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「GIS(地図情報システム)を用いた医療・介護業界のエリアマーケティング」2018年度の医療・介護報酬同時改定に向けて

月刊GSI 2017年9月号(Vol.75)

 少子高齢化による人口減少時代において、市場はますます縮小しています。しかしそこには地域差が存在します。地域の医療需要がどこにあり将来どうなっていくのかを知る一方、それに対して医療や介護の供給の現在を把握し、適切な地域に適切な供給を計画的に行う必要があります。

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はじめに

 少子高齢化による人口減少時代において、市場はますます縮小しています。しかしそこには地域差が存在します。2015年調査の国勢調査によれば、沖縄県と福岡県においては直近の5年とその前の5年を比べると、人口増加率は上昇しています。一方で北海道や東北、四国地方は減少率が加速しています。
 人口動態から地域の医療需要がどこにあり将来どうなっていくのかを知る一方、それに対して医療や介護の供給が現在どうなっているかを把握し、適切な地域に適切な供給を計画的に行う必要があります。それはまさしく地域包括ケアシステムのコンセプトに沿って地域単位の需要と供給のバランスを適正化するということでしょう。
 GIS(地図情報システム)の消費者向けの代表格はカーナビゲーションです。官公庁や自治体でも都市計画や防災、インフラ整備など様々な分野で活用されています。民間企業や団体のエリアマーケティングにおけるGISの活用は、国内では約20年前に始まったと言われています。その後システム面だけではなく、その分析手法も格段に進歩してきました。本稿では医療や介護分野におけるGISを用いた最新の分析手法や事例をわかりやすく解説します。

1.エリアマーケティングGIS(地図情報システム)とは?

 まずはエリアマーケティングGIS(地図情報システム)の構造について解説します。GISではレイヤーと呼ばれる様々な情報を地図上に重ね合わせて分析します。地図上に重ねるレイヤーは大きく分けて3種類あります。1つ目は商圏です。自社の営業所の営業テリトリーや、行政界、二次医療圏、病院・クリニック・介護施設を中心とした半径◯◯km圏や自動車◯◯分圏といった面(範囲)のデータです。2つ目は地図上に点で表現するデータで、患者や病医院・施設の分布を表し、漢字住所を基にシステムにインポートします。3つ目は地域統計データで、町丁目やメッシュという四角いマス目単位で集計された小地域単位の人口統計です。これらの要素を地図上にひとまとめにして、守るべき/攻めるべき商圏内の患者分布(実績)と競合医院(供給)、人口統計(需要)の地域ごとの偏差や強み/弱みを把握します。

 

 

【 図1:GISの構造 】

2.医療の需要と供給を表すデータベース

 肝心なのはGISというシステムやその機能より、どんなデータをどう読み解くかだと思います。まずは医療や介護業界で分析に活用されるデータベースを紹介します。

2-1. 医療・介護の需要を表すデータベース

  医療も介護も対象は人ですので、全国を網羅している人口統計データがよく活用されています。最も基礎的で汎用的なのは、総務省が日本全国の約1億2700万人を対象に調査している国勢調査です。国内最大の調査データですが、エリアマーケティングでは都道府県単位や市区町村単位といった広域のデータではなく、町丁目や500m四方のメッシュ単位で集計されたデータを用います。項目は多岐にわたり、人口総数、性・年代、家族構成、住宅関係、職業、利用交通手段、通勤・通学地などが収録されています。その他に活用されるのは年収階級別世帯数、要介護度別人口、傷病別人口、将来人口、消費支出などのデータベースです。

 下の地図は国勢調査の年齢別人口を用いた分析例です。東京都江東区内の500mメッシュ単位で後期高齢者(75歳以上人口)と乳幼児(0-4歳人口)をクロス色塗りしました。凡例をご覧ください。縦軸は後期高齢者数、横軸は乳幼児数です。江東区の北部は後期高齢者が密集しているエリア、対して南部は相対的に乳幼児が多く居住するエリアということがわかります。

 

【 図2:江東区の後期高齢者と乳幼児の分布 】

 

2-2. 医療・介護の供給を表すデータベース

 次に医療と介護の供給は、どこにどのような機能を持つ病院・施設があるかを把握することでわかります。公的機関が医療施設や介護施設のデータベースを公開していますし、それらを整備・統合して提供している民間企業もあります。 

 下の地図は先程と同じ江東区の病院と診療所の分布です。四角形のアイコンが病院で、三角形のアイコンが診療所です。メッシュ単位の色塗りは、現状(2010年)の後期高齢者人口と2025年の後期高齢者人口の推計値を比較した場合の増減数を表しています。GISで利用できるデータベースには、病院・診療所の他に、介護施設、サービス付き高齢者向け住宅、調剤薬局など様々な種類があります。

 

【 図3:江東区の病院・診療所分布 】

3.医療・介護におけるエリアマーケティング事例

 ここからは医療・介護分野のGISを用いたエリアマーケティング事例をいくつかご紹介していきます。


3-1. 病院の患者分析

 エリアマーケティングにおける患者分析では、患者の住所を地図にプロットして分布を表示し、実際の来院圏の定義や地域シェアの把握を実施しています。下の地図はある病院を中心として、そこに来院している外来患者の住所を点でプロットしています。その分布は同心円状ではなく、交通網や地形、競合病院の配置によってアメーバ状に広がっています。外側のラインは、病院を中心とする自動車15分圏と電車+徒歩20分圏を表します。この範囲内の患者数をカウントすると全患者数の85%を占め、このラインが守るべき実医療圏と定義できます。
(※本データは病院、患者共に実際のものではなく、ダミーを用いています。)

