最新の自動車保有台数(時系列とエリア別)と
エリアマーケティング
2025年11月19日号(Vol.193)
「日本の自動車市場の規模を正確に把握したい」
「事業計画や研究レポートに使える、信頼できるデータが欲しい」
企業のマーケティング担当者や研究者の方にとって、日本の自動車保有台数は、市場動向や地域経済を分析する上で欠かせない基礎データです。しかし、この保有台数のデータは単なる数字の羅列ではありません。人々のライフスタイルの変化や社会の高齢化を映し出す鏡であり、特に小売業や飲食業の商圏分析において、店舗への来店手段やターゲット層の再定義を迫る重要な指標となっています。
本コラムでは自動車保有台数の最新データからマクロ的な傾向の分析から、商圏分析・エリアマーケティング軸での活用例までご紹介します。
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\自動車・カー用品販売予測、ディーラー店舗配置計画に!/
日本の最新自動車保有台数:8,270万台の実態
まず、日本の自動車市場の「今」を正確に捉えましょう。
なお、このコラムで紹介している保有台数のデータは、一般財団法人 自動車検査登録情報協会(自検協)が公表している統計に基づいており、国土交通省の登録ファイルに記録された、公道を走行するほぼ全ての自動車を網羅した非常に信頼性の高いデータです。
総保有台数と車種別の内訳
2025年3月末時点での日本の自動車総保有台数は、約8,270万台です。これは、四輪車と二輪車を合わせた数値であり、日本の社会に自動車がいかに深く浸透しているかを示しています。
このうち、私たちの生活に身近な乗用車が全体の約75%を占めます。
特に注目すべきは、乗用車のうち軽四輪車の割合が約38%に達している点です。維持費の安さや運転のしやすさから、地方部を中心に根強い人気を誇っていることがうかがえます。
自動車保有台数の長期推移と社会構造の変化
自動車保有台数の時系列推移
日本の自動車保有台数は、2020年から2025年にかけて緩やかながら増加を続け、約8,185万台から8,270万台へと微増しました。
人口減少が続く日本においても、自動車の保有が維持されている背景には、地方を中心とした生活必需品としての需要の強さや、コロナ禍以降の公共交通からマイカーへのシフトなどが影響していると考えられます。特に注目されるのは、乗用車全体の台数がほぼ横ばいで推移している一方、内訳では明確な構造変化が進んでいる点です。
貨物車は、EC市場の拡大やラストワンマイル配送の増加を背景に、着実に台数を伸ばしています。2020年から2025年にかけて約3.8%増加しており、物流の成長が自動車需要を下支えしていることが読み取れます。
二輪車も緩やかな増加基調にあり、若年層を中心に一時は減少傾向にあったものの、コロナ禍をきっかけに「密を避けた移動手段」として再評価されたことや、eバイクなど新たなモビリティの登場も追い風となっています。
乗用車と軽四輪車の時系列比較
乗用車全体は微減傾向にありますが、その中で軽四輪車だけは一貫して増加しており、この5年間で約40万台以上、約11%も増えています。指数で比較すると、2020年を1とした場合に2025年には1.0376となり、乗用車全体が1をわずかに下回る中で、軽自動車だけが右肩上がりを続けていることがわかります。
この傾向には、車の維持費を抑えたいという家計防衛意識の高まり、燃費と税制面での軽自動車の優位性、地方での二台持ち需要、そしてコロナ禍後の「一人で移動する手段」へのニーズ増加などが関係しているとみられます。普通乗用車(登録車)が確実に減少し、その減少分を軽自動車が補っていると言えます。
こうした動きを総合すると、日本の自動車市場では「縮小」ではなく「構造変化」が起きていることが明確です。
乗用車市場は全体として横ばいですが、その中身は「普通車から軽自動車へ」というシフトが進行し、物流需要の拡大に伴って貨物車が増加し、個人モビリティの多様化によって二輪車も復調しつつあります。
つまり、自動車の総保有台数は大きくは増えないものの、車の使われ方や選ばれ方が大きく変わっており、生活様式や産業構造の変化がそのままデータに表れているのです。
自動車保有台数と社会構造の変化
日本の自動車保有台数は、過去どのように変化し、現在の減少傾向はどのような要因で引き起こされているのでしょうか。
高度経済成長期から頭打ちへ
日本の自動車保有台数は、高度経済成長期以降、一貫して増加を続けてきましたが、2010年代後半からその伸びが鈍化し、近年は頭打ちの状態です。
