エリアマーケティングラボ

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人流とは?意味・取得方法・活用分野について解説

2025年5月16日号(Vol.146)

はじめに

人流とは、文字通り「人の流れ」を指す言葉で、特定の場所やエリアにおける人々の移動や滞留の状況を総称する概念です。
具体的には、ある地点を通過する人の数、どこから来てどこへ行くのかといった移動の方向や経路、特定のエリアにどれくらいの時間滞在しているのか、といった情報が含まれます。これらの情報は、時間帯や曜日、天候などによって変動するため、人流を把握する際には、これらの要素も考慮に入れることが重要です。

本コラムでは、「人流」の基本的な意味から、注目されるようになった背景、具体的なデータの取得方法、そして官公庁や民間企業における多岐にわたる活用事例、さらには今後の展望に至るまで、網羅的に解説します。国土交通省の取り組みについても触れながら、人流データが私たちの社会をどのように変えつつあるのかを明らかにしていきます。


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人流(じんりゅう)とは?基本定義から注目された背景まで

まず、「人流」という言葉の基本的な理解を深めましょう。その定義や読み方、英語での表現、そしてこの言葉が社会的に大きな注目を集めるに至った経緯について解説します。

人流の基本的な意味・定義・読み方・英語表現

■ 人流の定義と人流データ
「人流」は、「じんりゅう」と読み、文字通り「人の流れ」や「人の動き」を指す言葉です。 具体的には、人々が「いつ」「どこからどこへ」移動したのか、特定のエリアに「どのくらいの時間滞在したのか」といった、人々の空間的な移動や分布状況を示す概念です。
そして、「人流データ」とは、これらの人の動きを数値化し、分析可能な形にしたものです。例えば、特定の日時における場所間の移動量や、ある地点での滞在時間などが記録されます。多くの場合、スマートフォンなどのデバイスから収集される位置情報を基に生成され、前日比や前年同月比といった形で人々の動きを比較・観測するために用いられます。

この「人流」という概念が現代において重要視されるのは、単に「人が動いている」という現象を指すだけでなく、その動きを「データ」として捉え、分析し、活用できるようになった点にあります。技術の進歩により、かつては把握が難しかった広範囲かつ詳細な人の動きを定量的に把握できるようになったことで、「人流」は具体的な計画立案や意思決定に役立つ情報源へと進化しました。
■ 英語表現
「人流」を英語で表現する場合、そのニュアンスに応じていくつかの言葉が使われます。
「人の動き」という直接的な意味合いでは「people movement」と表現されることがあります。
また、連続的な人の流れを指して「stream (of people)」や「flow (of people)」といった表現も用いられます。
関連する言葉として、交通量が多いことを示す「high-traffic」、少ないことを示す「low-traffic」なども、人流の多寡を表す際に参考になります。

日本国内では、「流動人口」という言葉も使われ、これは特定の地域に存在するものの、定住していない人々の人口を指す場合があり、人流データで把握される対象と重なる部分があります。
「人流」という言葉が、特にデータ分析の文脈で日本で定着してきた背景には、単なる「人の動き」という一般的な表現以上に、データに基づいた分析対象としての専門性や、特定の社会現象(後述するコロナ禍など)と結びついた共通認識が形成されたことが考えられます。


「人流」が注目された社会的背景とニュース

「人流」という言葉が一般に広く知られるようになった最大のきっかけは、2020年以降の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的なパンデミックです。

