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商圏は、いつどこで小さくなったのか?②

月刊GSI 2014年3月号(Vol.38)

 前号(Vol.37)で、小商圏はかなり手強いテーマだと申し上げました。論点は広範囲に及び、相互の関連も無視できません。小商圏現象そのものにかかる本質的な議論に深入りするのは筆者の手に余るのですが、小商圏化がいつ、どこで、どのように進行したのかという事実を解明し、可視化してお示しするだけでも意義はあるだろうと考え、以下に続けます。

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1.三類型の小商圏

 前号の第2章で、商圏調査や分析の方法は、経営視点によって大きく異なると書きました。同じデータを与えられても、企業によってその見方は異なります。また同じ企業の中でも、担っている役割によって違う見方をするでしょう。同じデータを同じ言葉で説明していても、意図するところは正反対ということすらあります。
 筆者の失敗事例を紹介しましょう。先日、ある業界専門紙向けに一枚の地図を作成しました。事業展開を有利に進めてゆくための、いわば「有望立地マップ」です。最近のニュースや雑誌記事から、業界の有力企業がひとつの経営課題に直面し、ある取り組みを強化しているという情報をキャッチしましたので、そのような取り組みが成功しそうな立地を自治体別にランキングしてみたのです。簡単な説明を加えたその地図が筆者の手を離れた後、しばらくして紙面を拝見しました。筆者はそれを見て驚くと共に「なるほど」と膝を打ちました。というのは、その記事には、筆者が想定していたのとは正反対の趣旨が書かれてあったのです。つまり筆者が「有望立地」と考えていたエリアを「望み薄立地」。逆に「望み薄立地」と考えていたエリアが「有望立地」と書かれているのです。

 なぜこんなことが起こるのかといえば、それは問題意識と分析視点の違いなのです。筆者は業界内で事業を先行する大企業の視点で、有望立地を捉えていました。高付加価値サービスを新拠点で展開することで、後ろから追い上げてくるフォロワーからいかに逃げ切るか、というのがポイントです。ところが編集者は、購読者の多くを占める中小事業者やベンチャーの視点で物事を捉えます。大企業によって既に露払いが済んだ市場を地域密着型のサービスで切り取りにかかる立場です。大企業の「有望立地」は中小の「望み薄立地」に、「望み薄立地」は「有望立地」へと見方は逆さまになってしまうのです。同じ地図を見ながら同じ言葉で語っているつもりでも、立場によって結論が正反対になる非常にわかり易い例だといえます。ちなみに、筆者の地図と編集者の地図と、どちらが正しい地図といえるのか? 言うまでもありません。(編集)戦略と一致する地図こそ正しい地図と言えます。 
 この一件などは、結果オーライの笑い話で済まされるのですが、実務の世界では、言葉のニュアンスのちょっとした違いが誤解や齟齬を招き、トラブルに発展するケースが往々にしてありがちです。「小商圏」という用語は、何となくイメージが曖昧で、誤解や齟齬からトラブルの原因に発展しかねない、そんな危険な言葉のひとつだと思います。業種や立場によっても、随分と異なった意味で使われているようなのです。
 正しい小商圏分析をするためには、それぞれの業界や企業で採用している小商圏戦略や小商圏対応戦略が、その背景にどのような文脈を抱えているのか、ということを理解しなくてはなりません。そうでなければ間違った地図を描くことになってしまいます。そこでまず、先行する論文や雑誌記事などを参考に、小商圏が語られる文脈について整理してみることにします。

 仲上哲氏(2012)は、小商圏の状況を3つの側面(1.消費者の買い控え行動、2.小売事業者の商圏深耕戦略、3.郊外大型店出店規制)から捉えており、それを5つの要因(1.消費量の減少によるマーケットサイズの減少、2.生活スタイルと購買行動の変化によるマーケット構造の変化、3.小売商業の競争激化、4.小売店舗の近隣立地、5.法的規制)から説明しています。
 一方、箸本健二氏(2013)は、小商圏化の状況について、消費財流通を取り巻く2つのダウンサイジング(1.小売販売額の長期低落傾向、2.都市空間の縮小)を指摘します。また、これら2つのダウンサイジングが、市場の質的な多様化・細分化すなわちモザイク化を招いている点を強調します。モザイク化市場は、これまでの均質市場を前提にしたマスマーケティング的な大商圏型店舗では、対応することができません。したがって小売事業者の店舗運営は、

次第に小商圏対応型へと移行することになります。
 その他、諸説を参考に、様々な論点を大きく3類型に分けて整理してみました(図3)。業種によるニュアンスの違いは、小売業態としてのライフサイクル(成長期、成熟期、衰退期)とも関係があるようです。
 3類型の小商圏をここで簡単に説明します。

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【図1 小商圏が語られる文脈】

 

