エリアマーケティングラボ

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~業界の最新動向~

商業施設・ショッピングモール出店のメリットや方法を解説

2021年11月11日号(Vol.104)
※2025年5月13日更新

はじめに

ショッピングモールへの出店は、多くの事業者にとって魅力的な選択肢の一つです。高い集客力やブランドイメージの向上が期待できる一方で、費用や運営上の制約も考慮しなければなりません。
この記事では、ショッピングモールへの出店を検討している経営者や個人事業主の皆様に向けて、出店のメリット・デメリット、必要な費用や手順、GPS位置情報を活用した新規出店前のエリア分析手法を具体的にご紹介します。


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ショッピングモール出店のメリット・デメリット

メリット

ショッピングモールに出店する最大のメリットは、その圧倒的な集客力です。平日・休日を問わず多くの人が訪れるため、自店舗を知ってもらう機会が格段に増えます。特に、週末や祝日、セール期間中などは、普段路面店ではリーチできないような広範囲からの集客も期待できるでしょう。

また、有名ショッピングモールへの出店は、それ自体が企業のブランドイメージ向上につながります。「あのモールに入っているお店」というだけで、顧客からの信頼感や安心感を得やすくなるのです。さらに、モール内には様々な業種のテナントが出店しているため、他の店舗を目的に来た顧客が偶然自店舗を発見し、新たな顧客となる「シャワー効果」や、顧客がモール内を回遊することによる来店機会の増加も期待できます。


デメリット

一方で、ショッピングモール出店のデメリットとしてまず挙げられるのが、高額な賃料です。一般的に、路面店と比較して賃料が高く設定されており、固定賃料に加えて売上の一部を支払う「売上歩合制(ロイヤリティ)」が採用されているケースも少なくありません。この売上歩合の料率は、業種やブランド力によって異なります。

さらに、賃料以外にも共益費や駐車場代、モール全体のプロモーション費用を分担する販促費などが別途かかることが一般的です。これらの商業施設出店に伴う費用は、事前にしっかりと確認しておく必要があります。
運営面では、営業時間の制約や定休日の指定、内装デザインの規定、販促活動の制限など、ショッピングモール独自のルールに従う必要があります。
自由な店舗運営を重視する場合には、これらの制約がデメリットとなる可能性も考慮しましょう。また、同じモール内に競合するテナントが出店している場合は、競争が激化することも念頭に置く必要があります。



ショッピングモール出店費用の目安と内訳

ショッピングモールへの出店を具体的に検討する上で、最も気になるのが費用面ではないでしょうか。ここでは、出店に必要な初期費用と月額費用の目安、そして費用を抑えるためのポイントについて解説します。

初期費用の主な項目と相場感

初期費用として発生しうる項目と相場感を整理すると、以下のようになります。あくまで目安ではありますが、相場感を知っておくと計画を立てやすくなるでしょう。

初期費用の主な項目と相場感を表にしたもの


月額費用の構成 固定費と変動費

開店後、毎月発生する費用についても把握しておく必要があります。月額費用は主に固定費と変動費に分けられます。

月額費用の構成 固定費と変動費



ショッピングモール出店までの手順

ショッピングモールへの出店は、路面店とは異なるプロセスが必要です。ここでは、情報収集から開店準備までの大まかな流れと、特に重要なポイントを解説します。

ステップ1:情報収集から契約

1.出店候補のリストアップと情報収集
まず、自社の業態やターゲット顧客に合ったショッピングモールをリストアップします。各モールのウェブサイトを確認したり、デベロッパー(商業施設開発業者)が開催する出店説明会に参加したりして情報を集めましょう。
  ⇩
2.デベロッパーへの問い合わせ・条件確認
関心のあるモールが見つかったら、デベロッパーに問い合わせて、出店条件(空き区画、賃料、契約期間など)を確認します。
  ⇩
3.物件の内覧
実際に空き区画やモール全体の雰囲気、客層などを自分の目で確かめます。
  ⇩
4.出店申込・事業計画書の提出
出店を決めたら、申込書と合わせて事業計画書を提出します。
  ⇩
5.審査
デベロッパーによる審査が行われます。事業内容の魅力や収益性、モール全体のコンセプトとの整合性などが評価されます。
  ⇩
6.条件交渉
審査を通過したら、賃料や契約期間などの具体的な条件について交渉を行います。
  ⇩
7.契約締結
双方が合意に至れば、賃貸借契約を締結します。