 

【 図4:患者分布と実来院圏 】

 

 ここまでは患者分布という病院における実績でした。エリアごとの医療需要にこの実績を重ね合わせることで、どのエリアから集患できているのか/いないのかが明確になります。下の地図は先程、点で表現していた患者分布を500mメッシュ単位で集計し、メッシュ単位の人口総数と重ねたものです。地図の南東のエリアは人口が多いにもかかわらず、そこからの患者があまりいないことがわかります。そこで具体的な対策として、このエリアの病院や診療所をピックアップし、自院と機能が重複していなければ連携先として、病病連携や病診連携を模索していくことが考えられます。

 

【 図5:患者分布と人口の重ね合わせ 】

 

3-2. 診療所の開業支援

 診療所を新規開業する際に、ドクターが自身でGIS分析を行うことはまれです。製薬メーカーや医療機器メーカーがGISを用いた新規開業予定地の診療圏を行うことによって、ドクターに向けて付加価値を提供することが多いです。GISには診療圏調査レポートを自動的に作成する機能があり、開業予定地の半径◯◯km圏内の商圏特性や推計患者数を提示できます。下はレポートのイメージです。

 

図6:診療圏調査レポート(一部イメージ)】

 

3-3. 高齢者向け住宅の物件コンセプト策定

 GISによるエリアマーケティングの歴史は国内では20年以上前からスタートしていますが、介護業界は比較的後発で、この5~6年で取り組みが進んだように思います。これまでは箱を用意すれば利用者が集まるという時代だったと思いますが、異業種の参入による競争の激化と高齢者の地域偏在から、データに基づく経営判断が必要になってきたわけです。

 有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅の開設にあたって、予定地の商圏特性からどのような間取り、価格帯にすべきかというコンセプトを判断することもできます。

 商圏特性は分析対象だけでは判断しにくく、他のエリアと比較するとわかりやすくなります。例として神奈川県の2つの地点、藤沢駅周辺と鎌倉駅周辺の地域特性をデータで比較してみます。下の地図に示した左側の円は藤沢駅半径1km圏、右の円は鎌倉駅半径1km圏です。 

 

 【 図7:2つの商圏特性を比較(左:藤沢駅半径1km、右:鎌倉駅半径1km)】

  

 まずはそれぞれの商圏における高齢者の年齢構造を確認しておきます。藤沢駅半径1km圏内の高齢者人口(65歳以上人口)は7,146人で、鎌倉駅半径1km圏内は5,006人です。後期高齢者(75歳以上人口)は藤沢が3,443人、鎌倉が2,613人です。単純な高齢者のマーケットボリュームでは藤沢市の方が多いということです。次に富裕度(年収)と要介護度という軸で評価します。図8をご覧ください。縦軸は世帯年収、横軸は要介護度を表し、表内の%と丸の大きさはそれぞれの区分の中で神奈川県全体に対する割合を表します。比較すると、鎌倉駅周辺は高齢化の進展が早く、既に重度の要介護者も多く存在することが確かめられます。また、経済的な余裕が大きいのも鎌倉の方です。どちらかと言うと藤沢は健康寿命の延伸がテーマとなり、鎌倉は介護待ったなしということでしょう。

 

【 図8:年収と介護度で2つの商圏特性を比較 】

3-4. 新規開設余地エリアの探索

 高齢者向け住宅の新規開設エリアの決定は、開設が可能な土地・物件次第とも言えますが、経営的に成り立つ立地かどうか、つまりターゲットである想定入居者がいる地域かという分析も必要です。まずはターゲット像をデータベースから定義します。今回は要介護認定者数、後期高齢者数、持ち家比率(持ち家比率が低いエリアの方が入居しやすいと想定)、富裕度を軸とします。例としてこれらの指標を埼玉県の市区町村単位のデータで集計し、そのままでは単位と桁が異なるデータ項目同士を一律に評価しにくいため、スコア(偏差値)化しました。下の表は埼玉県市区町村をターゲットスコアでランキングしたものです。

 

【 表1:埼玉県のターゲットスコアランキング 】

 

 スコアが最も高い川口市を筆頭に所沢市、川越市、越谷市に市場ボリュームがありそうです。今回は現状の施設などの供給状態は加味していませんが、介護施設・事業所データから供給量をマイナスのスコアとして合計し、需給バランスで現状を把握する場合もあります。これを地図上に見える化したのが図9です。

 

【 図9:埼玉県の高齢住宅需要マップ 】

4.在宅医療の需要と供給の見える化

 最後に在宅医療の市場分析を行ってみます。東京都23区を例に需給マップを作成しました。今回は需要を高齢者数(65歳以上人口)、供給を在宅療養支援診療所数としました。データは厚生労働省の全国在宅医療会議が発表した在宅医療にかかる地域別データ集を用いました。

 

【 図10:東京23区の在宅医療需給マップ 】

 

 凡例の縦軸が在宅療養支援診療所数で、横軸が高齢者数です。23区の中で江戸川区は高齢者数が多いにもかかわらず在宅療養支援診療所が少ないことがわかります。

5.終わりに

 データに基づく意思決定は、医療・介護業界においてもますます重要になっていきます。GIS(地図情報システム)はそのためのツールです。今回はGISを用いた分析手法をご紹介しました。参考になれば幸いです。

 

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