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商圏は、いつどこで小さくなったのか?①

月刊GSI 2014年2月号(Vol.37)

 ある企業で常識とされる見方が別の企業で非常識だとされることは、別に昔から珍しいことではありません。むしろ、ライバルとのちょっとした着眼点の違いや、僅かな訴求ポイントのアレンジ力が勝敗を分かつ、というように、他社との差別化やカルチュアの差異こそが競争力の源泉という方が、一般に浸透する考え方になってきているように思います。

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1.商圏分析の非常識

 商圏関連の市場調査や分析が求められる経営課題は広範囲に及びます。それぞれの課題に対する企業の考え方(着眼視点や時間的尺度、空間的規模)は異なります。またその対応策は、企業の規模や財務内容、組織体制や歴史等々、様々な条件によって左右されます。経営戦略の多様性と企業の個別性に応じて、調査や分析のプロセス(商圏データの収集、調査、分析、そして解釈や判断)を適切にデザインしなくては、あまりビジネスの役には立たないのです。
 ひとつの分析例を示します。ここに実際のケースに基づく架空のデータを用意しました(図1)。データ分析者がよく出くわす、ごくありふれた例です。

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【図1 商圏内世帯の平均年収と商品Aの坪売り上げの関係】

 これは、あるチェーンストア店舗におけるAという商品の売り上げ(顧客一人あたりの年間買上額)を、商圏の富裕度(居住者の平均年収)との関係で分析しようという意図で作成した散布図(図1A)です。6つの点は6つの店舗を表しています。店舗によって商品Aが売れる店と売れない店があるのだろう、という程度で理解してください。
 素直に見れば、平均年収と客単価の間には正の相関があるようです。平均年収が高い地区の店舗で、商品Aがよく売れると結論づけて良さそうです(図1B)。ビジネスの上では、富裕地区店舗向けのマーチャンダイジング施策や会員顧客戦略の検討に役立つ情報になりそうです。不振店のテコ入れ策として、商圏の富裕度を確認した上で、商品Aが売れそうにない店舗に対しては、代替アイテムを検討したほうが良いという意見も出てくるかもしれません。

 ところが、少しヒアリングしてみると、新たな事実が見えてきました。この企業は、もともと地方圏で勢力を伸ばしてきたチェーンストアです。都市圏に進出してきたのはごく最近のことです。知名度の低い都市圏の店舗グループはもともとの地方圏の店舗グループと比べれば、未だブランド力が弱いので、顧客単価(粗利)は低く、オペーレーションコストも抑え、損益構造が異なる店舗群として展開しています。つまり1つの企業の中に2つの業態を抱えて経営しているようなものなのです。この2つのグループをそれぞれ別々に分析すると、異なった解釈が見えてきます(図1C)。赤色で示したのが地方圏の店舗群、青色で示したのが都市圏の店舗群、どちらのグループでも、平均年収が高くなればなるほど、商品Aの売れ行きは下がっています。
 このように集計単位を変えることによって、誤った(異なった)解釈に陥ってしまうことを生態学的誤謬といいます。空間集計を用いた分析では必ず付いて回る問題です。都道府県の集計データと市町村の集計データとを用いて、同じ分析を行った時に出てくる結果が正反対になるという可能性も、大いにあるわけです。

 つまりビジネスにおいて、どちらか一方の分析が正しいということは言えないのです。分析単位を店鋪群と見るのか、個別店舗と見るのか、どちらがより好ましいのか、ということを判断するのは分析者ではありません。与えられた経営課題が何なのか。そのことを明確に確認した上で、それに応じて、最も相応しい調査と分析の方法を選択しなくてはならないのです。

2.小商圏に関する既存の調査

 筆者は昨年、「小商圏」をテーマに幾つかの研究発表を行い、研究者や実務家との意見交換の場という貴重な機会を得ることができました。当初、このテーマについては、やや気楽なスタンスで着手したのですが、進めてゆくにつれて、関連する論点や実務テーマが厄介なことに、次から次へと芋づる式に出現してきました。実は手に負えそうにもないテーマだということは、後になって気づきました。

