エリアマーケティングラボ

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国土交通省発表「人流データ利活用事例集2025」について詳しく解説

2025年7月25日号(Vol.153)

はじめに

国土交通省による「人流データ利活用事例集2025」の公表は、一個の報告書以上の意味を持つ。これは、人流データが一部の専門家や先進企業のツールという段階を終え、国の政策立案から企業の競争戦略に至るまで、あらゆる意思決定の根幹をなす「社会インフラ」へと進化しつつあることを示す、時代の転換点と言えるでしょう。
事例集で紹介されている人流データ活用事例の約半数が、当社とKDDI株式会社が共同開発した「KDDI Location Analyzer」を用いた分析例ということもあります。
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しかし、人流データが持つポテンシャルとは裏腹に、多くの自治体や企業が、導入への高い壁を感じているのも事実です。高額なコスト、専門知識を持つ人材の不足、そして具体的な活用方法や投資対効果(ROI)への不安が、その普及を阻む要因となっています。国土交通省の事例集は、主に公共セクターが直面するこれらの課題に光を当てていますが、民間企業もまた、同様のハードルに直面しています。

本コラムでは、この「人流データ利活用事例集2025」を徹底的に詳報するとともに、そこで示された公共セクターの知見と、民間企業における最先端のマーケティング・事業戦略事例を紹介します。
先進企業が店舗開発、広告効果測定、顧客分析といった実務で「どのように」人流データを活用し、具体的な成果を上げているのかを解き明かし、人流データを戦略的資産へと転換させたいと考えるすべての組織にとっての、包括的なガイドになれば幸いです。


KLAのCTA②

国土交通省「人流データ利活用事例集2025」が示す、EBPM時代の羅針盤

国土交通省が発表した「人流データ利活用事例集2025」は、単なる事例の寄せ集めではありません。これは、日本が本格的なEBPM(Evidence-Based Policy Making:証拠に基づく政策立案)時代へと舵を切るための、戦略的な羅針盤と位置づけられます。
本セクションでは、この事例集が提示する核心的なテーマと、全国の自治体が模倣可能な成功パターンを深く掘り下げ、その政策的意図を読み解きます。

事例集の3つの核心:具体的な用途、課題克服、小規模自治体の挑戦

本事例集は、人流データ活用における根本的な問いに答える形で構成されています。その核心は、抽象論を排し、実践的な知見を提供することにあります。

人流とはサムネ

■ 第1の核心:人流データは具体的に何に使えるのか
第1の核心は、「人流データは具体的に何に使えるのか」という問いへの回答です。事例集では、これまで担当者の経験や勘に頼りがちだった事象を、データによって「定量化」「可視化」できる点が強調されています。
例えば、イベント開催の効果測定、公園や公共施設の利用実態把握、観光客の動態分析など、具体的なユースケースが豊富に示されています。これにより、政策の効果を客観的に評価し、より的確な次の一手を打つための土台が築かれます。
■ 第2の核心:費用やスキルなどの課題をどのように乗り越えたのか
第2の核心は、「費用やスキルなどの課題をどのように乗り越えたのか」という、導入における最大の障壁への処方箋です。多くの自治体が直面する予算や専門人材の不足に対し、事例集は具体的な解決策を提示します。
例えば、山形県戸沢村では「DX化推進支援制度」を、福岡県糸島市では「大学との連携協定」を、北海道倶知安町では「DMO(観光地域づくり法人)との役割分担」を活用することで、外部の知見やリソースを効果的に取り入れています。
これは、単独での解決が困難な課題に対し、連携というアプローチが極めて有効であることを示唆しています。
■ 第3の核心:規模の小さな自治体でも活用できる
第3の核心は、「規模の小さな自治体でも活用できる」というメッセージです。事例集には、意図的に小規模な自治体の成功事例が多数収録されています。
これは、データ駆動型の政策立案が、潤沢な予算を持つ大都市だけの専売特許ではないという、国からの力強い政策的シグナルです。これにより、全国の自治体が規模に関わらず、データ活用への第一歩を踏み出すことを促しています。

これらの3つの核心は、人流データ活用の「民主化」を目指す国土交通省の明確な意図を反映しています。技術的な解説に終始するのではなく、導入の動機付けから具体的な課題解決策までを網羅することで、全国的な活用レベルの底上げを図っているのです。