情報収集


ステップ2:事業計画書作成と審査

ショッピングモールの出店審査では、事業計画書が非常に重要な役割を果たします。以下のポイントを押さえて、魅力的な事業計画書を作成しましょう。

• 事業コンセプトとターゲット顧客の明確化:どのようなお店で、誰に何を提供したいのかを具体的に示します。
• 商品・サービス内容と価格設定の妥当性:提供する商品やサービスの特徴、競争力、価格設定の根拠を説明します。
• 売上予測と収支計画の具体性:現実的かつ具体的な売上予測と、それに基づいた収支計画を提示します。
• 競合分析と自社の強みのアピール:周辺の競合状況を分析し、その中で自社がどのように差別化を図り、顧客に選ばれるのかを明確にします。
• モール側が重視する点への配慮:ショッピングモール側は、単に収益性が高いだけでなく、モール全体の集客力向上や話題性、ブランドイメージへの貢献、長期的な安定経営などを期待しています。これらの視点も盛り込むことが重要です。

審査のイメージ


ステップ3:開店準備 内装工事とスタッフ採用

契約締結後は、いよいよ開店に向けた準備が始まります。以下のような手順が発生します。

• 内装設計・施工業者の選定: モールの規定やブランドイメージに合う内装デザインを決定し信頼できる施工業者を選定します。
• モール側の内装監理室との調整: 内装工事を進めるにあたっては、ショッピングモール側の内装監理室と密に連携を取り、承認を得ながら進める必要があります。
• 各種許認可申請: 飲食店であれば飲食店営業許可、その他業種に応じて必要な許認可を取得します。
• スタッフの募集・採用・研修: 店舗運営に必要なスタッフを募集し、採用、そしてオープンに向けた研修を行います。
• 商品の仕入れ・搬入・陳列: 販売する商品を仕入れ、店舗へ搬入し、魅力的なディスプレイを行います。
• 開店前の販促活動: オープン日を告知し、集客のためのプロモーション活動を展開します。

内装工事



失敗しない商業施設選びのために

「ショッピングモール」と一口に言っても、その規模や特性は様々です。また、類似した商業施設として「ショッピングセンター(SC)」などもあります。ここでは、主要な商業施設タイプの特徴と、自社に最適な施設を選ぶためのポイントを解説します。

主要商業施設タイプごとの特徴と顧客層

ショッピングモール
一般的に大規模で、広域からの集客を目的としています。百貨店やスーパーマーケットを核テナントとし、多数の専門店、飲食店、映画館などのアミューズメント施設を備えていることが多いです。主な顧客層はファミリー層や若者層で、休日のレジャー目的での利用も多く見られます。

ショッピングセンター(SC)
地域住民の日常生活を支えることを目的とした施設が多く、スーパーマーケットやドラッグストア、衣料品店など、生活必需品を扱うテナントが中心となる傾向があります。ショッピングセンター出店は、より地域に根差したビジネス展開を考える場合に適しています。

百貨店
都市部の駅前などに立地し、比較的高級な商品やサービスを提供するテナントが多く入居しています。主な顧客層は富裕層や中高年層で、贈答品や特別な日の買い物での利用が多いです。百貨店出店費用は、一般的にショッピングモールよりも高額になる傾向があります。

駅ビル・駅ナカ
駅に直結または隣接しており、通勤・通学客や旅行者など、駅利用者を主なターゲットとしています。利便性の高い商品やサービスを提供する店舗が多いのが特徴です。

アウトレットモール
有名ブランドの商品を割引価格で提供する店舗が集まった商業施設です。特定のブランドやお得な買い物を求める顧客層が広域から訪れます。


自社に最適な施設の選定方法

自社にとって最適な商業施設を選ぶためには、以下の点を総合的に検討することが重要です。

自社の業種・ターゲット顧客と施設の特性のマッチング
まず、自社のビジネスモデルやターゲットとする顧客層が、施設のコンセプトや主な来客層と合致しているかを確認します。

商圏分析
施設の立地するエリアの人口構成、年齢層、所得水準、ライフスタイル、そして競合店の状況などを詳しく調査します。
商圏分析はチェーンストアやBtoC企業での新規店舗の出店や既存店舗の売上拡大だけでなく、広告戦略や都市開発戦略、店舗マーケティングにも欠かせないものです。
出店候補地選定に欠かせない商圏分析とは?のコラム遷移バナー

