技研商事インターナショナル技研商事インターナショナル
エリアマーケティングラボ
2025年9月25日号(Vol.177)
「なぜ一部の店舗だけで、会社全体の売上の大半を生み出しているのだろう?」
「限られたマーケティング予算を、本当に重要な顧客層に集中させるにはどうすればいい?」
企業のマーケティングや経営企画を担当していると、このような課題に直面することは少なくありません。手元のデータを十分に活用できず、勘や経験に頼った施策を続けていませんか?
そうした課題を解決するための、シンプルでありながら驚くほど強力な分析手法「デシル分析」について、徹底的に解説します。
本コラムでは、デシル分析の基本的な意味から、Excelを使った実践的な方法、そしてその先の戦略的な活用法までを徹底的に解説します。さらに、混同されがちなRFM分析やABC分析との違いも明確にすることで、データに基づいた意思決定の精度を高めるお手伝いをします。
まず、デシル分析がどのような分析手法なのか、その目的と基本的な考え方を理解しましょう。
デシル分析とは、全顧客や全店舗といった分析対象のデータを、売上高や購入金額などの特定の指標で高い順に並べ、全体を10等分のグループに分けて分析する手法です。名称の「デシル(decile)」は、ラテン語で「10分の1」を意味します。
この分析の主な目的は、
自社の売上に最も貢献している重要なセグメントを可視化・特定することです。
各グループ(デシルランク)ごとの売上高やその構成比を算出することで、事業構造における集中度合いが明らかになります。分析結果が「売上の80%は上位20%の顧客が生み出している」という「パレートの法則」に近い分布を示すことも多く、経営資源の配分を決定する上で非常に重要です。
デシル分析は顧客を購買金額で10グループに分け、優良顧客を特定するのに役立ちます。メリットとして、顧客の購買行動を把握し、効果的なマーケティング戦略を立てやすくなる点が挙げられます。一方で、購買金額のみに焦点を当てるため、顧客の全体像を捉えにくいという限界も存在します。
それでは、実際にExcelを使ってデシル分析を行う手順を、具体的なシナリオに沿って解説します。
全国に100店舗を展開する小売企業を想定します。店舗ごとの業績には大きなばらつきがあり、好調な店舗もあれば、苦戦している店舗もあります。業績改善の戦略を立てる前に、まずは客観的にどの店舗がどのグループに属するのかを特定し、それぞれの貢献度を把握する必要があります。このシナリオを通じて、デシル分析の実践方法とその先の戦略的活用法を学びます。
デシル分析は、何が起きているか(どの店舗が好調で、どの店舗が不振か)を見事に示してくれました。しかし、これだけではなぜそうなっているのかという最も重要な問いには答えられません。デシル1に属する店舗は、なぜこれほど成功しているのでしょうか?彼らが持つ隠れた強みとは何なのでしょうか?
この「なぜ」に答えるために設計されたテクノロジーが、エリアマーケティングGIS(地図情報システム)です。店舗の成功は、その立地と周辺の「商圏」の特性に深く結びついています。
当社の「MarketAnalyzer® 5」のようなツールを使えば、上位店舗と下位店舗の商圏を多角的に比較分析できます。
これにより、人口統計、競合環境、アクセス性、顧客分布といった要因から、成功の要因や不振の根本原因を解明することができます。
デシル分析の「全体をランク付けして10分割し、貢献度や集中度を把握する」という考え方は、非常に汎用性が高く、様々なビジネスデータに応用できます。
購入金額で顧客をランク付けし、デシルランクごとに最適なマーケティング施策を展開します。上位層にはロイヤルティプログラム、下位層には再購入を促すキャンペーンなど、費用対効果を高めることができます。
営業担当者や取引先企業を売上実績でランク付けすることで、トップパフォーマーのノウハウ共有や、下位層への追加研修・効率的なフォローアップなど、リソースを最適に配分できます。
ユーザーをセッション時間や閲覧記事数でランク付けし、フィードバックを求めるべきパワーユーザーや、利用促進キャンペーンを働きかけるべき低関与ユーザーを特定します。
従業員を人事評価スコアでランク付けすることで、組織全体のパフォーマンス分布を可視化します。次世代リーダー候補となる人材の特定や、業績改善計画が必要な従業員グループの把握に役立ちます。
製造ラインや作業シフトを不良率でランク付けし、品質問題の主要因となっているグループを特定することで、改善活動のリソースを集中させます。
投資ポートフォリオをリターンやリスク調整後リターンでランク付けし、ポートフォリオ全体の収益が一部の優良資産に過度に集中していないかを確認します。
顧客分析には、デシル分析の他にも有名な手法があります。それぞれの違いを理解し、目的に応じて使い分けることが重要です。