パンデミックのイメージ

■ 新型コロナウイルス感染症拡大による影響
感染拡大防止策が社会全体の喫緊の課題となる中で、「3密(密集・密接・密閉)」の回避や「ソーシャルディスタンス」の確保といった対策と共に、人々の移動や接触をいかにコントロールするかが重要視されました。
2021年頃には、これらのキーワードに続き、「人流」という言葉がメディアで頻繁に使われるようになり、特定の地域や時間帯における人の流れの増減を示す指標として注目を集めました。感染状況に応じて、政府や自治体が人流の抑制を呼びかけたり、その効果を人流データで検証したりする場面が多く見られました。
■ 人流データ需要の拡大と技術的背景
このコロナ禍は、企業や自治体における人流データの需要を急速に拡大させました。人々の行動変容をリアルタイムに近い形で把握し、効果的な対策を講じるために、人流データは不可欠な情報となったのです。このような需要の高まりを支えたのが、以下の技術的な進展です。
■ スマートフォンの普及
GPS機能などを搭載したスマートフォンの広範な普及により、個々人の位置情報を取得しやすくなりました。
■ クラウドサーバーの発展
大量の位置情報を保管・処理するためのクラウドサーバー技術が進化し、低コストでのデータ管理が可能になりました。
■ AI(人工知能)の発達
収集された膨大な位置情報を効率的に分析し、意味のある洞察を引き出すためのAI技術が向上しました。 これらの要因が複合的に作用し、人流データの取得・分析・活用が現実的なものとなりました。コロナ禍という未曾有の危機は、図らずもこれらの技術が社会課題の解決に貢献できることを実証する機会となり、「人流」という言葉とそのデータの重要性を一気に高めたと言えるでしょう。
この過程で、一般の人々もニュース報道などを通じて、都市部の主要駅周辺の人出の増減を示すグラフなどを目にする機会が増え、データに基づいた社会状況の把握や意思決定のあり方について、リテラシーが向上した側面も考えられます。
また、パンデミックという公衆衛生上の緊急事態において、人々の移動データが活用されることが広く認識されたことは、平時におけるデータ利用のあり方やプライバシー保護に関する議論の素地を形成したとも言えるでしょう。




人流データの取得方法と国土交通省の取り組み

人流データがどのようにして私たちの手元に届くのか、その取得技術は多岐にわたります。また、国も人流データの利活用を推進しており、特に国土交通省はその中心的な役割を担っています。ここでは、人流データの具体的な取得方法と、国土交通省の取り組みについて詳しく見ていきましょう。

多様な人流データの取得技術と主体

人流データは、基本的には人々が携帯するデバイスや、環境中に設置されたセンサーから得られる位置情報を基に作成されます。

デバイスの位置情報のイメージ

■ 主な取得技術
人流データの取得に用いられる主な技術には、以下のようなものがあります。

【スマートフォン由来のデータ】
・ GPS (Global Positioning System)

衛星からの電波を利用して、高精度な位置情報を取得します。ただし、地下や屋内では精度が低下したり、取得できなかったりする場合があります。
・ Wi-Fi
スマートフォンなどがWi-Fiアクセスポイントに接続する際の情報を利用します。Wi-Fi機能をオンにしていれば、通信キャリアに関わらず計測対象となる可能性があります。
・ 携帯電話基地局
スマートフォンと最寄りの携帯電話基地局との通信記録から、おおよその位置を把握します。広範囲の人の動きを捉えるのに適しています。
・ Beacon (ビーコン)
Bluetooth技術を利用した発信機で、数メートルから数十メートルの近距離にあるスマートフォンを検知します。商業施設内など、特定の空間での詳細な位置把握に用いられ、通常は特定のアプリ事業者がデータを取得します。
・ 各種スマートフォンアプリ
利用者の許諾を得た上で、様々なアプリが位置情報を収集します。ただし、データはそのアプリの利用者に限定され、位置情報利用を許可しているユーザーのみが対象となります。


【センサー由来のデータ (直接計測)】
・ カメラ

設置されたカメラの画像や動画を解析し、人物を検知します。AI技術を用いることで、年代や性別といった属性情報を推定することも可能です。
・ その他センサー
赤外線センサーやマットスイッチなど、物理的なセンサーを用いて人の通過や存在を検知し、カウントすることもあります。これらの技術は単独で用いられることもあれば、複数の技術を組み合わせてデータの精度や網羅性を高めることもあります。

