市の行動変容を定量的に把握し、地域特性やイベント戦略に活かすことが可能です。商業施設・自治体・イベント主催者にとって、2025年のハロウィンデータは、今後の都市型イベント設計を考える上で重要な示唆を与えてくれるのではないでしょうか。
\専門知識が無くても、人の動きが数クリックで詳細に分かる!/
監修者プロフィール
市川 史祥
技研商事インターナショナル株式会社
執行役員 マーケティング部 部長 シニアコンサルタント
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医療経営士/介護福祉経営士 流通経済大学客員講師/共栄大学客員講師 一般社団法人LBMA Japan 理事 Google AI Essentials Google Prompt Essentials
1972年東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。不動産業、出版社を経て2002年より技研商事インターナショナルに所属。 小売・飲食・メーカー・サービス業などのクライアントへGIS(地図情報システム)の運用支援・エリアマーケティング支援を行っている。わかりやすいセミナーが定評。年間講演実績90回以上。 |
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