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エリアマーケティングラボ
2025年10月9日号(Vol.185)
日々の業務で多くの時間を費やす資料作成に、課題を感じていませんか?一つの資料の作成に平均6.8時間も費やされているという調査結果もあり、この負担は企業の生産性を左右しかねない課題です。その強力な解決策となるのが、生成AIの活用です。
本記事では、ChatGPTやGoogle Geminiといった人気の汎用AIから専門領域に特化したAIまで、目的別にツールを徹底比較し、明日から使える具体的な活用法を解説します。
国内外の大手企業では、生成AI導入により目覚ましい成果が報告されています。
• パナソニック コネクト:社内向け生成AIアシスタント導入後、わずか1年で全社的に18.6万時間の労働時間を削減。
• NEC:資料作成時間が50%削減され、議事録作成時間が従来の30分から約5分に短縮。
• 三菱UFJ銀行:AIによる稟議書類の自動作成で、年間264万時間もの業務負担軽減が見込まれています。
AI導入のメリットは、直接的な時間や経費削減効果だけにとどまりません。
• 資料品質の安定:
AIを活用することで、資料の品質が個人のスキルや経験に左右されることなく、常に一定の高い水準に保たれます。データ分析、グラフ作成、文章生成をAIが担うことで、誰が作成しても説得力のある資料を安定して生み出せるのです。
• 人的資本の再配置:
AI導入の真の価値は、コスト削減の先にある「人的資本の再配置」にあります。構成案作成や体裁整備などの定型作業をAIに任せることで、従業員は戦略的な業務に集中できるようになります。AIが生成したデータや文章を解釈し、独自の視点を加えて意思決定を行うという、人間にしかできない付加価値の高い仕事に時間を投資できます。
現在、資料作成を支援するAIツールは多岐にわたりますが、それぞれに得意分野があります。ここでは、代表的な4つのツール「ChatGPT」「Google Gemini」「Microsoft Copilot」「Canva AI」を中心に、目的別の使い方とコツを解説します。
ChatGPTは、対話形式で柔軟に指示を出せる点が最大の強みで、資料作成の初期段階である「構成案の作成」において絶大な効果を発揮します。
基本的な流れは、「①テーマと目的を伝える → ②アウトライン(構成案)を生成させる → ③各項目の内容を具体化させる → ④推敲・校正を依頼する」というステップです。
この効果を最大化するコツは、AIに明確な役割(ペルソナ)を与えることです。例えば、プロンプトの冒頭で「あなたは経験豊富なマーケティングコンサルタントです」といった役割を設定すると、出力される文章の専門性やトーンが格段に向上します。
・出力形式の指定:
出力形式を「マークダウン形式」で指定するのがおすすめです。マークダウン形式のテキストをGoogleドキュメントやWordに貼り付けるだけで、見出しや箇条書きが自動整形され、体裁を整える手間が大幅に削減されます。
・高度なVBA活用:
より高度な使い方として、ChatGPTにPowerPoint用のVBAコードを生成させる方法があります。構成と内容を作成した後、「この内容でPowerPointのスライドを自動生成するVBAコードを作成してください」と指示し、生成されたコードをPowerPointのマクロに実行することで、スライドの雛形が自動作成されます。
Googleが開発したGeminiは、Googleの各種サービスとのシームレスな連携が最大の特徴です。特にGoogleスライドと連携させることで、資料作成を強力にサポートします。
有料プラン(Google One AIプレミアムなど)では、GoogleスライドのサイドパネルからGeminiを呼び出し、対話しながらスライドを作成できます。例えば、「〇〇についてのプレゼンテーションを作成して」と指示するだけで、構成、文章、画像まで含んだスライドを自動で提案してくれます。
Geminiの特に強力な機能は、Googleドライブ上の既存ドキュメントを参照してスライドを生成できる点です。プロンプト内で「@ファイル名」と入力するだけで、AIが指定したドキュメントやスプレッドシートの内容を理解し、それを基にしたプレゼンテーションを作成してくれます。これにより、議事録から報告スライドを自動生成したり、データシートからグラフ付きの分析スライドを作成したりといった活用が可能です。