施設の集客力・テナント構成・賃料水準の比較検討
候補となる複数の施設について、集客力(平日・休日の来客数など)、入居している他のテナントの魅力、そして賃料やその他の費用を比較検討します。

現地調査
実際に施設を訪問し、平日の状況、休日の混雑具合、顧客の雰囲気、従業員の接客態度などを自分の目で確かめることが非常に重要です。


【事例】実際の商業施設を例に、出店計画を立てる際の分析手法を紹介

日本に存在する商業施設では、ショッピングモールよりも、定義上はショッピングセンターに分類される施設の方が圧倒的に多いです。今回は関西にある以下のショッピングセンターを例に、位置情報データを活用した出店計画時の分析事例を解説します。 ・イオンモール川口(2021年6月オープン) ・イオンモール川口前川(2000年11月オープン) ・アリオ川口(2005年11月オープン)

ステップ1:3つのショッピングセンター(SC)の商圏構造を知る

今回は下記3つのショッピングセンターを例に、分析をしていきます。
 ・イオンモール川口(2021年6月オープン)
・イオンモール川口前川(2000年11月オープン)
・アリオ川口(2005年11月オープン)


様々なデータを地図上に可視化し、分かりやすいレポートを出力できるGIS(地図情報システム)MarketAnalyzer® 5を用いて、それぞれの店舗の商圏データで比較していきましょう。今回は足元を見るということで、商圏は半径1㎞に設定しました。

「イオンモール川口(新店)」半径1km圏内の商圏レポート


右上のグラフにある折れ線は年代別の構成比の比較で、緑が全国、赤が埼玉県、青がこの商圏です。他の色の線と比べはみ出している所が特徴といえます。小中学生と40~50代の親世代の所がはみ出しており、成熟しているファミリー層が足元に住んでいる立地と言えます。

右下の棒グラフは家族構成を示しており、埼玉県や全国と比較すると単身層はそんなに多くないことが分かるので、やはりファミリー層が多いと解釈できます。

「イオンモール川口前川」半径1km圏内の商圏レポート


右上の青い折れ線グラフを見ると、20代若者が飛び出しており、親世代となる40~50代、超高齢層が高く出ています。こちらに住む人も成熟していますが、イオンモール川口と異なるのは20代が多いという点。右下の棒グラフで単身世帯も多いことが見て取れます。

「アリオ川口」半径1km圏内の商圏レポート


右上の青い折れ線グラフを見ると、20代後半~40代男女とその子供世代となる0~4歳が突出しておりニューファミリー構造を描いています。また、単身層の比率も高く、高齢者は少ないため、シニア立地ではないことが見て取れます。

このように、場所が違うと商圏構造も異なります。
同じ基準で、同じデータで見ていくと違いが良く分かりますし、違いに応じた施策が考えていけるようになります。

商圏レポートAIトライアルCTA

ここまでは、性・年代と家族構成というシンプルな項目で見ていきましたが、これだけでは商圏を理解したとは言えません。
近年エリアマーケティングで使えるデータは進化しており、いろんな側面から分析することができます。
その一つが位置情報データ。次の章では、スマートフォンのGPS位置情報を活用して来訪者の属性や傾向、居住地等を分析できる人流分析ツール「KDDI Location Analyzer」を用いて、3店舗の客層、客足の違いや、イオン川口(新店)が出来たことで、このエリアの3店舗の実商圏、集客力がどう変化したかを見ていきます。


ステップ2:位置情報の活用で店舗来訪者の傾向を知る

KDDI Location Analyzerの「3地点来訪者属性分析」で、各店舗にどんな人が来ているかを見ていきます。2021年6月8日~7月7日、10時~20時、15分以上滞在という条件で、来訪者の属性を分析したものがこちらです。


3店舗の来訪者分析(年代別)


3店舗を比較すると、イオンモール川口は20代、30代の割合が多く、若者の獲得に成功しているといえます。

時間帯別や時系列で来訪者の傾向を見ることもできます。

3店舗の来訪者分析(時間帯別)


