技研商事インターナショナル技研商事インターナショナル
エリアマーケティングラボ
2026年1月6日号(Vol.206)

現代のビジネスにおいて、データは「21世紀の石油」と形容されるほど重要な資源です。特に物理的な店舗展開やエリア戦略を伴うビジネスでは、変化の激しい市場の「現在地」を正確に把握できるかどうかが、企業の生存競争に直結します。
その市場把握のために欠かせないのが、総務省と経済産業省が実施する「経済センサス」です。これは国内すべての産業分野における経済活動を網羅的に把握する、いわば「経済の国勢調査」であり、マーケティングにおける最も基礎的かつ強力なデータソースと言えます。
本記事では、来る令和8年(2026年)6月に実施される「経済センサス‐活動調査」に焦点を当てます。調査の全貌から基礎調査との違い、さらに小売・流通・サービス業のチェーン展開や自治体の政策立案において、この膨大なデータをいかにして戦略的な武器とするかを、実務的な観点から解説します。
また、当社が提供するエリアマーケティング用データベースが強みとする「メッシュ(網の目)」や「町丁目」単位でのマイクロデータ分析、そして経済センサスから派生する「昼間人口」という動態指標の戦略的価値についても、理論と実践の両面から深掘りしていきます。
かつて日本の産業統計は、「商業統計」や「工業統計」など分野ごとにバラバラに実施されていました。この縦割り構造を解消し、日本国内の全産業分野における経済活動を「同一時点」で網羅的に把握するために創設されたのが「経済センサス」です。
その目的は、「すべての事業所・企業の活動状態を明らかにし、産業構造を解明すること」にあります。まさに「経済の国勢調査」とも呼ぶべき国内最大規模の統計調査です。

令和8年(2026年)の調査は、コロナ禍や物価高騰を経た日本経済の「実像」を捉える重要な機会となります。
• 調査期日(基準日):令和8年(2026年)6月1日時点での状況を把握します。
• 実施機関: 総務省・経済産業省が主体となり、都道府県、市区町村、指導員・調査員という階層構造を通じて実施されます。
調査の対象は、原則として日本国内にある「すべての事業所・企業」です。
これには、以下のような多様な経済主体が含まれます。
● 個人経営の商店や飲食店
● 農林漁家(一部を除く)
● 工場、オフィス、倉庫
● 学校、病院、寺社仏閣
● NPO法人や各種団体
ただし、国や地方公共団体の事業所(公務)の一部や、個人経営の農林漁業など、他のセンサス(農林業センサス等)でカバーされる領域は除外される場合がありますが、マーケティングの主要ターゲットとなる第2次産業(建設、製造等)および第3次産業(卸売、小売、サービス、医療福祉等)は完全に網羅されます。

マーケティング担当者が経済センサスを活用する際、最も混同しやすいのが「基礎調査」と「活動調査」の違いです。この二つは、車の両輪のように補完関係にありますが、そのデータの性質と活用局面は大きく異なります。
「新しいお店を出すなら、どこがいいだろう?」これは多くの経営者が頭を悩ませる問題です。経済センサスを使えば、その答えが見えてきます。
|
比較項目 |
経済センサス‐基礎調査 |
経済センサス‐活動調査 |
|
実施周期 |
活動調査の実施から2年後 |
5年ごと |
|
主な目的 |
事業所名簿の整備・更新 |
経済活動の実態把握 |
|
調査の重点 |
名称、所在地、事業内容などの「属性情報」 |
売上高、費用、設備投資などの「経理項目」 |
|
データの性質 |
静態的(ストック情報) |
動態的(フロー情報) |
|
マーケティング用途 |
出店余地の確認、見込み客リストの作成 |
市場規模の算出、商圏の質的評価、競合分析 |
基礎調査は、いわば街の「地図」を描く作業です。「どこに」「どのような」「どれくらいの規模(人数)の」事業所が存在するかを確認することに主眼が置かれています。
マーケティングにおいては、ポスティングの配布エリア選定や、B2B営業におけるターゲット企業の所在地確認などに威力を発揮します。しかし、そこにある店舗が「繁盛しているか」までは分かりません。

対して、令和8年に実施される活動調査は、街の「血流」や「体力」を測る健康診断です。基礎調査の項目に加え、「売上(収入)金額」「費用総額」「設備投資額」といった詳細な経理項目に踏み込みます。
これにより、地域の購買力やビジネス需要を「金額ベース」で算出できます。人口データだけでは見えてこない、「実際にその街でいくらお金が動いているか」を可視化する唯一無二の手段です。
経済センサス‐活動調査の結果は、単なる統計表の集合体ではありません。これらを適切に分解・再構築することで、市場の構造的な変化や、競合他社の動向、そして隠れたビジネスチャンスを発見することができます。

