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サービス付き高齢者向け住宅の商圏分析手法

月刊GSI 2015年7月号(Vol.54)

 介護業界における商圏分析・エリアマーケティングは、小売・飲食など他業界よりは遅れているのが実態です。しかしながらこの数年で定着が進んでおり、様々な手法や事例が見られるようになりました。本コラムでは、サービス付高齢者向け住宅(以下、サ高住)の新規開設予定地の入居見込者を試算するケースについてご紹介します。ここではサ高住のなかでも介護事業(デイ、訪問介護・看護、小規模多機能型等)併設で、要介護高齢者を入居見込客とする施設を想定します。

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1.サ高住全般を取り巻く状況

 まずはサ高住全般についての状況を確認します。かつての高優賃、高円賃、高専賃等が統合される形で、サ高住という扱いになって5年目を迎えました。最近では高齢者ばかりでなく、障害者、子育て世帯にも範囲を広げて、総合的な住生活の安定、確保及び向上を目的とするスマートウェルネス住宅に発展しています。
 サ高住は国交省、厚労省の共管事業として10年間で60万戸の整備目標が設定されています。60万戸という数字は、当時の特養待機者42万人(平成26年からは52万人とされています)及び療養病床の廃止により行き場のなくなる12万人(廃止期限が何度も延期され別形態として実質的には存続するようです)、他には益々増加する高齢者独居世帯、老々世帯の住み替え等の需要を見越したものであったかと思います。
 そして新築・改築による整備促進のため、この5年間で1,500億円以上(今年度予算計上分320億円を含む)の整備助成金が交付されてきました。その結果、平成27年3月末での全国のサ高住整備数は5,493棟177,722戸(目標比29.6%)となっています。しかし来年度以降、助成金が縮小・停止された場合には、整備数の伸びは鈍化すると思われ、目標達成は厳しくなるかもしれません。

 また新聞報道にも、厚労省が27年度からサ高住併設の介護事業者の「囲い込み」是正に動くという記事が何度か掲載されています。すでに減算対象であったケアプラン報酬の集中減算、同一建物内における訪問系サービス提供時の減算適用の基準引き下げなどが実施されたほか、サ高住に併設されることの多いデイサービスも介護報酬が引き下げられました。
 このように28年度以降、サ高住建設、運営のメリットが減少する中で、サ高住を新設される方、またその運営事業者として関わる方にとっては、助成金を利用できるこの1年がラストチャンスになるのではないでしょうか。

2.需要予測説明書

 サ高住を助成金対象事業として計画・申請する場合、『需要予測説明書』を作成、提出する必要があります。次ページの表1は助成金申請要綱の抜粋です。項目をご覧いただいてお判りのように、まさに商圏分析が必要です。GIS(地図情報システム)を用いて、物件周辺の需要(人口動態や介護度別人口、富裕度)や供給(既存の高齢者住宅や事業所)をデータ分析し、説明書を作成するものひとつの方法です。

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3.サ高住の供給量

 サ高住の供給促進についてですが、今年度も国が320億円の助成金を予算付けしている他、東京都や千葉県のように、国の助成金に上乗せする形でサ高住整備に補助金を出す自治体もあり、まだまだ不足している供給量の改善が望まれています。

 次に都道府県単位での供給状況を確認します。図1は平成26年6月11日社保審の介護給付分科会の報告書に掲載されているものです。直感的に青い棒グラフの高さでサ高住の供給戸数が多い都道府県が判りますが、赤の折れ線グラフ(65才以上の高齢者人口に対するサ高住の登録戸数の割合)を確認すると、本当に供給量が多いのは北海道、群馬県、三重県、大阪府、和歌山県、鳥取県、広島県、徳島県、沖縄県(全て0.7%以上)であることが判ります。反対に明らかに供給不足と判断されるのは、東京都、新潟県、奈良県、佐賀県、宮崎県(全て0.3%以下)となります。
 全国で60万戸の整備目標に対して約1/4の整備時点での数値ですので、絶対的な指標とは言えませんが、これからサ高住を建設する用地を探すのであれば、図1の数値も参考にしていただきたいと思います。
 次のページから、GIS(地図情報システム)を用いたサ高住の商圏分析手法をご紹介します。

 