RFM分析は、「Recency(最終購入日)」「Frequency(購入頻度)」「Monetary(購入金額)」という3つの指標を用いて顧客をより多角的に評価する、デシル分析より高度な手法です 。
最大の違いは、顧客ロイヤルティの捉え方にあります。デシル分析では、過去に一度だけ高額購入した顧客も上位にランクされ得ますが、RFM分析ではその顧客の「Recency(最終購入日)」が古く、「Frequency(購入頻度)」が低いため、優良顧客ではなく離反リスクのある顧客として正しく識別できます。RFM分析は、より動的な顧客との関係性を評価するのに適しています。
ABC分析は、もともと在庫管理で重要商品を特定するために使われる手法で、パレートの法則に基づいています。両者は貢献度に着目する点で似ていますが、グループ分けの方法が根本的に異なります。
• デシル分析:
構成員の数が等しくなるように10グループに分けます(例:顧客1000人なら各100人)。
• ABC分析:
累積売上構成比に基づいてグループ分けします(例:売上全体の70%を占める顧客群を「Aランク」、次の20%を「Bランク」、残りの10%を「Cランク」)。そのため、各ランクの構成員数は不均等になります。
最後に、デシル分析に関してよく寄せられる質問にお答えします。
各グループの人数が多少不均等になっても問題ありません。一般的な実務では、グループ間の人数差を最小限にし、余った人数は分析全体への影響が最も少ない最下位ランク(デシル10)に含めます。重要なのは、分析を行う上で一貫したルールを適用することです。
英語では「Decile Analysis」と言います。海外のマーケティング文献などを参考にする際に覚えておくと便利です。
はい、可能です。これらのより高度なツールを使えば、デシル分析はさらに効率的に行えます。Pythonではpandasライブラリのqcut関数が便利です。Tableauでは、LOD表現とPERCENTILE関数を組み合わせた計算フィールドで実現できます。また、Power BIでもDAX関数を用いて同様の分析が可能です。
今回は、データ分析の基本的な手法である「デシル分析」について、その目的からExcelでの具体的なやり方、多様な活用事例までを詳しく解説しました。
この記事のポイントをまとめます。
• デシル分析とは:
データを特定の指標でランク付けし10等分することで、貢献度の高いセグメントを特定するシンプルで強力な分析手法。
• Excelでのやり方:
「並べ替え」→「10等分」→「SUMIFで集計」→「パレート図で可視化」というステップで誰でも簡単に実践できる。
• 結果の活用法:
上位・中位・下位ランクに応じてアプローチを変えることで、マーケティングや営業施策の費用対効果を高められる。
デシル分析は、データに基づいた意思決定の不可欠な第一歩です。それは、ビジネスの現状、つまり「何が」起きているのかを明確に示してくれます。データを整理し、進むべき方向を指し示してくれる羅針盤です。
しかし、真に強固で持続的な成長戦略を築くためには、その先の「なぜ」を解明しなければなりません。なぜ上位の店舗は成功しているのか?なぜ優良顧客は自社を選んでくれるのか?これらの問いに答えるには、単純なリストから「地図」へと視点を移す必要があります。
当社のエリアマーケティングGIS「MarketAnalyzer® 5」は、その成功の地理的・人口統計的なDNAを分析することで、シンプルな分析結果を、予測的で強力な成長エンジンへと転換させます。データ分析の最初の一歩から、次の戦略的な一手へ。その架け橋となるのが、私たちのソリューションです。
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監修者プロフィール市川 史祥技研商事インターナショナル株式会社 執行役員 マーケティング部 部長 シニアコンサルタント |
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医療経営士/介護福祉経営士 流通経済大学客員講師/共栄大学客員講師 一般社団法人LBMA Japan 理事 Google AI Essentials Google Prompt Essentials 1972年東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。不動産業、出版社を経て2002年より技研商事インターナショナルに所属。 小売・飲食・メーカー・サービス業などのクライアントへGIS(地図情報システム)の運用支援・エリアマーケティング支援を行っている。わかりやすいセミナーが定評。年間講演実績90回以上。 |
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