1970年代から2000年代にかけて、日本のモータリゼーションは急速に進展し、四輪車保有台数は1970年の約1,770万台から2000年には約7,360万台へと大きく増加しました。しかし、2000年代後半からは伸びが緩やかになり、ついに近年は減少に転じる年も見られるようになりました。
軽自動車の躍進
長期的な推移を車種別に見ると、特に軽自動車(四輪)の躍進は目覚ましく、保有台数全体に占める割合が年々高まっています。
1975年に約10%だった軽自動車の乗用車に占める割合は、2025年には約37%を占めるに至っています。これは、税制上のメリットや燃費性能の向上、室内空間の拡大といった商品力の向上が、消費者のニーズを的確に捉えた結果と言えるでしょう。
保有台数頭打ちの要因
自動車保有台数の推移は、その時々の社会・経済状況を映す鏡です。平成以降、保有台数の伸びが頭打ちになった背景には、複合的な要因があります。
人口減少と少子高齢化
自動車の主要な購入層である生産年齢人口が減少しているほか、高齢者の運転免許返納も増加傾向にあり、長期的に保有台数を押し下げる最大の要因となっています。
若者の車離れ
都市部を中心に、趣味趣向の選択肢が増えたこと、公共交通機関の利用やカーシェアリングなど、「所有しない」ライフスタイルが広がり、自動車保有が必ずしもステータスではなくなっています。
経済の停滞
車両価格の上昇や維持費の負担が、新規購入や買い替えのハードルを上げています。
都道府県別の保有台数とエリアマーケティングの視点
全国で約8,269万台ある自動車の分布は、地域によって大きく異なります。単に「台数」が多い地域だけでなく、「普及率」という視点を持つことが、エリアマーケティングにおいて不可欠です。
自動車保有台数(総数)ランキング
自動車保有台数が最も多いのは愛知県で、約538万台です。人口が多く、自動車産業の中心地でもある大都市圏やその周辺地域が上位を占める傾向にあります。東京都は人口が最も多いですが、公共交通機関が発達しているため、保有台数では2位となっています。保有台数が最も少ないのは鳥取県で、約47万台でした。保有台数の少なさが必ずしも「車が不要な地域」を意味しない点に注意が必要です。
▶ 全ての都道府県別自動車保有台数と世帯当たりの台数はこちら
1世帯あたりの保有台数が最も多い福井県や富山県は、公共交通機関が都市部ほど発達しておらず、通勤や買い物など日常生活の移動に自動車が不可欠な「クルマ社会」が形成されている地域です。
一方で、東京都は最も少なく、大阪府、神奈川県が続きます。これらの大都市では、鉄道やバスなどの公共交通網が充実しているため、車を所有しなくても生活できる環境が整っています。
今後の自動車保有台数と市場トレンド
日本の自動車保有台数は、これからどのように変化していくのでしょうか。未来を予測する上で重要な3つのトレンドを解説します。
1. 人口動態の影響
日本の総人口はすでに減少に転じており、これが自動車市場に与える影響は避けられません。特に、自動車の主な購入・利用者である生産年齢人口(15~64歳)の減少は、長期的に保有台数を押し下げる最大の要因となります。
また、高齢ドライバーによる事故の増加を背景に、運転免許証の自主返納が年々増加しています。これにより、高齢者層の保有台数も将来的には減少に転じる可能性が高いでしょう。
2. EV(電気自動車)シフトの影響
世界的な脱炭素の流れを受け、日本でもEV(電気自動車)へのシフトが進んでいます。政府は2035年までに乗用車新車販売で電動車100%を実現する目標を掲げています。
ただし、EVへの買い替えは、あくまで既存のガソリン車などからの「代替」が中心です。そのため、EVシフト自体が保有台数の総数を大きく増減させる要因にはなりにくいと考えられます。むしろ、保有されている自動車の「中身」を大きく変えるトレンドとして注目すべきです。
3. カーシェアリングの普及
都市部を中心に、「所有から利用へ」という価値観の変化を象徴するのがカーシェアリングの普及です。必要な時だけ車を利用できる手軽さや経済合理性から、若者を中心に利用者が増加しています。
カーシェアリング1台あたりの稼働率は自家用車よりも格段に高いため、カーシェアが普及すればするほど、社会全体で必要な自動車の総数は減少する可能性があります。特に、公共交通が便利な都市部では、この動きが保有台数の減少を加速させる一因となるでしょう。
自動車保有データを用いたエリアマーケティング活用事例