自治体DXを加速させる4つの成功パターンと具体事例


事例集を詳細に分析すると、人流データの活用を成功に導くための、再現可能な4つのパターンが浮かび上がってきます。これらは技術的な優劣ではなく、むしろ組織的な工夫や戦略的なアプローチに重点が置かれている点が特徴です。

自治体DXを加速させる4つの成功パターン

【パターン1】推進部署によるハブ機能と伴走支援(体制等の工夫)
データ活用が一部署の取り組みで終わらず、全庁的に広がるためには、組織的な仕組みが不可欠です。福島県郡山市では、DX推進部署が「ハブ」となり、各部署からの相談に応じて分析を支援し、庁内での活用を促進しました。
一方、神奈川県横須賀市では、政策部門が積極的に各部署の取り組みに「伴走支援」することで、活用が停滞することなく、組織的な動きへと昇華させています。
これらの事例は、強力な推進役となる専門部署の設置と、他部署を巻き込むための能動的なサポート体制が成功の鍵であることを示しています。
【パターン2】スモールスタートからの段階的拡大(「使ってみる」から継続利用へ)
庁内の懐疑的な見方や予算確保のハードルを越えるためには、段階的なアプローチが有効です。広島県東広島市は「スモールスタート」を切り、まずは特定の課題で小さな成功を収め、その実績をもって徐々に活用範囲を拡大していきました。
また、富山県射水市は、実証実験を繰り返すことでデータの有効性を庁内に示し、本格的な予算確保と全庁展開へと繋げました。この反復的なアプローチは、リスクを抑えながら実績を積み上げ、組織内の理解と支持を醸成するための現実的な戦略です。
【パターン3】コミュニケーションツールとしてのデータ可視化
データそのものよりも、それをいかに分かりやすく伝えるかが重要です。長野県須坂市の事例では、人流データを地図やグラフで「可視化」したことが、庁内のコミュニケーションを劇的に改善しました。
複雑な数値の羅列ではなく、直感的に理解できるビジュアルは、部署間の壁を越え、課題に対する共通認識を生み出す「共通言語」として機能します。
【パターン4】多様な部署での横断的な活用
データ活用の成熟度は、その応用範囲の広さに現れます。愛知県刈谷市では、イベントの効果検証、コミュニティ施設の利用状況分析、道路の駐車場分析、公園の利用実態把握、施設のPR戦略検討など、極めて多岐にわたる分野で人流データが活用されています。
これは、人流データが特定の課題解決ツールに留まらず、自治体運営のあらゆる場面で活用可能な、汎用性の高い基盤インフラとなり得ることを示しています。

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これらの成功パターンを深く考察すると、国土交通省の狙いがより明確になります。それは単なる技術導入の奨励ではなく、データに基づいた行政運営を地方レベルで自律的に推進できる「組織能力の構築」を促すことにあります。
事例集は、地方のDX推進担当者が、限られたリソースの中でいかにして組織を動かし、具体的な成果を生み出すかという「実践的な脚本」を提供しているのです。
この動きが全国に波及すれば、日本の地域行政は、より動的で、住民のニーズに即応し、災害にも強い、新しいガバナンスの形へと変貌を遂げる可能性を秘めています


人流データ活用の基礎知識:データから「価値」を生む仕組み

人流データを戦略的に活用するためには、まずその正体と仕組みを正確に理解することが不可欠です。
このセクションでは、人流データとは何か、どのようにして取得され、どのようなインサイトを導き出せるのか、その基礎知識を体系的に解説します。これにより、後続の高度な活用事例を理解しやすくなるかと思います。

人流データの種類と取得技術:GPSからカメラ、属性情報まで

人流データとは、文字通り「人の流れ」に関するデータであり、「いつ、どこに、どれくらいの人がいるのか、または移動しているのか」を記録したものです。
従来、多大なコストと時間を要した通行量調査やアンケート調査でしか得られなかった「人の動き」を、PCの画面上で、定量的に、そして視覚的に把握することを可能にしました。
このデータを取得する技術は多岐にわたりますが、主に以下の4つに大別されます。