各施設ともピークの時間帯とその「山」が微妙に異なります。
また、イオンモール川口がオープンしてからしばらくの来訪者数の推移がこちらです。

2021年4月1日~7月17日/3店舗の来訪者推移


上記の来訪者推移を、曜日差をならした7日間の移動平均で見てみると、オープン直後の盛り上がりと落ち着き度合いが、よりよく見えてきます。




このように、位置情報データを活用することで、自社店舗だけでなく競合店舗の客足や客層、集客状況などが可視化できるようになります。


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ステップ3:競合店舗の影響を加味して勢力図を予測する

新規出店をする場合、周囲の競合店舗の影響を加味した「グラビティモデル(ハフモデル)分析」をすることで、よりリアルな売上・集客予測ができます。MarketAnalyzer® 5 でも、モデル作成時にトライ・アンド・エラーがしやすい「グラビティモデル機能」が搭載されています。その機能を使い、各店舗の勢力分布がイオン川口の出店前後でどう変化するかを見ていきます。

グラビティモデル分析結果(ハフモデル分析結果)【出店前】


上記が、イオンモール川口出店前の勢力分布です。各店舗への吸引率を町丁目単位で色塗りしたものです。黄色はイオンモール川口前川への吸引が高いエリア、水色のエリアはアリオ川口への吸引が高いエリアで、その色が濃いほど吸引率が高いということを表します。

グラビティモデル分析結果(ハフモデル分析結果)【出店後】


出店後のシミュレーションがこちら。赤いエリアがイオンモール川口への吸引率が高いことを示しています。

出店前後の獲得想定人口と商圏内吸引率

町丁目単位で各店舗への吸引率が計算されているので各町丁目の人口に掛け合わせて商圏単位で合計したものが下記表です。

このように、出店前後で獲得想定の人口や吸引率を可視化できます。
出店候補地をいくつか設定し分析することで、自社店舗の吸引率の高いエリアの選定に活用いただけます。


ステップ4:実際の勢力図はどうだったのか?

ここまではMarketAnalyzer® 5 を用いてイオンモール川口出店後の勢力図をシミュレートしたものですが、実際の勢力図はどうだったのか、KDDI Location Analyzerを用いて実際の答え合わせをしてみましょう。


位置情報による各店舗への来訪者居住地分布【出店前】

下の図はイオンモール川口(緑色のピン)が出店する前の状態です。
イオンモール川口オープン前の来訪者分布(2021年4月24日~5月23日)


位置情報による各店舗への来訪者居住地分布【出店後】

イオンモール川口が出店した後の各店舗への来訪者居住地分布は以下の通りです。
イオンモール川口オープン後の来訪者分布(2021年6月8日~7月7日)


理論と実践の比較

先程のグラビティモデル(シミュレーション)と位置情報による正解データを比較してみます。いわば理論と実践の比較です。


赤い枠が大体同じエリアですが、視覚的には同じ様子です。


より詳しく見ていくと、MarketAnalyzer® 5 で予測した吸引エリアと、KDDI Location Analyzerで分析した実際の吸引結果を、エリア単位で比較することも可能です。



赤い点線で囲ったエリアは、吸引率が高い、つまりポテンシャルが高いと理論づけられているものの、実際には吸引結果が低いと出ている所です。理論と実践のギャップをデータで把握することで、販促重点エリアの策定などに活用できます。

このように、様々な角度で商圏を分析・把握することで、今の店舗に足りていない施策は何か、効率よく実施するにはどうすればよいか、など多くの知見が得られます


位置情報データ活用事例資料のCTA

まとめ

ショッピングモールへの出店は、集客力やブランドイメージ向上といった大きなメリットが期待できる一方で、高額な費用や運営上の制約も伴います。成功のためには、事前の十分な情報収集と計画、そして慎重な判断が不可欠です。
本記事で解説した、ショッピングモール出店のメリット・デメリット、出店費用の目安と内訳、出店の全ステップと準備、商業施設選びのポイント、そして成功事例と契約時の注意点を参考にしてみてください。
まずは、関心のあるショッピングモールの情報を集めることから始めてみましょう。そして、必要に応じて専門家のアドバイスも活用しながら、最適な出店計画を立てていくことをお勧めします。

弊社では、今回の分析に活用したKDDI Location Analyzerの無料トライアルを受け付けております。

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監修者プロフィール

市川 史祥
技研商事インターナショナル株式会社
執行役員 マーケティング部 部長 シニアコンサルタント
医療経営士/介護福祉経営士
流通経済大学客員講師/共栄大学客員講師
一般社団法人LBMA Japan 理事

1972年東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。不動産業、出版社を経て2002年より技研商事インターナショナルに所属。 小売・飲食・メーカー・サービス業などのクライアントへGIS(地図情報システム)の運用支援・エリアマーケティング支援を行っている。わかりやすいセミナーが定評。年間講演実績90回以上。


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