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将来人口の年齢構造から地域のライフサイクルを読み解く

将来推計人口が発表されました。市区町村単位の将来人口データを用い、首都圏1都3県における現在と将来の人口の増減などを可視化・分析した内容をご紹介します。

月刊GSI 2018年4月号(Vol.82)

はじめに

 昨年から今年にかけて、エリアマーケティングで活用される地域統計データベースの中で最も重要な平成27年(2015年)国勢調査データがリリースされ、各企業はGIS(地図情報システム)を用いて最新データを用いて分析を行っています。過去と現状だけではなく、将来の地域傾向がどう変化するかに着目した分析も重要です。

 国立社会保障・人口問題研究所が2018年3月に、最新の国勢調査に基づいた将来推計人口を発表しました。本マンスリーレポートでは、市区町村単位の将来人口データを用いて、首都圏1都3県における現在と将来の人口の増減などを、GIS(地図情報システム)「MarketAnalyzer™」で可視化・分析した内容をご紹介します。

将来人口と都市部の将来

 国立社会保障・人口問題研究所は厚生労働省に所属する国の研究機関です。国勢調査を出発点に人口学的手法に基づき、出生・死亡・人口移動について数理モデルを用いて将来の人口を推計しています。最新の国勢調査の確定を受けて今年3月31日に、2045年までの市区町村別の将来人口推計を公表しました。それによると2030年以降、全ての都道府県で人口が減り始め、2045年には全国の市区町村の7割で2015年に比べて人口が20%減少するとされています。2045年時点で最も人口が減少するのは秋田県で、2015年比で41.2%減。全国平均だと16.3%減とのことです。都市部への人口集中は相変わらず顕著で、東京の都心3区(千代田、港、中央)などは15年比で人口が30%以上も増えると推計されています。若者の転入が多く、0~14歳の子供も増え、中央区などは15年比で約40%も増える見通しです。都市部では現在、保育施設に入りたくても入れない待機児童が大きな問題となっています。一方で中長期の傾向として0~14歳の年少人口と15~64歳の生産年齢人口は減り、65歳以上の高齢者が増えていきます。都市部の急激な高齢化への対策は待ったなしという状況でしょう。

首都圏1都3県の人口増減予測の見える化

 下の地図をご覧ください。MarketAnalyzer™に市区町村単位の将来人口をインポートし、2015年の人口と2045年の人口を比較して、その増減数の度合いにより色塗りしたものです。赤系の色の市区町村は約30年後も総人口は増え、緑や青系の市区町村は首都圏でも人口が減少すると予測されるということを表しています。増加するのは東京都港区、江東区、練馬区で、減少するのは神奈川県横須賀市、東京都八王子市、足立区です。

【1都3県の人口増減(2045年-2015年)】

【人口増加市区町村と減少市区町村】

年齢構造の推移

 次に、人口が増える市区町村の中から東京都江東区に、人口が減ると予想される市区町村からは神奈川県横須賀市にそれぞれ注目し、年齢構造を調べます。総人口、ニューファミリー世帯を構成する乳幼児(0~4歳)、高齢者(65歳以上)の3つを軸とし、2015年を基準に2025年、2035年、2045年それぞれの増減率の推移をグラフにしました。

【人口が増える市区/減る市区の年齢構造の推移】

 人口が増えると推計されている東京都江東区でも2035年以降、実は子供の人口比率は減少し、人口増はつまり高齢者増であるということがわかります。一方、人口が大きく減少していく横須賀市では高齢者人口の減少よりも子供の急激な減少率が目を引きます。それでは子供の人口と高齢者人口の増減をそれぞれ地図で見てみましょう。

◯0~4歳人口の増減

 下の地図は2015年から2045年の0~4歳人口の増減数です。黄色・オレンジ・赤の市区町村は将来にわたっても子供が増えると推計されていますが、1都3県の中でもほんの一握りの地域です。

【0-4歳人口増減数(2045年-2015年)】

◯高齢者の人口増減

 さらに高齢者の増減を見てみましょう。下の地図はそれぞれ2015年と2045年の市区町村別高齢者比率の分布です。2015年には東京23区や横浜市などの都心部は25%を切っているのに対して東京都西部、千葉県南部・東部、埼玉県西部は30%程度かそれ以上を示しています。2045年ではどうでしょうか? このエリアの高齢者比率は40%台に突入するようです。

【2015年高齢者比率】

【2045年高齢者比率】

年齢構造を複眼的に読み解く

 各年齢を個別に見ていても、得られる知見には限界があります。次は年齢別人口を組み合わせて地域を見ていきます。その地域にどういう子供世代が多いのか、どういう親世代が多いのかを年齢構成から読み解きます。

◯PQ比による地域セグメント

 年齢構成を複眼的に分析する分析手法のひとつに「PQ比」があります。若年層の年齢構成上の特徴をP比(20歳から24歳までの人口を10歳から14歳までの人口で割ったもの)、成人層の年齢構成上の特徴をQ比(50歳から54歳までの人口を30歳から34歳までの人口で割ったもの)として分析を行います。若年層の年齢に注目すれば、学童期の子を抱える家庭多いのか、または親元を離れる前後の青年が多いのかを把握できます。また成人層については、子育て中のニューファミリーが多いのか熟年夫婦が多いのかを把握できます。PQ比の計算は下記を参照してください。

◯P比とQ比の将来予測

 首都圏1都3県における、2025年と2045年のP比、2025年と2045年のQ比を地図上に表現しました。

【2025年P比】

【2045年P比】

【2025年Q比】

【2045年Q比】

 PQ比と単独世帯率や高齢者比率とを組み合わせれば、地区のライフサイクルを見極めることも可能です。子世代比(P比)と親世代比(Q比)をクロスして4象限とし、それぞれの象限を以下のように定義して2025年と2045年の予測をそれぞれ可視化しました。

【2025年の地域ライフサイクル】

【2045年の地域ライフサイクル】

 年少家族型のエリアは子育て前期のニューファミリーが多く居住するエリアです。市場としてみた場合には、居住者の可処分所得はまだそれほど高くはありませんが、今後の拡大が見込める「成長期」の市場を抱えるエリアです。また成人家族型のエリアは子供たちが巣立った後の熟年夫婦が多く居住するエリアです。市場としては「成熟期」を過ぎたエリアです。中高年者の自己実現消費や高齢化対応サービスなど新たなマーケティングの工夫が必要なエリアと言えましょう。

終わりに

 今回のマンスリーレポートでは、将来人口データを用い、地域ごとの年齢構造とその組み合わせによって地域のライフサイクルを読み解く手法をご紹介しました。最新の国勢調査データがリリースされたことに伴い、国勢調査をベースとした様々なエリアマーケティングデータも順次アップデートされます。地域の変化を過去-現在-将来という時系列で分析することも重要な視点です。技研商事インターナショナルでは分析事例や手法を紹介するセミナーを定期開催しています。是非ご参加ください。

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