■ データ取得の主体 (データ取得者)
人流データを実際に取得・作成する主体は様々です。

通信キャリア
自社の携帯電話基地局ネットワークや契約者のスマートフォンから得られる情報を基に、人流データを生成・提供します。

アプリ事業者
自社アプリの利用者から許諾を得て収集した位置情報を活用します。

民間事業者・調査会社
独自のセンサー(Wi-Fiアクセスポイント、カメラなど)を設置したり、他の事業者からデータ提供を受けたりして、人流データを加工・販売します。

自治体
自らセンサーを設置する場合もありますが、多くは民間事業者にデータ取得業務を委託します。この場合でも、委託元である自治体が「データ取得者」と位置づけられることがあります。
■ 実測値と推計データ
一般に提供される「人流データ」の多くは、センサー等で直接計測された生データ(計測データ)そのものではなく、これらの計測データを基に統計的な処理や加工、推計が行われたデータである場合があります。
例えば、特定のアプリ利用者や通信キャリア契約者のデータから、地域全体の人口動態を推計するといった処理です。そのため、実際の人数とは乖離が生じる可能性があり、どのような推計方法が用いられているかをデータ提供者に確認することが推奨されます。

データの取得方法によって、得られる人流データの特性、例えばカバー範囲、精度、更新頻度、取得可能な属性情報などが大きく異なります。GPSデータは精度が高い一方でアプリ利用者に限定され、基地局データは広範囲をカバーするものの位置の粒度は粗くなりがちです。
したがって、人流データを利用する際には、そのデータがどのようなソースと手法で取得されたのかを理解し、分析の目的や必要な精度に応じて適切なデータを選択することが極めて重要です。

また、国土交通省が示すように、自治体などが外部にデータ取得を委託した場合でも、発注者である自治体が「データ取得者」としての責任を負うという考え方は、データ利用者自身がデータの特性や限界、倫理的側面を十分に理解する必要性を強調しています。提供されるデータが加工・推計されたものである場合、その処理プロセスがブラックボックス化しないよう、透明性の確保や提供者との密なコミュニケーションが求められます。


国土交通省による人流データ利活用の推進

国土交通省は、地域が抱える様々な課題の解決を促進するため、人流データの利活用を積極的に推進しています。土地・不動産の有効活用、魅力的なまちづくり、観光振興、交通計画の最適化、効果的な防災対策など、多岐にわたる分野での応用が期待されています。

■ 人流データ利活用における課題
しかし、特に地方公共団体など、地域課題の解決に取り組む主体においては、人流データの利活用が十分に浸透していないという現状がありました。国土交通省は、その背景にある課題として、主に以下の点を挙げています 。

・ 具体的なデータの取得方法が分からない。
・ 個人情報を含む可能性のあるデータの取り扱いについて懸念がある。
・ データをどのように利活用すればよいのか、具体的な方法が不明確である。

■ 「人流データ利活用の手引き」の策定
これらの課題に対応するため、国土交通省は有識者を集めた「人流データ活用拡大方策検討会」を開催し、その議論を踏まえて「人流データ利活用の手引き」を作成・公表しました。この手引きは、令和6年3月27日にVer1.2版が更新されており、人流データの選定・取得から分析・利活用、さらには管理・提供に至るまでのポイントや具体的なユースケースを分かりやすくまとめています。
手引きの主な構成は以下の通りです。

・ 基礎編
人流データとは何か、人流データ利活用事業の基本的な流れ、関係者の役割などを解説。

・ 利活用編
ステップ1:目的に応じた人流データの検討
ステップ2:人流データの取得・作成
ステップ3:人流データの分析・利活用
ステップ4:人流データの管理・提供

■ 期待される効果
この手引きを活用することで、例えば、まちづくりや観光振興の分野で人流データを利用する際に、場所や目的に応じた適切なデータの取得方法、必要なデータの内容、効果的な表現方法などが明確になります。
また、個人情報の取り扱いに関する方針も示されるため、データ取得のハードルが下がることが期待されます。データを通じて人々の周遊行動などを具体的に把握することで、例えば効率的な動線の確保や混雑の回避といった対策・取り組みが、より円滑に進められるようになると考えられています。