Googleの検索エンジンと連携しているため、最新の情報を反映した内容の生成に強いという利点もあります。また、「未来的なイメージの画像」といった指示で、スライドに最適なオリジナル画像をAIに生成させることも可能です。
Microsoft Copilotの最大の利点は、Word、Excel、PowerPointといった日常的に使用するOfficeアプリケーションとの深い連携にあります。
特に強力なのは、Word文書からPowerPointのプレゼンテーションを自動生成する機能です。
1. PowerPoint上でCopilotを起動し、「ファイルからプレゼンテーションを作成」を選択します。
2. OneDriveやSharePointに保存されているWord文書を選ぶと、Copilotが文書の構造を解析し、スライドを自動生成します。このとき、Word文書側で見出し1、見出し2といった「スタイル」を正しく設定しておくことが、AIの理解度を高め、より精度の高いスライドを生成するコツです。
• 既存資料の要約:既存のプレゼンテーションの内容を要約。
• スライドの追加・挿入:「〇〇についてのスライドを追加して」といった指示での新しいスライド挿入。
• 資料の自動整理:スライド全体を論理的なセクションに自動で整理。
デザイン性の高い資料を手軽に作りたい場合に最適なのがCanva AIです。豊富なテンプレートと直感的な操作性に加え、強力なAI機能が統合されています。
• 「マジック作文™」機能:キーワードを入力するだけで、プレゼンの構成案やスライドのテキストを自動生成できます。
• AIスライド生成機能:短い指示文から、プレゼンテーション全体をデザイン付きで一括作成してくれます。
Canva AIのユニークな点は、対話しながらデザインを修正できることです。
「もう少しシンプルなレイアウトにして」「ベースカラーを青に変更して」といった自然言語での指示をAIが即座にデザインに反映するため、まるで専属のデザイナーと共同作業しているかのような感覚で資料を作成できます。また、チームでのリアルタイム共同編集機能も充実しており、複数人での作業もスムーズです。
Gensparkは、複数の専門AIを統合した「スーパーエージェント」と呼ばれる実行型AIです。ユーザーの指示に基づき、リサーチ、分析、資料作成までの一連のワークフローを自律的に実行する点が最大の特徴です。
使い方は非常にシンプルで、「〇〇についてのプレゼン資料を作成して」といった大まかな指示を出すだけで、複数のAIエージェントが連携し、Web上の情報やアップロードされたファイル(PDF、既存のPPTなど)を基に、構成案から本文、画像挿入まで含んだスライドやドキュメントを自動で生成します。YouTube動画のURLを渡すだけで、その内容を要約したプレゼン資料を作成することも可能です。
「AIスライド」や「AIドキュメント」機能は強力で、レイアウト崩れを気にすることなく、WordやPDF、HTML形式での書き出しにも対応しています。生成された資料は、デザインツールFigmaと連携させて、より細かなデザイン調整を行うこともできます。リサーチから資料化までをワンストップで完結させたい場合に、圧倒的な時間短縮効果を発揮します。
各ツールの特徴を理解し、自社の目的に合ったものを選ぶことが重要です。
機能 |
ChatGPT (Plus) |
Google Gemini |
Microsoft Copilot |
Canva AI |
Genspark |
構成案・アウトライン作成 |
◎ |
◎ |
〇 |
〇 |
◎ |
本文自動生成 |
◎ |
◎ |
〇 |
〇 |
◎ |
デザイン・レイアウト提案 |
△ |
〇 |
〇 |
◎ |
〇 |
Office/Workspace連携 |
△ |
◎ |
◎ |
△ |
〇 |
元ファイルからの生成 |
△ |
◎ |
◎ |
△ |
◎ |
共同編集 |
✕ |
◎ |
〇 |
◎ |
✕ |
料金体系 |
無料版あり、 |
無料版あり、 |
Microsoft 365の |
無料版あり、 |
無料版あり、 |
これらのツールを使いこなす上で、共通して重要になるのが「プロンプトエンジニアリング」、すなわちAIへの指示出しの技術です。AIへの指示が曖昧だと、期待外れの出力しか得られません。逆に、目的、ターゲット、体裁、盛り込むべき要素(5W1H)などを具体的かつ明確に指示することで、AIの性能を最大限に引き出すことができます。