自動車保有台数データは、一般財団法人自動車検査登録情報協会(自検協)と軽自動車検査協会のデータを基に小地域単位で提供する商圏分析用データベースです。
保有台数(国産車・輸入車・軽自動車台数)、車種別・メーカー別、燃料別・初年度登録年別、業態別(自家用/事業用)、ハイブリッド有無の項目を全国の500mメッシュや町丁目単位で収録しています。
1. 商圏レポート自動作成
当社の商圏分析用GIS(地図情報システム)「MarketAnalyzer®5」や「MarketAnalyzer® Satellite」では、全国任意の地点の任意の範囲(商圏)を設定すれば、商圏内のレポートを自動的に作成することができます。自動車保有台数データもレポートに対応しており、以下の項目を把握することができます。
自動車メーカーでの販売店支援、自動車ディーラーの店舗戦略、カー用品チェーンの販促戦略など、自動車関連業界はもちろん、店舗の駐車場需要の分析など幅広い用途で活用いただいております。
2. 生活者のライフスタイル、ペルソナ像を把握
商圏分析・エリアマーケティングでは、店舗の商圏内単位、地域ごとに生活者のライフスタイルやペルソナ像を把握するニーズが多くあります。
そんな際に活躍するのがエリアセグメンテーションデータです。これは町丁目単位で年代、家族構成、住宅関係、職業、年収などのデモグラフィック変数やソシオグラフィック変数を読み解くものです。代表的なデータベースに「c-japan® Home」
があります。自動車保有という軸もライフスタイルに大きく関連しており、所有する自動車によってターゲットのペルソナ像の理解を深めるのに役立ちます。
例えば「B1:都市部のニューファミリー」というエリアでは、ホンダ/日産/フォルクスワーゲンの保有傾向が他のエリアセグメントよりも多いということがわかります。
まとめ:データに基づいた精度の高い市場分析を
今回は、日本の自動車保有台数について、最新データから長期的な推移、地域差、そしてエリアマーケティング事例までを網羅的に解説しました。
• 最新の総保有台数2023年3月末時点で約8,245万台。近年は横ばいから微増傾向にあります。
• 全体的には微増であっても、乗用車は減り、軽自動車が増えるといった構造変化が見られる。
• 高度経済成長期から増加を続けたが、人口減少や若者の車離れを背景に、今後は減少局面に移行する可能性が高い。
• 保有「台数」は愛知や埼玉など大都市圏が多いが、1世帯あたりの「普及率」は福井や富山など地方の車社会で高い。
• ビジネスへの活用: 商圏分析・エリアマーケティングでは、自動車メーカーでの販売店支援、自動車ディーラーの店舗戦略、カー用品チェーンの販促戦略など、様々な用途で活用されている。
自動車保有台数は、その背景にある経済や社会のダイナミックな変化を読み解くための重要な鍵となります。
この複雑なデータを、地域特性や居住者のライフスタイルと結びつけて分析するためには、GIS(地図情報システム)を活用した商圏分析が有効です。MarketAnalyzer® 5のようなツールは、自動車保有台数データはもちろん、居住者の特性(エリアセグメンテーションデータ)や顧客データを取り込み、それらを地図上に分かりやすく可視化することで、精度の高いエリアマーケティング戦略の策定を支援します。
このデータや考察が、あなたのビジネスや研究の一助となれば幸いです。
\自動車・カー用品販売予測、ディーラー店舗配置計画に!/
監修者プロフィール
市川 史祥
技研商事インターナショナル株式会社
執行役員 マーケティング部 部長 シニアコンサルタント
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医療経営士/介護福祉経営士 流通経済大学客員講師/共栄大学客員講師 一般社団法人LBMA Japan 理事 Google AI Essentials Google Prompt Essentials
1972年東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。不動産業、出版社を経て2002年より技研商事インターナショナルに所属。 小売・飲食・メーカー・サービス業などのクライアントへGIS(地図情報システム)の運用支援・エリアマーケティング支援を行っている。わかりやすいセミナーが定評。年間講演実績90回以上。 |
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