国土交通省のこの取り組みは、単に国がデータを利用するだけでなく、地方自治体や関連事業者が人流データをより効果的かつ責任を持って活用できるよう、環境整備を進めるという重要な役割を担っています。
手引きの存在は、人流データが専門家だけのものではなく、より多くの主体が地域課題解決のために活用できるツールであることを示しており、データの民主化を後押しするものと言えるでしょう。

手引きが個人情報の取り扱いや取得方法の標準化に言及していることは、人流データが持つ潜在的なリスク(プライバシー侵害など)を認識し、それらに適切に対処しながら利活用を進めるという、成熟したデータ活用社会への移行を示唆しています。特に「地域課題の解決」という目的に焦点を当てることで、過疎化対策や特定地域の観光振興など、日本の多様な地域が直面する問題に対し、データに基づいたきめ細やかなアプローチを可能にする基盤を整備していると言えます。

参考:国土交通省「地域課題解決のための人流データ利活用の手引き」
www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/chirikukannjoho/tochi_fudousan_kensetsugyo_tk17_000001_00034.html
(手引きの概要版および本編PDFへのリンクが掲載されています。)


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人流データ 活用事例:公的機関から民間企業まで

人流データは、その特性を活かして、既に官公庁、地方自治体、そして多種多様な民間企業で幅広く活用されています。ここでは、具体的な事例を交えながら、それぞれの分野で人流データがどのように役立てられているのかを紹介します。

【官公庁・自治体】都市計画・防災・観光への活用

公的機関における人流データの活用は、主に住民サービスの向上、安全な社会基盤の構築、地域経済の活性化といった「公共の利益」に貢献することを目的としています。

都市計画のイメージ

■ 都市計画・まちづくり
商店街の通行量や滞在者の属性を分析し、賑わい創出のための商業振興策の立案に活用されています。
例えば、東京都のある商店街では、どの道にどれだけの人が通行しているかを可視化し、中心部の通行量が多いことを確認した上で活性化策を検討する事例があります。
北海道札幌市では、「DATA-SMART CITY SAPPORO」というデータ連携基盤を構築し、都市計画に人流データを活用しています。具体的には、冬季の除雪作業の効率化(後述)や、市民の健康増進施策などに役立てられています。

観光地の来訪者の居住地や属性、周遊パターンを把握することで、より効果的な観光開発や誘客戦略の策定が可能です。箱根湯本温泉街の宿泊客の居住地を分析した例では、都内からの来訪者が多いことが分かり、ターゲットを絞ったプロモーション展開の参考とされています。
■ 防災計画・災害対応
災害発生時や避難誘導時における住民の行動パターンを把握し、より実効性の高い防災計画の策定や、迅速な避難誘導体制の構築に役立てられます。札幌市でも防災計画への活用が検討されました。
新型コロナウイルス感染症対策においては、特定の施設やエリアの時間帯別来訪者数をモニタリングし、密集回避やソーシャルディスタンス確保のための呼びかけに活用されました 12。国土交通省の手引きでも、防災は主要な活用分野の一つとして挙げられています。
■ 観光振興
札幌市では、外国人観光客が利用する観光情報アプリのGPS情報を基にした人流データを活用し、消費促進や周遊促進サービスの実証事業を行いました。AIが人流データと購買データをクロス分析して需要を予測し、宿泊施設に最適な料金を提示したり、近隣店舗への誘客を図ったりする試みです(ただし、コロナ禍で外国人観光客が激減したため、十分な成果検証には至らなかった側面もあります)。
観光客の出発地、年齢層、性別、移動ルートなどを詳細に分析することで、新たな観光戦略やプロモーション企画の立案、観光地の課題発見と解決に繋げることができます。
■ 交通政策・公共交通の改善
道路の交通量や人の流れを分析し、渋滞緩和策の検討、公共交通機関の運行ルートやダイヤの最適化、環境負荷の低減などに活用されます。 札幌市の「スマート除排雪サービス」は、ごみ収集車やバス、タクシーなどに搭載されたGPSから得られるプローブデータ(車両の走行軌跡データ、これも広義の人流・物流データと言える)を活用し、人流が多く渋滞が発生しやすい区間を優先的に除雪することで、効率的な除雪作業を実現しています。
■ その他
厚生労働省、内閣官房、愛知県警察なども人流データの活用主体として挙げられており、公衆衛生、国家戦略の策定、防犯・交通安全対策など、多様な行政分野での応用が進んでいることがうかがえます。
これらの事例からわかるように、公的機関による人流データの活用は、従来は経験や勘、あるいは時間のかかるアンケート調査などに頼らざるを得なかった領域において、客観的なデータに基づいた計画立案や意思決定を可能にしています。
特に、札幌市の「DATA-SMART CITY SAPPORO」や、行政や企業が持つデータを取引できる「さっぽろ圏データ取引市場」の開設 といった動きは、人流データを含む様々なデータを組織の垣根を越えて連携・活用し、より高度な都市運営や地域課題解決を目指す未来の姿を示唆しています。
これにより、例えば雪害対策のように従来は事後対応が中心だった課題に対しても、人流予測に基づいた予防的なリソース配分が可能になるなど、行政サービスの質の向上が期待されます。