これからのビジネスシーンでは、資料を自ら書く能力だけでなく、AIに的確な指示を与えて書かせる能力が、新たなコアスキルとなっていくでしょう。
資料作成において、文章やデザインを生成する前の「情報収集」と「内容の整理」は、最も時間のかかる工程の一つです。このリサーチ段階を劇的に効率化するのが、Googleの「NotebookLM」です。
NotebookLMは、単体で文章を生成するのではなく、ユーザーがアップロードした資料(ソース)に基づいて情報を整理・要約し、質問に答えることに特化したAIツールです。 PDF、Googleドキュメント、WebサイトのURL、さらにはYouTube動画まで、様々な形式の資料をソースとして読み込ませることができます。
使い方はシンプルで、まず「ノートブック」を作成し、関連資料をすべてアップロードします。NotebookLMが内容を解析し、自動で要約や主要トピックを提示してくれます。
資料作成における最大の活用法は、チャット機能を使った骨子作成です。複数のレポートや議事録をアップロードした上で、「これらの資料から、新プロジェクトの提案スライドを5枚構成で作成してください」と指示すると、NotebookLMはすべてのソースを横断的に理解し、スライドのタイトル案、各ページの要点、説明文などを箇条書き形式で生成します。
NotebookLMにはスライドを直接デザインする機能はありませんが、生成されたテキストの骨子をコピーし、ChatGPTやCanva AIなどのツールに貼り付けて清書やデザインを依頼することで、リサーチから資料完成までの時間を大幅に短縮できます。複数の膨大な資料からプレゼンの核となる要素を短時間で抽出したい場合に、非常に強力なアシスタントとなります。
ChatGPTやCopilotのような汎用AIツールは、既存の文章やアイデアの清書や体裁整備を効率化します。しかし、戦略的な意思決定を支える真に価値ある資料において、最も時間と専門性を要求されるのは、「分析」のプロセス、すなわち膨大なデータからビジネス上の示唆(インサイト)を導き出す「文章を書く前段階」にあります。
AIの根源的な強みは、人間では処理しきれない規模のデータセットから、特定のパターンや相関関係を高速で見つけ出す能力にあります。この能力は、単なる文章の要約ではなく、生のビジネスデータを分析し、新たなインサイトを生成する領域で真価を発揮します。
例えば、新規出店計画レポートでは、成功確度の高い意思決定のために、候補地の人口動態、昼夜間人口比率、所得水準、消費支出の傾向、競合店の分布といった、多岐にわたる複雑なデータ分析が必要です。これらの分析には専門的な知識と時間が必要であり、汎用的なAIツールでは対応できません。
ビジネスにおける情報活用のプロセスは、「生データ → 分析 → 示唆(インサイト)→ 物語化(レポート)→ 意思決定」という価値連鎖で捉えられます。汎用AIツールが効率化するのは主に「物語化」のステップですが、真に価値を生み出すのは「分析」と「示唆」のステップです。この最も困難で重要な部分を自動化することこそ、AI活用の次なるフロンティアと言えるでしょう。
この「分析と示唆の自動生成」を、エリアマーケティングの領域で実現するのが、私たち技研商事インターナショナルが提供する地図情報システム(GIS)「MarketAnalyzer® 5」です。
MarketAnalyzer® 5は、地図上に人口や世帯、消費などの統計データを重ね合わせ、店舗の出店計画や販促戦略の立案を支援する専門ツールです。その強力なオプション機能が「商圏レポートAI」です。
この機能は、単にデータをExcelに出力するだけではありません。指定した地点の商圏データをAIが多角的に分析し、そのエリアが持つ特性やポテンシャルについて、解説テキストやサマリーを自動で生成します。これにより、データ分析の専門家でなくても、誰でも迅速かつ正確にエリアの特性を把握することが可能になります。
商圏レポートAIは、以下の7つの軸でエリアを深く読み解きます。
分析軸 |
主な内容 |
ビジネス上の示唆 |
1. サマリー |
AIによる総合的なエリア評価の要約 |
エリアのポテンシャルと課題を瞬時に把握できる |
2. 世代別、将来人口 |
年齢構成、人口推移 |
ターゲット顧客層のボリュームと将来性を特定できる |
3. 世帯・住居・年収 |
世帯人員、住宅所有、世帯年収 |
価格戦略や商品構成(MD)の決定に役立つ |
4. 消費支出 |
品目別消費支出データ |
地域の需要が高い商品・サービスを特定できる |
5. 昼間特性 |
