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商圏は、いつどこで小さくなったのか?③

月刊GSI 2014年4月号(Vol.39)

 前号、前々号(Vol.37、38)にわたってご紹介してきた本テーマも、今回が完結編です。今回は前号で類型化した3つの小商圏型(表1)の内、「出店飽和の小商圏」と「買物行動の小商圏」の可視化を行います。

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1.出店飽和の小商圏

 今回は前号で類型化した3つの小商圏型(表1)の内、「出店飽和の小商圏」と「買物行動の小商圏」の可視化を行います。
 まずは、出店飽和の小商圏の可視化です。そのためには、個々の店舗に対する買物行動を広域で網羅的に把握する必要があります。しかし、そのようなデータは残念ながら、存在しません。先の「人の流れデータセット」のような交通系データでも、そこまでミクロな行動を掴むことはできません。

 そこで、商圏狭小化の状況を地区別に読み取るために、空間解析手法によって1店あたりの人口(商圏人口)を導き、店舗の飽和状態を推察しました。対象業界として、ドラックストアを選びました。データの入手性の面から、成長期以降の店舗網が拡大する様子を容易に観察することが可能だからです。
 図1左をご覧ください。各年度別にドラッグストア全店舗の商圏人口を推定し、その平均と中央値とを示したものです。これによると、2006年頃までは、店舗の急増とともに小商圏化(オーバーストア化)は急速に進展してゆきます。その後、緩やかになり2009年以降は横這いで推移するようになります。

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【表1 小商圏が語られる文脈】

つまりドラッグストア業界の小商圏化は、概ね2006年までにその急速な進行が完了した、と言えます。
 つぎに、地区別の小商圏化の進行状況を商圏分析用GIS(地図情報システム)「MarketAnalyzer™」を用いて示します(図1右)。店舗それぞれの商圏人口を算出した上で、近傍店舗の商圏人口を利用し、各小学校区別の店舗あたりの商圏人口を再推定することで、経時比較可能な形で図示化することができました。商圏人口が小さい地区は赤色、大きい地区は緑色で表しています。先ずは期間の前半(1997年から2003年)では、北関東での小商圏化が目立ちます。この地域を主戦場にした出店競争の激しさが窺えるようです。

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【図1 ドラッグストアのオーバーストア化の進展】

その後小商圏化の波はじわりじわりと都心部、近郊部へと、移行します。時代とともに激戦区の場所が移動している様子が読み取れます。
 図2は、小商圏化の進展状況を地図に表したものです。2000年から2009年にかけての商圏人口の減少数を示しています。ドラッグストアの商圏は、この10年間に首都圏の全域で縮小(商圏人口が減少)していると言えますが、商圏縮小の程度には、地域間格差が見られます。赤色の地区では激しく、緑色の地区では緩やかに小商圏化が進行しました。小商圏化が著しいのは山手線外縁部や横浜市街地です。

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【図2 ドラッグストアのオーバーストア化の進展2】

これらの地域では従来型の薬局・薬店等の業種店が、ドラッグストアによって、急激に置き換えられていったものとみられます。こうした小商圏化の激戦区は、先の商業集積の小商圏の分布とは異なっています。これは、ドラッグストア業界に特有のパターンだと考えられます。業界それぞれに地域パターンは異なるはずです。
 次に、ドラッグストアチェーンの各社が、小商圏化の進展に伴い、年々悪化する商圏環境の中で、どのような出店戦略を採ったのか、ということを見ていきます。この期間における各社の出店立地データを年度別に集計することで、出店戦略の経年変化を追うことができます。当初は、都心部が得意な企業、郊外部が得意な企業というように、各社それぞれが特色のある出店戦略を採っていました。その後、オーバーストア状況が進展するなかで、1.郊外型店舗から市場性豊かな近郊型店舗への動き、2.近郊型店舗から専門性(orオケージョン)特化型・繁華街店舗への動き、3.専門性特化型・繁華街型店舗から量販展開型・近郊型店舗への動き、という3方向のベクトルが混ざり合いながら、次第によく似た立地へと収斂してきているように見えます。
 図2右は、そうした出店競争の様子を俯瞰的に示したデータです。商圏人口が年々減少する(右から左への移動)中で、各社とも、少しでも条件の良い立地(=商圏距離が長い立地:下から上への移動)を選択しようと努力している様子が読み取れます。

ドラッグストアにとって、商圏距離が伸びる(商圏が拡大する)立地というのは、国道16号線の外側で新たに開設されたショッピングセンターを除けば僅かです。それにも関わらず、有望な立地を獲得し続けるのは容易なことではありません。店舗開発における大変な労力と分析力が垣間見えます。

