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エリアマーケティングラボ
2025年5月30日号(Vol.147)
「自社の売上が伸び悩んでいる…」「新商品を開発したいけど、何から始めればいいか分からない…」そんな悩みを抱える店舗経営者やマーケティング担当者の方にとって、競合店調査は現状打破の大きなヒントを与えてくれます。
しかし、いざ競合店調査をしようと思っても、「具体的に何をどう調べればいいの?」「調査した情報をどう活かせばいいの?」と、具体的なやり方やポイントが分からず、一歩を踏み出せない方も多いのではないでしょうか。
この記事では、そんな競合店調査の初心者から中級者の方に向けて、競合店調査の目的やメリットといった基礎知識から、具体的な調査のステップ、必ず押さえるべき調査項目、さらには業種別のポイントや調査時の注意点、効果的なレポートのまとめ方まで、網羅的に分かりやすく解説します。
この記事を読めば、あなたも自信を持って競合店調査を始められ、ビジネスを成功に導くための具体的な戦略を描けるようになるはずです。
まずは、競合店調査の基本的な定義や、なぜ調査を行う必要があるのか、そして調査によってどのようなメリットが得られるのかを理解しましょう。
競合店調査とは、自社の競争相手となる店舗や企業(競合他社)の状況を多角的に調べ、分析することです。単に「他店調査」や「ライバル調査」と呼ばれることもあります。この調査は、自社の強みや弱みを客観的に把握し、市場での立ち位置を明確にする上で非常に重要です。
市場環境が目まぐるしく変化する現代において、顧客のニーズも多様化しています。そのような中で自社が生き残り、成長し続けるためには、競合の動向を常に把握し、自社の戦略に活かしていく必要があります。競合店調査は、そのための羅針盤となるのです。
競合店調査を行う主な目的は、以下の3つに集約されます。
・自社の強み・弱みの客観的把握
・市場機会と脅威の発見
・効果的なマーケティング戦略の立案及
競合店調査を適切に行うことで、以下のような多くのメリットを得ることができます。
❶ 売上・利益の向上
競合より優れた点や顧客ニーズに合致した施策を打つことで、顧客満足度を高め、売上や利益の向上に繋げることができます。
❷ 顧客理解の深化
競合の顧客層や顧客が重視するポイントを分析することで、自社がターゲットとすべき顧客像や、その顧客が何を求めているのかをより深く理解できます。
❸ リスク回避
競合の失敗事例や市場の変化を事前に察知することで、自社が同様の失敗を犯すリスクを回避したり、変化に迅速に対応したりすることができます。
❹ 効率的な経営資源の配分
調査結果に基づいて、どの分野に注力すべきか、どの施策が効果的かを見極めることで、限られた経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報)をより効率的に配分できます。
❻ 従業員のモチベーション向上
競合の状況や自社の課題を共有することで、従業員一人ひとりが目標を明確に持ち、改善活動に主体的に取り組むきっかけとなり、組織全体のモチベーション向上に繋がることがあります。
それでは、実際に競合店調査を進めるための具体的なやり方を7つのステップに分けて解説します。この手順に沿って進めることで、初心者の方でもスムーズかつ効果的な調査が可能です。
競合より優れた点や顧客ニーズに合致した施策を打つことで、顧客満足度を高め、売上や利益の向上に繋げることができます。
GIS(地理情報システム)は、競合調査を効率化する強力なツールです。
GISとは、地理的な情報を地図上に可視化し、分析を可能にするツールのことを指します。これにより、商圏分析やエリアマーケティングをより詳細に行い、競合店の分布状況や顧客層の特性を把握することができます。
GISでは、例えば下記のような分析が可能です。
• ハフモデル分析:理論的な勢力分布を把握
• 人流データ分析:実際の顧客の流れを分析
• 仮想ペルソナ分析:顧客層の違いを明確化
これらの分析を組み合わせることで、より深く競合店の状況を理解できます。それぞれの分析については、以下で詳しく解説していきます。
ハフモデルは、自社店舗と競合店舗の勢力分布を理論的に把握するために有効です。
ハフモデルとは、消費者が店舗を選択する確率を、店舗の魅力度(店舗面積など)と店舗までの距離で算出するモデルです。このモデルを用いることで、各店舗の商圏における集客力を数値化し、競合状況を可視化できます。
▼ ハフモデルによる自社店舗と競合店舗の勢力分布シミュレーション
ハフモデルを活用することで、自社店舗の潜在的な顧客吸引力を把握し、競合店の出店による影響を予測できます。また、効果的な販促戦略や出店計画の立案に役立てることが可能です。
人流データによる自社店舗と競合店舗の勢力分布の実績値は、商圏分析において重要な指標となります。
人流データとは、人々がどこから来て、どこへ行くのか、どのような経路で移動するのかといった流れを把握できるデータです。このデータを活用することで、自社店舗と競合店舗それぞれの集客状況を可視化できます。
<人流データ分析でわかること>
• 店舗への来店者数、来訪者属性
• 来店者の居住地
• 時間帯・曜日別の来店者数
▼ 自社店舗と競合店舗への来訪者居住地分布
▼ 店舗への曜日別来訪者数と来訪者属性
これらの情報を分析することで、自社店舗の強み・弱みを把握し、効果的な集客戦略を立てることが可能になります。
例えば、競合店よりも来店者数が少ない時間帯を特定し、その時間帯に合わせた販促施策を実施することで、集客力を高めることができます。 人流データを活用し、自社店舗と競合店舗の勢力分布を正確に把握することで、より効果的な商圏分析と店舗戦略の立案に繋げることが重要です。
仮想ペルソナ分析は、店舗来訪者の理解を深める上で重要な役割を果たします。
GISを用いた競合調査において、仮想ペルソナ分析は、自店舗と競合店舗の顧客像を比較し、それぞれの店舗がどのような顧客層に支持されているのかを把握するために不可欠です。
▼ 仮想ペルソナ分析とは?
