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チェーン企業のGISを用いた売上予測とその失敗事例

月刊GSI 2015年5月号(Vol.52)

 弊社のGIS(地図情報システム)MarketAnalyzer™は、デジタル地図と人口統計などの統計データベース(需要)、競合店舗データ(供給)を搭載したエリアマーケティング用のシステムです。自社が保有する店舗や顧客のデータ(実績)をGISにインポートし、需要と供給と実績を地域・商圏ごとに見える化することで、データに基づく各種戦略の立案を実現するものです。国内では20年以上前よりチェーン企業を中心に活用されています。

 小売や飲食などチェーン企業における活用は年々高度化しており、新規出店時の売上予測というテーマでGISのデータを統計解析し、売上予測モデルを構築している企業も多くあります。しかしながら、統計解析のテクニカルな部分を高度化するだけでは本当の意味での成功は難しいのが実情です。
 本コラムでは売上予測手法の中で重回帰分析について解説すると共に、売上予測に取り組む企業の失敗事例を紹介します。

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1.GISと売上予測

 GIS(地図情報システム)は、コンシューマー向け、官公庁向け、ビジネス向けの3つに大別することができます。コンシューマー向けはカーナビゲーションやインターネットやスマートフォンの地図閲覧サイトなどがお馴染みです。官公庁向けは国や都道府県、各自治体で広く活用されています。下水道配管システムや固定資産税管理台帳などで地図を利用したり、都市計画や防災など分野は多岐に渡ります。そしてビジネス向けもいくつかのジャンルに分かれますが、ここではマーケティング用途に絞って解説します。
 民間企業におけるマーケティングGISの活用は、国内では約20年前から始まったとされています。当初はチェーン店舗の新規出店時の商圏調査に用いられてきました。今ではあらゆる業種業態に広まり、既存店の分析や顧客分析、統廃合など分析課題や手法も多様化・高度化しています。企業によって活用のレベルは様々です。統計解析を駆使して予測モデルを構築したりしている企業もあります。自社で利用する場合もあれば、クライアントへの提案ツールとして活用する場合もあります。

 チェーン企業におけるGISの分析レベルは様々です。古くから活用されている業態だけあって、売上予測モデルの構築に取り組んでいる企業も多くあります。
売上予測と言っても様々な手法があり、どれが最適かは一概には言えません。業種業態によって向き不向きがあり、やってみないとわからないというのが現状かもしれません。
 各企業が保有しているデータベースを見える化し、データ分析に基いて各種施策を立案・実行するのは、昨今のビジネストレンドとなっています。ただし、企業が保有している店舗データや顧客データのみでは実績を示すに過ぎません。実績値がポテンシャルに対して限界なのかそうではないのかを知る必要があります。一方、GISに搭載されている人口などの各種統計データはまさしく市場ポテンシャルを表すビッグデータです。統計データも分析ニーズに合わせて進化してきました。国が調査する国勢調査などのセンサスデータだけではなく、ターゲットをより詳細にセグメントするための年収や消費などの推計データも活用が進んでいます。こうした統計データと実績データを組み合わせることによって、自社の売上に貢献するターゲット指標は何かを見出し、売上を説明する計算式を構築する手法が重回帰分析です。

2.重回帰分析とは?

 重回帰分析は多変量解析手法のひとつで、売上を予測したい目的変数とし、それを複数の変数(商圏データなど)で説明する式のことです。既存店のデータ分析することによって作成します。新規出店時には当然売上は未知数ですが、商圏データは事前に得られるため、それらを用いて売上を算出します。

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【重回帰モデル式のイメージ 】

■準備するデータレイアウト
 まず、必要なデータのレイアウトを下に示しました。自社の店舗リストは当然として、実績を示す売上や面積、駐車場台数などの属性項目もあるとよいでしょう。店舗属性項目によく採用されるものとして席数や営業時間、従業員数、レジ台数などもあります。店舗リストをGISにインポートし、各店舗の商圏データを紐付けます。例えば店舗半径1km商圏内の夜間人口、昼間人口等です。その他に商圏内の競合店舗の要素も、GISがあれば瞬時に集計可能です。

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売上は目的変数、その他の項目が説明変数の候補となります。このようなデータが重回帰分析のスタート地点となります。次のステップでは、売上に影響を与えるデータ項目を探索していきます。

3.売上とデータの関係性は?

 売上を説明する変数を見つけるための手法の一つに、相関分析があります。売上が上がるのは商圏人口が多いからなのか?商圏内に競合店舗が多いからなのか?売上と変数の関係性を相関係数という数字で読み取ります。相関係数は-1から+1の間に現れ、絶対値が1に近いほど関係性が高いと解釈します。
例えば年齢とコレステロールの相関係数が+0.81だった場合、両者には関連性があり、年齢が上がればコレステロール値も上がると解釈できます。相関分析自体はExcelでも可能です。

■相関係数の落とし穴

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 相関係数自体はデータ間の関連性を示しません。結果を解釈する必要があり、その際に注意しなければならない点があります。上の図は相関係数が同じで異なるデータの散布図です。左側は相関係数だけを見ると関連性が高いように見えますが、一部のデータが偏っており、それを除くとまったく関連がないという結果になります。単なる相関係数だけではなく、データの分布(散布図)を見ることも重要です。