(1)商業集積の小商圏
 郊外大型店の出現によって商業集積間の競争が激しくなる中で、既存の商店街や都心部ターミナル駅の百貨店がかつての集客力を失い、商圏が次第に狭くなってきた、というような文脈で語られる「小商圏」のことです。旧勢力が新勢力に取って代わられる、このような勢力の新旧交代劇は、いつの時代にも、店舗間や商業集積間、都市間で繰り広げられてきました。少なくとも70年代の大店法導入期の頃には、買物行動の郊外化とともに、ターミナル型繁華街の広域集客力が低下しつつあることが指摘されています(その後、百貨店業態が中長期的な衰退トレンドに入るのは、ご存知のとおりです)。

 この捉え方の中には、都心部の旧商業集積群(百貨店)vs 近郊・郊外部の新商業集積群(GMSやSC)という図式も含まれますし、また、旧商業集積
(商店街、GMS)vs 新商業集積(SC)という図式も含まれます。近年では、新旧SCやアウトレットモール同士の激しい競争も見られるようになってきました。
 ライフサイクルでは衰退期にあたる業種・業態の小商圏と言えそうです。

(2)出店飽和の小商圏
 近代的なチェーンストア経営の視点から見ると、「小商圏」はまた違って見えます。
 新しいチェーンストア企業が成長を遂げるときに、それまで店舗数を順調に伸ばしていた成長期から、やがて成熟期に移行する曲がり角の時期がやってきます。この時期、次第に出店余地を見つけるのが困難になり、これまでのような良質の広域商圏立地を確保できなくなってきます。結果として狭域商圏での立地を選択せざるを得ない状況に陥ります。こうした文脈における小商圏は、先の商業集積の小商圏とはニュアンスが異なります。競争力や集客力の相対的な低下が起きているわけではありません。業態内における出店競争の結果として出店飽和(オーバーストア)状況の出現と、それに伴う出店ペースの鈍化が問題なのです。
 コンビニエンスストアやドラッグストアは、それまで規制市場にあった酒販店・米穀店や薬局・薬店をそれぞれ「餌食市場」とし、それを置換する形で店舗数を増やし成長してきました。餌食をほぼ食い尽くした状況こそが、この「出店飽和の小商圏」です。
 ライフサイクルでは成熟期にあたる業種・業態の小商圏と言えそうです。

(3)買物行動の小商圏
 消費者の買物行動が変化する様子に着眼して、小商圏が語られる文脈があります。ライフスタイルや消費行動の多様化や人口動態の変化が、小商圏化をもたらすという説です。
 GMSは、大量生産品を効率良く大量販売するというビジネスモデルで一時代を築きました。しかし、やがて消費スタイルや価値観が多様化することによって、時代遅れの業態になりました。代わって隆盛を誇るのは、小商圏型のミニスーパーや最近のコンビニエンスストアです。こうした店舗では、地域・地区別、店舗別の商品政策等のマイクロマーケティングを展開しています。 
 また、人口動態の変化が小商圏化を促進するという説があります。高齢化や女性就業率の上昇は、生活者の時空間的な制約条件をより厳しいものにします。高齢化は生活者の活動範囲を狭くし、買い回り行動をかなり抑制すると考えられます。昨今、問題視されるフードデザート状況は、これと関連のある論点といえます。また、女性の就業比率の上昇は、買物時間や買物のための移動時間を短縮化せざるを得ない状況を生み出していると考えられます。このように時空間的な制約が厳しくなることによって生じた狭小商圏化の状態を、「買物行動の小商圏」と呼ぶことにします。
 食品スーパーの小型店フォーマット戦略や、コンビニエンスストアのサービス化戦略、ネットスーパーや宅配食市場等の新たな業種や業態の出現は、こうした環境変化を背景とします。
 以下では、これら3つの視点から、小商圏化の実態を捉え、データを用いた実証的な確認を行います。 

2.商業集積の小商圏

 まず、商業集積の小商圏については、商圏分析用GIS(地図情報システム)「MarketAnalyzer™」と交通行動データを用いて確認します。東京都市圏パーソントリップ調査を元に東京大学空間情報科学研究センターが作成した「人の流れデータセット」を用いました。買物目的の移動行動を地区別に集計することで、商業集積の集客範囲を把握できます。1988年、1998年、2008年の3つの時点の状態を比較することも可能です(図2)。

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【図2 商業集積の小商圏】

 商圏の大きさは、それぞれの商業地に来街した買い物客の居住地までの距離(商圏距離)の平均値を用いて評価します。図2左は、2008年の商圏距離マップです。赤色は商圏距離が大きい(大商圏)地域、青色は商圏距離が小さい(小商圏)地域です。山手線の外側から国道16号線の内側までのドーナツ状の青色エリアでは、近隣型小商圏が広がっていると見ることができます。一方、国道16号線の外側から首都圏辺縁にかけては、広域型大商圏地帯です。商圏が広いというよりも、商店がまばらなフードデザート的な地帯という方が適切かもしれません。また、山の手線の内側には、首都圏全域から顧客を吸引する超広域商圏が分布しています。
 さて次に、中長期的な小商圏化の進展状況を捉えてみます。図2右は、1988年から2008年までの20年間にわたる商圏距離の変化を図示したものです。赤色・橙色が商圏縮小地区、青色・水色が商圏拡大地区を表します。国道16号線の外側は、商圏の拡大地区と縮小地区が斑模様です。新設ショッピングセンターの出現によって、周辺地区から広域的に買い物客を集めている勝ち組地区と、商業地としての集客力を奪われた負け組地区とが入り乱れている様子が窺えます。一方、国道16号線の内側では、ほとんどの地区で商圏縮小傾向が見られます。とりわけ山手線内の都心部では、その傾向が顕著です。 