▼ 仮想ペルソナ分析結果イメージ
これらの要素を比較することで、自店舗のターゲット顧客と競合店の顧客の違いが明確になり、より効果的なマーケティング戦略や商品開発に繋げることができます。仮想ペルソナ分析を通じて、顧客ニーズを深く理解し、店舗の強みを最大限に活かしましょう。
競合店調査を行う際に、具体的にどのような情報を集め、分析すれば良いのでしょうか。ここでは、業種を問わず共通して押さえておきたい10の調査項目と、それぞれの分析ポイントを解説します。これらは店舗調査の基本となります。
基本的な調査項目に加えて、業種特有のポイントを押さえることで、より実践的な情報を得ることができます。ここでは、代表的な3つの業種について、特に注目すべき調査ポイントを解説します。
スーパーマーケットの競合店調査では、価格競争力と品揃え、そして顧客の買い回り行動を促す工夫が重要なポイントとなります。
特売品・目玉商品:どのような商品が、いつ、どのくらいの価格で特売されているか。チラシや店頭での訴求方法はどうか。
プライベートブランド(PB)商品:PB商品の種類、品質、価格帯、パッケージデザイン。ナショナルブランド商品との比較。
生鮮三品(青果・鮮魚・精肉)の品質と鮮度管理:商品の見た目、鮮度、産地表示、加工方法。
惣菜・インストアベーカリーの充実度:品揃え、味、価格、調理風景の見せ方。
陳列方法と売り場づくり:関連商品の陳列(クロスマーチャンダイジング)、エンド棚の活用、POP広告、試食販売の有無。
レジの効率と接客:レジ待ち時間、セルフレジの導入状況、袋詰めのサービス。
ポイントカード・会員制度:還元率、特典内容、利用促進策。
ネットスーパー・宅配サービスの有無と内容:対応エリア、手数料、品揃え。
アパレル業界の競合店調査では、トレンドの取り入れ方、ブランドイメージの演出、そして顧客の購買意欲を高める接客が鍵となります。
取り扱いブランドと商品構成: ターゲット層、テイスト、価格帯、商品の回転率。
トレンドの反映度:店舗正面、ウィンドウディスプレイ、店内のレイアウト、商品の陳列方法、照明、小物使い。
VMD(ビジュアルマーチャンダイジング:商品の見た目、鮮度、産地表示、加工方法。
接客スタイル:声かけのタイミング、コーディネート提案力、専門知識、試着の勧め方、パーソナルな対応。
在庫管理とサイズ展開: 人気商品の在庫状況、サイズ展開の豊富さ。
ECサイトとの連携(OMO戦略):店舗とECサイトでの在庫共有、相互送客の仕組み。
SNS活用:新作情報の発信、スタッフコーディネートの紹介、ライブコマースの実施。
飲食店の競合店調査では、料理の味や品質はもちろんのこと、メニュー構成、価格設定、そして顧客をリピーターにするための工夫が重要です。
メニュー構成と看板メニュー: 料理の種類、品数、独創性、看板メニューや人気メニューの魅力。
料理の品質と味:素材の質、調理技術、盛り付け、ボリューム。
価格設定とコストパフォーマンス: 各メニューの価格、セットメニューやコース料理の内容と価格、ドリンクの価格など。顧客として納得感を得られるか。
店舗の雰囲気と内装:コンセプト、清潔感、座席の種類と配置、BGM、照明。ターゲット顧客が快適に過ごせる空間か。
接客サービス:オーダーテイク、料理提供のタイミング、料理の説明、気配り、会計時の対応。
集客方法と販促活動:グルメサイトの活用、SNSでの情報発信、チラシ、看板、ランチメニューやハッピーアワーの実施。
リピーター獲得戦略:ポイントカード、クーポン、限定メニュー、顧客とのコミュニケーション。
テイクアウト・デリバリー対応:メニュー、価格、注文方法、対応エリア。
収集・分析した情報を基に作成する競合調査 レポートや競合店調査 報告書は、調査の成果を関係者と共有し、次のアクションに繋げるための重要なツールです。
分かりやすく、行動を促すレポートを作成するためのポイントと、テンプレートの活用について解説します。
効果的な競合調査レポートは、読む人が情報を理解しやすく、意思決定に役立つものでなければなりません。一般的に、以下のような構成でまとめると良いでしょう。