経済センサスでは、「日本標準産業分類」に基づき、大分類(農業、建設業、製造業、小売業など)から、中分類、小分類、細分類(ハンバーガー店、ラーメン店など)に至るまで、極めて詳細な粒度で集計が行われます。
【分析のインサイト】
● 特化係数による産業集積の発見
例えば、ある市区町村における「情報通信業」の構成比を全国平均と比較することで、その地域がIT産業の集積地(シリコンバレー的なエリア)であるかどうかを判定できます。
● サプライチェーンの最適化
製造業であれば、自社の部品供給先となる工場がどのエリアに集中しているかを把握し、物流拠点の最適配置を行う根拠データとなります。

事業所数(店舗数)と従業者数の関係を見ることで、事業の規模感や効率性を推測できます。
● 小規模分散型 vs 大規模集約型
同じ小売販売額を持つエリアでも、「小規模な店が多数ある商店街型」なのか、「巨大なショッピングモールが1つある集約型」なのかによって、マーケティングのアプローチは全く異なります。経済センサスデータは、この構造の違いを明確に数値化します。
活動調査の最大の特徴である売上データは、エリアマーケティングにおいて最強の指標です。
● 商圏の質的評価
人口が多くても、実際の消費活動が活発でない「ベッドタウン」もあれば、人口は少なくても外部からの流入により消費が旺盛な「商業中心地」もあります。小売業年間販売額やサービス業収入額を見れば、その街が実際に「稼いでいる金額」が分かります。
● 生産性のベンチマーク
同業種の平均売上高(売上高 ÷ 事業所数)や、従業者一人当たり売上高(売上高 ÷ 従業者数)を算出することで、自社店舗のパフォーマンスを客観的に評価するベンチマーク指標を作成できます。

エリアマーケティングにおいて重要な指標の一つである「昼間人口」について詳述します。多くのマーケターが国勢調査の「夜間人口(常住人口)」をベースに戦略を立てがちですが、都市部の経済活動を捉えるには「昼間人口」の視点が不可欠です。
通常、人口統計として使われる国勢調査は、人々が寝泊まりしている場所(居住地)でカウントされます。これを「夜間人口」と呼びます。対して「昼間人口」は、人々が日中に活動している場所での人口を指します。
その算出式は以下の通りです。

国勢調査は5年に一度ですが、経済センサスもまた5年に一度(基礎・活動を合わせればより高頻度)実施されます。これらを組み合わせた「リンク統計」を用いることで、より精緻な昼間人口モデルを構築できます。
例えば、「自宅で仕事をする人(テレワーク)」や「通学しない学生」などの属性を加味し、単なる通勤者数の足し引きではない、実態に近い「昼間の滞留人口」を取り入れることがエリアマーケティングでは重要です。

公表される経済センサスデータは、通常「市区町村」単位です。しかし、実際の店舗商圏は行政界とは無関係に広がっています。ここで重要になるのが、当社が得意とする「メッシュ」や「町丁目」単位での小地域分析です。
行政界(〇〇市、〇〇町)は、面積も形状もバラバラです。北海道の広大な町と東京の狭小な区を単純比較することはできません。また、店舗から「半径1km商圏」を設定した際、行政界単位のデータでは、円の内側と外側を正確に按分することが困難です。
この問題を解決するのが「地域メッシュ」です。
● 標準地域メッシュ: 日本全土を緯度経度に基づき、約1km四方(3次メッシュ)や約500m四方(4次メッシュ)の正方形に区切ったものです。
● メリット: 形状と面積が均一であるため、地域間の純粋な密度比較が可能です。また、これらを積み上げることで、店舗を中心とした任意の商圏(半径商圏、ドライブタイム商圏)のデータを極めて高い精度で集計できます。

当社では、総務省から提供される経済センサスの小地域集計結果を、独自のアルゴリズムで加工・データベース化しています。
● 時系列補正: 市町村合併や町名変更、メッシュ定義の変更があっても、過去のデータと現在のデータを正しく比較できるよう補正を行っています。
● 独自指標「地価ポテンシャル」: 経済センサスの「収益性(売上)」データと、地価データを組み合わせることで、「地価の割にビジネス効率が良いエリア(穴場)」や「将来的に資産価値向上が見込めるエリア」を推計する独自指標を提供しています。これにより、不動産投資や店舗開発のROI(投資対効果)を最大化します。
生の統計データだけでは見えてこない、エリアの「真の消費力」を可視化する。
経済センサスをはじめ、富裕層推計や消費支出データなど、商圏分析の精度を劇的に高めるラインナップはこちらからご覧ください。
▶ 技研商事インターナショナルのデータラインナップを見る
ここでは、実際に経済センサスデータがどのように戦略決定に使われているか、具体的なシナリオを通じて解説します。

