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ハフモデルで競合を可視化|データに基づいた高度な店舗開発戦略

2026/03/31

コラムカバー

店舗開発において、候補地周辺の「商圏人口」を把握することは最も基本的なプロセスです。しかし、人口データのみで出店ポテンシャルを判断することには、大きなリスクが伴います。

成熟市場である現在の日本では、有力な候補地の周辺には必ずと言っていいほど競合店が存在します。ターゲット人口が多くても、競合とパイを奪い合えば、自社が獲得できるシェアは相対的に低下してしまいます。

商圏人口という「需要」のみに着目し、競合という「供給」の影響を無視した売上予測は、投資回収の失敗を招きかねません。そこで不可欠となるのが、競合の影響を数値化する「ハフモデル」です。本記事では、ハフモデルの基礎から、最新のGIS(地図情報システム)やAIを用いた活用法まで詳しく解説します。





ハフモデルとは?言葉の定義と歴史

ハフモデルの基本定義

ハフモデル概念

ハフモデルとは、消費者が特定の店舗を選択する「確率」を算出する理論です。従来の分析が「半径〇km圏内」といった物理的な境界を引くものだったのに対し、ハフモデルは「このエリアの住民がA店に行く確率は40%」といった「確率論」の視点で市場を捉えます。


デビッド・ハフ教授による提唱と歴史

この理論は、1960年代にアメリカの経済学者デビッド・ハフ博士によって考案されました。物理学の「万有引力の法則」を経済学に応用したもので、「消費者は魅力度が高い店舗(引力が強い店)に引き寄せられるが、距離が遠くなるほどその引力は弱まる」という考えに基づいています。


日本における「修正ハフモデル」への発展

日本には1980年代に導入されました。当時の通商産業省(現:経済産業省)が、大規模小売店舗法に基づく出店審査の客観的な基準として採用したことがきっかけです。この際、日本の複雑な都市構造に合わせて、計算式や変数の定義を微調整した「修正ハフモデル」へと発展しました。



ハフモデルの計算ロジック:「魅力」と「距離」

計算式の仕組みを分かりやすく解説

ハフモデル図解

ハフモデルの基本的な考え方は非常にシンプルです。ある地点の消費者がその店舗を選択する確率(吸引率)は、以下の概念で計算されます。

ここで「S」は店舗の「魅力度(店舗の属性値)」、「D」はそこまでの「距離」、そして「λ(ラムダ)」は「距離抵抗係数」を表します。分母は商圏内にある全店舗の(魅力÷距離)の合計であり、その中で自社の店舗が占める割合が「吸引率」となります。


店舗の「魅力」をどう定義するか(売場面積、ブランド力等)

伝統的には「売場面積」が魅力度の指標とされてきました。面積が広いほど品揃えが豊富で、顧客を惹きつける力が強いと考えるためです。しかし、現在はそれだけでは不十分です。

● 量的変数: 駐車場の収容台数、営業時間など
● 質的変数: ブランド力、接客サービス、利便性など

例えば、コンビニ業界ではブランドごとに日販(1日当たりの売上高)が大きく異なることがありますが、これを魅力値の係数として反映させることで、より実態に近い予測が可能になります。


距離抵抗係数(λ:ラムダ)の考え方

移動に対する負担感を表すのが「距離抵抗係数(λ:ラムダ)」です。これは扱う商品によって異なります。

● 最寄り品(タバコ、牛乳など): 距離抵抗が非常に高く(λが大きい)、わずかな距離の差で最も近い店舗が選ばれます。
● 買回り品(家具、高級家電など): 距離抵抗は低くなり(λが小さい)、多少遠くても好みの店や品揃えの良い大型店まで足を運びます。



商圏ポテンシャルを左右する「需要」と「供給」のバランス

人口(需要)だけでは見えない「競合(供給)」の壁

どんなに人口が多いエリアでも、強力な競合がいればシェアを奪い取られてしまいます。ハフモデルを用いることで、目に見える人口統計データの裏側に隠れた、目に見えない「供給の重圧(競合の影響)」を可視化できます。