■ 競合調査レポートの構成例
・表紙
┗タイトル、調査期間、作成日、作成者(部署名)
・エグゼクティブサマリー
┗レポート全体の要約。調査の目的、主要な発見事項、結論、提案などを1ページ程度にまとめる。忙しい経営層にも内容が伝わるように簡潔に記述します。
・目次
・調査の背景と目的
┗なぜこの調査を行ったのか、何を明らかにしようとしたのかを明確に記述します。
・調査概要
┗調査対象(競合店名)、調査期間、調査方法(オンライン調査、店舗訪問など)、主な調査項目を記述します。
・調査結果
・競合店の概要
┗各競合店の基本情報(企業規模、沿革、特徴など)。
・各調査項目に関する分析
┗事実(データ)とそれに基づく考察を分けて記述します。競合比較 項目ごとに整理すると分かりやすいです。
・競合の強み、弱み
┗SWOT分析などのフレームワークを用いた分析結果を記述します。
・市場における自社のポジション
┗競合と比較して、自社がどのような立ち位置にいるのかを客観的に示します。
・結論と考察
┗調査全体を通じて明らかになったこと、そこから導き出される結論を記述します。
・提言、アクションプラン
┗調査結果を踏まえ、自社が今後取るべき具体的な行動計画を提案します。短期的な施策と中長期的な戦略に分けて記述すると良いでしょう。
・参考資料
┗調査に使用したデータ、詳細な分析結果、写真などを添付します。
文字ばかりのレポートは読みにくく、内容が伝わりにくいことがあります。図やグラフを効果的に活用することで、情報を視覚的に分かりやすく伝え、説得力を高めることができます。
比較表:複数の競合店の情報を項目ごとに比較する際に便利です。Excelなどで簡単に作成できます。競合店調査 表として活用しましょう。
レーダーチャート:複数の評価項目における自社と競合の強み・弱みを視覚的に比較するのに適しています。
棒グラフ・折れ線グラフ:売上推移、市場シェア、顧客満足度などの数値を比較・表示するのに用います。
ポジショニングマップ:2つの軸(例:価格と品質)で市場における自社と競合のポジションを視覚的に示します。
写真・画像:店舗の外観や内装、商品の陳列状況などを具体的に示すことができます。ただし、無断撮影は避け、著作権にも配慮しましょう。
これらの視覚的な要素を適切に使うことで、競合調査 まとめ方が格段に向上します。
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競合店調査は、自社の現状を客観的に把握し、競争優位性を確立するための強力な武器となります。この記事では、競合店調査の目的やメリットから、具体的なやり方、調査項目、業種別のポイント、さらには調査時の注意点や効果的なレポートのまとめ方まで、幅広く解説してきました。
重要なのは、調査で得た情報を分析し、具体的なアクションに繋げることです。「競合調査 やり方」を理解したら、まずは小さなステップからでも構いませんので、実際に調査を始めてみましょう。
競合を知り、自社を知ることで、あなたのビジネスは新たな成長ステージへと進むことができるはずです。この記事が、その一助となれば幸いです。
監修者プロフィール市川 史祥技研商事インターナショナル株式会社 執行役員 マーケティング部 部長 シニアコンサルタント |
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医療経営士/介護福祉経営士 流通経済大学客員講師/共栄大学客員講師 一般社団法人LBMA Japan 理事 1972年東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。不動産業、出版社を経て2002年より技研商事インターナショナルに所属。 小売・飲食・メーカー・サービス業などのクライアントへGIS(地図情報システム)の運用支援・エリアマーケティング支援を行っている。わかりやすいセミナーが定評。年間講演実績90回以上。 |
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