2.買物行動の小商圏

 消費者行動の変化に注目した小商圏の分析視点は、先に指摘したように多岐にわたっています。ここでは高齢化による買物行動の変化が地域に応じて、どのように変化してきたのかという点について、見ていきます。
 実は、近年の交通行動調査によると、高齢者の外出行動はむしろ活発になっていることが確認されています。この20年間(1989年から2008年)に、高齢者以外(65歳未満)の交通移動量は微減傾向(7190万トリップから6013万トリップ)で推移しているにも関わらず、高齢者(65歳以上)に限ってみれば激増(706万トリップから2083万トリップ)しています。更に、平成42年には、今より50%程度増加するものと予測されています。アクティブなシニアは今後も増加するものとみられているのです。都市圏の拡大によって、自家用車を日常的に利用する郊外の高齢者が増えたことが、その大きな要因でしょう。しかし、こうしたアクティブシニアの増加は、フードデザートエリアで困窮する高齢者のイメージとは、どうも一致しません。どちらが実情に近いのでしょうか。また都心部と郊外部とでは高齢者の生活行動にどのような違いがあるのでしょうか。さらに時代の変遷に伴う変化はどうだったのでしょうか。

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【図3 高齢者の買物移動長】

 図3をご覧ください。これは、この20年間における高齢者(70歳以上)の買物移動距離の変化を居住地区別に表したものです。緑色・黄色は買物距離が伸長している地区です。これらの地区では、居住する高齢者の活動性が向上しているとみられます。周辺の商業地への買い回り行動が活発になっているため、高齢者視点での商圏は拡大化傾向にあることが推測されます。その反対に、赤・橙色は買物距離が短縮している地区です。これらの地区では高齢者の活動性が低下していると見られます。付近の商業地への買い回り行動は抑制されるため、高齢者視点での商圏は縮小化傾向にあることが推測されます。
 都心部に注目してください。山手線内側に濃い緑色が見られます。都心部に居住する高齢者の買物行動は活発になっていることを示しています。都心部では、買物行動のほとんどが公共交通機関を手段としています。従って、この地区の活動性の向上は、自家用車移動の増加による要因だけでは説明しにくいのです。図3右に示したのは、自家用車による買物移動が特に多い地区(主に郊外部)と自家用車による特に買物移動が少ない地区(主に都心部)とに分けて、年齢帯別に買物移動の平均長を1998年と2008年とで比較したものです。自家用車の利用率は、2000年の国勢調査に基づいて算出し地区を特定しました。
 これらから分かることは、
1.郊外部は都心部より、どの年齢帯でも買物移動長が長いといえます。
2.郊外部、都心部に関わらず、どの年齢帯でも1998年から2008年にかけて買物移動長が伸びています。
3.買物移動長に対する加齢による減衰効果は、郊外部のほうが都心部より大きくなっています。

 都心部では移動長が85歳でストンと落ちていますが、それまではそれほど減衰していません。一方、郊外部では、加齢が進むに連れて確実に減衰しています。帯同者や介護者の有無、行動機会や交通アクセス環境、地形的なウォーカビリティなど、高齢者の外出を阻害する要因は、ちょっとした条件の違いによります。都心部では、そうした条件があまり問題にならないほど、シニアの活動を直接的、間接的にサポートする社会生活環境が整備されていると、見られます。逆に郊外部ではアクティブなシニアと非アクティブなシニアとの格差がシビアに顕在化しやすいと考えられるかもしれません。

3.さいごに

 本稿では、複数の視点から「小商圏」現象の可視化を試みました。ひとつの客観的な事実として捉えるより、問題意識や視点によって様々な相を見せる現象として捉える方が、よりリアリティがあると考えたからです。
 常々、市場調査にかかる測定や分析は、企業経営の言葉に翻訳されて、ディスカッションの材料にならなければ価値が無いことを自戒の念とともに自分に言い聞かせているのですが、如何せん筆者の管見浅慮のため、多くは果たせなかったかもしれません。
 また、錯誤等のご指摘、ご感想等をお知らせ頂ければ幸いです。

※本稿は、鈴木英之(2013)「商圏は、いつ・どこで小さくなったのか?:ドラッグストアチェーンの出店行動と『小商圏化』現象の諸相」(日本経営診断学会予稿集)及び、鈴木英之・関本義秀(2013)「商圏の何が小さくなったのか?:『人の流れデータ』から見た小商圏下の買物行動」(地理情報システム学会講演論文集)から内容を一部抜粋し、新たに作成したものです。

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