昼間人口、従業者・学生数 |
ランチ需要や通勤・通学途中の消費機会を評価できる |
6. 商業性 |
商業集積度、業種別事業所数 |
競合環境とエリアの商業的魅力を分析できる |
7. ベッドタウン性 |
昼夜間人口比率、昼間の人口特性 |
より詳細な顧客プロファイリングと販促施策を立案できる |
AIの導入は大きなメリットをもたらす一方で、いくつかの重要なリスクを伴います。これらのリスクを理解し、適切に管理することが、持続的なAI活用の鍵となります。
無料や個人向けのAIサービスに、企業の機密情報、顧客データ、個人情報などを入力することは絶対に避けるべきです。入力したデータがAIの学習に使用され、意図せず外部に漏洩するリスクがあります。法人利用の際は、入力データを学習に使用しない設定(オプトアウト)が可能なサービスや、セキュリティが担保された法人向けプランを選択することが不可欠です。
AIが生成した文章や画像が、既存の著作物と偶然、あるいは学習データの影響で酷似してしまう可能性があります。注意すべきは、万が一著作権侵害と判断された場合、その責任はAIの開発元ではなく、生成物を利用したユーザー自身が負うことになるという点です。
文化庁のガイドラインでは、生成物に既存の著作物との「類似性」と「依拠性」が認められる場合、著作権侵害にあたる可能性があるとされています。AIが生成したコンテンツはあくまで「下書き」や「たたき台」と位置づけ、必ず人間の手で大幅な編集や修正を加え、独自の創作性を付与することがリスク回避の基本です。
生成AIは、事実に基づかない、もっともらしい嘘の情報を生成することがあります。これを「ハルシネーション」と呼びます。
AIが提示した数値、データ、固有名詞などは決して鵜呑みにせず、必ず一次情報や信頼できる情報源にあたってファクトチェックを行うことが極めて重要です。
これらのリスクに対応するため、企業は社内でのAI利用に関する明確なガイドラインを策定し、従業員への教育を徹底することが求められます。AIを安全かつ倫理的に活用するためのガバナンス体制を構築することは、法的・風評リスクを防ぎ、顧客や社会からの信頼を獲得し、長期的な競争優位性を築くための戦略的投資となります。
生成AIの登場により、資料作成のあり方は根底から変わりつつあります。これまで多くの時間を費やしてきた構成案の作成、文章の執筆、デザインの調整といった作業は、AIの支援によって劇的に効率化され、品質も向上します。
重要なのは、自社の目的を明確にし、それに最適なツールを選択することです。
• 文章作成やデザインといった「表現」の効率化が目的なら、ChatGPT、Microsoft Copilot、Canva AIといった汎用的なツールが強力な味方になります。
• 一方で、データに基づいた戦略的なレポート作成、特に「分析と示唆」の自動化が目的であれば、専門領域に特化したAIツールが必要不可欠です。
小売、不動産、メーカー、金融など、地域戦略がビジネスの成否を分ける業界において、客観的なデータに基づいた高精度な商圏分析レポートを迅速に作成したい。そのようなニーズに対しては、私たちの「MarketAnalyzer® 5」と「商圏レポートAI」が唯一無二のソリューションを提供します。
資料作成の未来は、単なる効率化の先にあります。AIを賢く活用し、データから価値あるインサイトを引き出し、より質の高い意思決定へと繋げていく。その一歩を、ぜひ最適なツールと共に踏み出してください。
監修者プロフィール市川 史祥技研商事インターナショナル株式会社 執行役員 マーケティング部 部長 シニアコンサルタント |
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医療経営士/介護福祉経営士 流通経済大学客員講師/共栄大学客員講師 一般社団法人LBMA Japan 理事 Google AI Essentials Google Prompt Essentials 1972年東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。不動産業、出版社を経て2002年より技研商事インターナショナルに所属。 小売・飲食・メーカー・サービス業などのクライアントへGIS(地図情報システム)の運用支援・エリアマーケティング支援を行っている。わかりやすいセミナーが定評。年間講演実績90回以上。 |
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