参考:札幌市「DATA-SMART CITY SAPPORO」
data.pf-sapporo.jp/

【民間企業】マーケティング・店舗開発・業務効率化への活用

民間企業においては、人流データは主に競争力の強化、売上向上、コスト削減、顧客満足度の向上といった目的で活用されています。その応用範囲は非常に広く、様々な業界で具体的な成果を生み出しています。

店舗で買い物をする様子

■ 小売業・飲食業界
新店舗開発・商圏分析:
候補地の通行量、競合店の来客状況、周辺住民や来街者の属性(年代、性別、居住地など)を分析し、最適な出店場所の選定や売上予測の精度向上に役立てています。ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス(U.S.M.H.)やプロントコーポレーション、タリーズコーヒージャパンなどが、人流データを新規出店戦略に活用しています。
従来は人手と時間を要した交通量調査のコストを大幅に削減できるというメリットもあります。

マーケティング・販促活動:
顧客の行動パターンや属性情報を基に、より効果的な広告配信エリアやターゲット層を特定し、ピンポイントな広告施策を展開できます。
来店頻度や購買履歴と組み合わせることで、個々の顧客に合わせたクーポンの提供やキャンペーンの実施が可能です。
タリーズコーヒージャパンでは、コロナ禍における顧客行動の変化を人流データで分析し、新たな経営戦略に活かしています。
ファミリーレストランのジョイフルでは、店舗アプリと人流データを連携させ、来店時に自動でスタンプが貯まる仕組みを導入し、顧客のロイヤルユーザー化と店員の負担軽減につなげています。これは、デジタルとフィジカルの顧客接点を融合させる好例です。

店舗運営改善:
店舗内の顧客の動線(移動軌跡データ)を分析し、商品陳列の最適化や、混雑しやすい場所の特定、レイアウト改善などに活用します。
時間帯別の混雑度を把握し、スタッフ配置の最適化や、顧客の待ち時間削減に繋げます。
千葉県の柏の葉エリアでは、地域商店と連携し、店内のカメラデータと人流データを組み合わせて通行者の属性変化を分析し、休日の売上向上や客単価増を目指した新商品開発に繋げた事例があります。
■ 不動産業界
商業エリアのポテンシャル分析、オフィスビルや商業施設の開発計画、建設予定地のマーケティングなどに人流データを活用します。
人々が集まる地域や需要の高いエリアを特定し、不動産開発や投資の意思決定における客観的な根拠とします。
大和リースでは、公園整備事業(Park-PFI)において、公園利用者の動きを人流データで分析し、より魅力的な公園づくりに役立てています。
■ 交通・物流業界
道路の混雑状況をリアルタイムに把握し、AIなどを活用して最短・最適な配達ルートを算出することで、配送業務の効率化、燃料費の削減、ドライバーの負担軽減を実現します。CBcloudは、物流の最終拠点から配送先までの「ラストワンマイル」の効率化に人流データを活用しています。
■ 広告業界
広告のターゲット設定や出稿メディアの選択を最適化し、広告効果の最大化を図ります。
特定のエリアにおける人々の属性や行動特性に基づいて、より効果的な広告メッセージやクリエイティブを開発できます。
テレビCMなどのマス広告の効果測定に、放送後の特定エリアの人流変化を分析する手法も用いられます。
■ その他
スマートシティ開発: 柏の葉スマートシティでは、人流データとエリアエネルギー管理システムを連携させ、人の流れに合わせて空調や照明を自動制御することで、快適性を損なわずにCO2排出量の削減に取り組んでいます。
金融・保険業界: 三井住友海上火災保険では、人流ビッグデータを活用したBtoBtoCビジネスモデルを展開し、顧客体験価値の向上を目指しています。