ハフモデルによる「吸引率」と「予測売上」の算出

分析のプロセスは以下の通りです。

1. 商圏内の世帯数(需要)の把握: 各地域の世帯数を特定します。
2. ハフモデル吸引率の計算: 自社と競合のシェアを算出します。
3. 吸引人口(見込み客数)の算出: 各地域の世帯数に吸引率を掛け合わせます。
○ 計算式:町丁目の世帯数 × ハフモデル吸引率 = 自社の獲得見込み客数 この「吸引人口」こそが、競合の影響を加味した「実質的な」ポテンシャルを表す指標となります。


人口(需要)だけでは見えない「競合(供給)」の壁

どんなに人口が多いエリアでも、強力な競合がいればシェアを奪い取られてしまいます。ハフモデルを用いることで、目に見える人口統計データの裏側に隠れた、目に見えない「供給の重圧(競合の影響)」を可視化できます。



GIS(地理情報システム)を用いたハフモデル分析の実際

膨大な計算を自動化するGISの役割

自社店舗と無数の競合店、そして数千の地域の地点データをすべて組み合わせて計算するのは、手作業では不可能です。GIS(地図情報システム)を活用すれば、これらの空間演算を一瞬で行い、地図上に色の濃淡(ヒートマップ)として可視化できます。


シミュレーションによる出店判断の高度化

GIS上でのハフモデル活用は、未来のシナリオ分析に威力を発揮します。
● 新規出店: 「もしここに出店したら、どれだけのシェアを奪えるか?」
● 競合参入: 「近隣に競合が出店したら、自店の売上はどの程度削られるか?」
● リニューアル: 「売場面積を広げたら、吸引力はどう変化するか?」


当社のGIS「MarketAnalyzer® 5」での活用例

当社の「MarketAnalyzer® 5」には、ハフモデルをさらに進化させた「グラビティモデル機能」が標準搭載されています。道路網に基づいた正確な到達時間の算出や、業種に合わせたパラメータのチューニングが容易に行えます。

MarketAnalyzerハフモデル分析イメージ


さらに高度な分析へ:売上予測モデルの「特徴量」としての活用

重回帰分析におけるハフモデル値の有効性

売上予測を行う「重回帰分析」において、説明変数としてハフモデルで算出した「吸引人口」や「吸引率」を加える手法は非常に有効です。単なる「周辺人口」や「競合数」よりも、競合の影響を加味したハフモデル値の方が、売上の変動をより正確に説明できるからです。


機械学習・AIモデルへの応用

最新のAIモデルにおいても、ハフモデルで得られた「競合影響度」は重要なデータ(特徴量)になります。これまでベテラン担当者が経験に基づき「あそこの競合は強いから厳しそうだ」と感じていた「職人の勘」を、データとロジックで裏付けるプロセスが実現します。


当社のTHE NOVELでの活用例

当社の売上予測AI「THE NOVEL」は、高い予測精度を持つ「機械学習」と、要因を説明する力が強い「重回帰分析」を同時に行う「デュアルモデル」を採用しています。 ハフモデルによるポテンシャル値をこのAIに学習させることで、精度の高い予測と、なぜその売上になるのかという根拠の説明を両立させることができます。



まとめ

ハフモデルは、店舗開発を支える強力な武器です。単に人口だけを見る「需要のみの分析」から脱却し、供給(競合)の影響を科学的に捉えることで、根拠に基づいた意思決定が可能になります。

多店舗展開を加速させるためには、ハフモデルのような伝統的なロジックと、GISやAIといった最新テクノロジーを融合させることが不可欠です。



監修者プロフィール

市川 史祥

技研商事インターナショナル株式会社
執行役員CMO シニアコンサルタント 市川 史祥

一般社団法人LBMA Japan 理事
ロケーションプライバシーコンサルタント
流通経済大学客員講師/共栄大学客員講師
統計士/医療経営士/介護福祉経営士
Google AI Essentials/Google Prompt Essentials

市川 史祥

1972年東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。不動産業、出版社を経て2002年より技研商事インターナショナルに所属。 小売・飲食・メーカー・サービス業などのクライアントへGIS(地図情報システム)の運用支援・エリアマーケティング支援を行っている。わかりやすいセミナーが定評。年間講演実績90回以上。

電話によるお問い合わせ先:03-5362-3955(受付時間/9:30~18:00 ※土日祝祭日を除く)
Webによるお問い合わせ先:https://www.giken.co.jp/contact/

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