デバイスの位置情報のイメージ

携帯電話のGPS情報
スマートフォンアプリの利用許諾を得て取得される高精度な位置情報(緯度経度)。個人の詳細な移動ルート分析に適していますが、データはアプリユーザーに限定され、許諾を得ていることが前提となります。
携帯電話の基地局データ
携帯電話が接続する基地局の位置情報を基にしたデータ。個々の精度はGPSに劣るものの、携帯キャリアの契約者という膨大なサンプル数を背景に、広域の人の動きを捉えるのに適しています。契約者情報に基づき、性別や年代といった属性情報と紐づけられることが多いのが大きな特徴です。
Wi-Fiアクセスポイント/ビーコン
店舗や施設内に設置された機器が、Wi-FiやBluetoothをオンにしているデバイスを検知して取得するデータ。屋内での動線分析や滞在時間計測に有効ですが、専用機器の設置が必要であり、検知範囲が限定されます。
カメラ/センサー
防犯カメラや専用センサーの映像をAIで解析し、通行人数や滞在人数を計測する手法。スマートフォンなどのデバイスの有無に関わらず、その場にいるすべての人を対象にできる点が強みです。顔認証技術などにより個人が識別可能な場合は、個人情報保護法への厳格な準拠が求められます。

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これらの取得技術によって生成されるデータの種類も、分析目的に応じて使い分けられます。主なものに、特定地点の通過人数を数えるカウントデータ、特定エリア内の滞在人数を測る滞留データ、出発地と目的地間の移動人数を示すOD(Origin-Destination)データ、そして個人の詳細な移動経路を追跡する移動軌跡データなどがあります。

様々ある人流データですが、完璧なデータソースは存在しません。例えば、都市全体の交通計画を考えるなら携帯電話基地局データが、特定の店舗内のレイアウト改善を考えるならWi-Fiやカメラのデータが適しているでしょう。重要なのは、解決したい課題に対して「どのデータの長所が最も活き、短所が許容できるか」を見極めることです。この選択が、分析の質とコスト効率を大きく左右します。

分析で何がわかる?来訪者属性、回遊分析、商圏の可視化

適切なデータを手に入れたら、次はいよいよ分析です。人流データ分析によって、これまで見えなかったビジネスや地域の「実像」が浮かび上がります。

統計データコラムサムネ
来訪者の正体(属性分析)
「誰が」来ているのかを明らかにします。分析ツールを使えば、来訪者の性別・年代、居住地や勤務地といったデモグラフィック情報を把握できます。
これにより、例えば「平日の昼間は近隣のオフィスワーカーが多いが、休日は遠方から来るファミリー層が中心」といった、時間帯や曜日による客層の変化を定量的に捉えることが可能です。
顧客の足跡(回遊分析)
「どこをどのように」動いているのかを追跡します。ショッピングモール内で、顧客がどのテナントをどのような順番で訪れているのか、あるいは観光地で、観光客がどのスポットを巡り、どこで長く滞在しているのかを可視化できます。
これにより、テナント間の相乗効果を高める施策や、より満足度の高い周遊ルートの提案などが可能になります。
賑わいの可視化(混雑度・滞在時間分析)
「どれくらい」賑わっているのかを直感的に把握します。地図上に人の密度を色の濃淡で示す「ヒートマップ」は、エリア内のどの場所が混雑しているかを一目で理解するのに非常に有効です。
また、滞在時間を分析することで、単に前を通り過ぎただけの人と、明確な意図を持って訪れた顧客とを区別し、より実態に近い来訪者数を把握できます。
真の勢力圏(商圏の可視化)
「どこから」来ているのかを明らかにします。従来、商圏は店舗から半径500mや車で10分圏内といった、単純な同心円で定義されがちでした。しかし、人流データは、実際に顧客がどの地域から来訪しているのかを「点」で示します。
これにより、川や鉄道で分断されたり、幹線道路沿いに伸びたりといった、実際の「生きた商圏」の形を正確に描き出すことができます。これは、多くの民間企業の活用事例で共通して見られる、極めて重要な応用例です。