民間企業におけるこれらの活用事例は、人流データがいかにビジネスの現場で「使える情報」であるかを示しています。特に、顧客理解の深化、オペレーションの効率化、新たなビジネスチャンスの発見という点で、その価値は計り知れません。
従来は把握が難しかったオフライン(実世界)での顧客行動をデータとして可視化できるようになったことで、オンライン(デジタル世界)で培われてきたデータ分析の手法や考え方を実店舗運営やエリアマーケティングに応用する「フィジタル(Physical + Digital)」な戦略が可能になりつつあります。
これにより、企業はより精度の高い意思決定を行い、競争優位性を確立しようとしています。

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人流データ活用のメリット・今後の展望と留意点

人流データは、その特性から多くのメリットをもたらし、今後ますます多様な分野での活用が期待されています。しかし、その利用にあたってはいくつかの留意点も存在します。

人流データ活用の主なメリット

人流データを活用することには、以下のような多くの利点があります。

鮮度の高いリアルタイム情報:
常に変動する人々の動きを、ほぼリアルタイムに近い形で把握できます。これにより、迅速な状況判断や対応が可能になります。

高頻度・高精度データ:
継続的に収集されるため、きめ細かく、詳細なデータをいつでも取得・分析できます。

ピンポイントなデータ把握:
特定の日時、特定のエリア、特定の属性(可能な場合)といった、詳細な条件でデータを絞り込み、分析することができます。

現地調査コスト削減:
従来、人手や時間をかけて行っていた通行量調査やアンケート調査などのコストを大幅に削減できます。

過去データとの比較検証:
蓄積された過去のデータと比較することで、傾向の変化、施策の効果測定、季節変動などを容易に把握できます。

他統計情報との連携:
人口統計、購買データ、気象データなど、他の様々な統計情報と組み合わせることで、より多角的で精度の高い分析が可能になります。

意思決定の迅速化・高度化:
客観的なデータに基づいて現状を把握し、将来を予測することで、より迅速かつ的確な意思決定を支援します。

今後の展望

人流データとその活用技術は、今後さらに進化していくと予想されます。

最先端なイメージ

AI技術との連携強化:
AI(人工知能)や機械学習の発展により、より大規模で複雑な人流データの処理・分析が可能になります。これにより、単なる現状把握だけでなく、より高精度な未来予測(例:特定のイベント時の混雑予測)や、リアルタイムでの最適な誘導・制御(例:交通信号の最適化)が実現すると期待されます。

他データとの組み合わせによる高度な分析:
個人のプライバシーに配慮した上で、人流データと個人の購買履歴、移動手段、健康情報など、多様なデータを組み合わせることで、一人ひとりのニーズに合わせたパーソナライズされたサービスの提供や、より複雑な社会現象の解明が進むと考えられます。

データ量の増加と活用範囲の拡大:
スマートフォンやIoTデバイスのさらなる普及、センサー技術の進化により、収集できる人流データの量と種類はますます増加するでしょう。国土交通省によるオープンデータ化の推進などもあり、これまで活用が進んでいなかった分野や、小規模な事業者・団体でも人流データを活用しやすくなる可能性があります。