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4.行政区の優先順位付け

 まずはマクロ的視点から物件が存在する行政区とその周辺の現状を把握します。ターゲットを示す統計データを定義し、市区町村毎に優先順位をつけていきます。ターゲット指標として今回は、後期高齢者数(75歳以上人口)、要介護認定者数、持ち家比率、所得水準(年収高)の4つを用いました。図1は例として埼玉県を採り上げ、市区町村ごとにそれぞれの指標をスコア(偏差値)化し、4つの合計スコアで色塗りをしています(図2と表2)。介護が必要な状態で、ある程度の月額費用を支払う余力があり、住み替え需要が高い(持ち家比率が低い)と想定される地域なのかどうかを推定します。

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【図2:埼玉県の介護需要スコアマップ 】

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【表2:埼玉県の統計データと介護需要スコア 】

 スコアが最も高い川口市を筆頭に、所沢市、川越市、越谷市に市場ボリュームがありそうです。今回は現状の施設などの供給状態は加味していませんが、介護施設・事業所データから供給量をマイナスのスコアとして合計し、需給バランスで現状を把握する場合もあります。

5.サ高住の商圏範囲の設定

 次にミクロ的視点で、介護事業併設型サ高住の入居見込者数を具体的に探っていきます。まず商圏範囲の設定です。今年度よりサ高住にも住所地特例が適用されるようになりましたので、かなり広い商圏を設定することも可能ですが、厚労省、国交省のサ高住のコンセプトが「住み慣れた環境で…暮らし続ける」「地域の医療・福祉・交流の拠点」とされていることから、やはり候補地のある行政区単位をカバーする程度の範囲とするべきでしょう。
 図3は開設候補地を中心とした商圏範囲です。商圏分析用GIS(地図情報システム)「MarketAnalyzer™」を用いて足元商圏を分析するために、自動車10分圏を設定しました。更に近接する市区町村を除外しました(青いライン)。

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【図3:近接市区町村を除いた自動車10分圏 】

 ここで参考資料として、本年3月に発表された厚生労働省の補助金事業である『高齢者向け住まいが果たしている機能・役割に関する実態調査報告書』の内容も活用してみたいと思います。これまでサ高住に関する調査・報告では平成26年3月に発表された『平成25年度有老ホーム・サ高住に関する実態調査研究事業報告書』がありましたが、平成25年中頃の調査であり、新しい制度であるサ高住にとっては少々データが古いことは否めませんでした。やっと直近のデータが発表されたというところです。
 報告書から入居者の「入居直前の居場所」と「入居を決めた理由」を見てみます。入居直前の居場所では「自宅・家族親族と同居」が45.9%と最も多く、次いで「病院・診療所」が31.4%、「老健・療養型施設」が8.1%となっています。自宅からサ高住への住み替えは当然としても、自立や要支援の高齢者が事故、怪我、病気などの理由で入院をきっかけに介護状態になり、サ高住に入居する様子が見えます。
「入居を決めた理由(複数回答)」では特定施設の指定のあるサ高住では「介護が必要になったため」
が84.5%で最も多く、次いで「ひとり暮らしが不安になったため」が72.2%です。一方、特定施設の指定のないサ高住では「ひとり暮らしが不安になったため」が77.5%で最多、「介護が必要になったため」が67.0%となっています。
 特定施設の指定を得ているサ高住の方が「介護サービスが充分だ」と考えられているのでしょう。

6.商圏内需要の推定

 表3は開設候補地を中心とした設定商圏内の各種指標で、GIS(地図情報システム)から自動出力できる商圏分析レポートをまとめたものです。商圏内の要介護者の介護保険サービス利用状況が確認できます。このなかで入居見込者として考えられるのは、要介護者1,416人の内、ケアプラン対象者1,207人から、すでに他のサ高住に入居している98人をひいた1,109人と考えたのですが、前述の調査報告書の内容から言えば、入院等で介護サービスを利用していない31人も入居見込者と考えられる、ということになります。

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【表3:商圏調査レポート(一部) 】

7.最後に

 データに基いて意思決定する時代にあって、介護業界においても新規開設時の商圏調査はもはや必須となっています。継続的な介護経営と地域包括ケアの実現のためにも、地域・商圏の需要と供給をデータ(エビデンス)によって把握すべきです。
 当社にはデータ分析やGISの運用に関して様々な経験とノウハウがあり、統計学の世界だけではなく、実践的なビジネスマインドを持つスタッフが、高度・高速なツールを用いてお客様がご自身でマーケティングナレッジを蓄積する支援をしています。

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