■相関係数が高い指標の例(参考)
弊社では分析支援業務の中で、お客様の分析作業に多く立ち会っています。過去の事例をいくつか紹介します。

・学習塾
子ども向けの学習塾の場合、子供が多くいるところに開設すれば生徒数が増え、更に親の年収と親の最終学歴(大卒・院卒)とも相関が高い。
・スポーツカー
単身者、賃貸住宅・社宅が多く、富裕度がある程度以上のエリアは購買顧客が多い。
・アイスクリーム
おもちゃ屋が入っているショッピングセンターに出店すると売上に好影響を与える。
・ファミリーレストラン
競合Aチェーンはマイナスの相関だが、競合Bチェーンは好影響を与える。単価とメニューの違いか。

4.重回帰モデル式作成

 次に実際のモデル式を作成します。大枠の流れとしては、まず売上予測式に採用できそうなデータ項目を選択します。相関係数の高い項目を選択するとよいでしょう。そして選択した項目群のなかで、最適な組み合わせをステップワイズ法によって自動計算します。この方法は異常値が少なく、最も信頼性の高い予測式の組み合わせを算出してくれます。統計解析ソフトやMarketAnalyzer™の重回帰分析機能が必要ですが、結果の解釈もし易いためお薦めです。(下のイメージ図参照)

■重回帰モデル評価指標の見方、ポイント(参考)
 統計解析ソフトやMarketAnalyzer™の重回帰分析機能で作成したモデル式の評価指標として、代表的なものとその見方を例示します。

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【ステップワイズ法のイメージ 】

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【モデル式評価指標の見方 】

■精度向上のためのポイント(参考)
 1回の分析で納得できるモデル式が出来上がることは残念ながらほとんどありません。トライアンドエラーを繰り返しながら精度を上げていく必要があります。以下経験上のポイントを幾つかご紹介します。

・データを正規化する
実データの数字そのままでは統計処理上、効果が出ない場合もある(対数や率も検討する)。
・多重共線性を避ける
投入する項目同士の相関が高いと、実際の精度が悪くなる場合がある。
・店舗を分類し、分類ごとにモデル式を作成する
コンセプトや商圏特性が全く異なる店舗同士を同時に投入しない。

5.失敗事例

 統計学上の予測精度を向上させることは時間をかければ難しくはありません。売上予測数値をビジネスにおける意思決定に使うためには、テクニカルな側面よりも重要なことがあります。ほとんどの失敗事例はデータ分析技術の欠如が原因ではなく、それ以前の問題であることが経験上多くあります。以下、チェーン企業の売上予測モデル構築における失敗事例をご紹介します。

■某小売チェーン
過去よりGISを活用し、出店候補地の商圏データを参照していたが、出店精度を上げるために売上予測モデルの構築を社内プロジェクトとして実行することになった。プロジェクトの途中で分析担当と責任者が変更となり、前任の分析結果が新任の経験と勘と合わずに何度もやり直すことに。結局プロジェクトは一向に進展せず、途中で息切れ。

何をもってゴールとするかというプロジェクトの目標設定と担当窓口の一元化が必要だった。

■某サービスチェーン
店舗データ整備のために店舗の前面通行量が必要という仮説を立てた。調査を専門業者に外注する予算がないため各店長に実査してもらった。バラバラなカウント基準やデータ不備によって売上との相関も出ず、徒労に終わる。

同じ基準で整備されたデータの重要性

■某アミューズメント施設
分析の結果、立地タイプに応じた2通りのモデル式が完成。1つは高精度で予測可能だが、2つ目のモデルは予測精度が低かったので、重回帰ではなくニューラル予測モデルに変更した。ニューラル予測モデルは高額な統計解析ソフトが必要なため、社内では運用できず、都度外注し予測金額を出してもらっていた。費用対効果が悪く運用しきれなくなった。

自社で再現できないモデルは運用を継続できない

■某飲食チェーン
担当者の統計知識が非常に豊富で、数年かけて高精度な重回帰モデルが完成し、現場では重宝していた。
出店のための社内会議で根拠として分析結果を提示するも経営陣には伝わらなかった(統計解析に懐疑的)。結局別の方法を取ることになった。

全社の理解が得られないと意思決定に利用されない

6.最後に

 データに基いて意思決定する時代にあって、実績を示すデータと市場を示すデータを組み合わせることは重要です。さらに売上を予測することもデータ分析において頻出する課題ではないでしょうか?売上予測のひとつの手法として重回帰分析を紹介しましたが、作業はGISというツールに任せておき、そこから得られる結果の解釈や運用に注力することが一番重要だと思います。
 当社にはデータ分析やGISの運用に関して様々な経験とノウハウがあり、統計学の世界だけではなく、実践的なビジネスマインドを持つスタッフが、高度・高速なツールを用いてお客様がご自身でマーケティングナレッジを蓄積する支援をしています。
 これからプロジェクトを始める方、現状のプロジェクトに行き詰まった方、お気軽にご相談ください。

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