スマートシティの基盤技術:
人流データは、都市全体のエネルギー効率の最適化、交通システムの高度化、公共サービスの向上、災害対応力の強化など、スマートシティを実現するための基盤技術として、ますます重要な役割を担うことになります。

データ利用における留意点

多くのメリットと明るい展望がある一方で、人流データの利用には慎重な配慮が求められる点もあります。

プライバシー保護のイメージ

プライバシー保護:
人流データは、元をたどれば個人の位置情報です。データが個人を特定できないように匿名化処理を徹底し、本人の同意取得プロセスを明確にするなど、プライバシー保護に関する法令やガイドラインを遵守し、倫理的な配慮を尽くすことが最も重要です。国土交通省の手引きでも個人情報の取り扱いに言及されているように、社会的な信頼を損なわないための取り組みが不可欠です。

データの偏り・限界の理解:
取得方法によって、データの特性には偏りが生じます。例えば、特定のアプリ利用者のデータのみに基づいている場合、そのアプリを使っていない層の動向は反映されません。また、GPSが届きにくい場所のデータは欠損しがちです。利用するデータが何を代表しており、どのような限界があるのかを正しく理解する必要があります。

推計データの精度確認:
提供される人流データが実測値ではなく、何らかのモデルに基づいて推計されたものである場合、その推計方法や精度について提供者に確認し、実態との乖離の可能性を認識しておく必要があります。

セキュリティ:
収集・蓄積された人流データは、外部からの不正アクセスや情報漏洩のリスクにさらされます。堅牢なセキュリティ対策を講じ、データを安全に管理することが求められます。

人流データがもたらす詳細でリアルタイムな情報は、確かに大きな便益をもたらしますが、それは同時に、プライバシーや倫理に関するより大きな責任を伴うことを意味します。
データの粒度が細かくなればなるほど、その取り扱いには細心の注意が必要となります。また、国土交通省の手引きやオープンデータの取り組みはデータの民主化を目指すものですが、高度なAI分析技術や専門知識を持つ大企業と、そうでない中小企業や地方自治体との間で、データを活用する能力に格差(データデバイド)が生じる可能性も考慮し、誰もがその恩恵を受けられるような支援策も重要になるでしょう。
将来的には、AIの活用により、過去の動向を分析する「記述的分析」から、未来を予測する「予測的分析」、さらには最適な行動を提案する「処方的分析」へと進化していくと考えられ、社会システム全体の効率化や最適化に大きく貢献することが期待されます。

まとめ

本コラムでは、「人流」および「人流データ」について、その基本的な定義から、注目されるようになった社会的背景、多様な取得技術、国土交通省の推進する取り組み、そして官民における具体的な活用事例、さらには今後の展望と留意点に至るまで、幅広く解説してきました。
AI技術のさらなる発展と共に、人流データの分析はより高度化し、予測的・処方的な活用も進んでいくでしょう。この技術の進化、応用の拡大、そしてそれに伴う倫理的・社会的な議論は、今後も相互に影響を与えながら進展していくと考えられます。
人流データへの理解を深め、その便益と責任を正しく認識しながら活用していくことが、これからの社会づくりにおいてますます重要になっていくでしょう。

参考:人流データとは?取得方法や分析データのマーケティング活用事例を業界別に紹介
www.giken.co.jp/column/20230906/

人流データについて、飲食業や不動産などの業界別に、実際の活用事例も踏まえてさらに詳しい解説をしています。


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監修者プロフィール

市川 史祥
技研商事インターナショナル株式会社
執行役員 マーケティング部 部長 シニアコンサルタント
医療経営士/介護福祉経営士
流通経済大学客員講師/共栄大学客員講師
一般社団法人LBMA Japan 理事

1972年東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。不動産業、出版社を経て2002年より技研商事インターナショナルに所属。 小売・飲食・メーカー・サービス業などのクライアントへGIS(地図情報システム)の運用支援・エリアマーケティング支援を行っている。わかりやすいセミナーが定評。年間講演実績90回以上。




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