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これらの分析を組み合わせることで、「Aという地域に住む30代の女性が、休日の午後にB駅で降り、C店とD店に立ち寄った後、E店で1時間滞在した」といった、極めて具体的でアクションに繋がりやすいインサイトを得ることができるのです。


【業種別】民間企業におけるマーケティング・戦略への応用事例

国土交通省の事例集が公共セクターにおけるEBPMの指針であるならば、民間企業における人流データ活用は、ROI(投資対効果)を最大化し、競争優位を確立するための強力な武器です。このセクションでは、業種別に具体的な企業の活用事例を「課題(Challenge)」「データによる解決策(Solution)」「成果(Outcome)」のフレームワークで分析し、人流データがいかにしてビジネスの現場で「価値」に転換されているかを詳述します。

【小売・百貨店】データが導く店舗開発と販促エリア最適化

小売業界は、人流データ活用が最も進んでいる分野の一つです。顧客の物理的な動きそのものが売上に直結するため、データ分析は店舗開発から日々のオペレーションまで、あらゆる意思決定の質を向上させます。

株式会社東武ストア様
東武ストア様事例

【課題】
新規出店の判断を「駅からの距離」といった旧来的な指標に頼っており、非効率な店舗開発のリスクを抱えていました。また、チラシの配布エリアも経験則に基づいており、マーケティング費用の最適化が課題でした。

【対応策】
GIS(地図情報システム)と人流分析ツールを組み合わせ、二段構えの分析を導入しました。まず、GISを用いて候補地周辺の国勢調査データなどを分析し、単身世帯が多いか、ファミリー層が多いかといった人口構成を把握。これを基に、惣菜を強化すべきか、大容量パックを充実させるべきかといったMD(マーチャンダイジング)戦略の仮説を立てます。
次に、人流データを用いて、候補物件の「前を通る実際の通行量」を計測。建物のどちら側に人通りが多いかを把握して入口の最適配置を決定したり、時間帯別の客足を分析して店内イベントのタイミングを計ったり、さらには来訪者の居住地を特定してチラシの配布エリアをピンポイントで最適化しました。

【成果】
これにより、勘や経験に頼った意思決定から脱却。データに基づいた戦略的な店舗設計、ターゲット顧客に響く品揃え、そして無駄のない効率的な販促活動を実現しました。

▶ 東武ストア様 活用事例全文はこちら
株式会社大丸松坂屋百貨店様
大丸松坂屋百貨店様事例

【課題】
東京駅に隣接する大丸東京店は、ビジネス客、観光客、乗り換え客など、極めて多様な人々が訪れるため、顧客像の把握が困難でした。特に、大規模な都市再開発やコロナ禍を経た人流の変化に対応する必要がありましたが、自社のCRM(顧客関係管理)データだけでは、来訪者全体のごく一部しか捉えられていませんでした。

【対応策】
GIS、人流データ、そして自社の匿名化された顧客データを統合的に分析するプラットフォームを導入。「ビジネス利用者」といった漠然とした括りではなく、「どのエリアから来て、どのようなライフスタイルを持つ人々か」という解像度で顧客を分析し、具体的な「仮想ペルソナ」を構築しました。特筆すべきは、可視化されたデータを会議の場で「共通言語」として活用した点です。地図やグラフは、部署や経験年数の違いを超えて、市場の変化に対する共通認識を醸成し、迅速な意思決定を促しました。

【成果】
経験則が支配的だった議論を、客観的なデータに基づく戦略的な対話へと転換させました。これにより、新規ブランドのリーシングから催事企画、販促戦略に至るまで、あらゆる施策の精度と説得力を飛躍的に向上させています。

▶ 大丸松坂屋百貨店様 活用事例全文はこちら

【不動産・デベロッパー】物件価値評価とリーシング戦略の高度化

不動産業界において、物件の価値は「立地」に大きく左右されます。人流データは、その「立地」のポテンシャルを、これまでになく客観的かつ定量的に評価することを可能にします。

シービーアールイー株式会社(CBRE)様
CBRE様事例

【課題】
従来の商業用不動産の価値評価は、数年に一度更新される公的統計や、特定の日にしか実施できない手作業の通行量調査に依存していました。これでは、場所の持つ「真のポテンシャル」を継続的に把握したり、顧客に説得力をもって説明したりすることが困難でした。