 以上のことを整理すると次のことが言えます。
1.都心部(山手線の内側)
 かつてと比べれば商圏としての相対的な地盤沈下は否めず、広域集客力は低下(小商圏化)しつつあるものの、依然として超広域商圏としての地位は保っています。
2.近郊部(山手線の外側で国道16号線の内側)
 全般的にほとんどの地区で小商圏化が進行しています。買物者から見た場合に、商業集積(買い物施設)の選択肢が大きく増加しているものと見られ、商業集積間競争は激しいと言えます。
3.郊外部(国道16号線の外側)
 商圏は大きいですが広域圏別にそれぞれ一部の大型商業集積が旧商業者を駆逐する構図が見られます。
 商業集積の小商圏を語る際には、これら3つの圏域を区別し、その異なる状況を踏まえたうえで分析を進め、それぞれの実務課題に役立てるのが良いでしょう。

「家計調査から読み解く世帯別消費動向推移」

 この度、2012年版家計消費推計データメッシュ、町丁・字版がリリースされました。地域別市場性の把握や、消費動態の推移を測るのに有効な統計です。ニュースなどで宇都宮や浜松の餃子消費金額が取り上げられることが多いですが、それはこの家計調査を用いて算出されたものです。今回は家計調査の概要と消費動態の推移についてご紹介します。

1.家計調査とは

 総務省統計局が調査しています。選定した世帯の協力を得て毎日の家計の収入や支出を記録してもらい、その結果を取りまとめて国民生活の実態を家計の面から明らかにするもので、国の最も基本的でかつ重要な統計調査の一つです。
 調査結果は、景気動向の判断指標として不可欠なものであることはもとより、国や地方公共団体の各種施策立案や、大学・民間団体での分析などに幅広く利用されています。

2.家計調査の特徴

○利点
・指定統計である
国の景気動向の把握、消費者物価指数の品目選定の基礎資料として利用されており、指定統計として認可されています。
※指定統計:公的機関で利用されている信頼できるデータ
・地域の消費品目の傾向が見える
「都道府県庁所在市別」の「家計調査品目別データ」結果から、地域の特徴を知ることができます。

・消費者側から取得できる品目別統計は家計調査のみ
個人消費を供給側(いわゆる小売店等)から商業統計等で見ることはできますが、消費者側から見える統計データは家計調査年報のみです。
○弱点
・標本数が少ない
調査世帯は家計簿と同じように購入した品目、値段を詳細に記入する必要があるため、調査サンプルは限られます(全国で約9,000世帯)。

3.収録項目

 大項目10、中項目約50、小項目約600の項目から構成されており、詳細な品目別消費金額が把握できます(図1)。

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【図1 分類例】

4.品目別消費動態

 1世帯当たり年平均1か月間の収入と支出(二人以上の世帯のうち勤労者世帯)より、2000年から2012年までの推移を分析します。2000年の世帯当たり消費金額を100%とし、年別の推移を特徴のあるカテゴリ別に見てみます。

○食料品関連(図2-1)
 米、魚介類関連の消費金額が2000年以降大きく減少しています。反面、パンや肉類は2000年以降大きな変化はありません。2012年になり消費金額は若干回復傾向にあります。

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【図2-1】

○衣料品関連(図2-2)
 ファストファッションの台頭に伴い、2000年代半ば以降、衣料品の消費金額は減少傾向にあります。子供服については変動が少なく、少子化の中でも子供にかける金額は景気動向に左右されにくいことがわかります。食料品と同様2012年の消費金額は回復傾向にあります。

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【図2-2】

○保健医療(図2-3)
 高齢化に伴う医療費増大が社会問題化しているとおり、全般的に増加傾向にあることがうかがえます。健康保持用摂取品(サプリなど)が急増しており、健康維持に対する意識が高まっていることもわかります。

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【図2-3】

○その他 特徴的な消費品目(図2-4)
 2000年以降大きな変動や増加傾向にある品目をピックアップしました。通信費は携帯電話とスマホの普及などにより、継続的に増加傾向にあります。教育娯楽耐久財(テレビ)は地デジ、エコポイント特需で2010年に大きく増加しましたが、需要を先食いした結果いまだ需要の回復は見られません。教育娯楽サービス月謝額や理美容品も断続的に増加傾向にあります。自分への投資にあたる項目で、個性化を裏付ける結果といえるかもしれません。

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【図2-4】

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