シナリオ: 全国展開するカフェチェーン「Gカフェ」が、ある地方都市の駅前への出店を検討中。候補物件A(駅北口)と物件B(駅南口)のどちらを選ぶべきか。
【従来の手法】
駅の乗降客数と、周辺の家賃相場だけで判断していた。
【経済センサス活用】
1. 昼間人口の比較
経済センサスの従業者数データを用い、両地点から徒歩5分圏内の昼間人口を集計。
北口:夜間人口は多いが、昼間人口は少ない(ベッドタウン側)
南口:夜間人口は少ないが、オフィスビルが多く昼間人口が圧倒的に多い
2. 競合状況の把握
経済センサスの産業分類「喫茶店」の事業所数をメッシュ単位で確認。南口は競合が多いが、1店舗あたりの売上高(推計)も高く、マーケット自体が大きいことが判明。
3. 意思決定
ランチ需要とビジネス利用を取り込めると判断し、家賃は高いが回転率が見込める「南口」に出店を決定。結果、計画比120%の売上を達成。
このアプローチは、多くの大手チェーン企業が、客単価や客数、そして周辺の経済環境(デフレ期の消費者行動など)を徹底的に分析し、サテライト店を展開して成功した事例にも通じるデータドリブンな戦略です。

シナリオ: 作業服専門店が、一般客向けのアウトドアウェアブランドへ業態を拡大したい。
【データ活用方法】
既存の「建設業・製造業事業所集中エリア(職人向け)」から出店基準を変更する必要があります。
・経済センサスで「小売業販売額」が高いエリア(商業集積地)を抽出。
・国勢調査で「ニューファミリー層」の居住比率が高いエリアを抽出。
・この二つが重なるエリアを「新業態の重点出店エリア」として特定。
このように、ターゲット属性の変化に合わせて参照する統計指標を組み替えることで、成功確率の高いエリア選定が可能になります。
シナリオ: 複合機メーカーの営業部門が、訪問効率を上げたい。
【データ活用方法】
経済センサスのデータを使い、「従業者数30人以上の事業所」が密集しているメッシュを抽出。これを「Sランクエリア」と定義し、エース級の営業担当者を集中投下。逆に事業所密度が低いエリアはインサイドセールス(電話・メール)に切り替えることで、成約率と訪問効率を同時に改善。

自治体運営においても、データの活用は不可欠です。
● 産業振興
市内の産業別売上高の経年変化(前回調査との比較)を分析し、衰退傾向にある地場産業を特定、補助金や技術支援の対象を絞り込む。
● 防災・インフラ
昼間人口データを基に、昼間に大地震が発生した際の帰宅困難者数をシミュレーションし、避難所の収容能力や備蓄食料の適正量を算出する。
最後に、令和8年経済センサス‐活動調査のデータを実際に手に入れ、分析を始めるためのステップを案内します。
総務省統計局が運営する「政府統計の総合窓口(e-Stat)」は、誰でも無料で統計データをダウンロードできるポータルサイトです。
● 手順: サイト内で「経済センサス‐活動調査」を検索し、必要な集計表(産業別、地域別など)を選択してCSV形式等でダウンロードします。
● 注意点: 生データは膨大であり、また「秘匿処理(回答者が特定できるような少数のデータは隠される処理)」が施されているため、そのままでは分析に使えない「欠損値」が含まれることがあります。
→e-stat(政府統計の総合窓口)はこちら(外部サイトへリンクします)

民間企業が提供しているデータべースの活用も一つの手です。ローデータの加工編集の手間がない点や、自社ビジネスに合った形で活用できる点等のメリットがあります。
当社のデータベースは、e-Statのデータを単に再配布するものではありません。
● クリーニング済み
欠損値の推計や、分析の妨げになる異常値の処理を行っており、GIS(地図情報システム)に読み込めばすぐに分析が開始できる状態で提供します。
● ワンストップサポート
データ提供だけでなく、分析ツールの導入、操作トレーニング、そしてコンサルティング的な運用・分析支援まで、お客様のデータ活用をトータルで支援します。

令和8年(2026年)の調査に向け、以下の公式情報を定期的にチェックすることをお勧めします。
● 経済センサス‐活動調査キャンペーンサイト(https://www.e-census2026.go.jp/)
調査票の様式や、回答マニュアルが順次公開されます。
● 結果の公表時期
・速報集計:令和9年(2027年)5月末日予定
・確報集計:令和9年(2027年)9月頃から順次予定
令和8年経済センサス‐活動調査は、日本のビジネス環境を映し出す最も精緻な鏡です。この鏡を使いこなすことで、企業は自社の立ち位置を正確に知り、進むべき方向を見定めることができます。
特に、「昼間人口」という動態的な視点や、「メッシュ・町丁目」というミクロな視点を取り入れることは、大雑把な感覚経営から脱却し、科学的なデータ経営へと進化するための必須条件です。技研商事インターナショナルは、この巨大なデータセットを皆様のビジネスの武器に変えるための、最強のパートナーであり続けます。

監修者プロフィール市川 史祥技研商事インターナショナル株式会社 執行役員 マーケティング部 部長 シニアコンサルタント |
|
| 医療経営士/介護福祉経営士 流通経済大学客員講師/共栄大学客員講師 一般社団法人LBMA Japan 理事 Google AI Essentials Google Prompt Essentials 1972年東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。不動産業、出版社を経て2002年より技研商事インターナショナルに所属。 小売・飲食・メーカー・サービス業などのクライアントへGIS(地図情報システム)の運用支援・エリアマーケティング支援を行っている。わかりやすいセミナーが定評。年間講演実績90回以上。 |
![]() |