【解決策】
人流データ分析ツールを導入し、任意の地点の通行量を継続的な時系列データとして取得できるようにしました。これにより、「通行量一人当たりの賃料」といった独自の指標を算出し、物件のポテンシャルをランキング形式で可視化。
また、ハフモデルなどの理論的な商圏(シミュレーション)と、人流データから得られる「実際の来訪者居住地」(リアルな商圏)とを比較することで、商業施設の真の集客力を評価しました。さらに、オフィス街の分析では、通行者を「通勤者」と「来街者」に分類し、より精緻なエリア分析を実現しました。

【成果】
不動産コンサルティングを、経験に基づく「アート」から、データに裏打ちされた「サイエンス」へと進化させました。リーシング戦略の提案やデューデリジェンス(資産評価)において、客観的なデータを用いることで、提案の説得力と付加価値を大幅に高めることに成功しています。

▶ シービーアールイー(CBRE)様 活用事例全文はこちら

【飲食・サービス】売上予測と新規出店戦略の精度向上

飲食・サービス業にとって、新規出店は大きな投資です。人流データは、その成否を分ける「売上予測」の精度を劇的に向上させ、出店リスクを低減します。

株式会社トリドールホールディングス様
トリドールホールディングス様事例

【課題】
新規出店時の売上予測の誤差が大きな経営課題でした。特に、商業施設内の店舗など、そのエリアの居住者や勤務者ではない、いわゆる「浮動人口」への依存度が高い立地では、公的統計だけでは実態を捉えきれず、予測が大きく外れるケースがありました。

【解決策】
人流データを用いて、出店候補エリアの「滞在人口」を直接計測。この生データを売上予測モデルの重要な変数として組み込むことで、予測精度を大幅に改善しました。特に、これまで把握が難しかった「浮動人口」の規模を定量化できたことが、大きなブレークスルーとなりました。

【成果】
より信頼性の高い売上予測に基づき、情報に基づいた、よりリスクの低い出店判断が可能になりました。

▶ トリドールホールディングス様 活用事例全文はこちら
ほけんの窓口グループ株式会社様
ほけんの窓口様

【課題】
自社にまだ接点のない「潜在顧客」の動きを把握できず、商圏内の機会を逸している可能性がありました。また、Web広告を出稿する際、地理的なターゲティングが本当に効果的なのかを検証する手段がありませんでした。

【解決策】
人流データを多角的に活用。新規出店候補地(特にショッピングセンター)の来訪者ボリュームと属性(年代・性別)を分析し、自社の主要ターゲット層である20~40代のファミリー層が十分に存在するかを評価しました。
Web広告では、①ターゲット層が多く居住し、かつ、②自社店舗がある施設に来訪している、という二つの条件を満たすエリアを特定し、広告を重点的に配信。さらに、そのエリアの来訪者属性に合わせて広告クリエイティブを最適化しました。

【成果】
出店候補地の選定精度が向上しただけでなく、Web広告のクリック率(CTR)も改善。さらに、時間帯別の来訪者データを基にスタッフのシフトを最適化するなど、既存店の運営効率化にも繋がっています。

▶ ほけんの窓口様 活用事例全文はこちら

【交通インフラ】混雑緩和と運行ダイヤの最適化

鉄道会社やバス会社などの交通インフラ企業では、利用者の利便性向上と効率的な運行のために人流データが活用されています。
• 混雑状況の可視化と予測:駅や車内のリアルタイムの混雑状況を把握し、利用者に情報提供することで、混雑を避けた乗車を促します。
• 運行ダイヤの最適化:曜日別・時間帯別の利用者数や乗降パターンを詳細に分析し、需要に応じた運行本数の調整や、車両編成の最適化を行います。
• イベント開催時の臨時輸送計画:大規模イベント開催時の混雑を予測し、臨時列車の運行計画や、駅構内での誘導体制の準備に活用します。



人流データ導入・活用の実践ガイド
コスト、注意点、そして未来展望

人流データの戦略的重要性を理解した上で、次なるステップは「実践」です。ここでは、導入を検討する組織が直面する課題への対処法から、具体的な導入ステップまでを解説します。

メリットと課題:客観的データ vs コストと専門知識

【メリット】
・客観的データに基づく的確な施策:経験や勘に頼らない、根拠のある意思決定が可能になる。
・業務効率化とコスト削減:通行量調査などの現地調査にかかる時間やコストを大幅に削減できる。
・新たな価値創出:データ分析を通じて新たな顧客ニーズや市場トレンドを発見し、新サービス創出に繋がる。
・未来予測:過去のデータパターンから、将来の混雑や需要を予測しやすくなります。

【課題・デメリット】
・導入コストと費用対効果:データ購入やツール利用には一定のコストがかかるため、導入前に活用目的を明確にし、費用対効果を試算することが不可欠。
・データ精度と分析の留意点:データの種類によって精度や特性が異なり、潜在的なバイアスも存在します。データの癖を理解した上で活用することが重要
・個人情報保護と倫理的配慮:最も重要な課題です。関連法規やガイドラインを遵守し、透明性の高いデータ活用を心がける必要がある。
・専門知識と人材
データから有益な洞察を引き出すには、専門知識を持つ人材の確保や育成が不可欠。

導入~活用の5ステップ:目的設定から本格運用まで

実際に人流データを導入し、活用していくための一般的なステップを紹介します。

1. 活用目的とKPIの設定
「何のために人流データを活用するのか?」という目的(例:「店舗の売上を10%アップさせる」)と、その達成度を測るKPI(重要業績評価指標、例:店舗の来店客数)を具体的に設定します。

2. データソースと提供事業者の選定
目的に合ったデータの種類(GPS、基地局など)と、最適なデータ提供事業者を選定します。データの精度、カバーエリア、費用、サポート体制などを比較検討しましょう。

3. 分析計画と必要なツールの準備
「誰が、いつ、どのような手法で分析し、その結果をどう活用するのか」という具体的な分析計画を立てます。必要に応じて分析ツールやBIツールの導入も検討します。

4. PoC実施と効果検証・改善
本格導入の前に、PoC(Proof of Concept:概念実証)を小規模に実施し、効果を検証します。その結果を踏まえ、分析手法や活用方法を改善します。

5. 本格導入と継続的な運用体制
PoCで効果が確認できたら、本格導入に進みます。データを継続的に分析し、施策に活かしていくための運用体制を構築し、PDCAサイクルを回していくことが重要です。


位置情報データ活用資料のCTA

まとめ

国土交通省の「人流データ利活用事例集2025」と、本コラムで紹介した数々の事例は、人流データが黎明期を終え、成熟期に入ったことを明確に示しています。
もはやこれは、一部の専門家だけが扱う特殊なデータではなく、行政の効率化、企業の成長、そして複雑な社会課題の解決に貢献する、実績あるツールとなりました。
我々は、直感や経験則に頼る時代から、客観的な証拠に基づく戦略立案の時代へと、大きな転換点を迎えています。
バス路線の最適化を目指す都市計画担当者であれ、広告の出稿先を決めるマーケティング担当者であれ、その成功の共通分母は、現実世界における「人の動き」を正確に理解し、それに基づいて行動する能力です。

もはや問われるべきは、人流データを「使うべきか否か」ではありません。「いかにして賢く、倫理的に、そして戦略的に使うか」です。
この強力なテクノロジーを、明確な目的意識、堅牢な倫理観とガバナンス、そしてAIや3次元化といった次なる技術革新の波に乗りこなす俊敏性と組み合わせること。それこそが、未来の都市とビジネスを形作る、戦略的な成功の鍵となるでしょう。



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監修者プロフィール

市川 史祥
技研商事インターナショナル株式会社
執行役員 マーケティング部 部長 シニアコンサルタント
医療経営士/介護福祉経営士
流通経済大学客員講師/共栄大学客員講師
一般社団法人LBMA Japan 理事

1972年東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。不動産業、出版社を経て2002年より技研商事インターナショナルに所属。 小売・飲食・メーカー・サービス業などのクライアントへGIS(地図情報システム)の運用支援・エリアマーケティング支援を行っている。わかりやすいセミナーが定評。年間講演実績90回以上。




電話によるお問い合わせ先:03-5362-3955(受付時間/9:30~18:00 ※土日祝祭日を除く)
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