 小商圏について言及している文献は実に多い。論調も様々。まさに百論噴出の状態です。しかし、小商圏そのものを「見たり」、「触ったり」したとうそぶく人はいません。意外なことに、実証的な研究や調査の類が、見当たらないのです。
 小商「圏」と言っても、具体的な集客「圏」域の面積や距離はあまり問題にされていない節があります。単に「店舗間競争の激化」や「集客の困難化」と言うべき所を「小商圏化」と言い換えているに過ぎないと思われる場合が少なくないのです。 
 例えば、図2をご覧ください。これらは、それぞれ東京都が商業施策のために実施している調査の中から小商圏に関する項目について、グラフ化して示したものです。

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【図2A 商圏の広さに対する商店街の認識】/【図2B 商圏の動向に対する事業者の認識】
【図2 小商圏に対する小売事業者による自己認識】

 図2Aは、「東京都商店街実態調査」の各年版に基づいて作成しました。この調査では、都内の商店街に対して、その商店街に来街する顧客の集客範囲を尋ねています。一部を除けば、実際に商圏調査を実施している商店街は、そう多くはありません。従ってこれらの回答を客観的な数値と見做して鵜呑みにすることはできませんが、大凡の傾向は掴めます。調査によると、元来、都内商店街の半数は、商圏1キロメートル程の地域密着・最寄り品販売型の小商圏型商店街です。商圏3キロメートル以内をも含めると小商圏型商店街は全商店街のおよそ8割を占めます。反対に商圏距離が10キロメートル以上の超広域集客タイプの大商圏型商店街は常に4%程度存在するようです。商圏の広さ別の商店街の構成比率には調査年度による変化があるようには見えません。少なくともこれらのデータからは、商圏の縮小(または拡大)を読み取ることはできません。

 図2Bは、「東京都小売業基本実態調査」の各年版に基づいたグラフです。こちらは、小売事業者に対して、ずばり商圏が縮小しているかどうか、という点を尋ねています。どの調査年度においても、常に半数近くの事業者が商圏縮小化の認識を持っている、ということが分かります(ちなみに商圏が拡大している、という認識を持つ事業者は全体の1割足らずです)。小売事業者の多くを占める零細業者の中には、商圏が年を追う毎にどんどん縮小して、ついには廃業に至るケースも少なくないように思います。商圏縮小や集客力低下に対する不安や危機感は、多くの事業者に共通する偽らざる実感なのでしょう。そうした事業者の認識は分かるのですが、客観的な事実はどうなのでしょうか。商圏面積や集客力は、時代の変遷の中で、どのように変化してきたのでしょうか。疑問は残ります。
 東京都による、これら2つの調査は、過去に遡ると、少なくとも1960年代頃のものまで確認できるのですが、過去に調査設計や集計方法が何度か、変更されているため、時系列的な比較が可能なのは、ごく最近のものに限られます。残念ながら、これらの資料からは、小商圏の疑問を解明する手がかりを得ることはできません。小売事業の業況や集客事情の時代的な変遷を確認しようとすれば、商業統計や事業者の開・廃業率等の他の手段に頼らなくてはなりません。

 このように見てくると、商圏に関する調査というのは、空間的な集客力を実証的に調査するというよりは、単なる業況確認(商圏が広くなる=好調、商圏が狭くなる=不振)といった程度の意味あいのようにも思えてきます。他の経済分野の統計では中長期的な時系列統計が重要視されますが、それらとは異なり、商圏そのものに対しては、これまでそうした関心が向けられたことは無かったのかもしれません。小商圏というテーマは、目の前に広がる空間の上での問題ですから、これまで過去に何度も繰り返し調査され、実証的な分析の蓄積も数多いのではないか、と期待していたのですが、逆に当たり前過ぎて、誰の目にも留まらない盲点だったのかもしれません。(次号へ続く)

次号では小商圏現象がいつ、どこで進行したのかをご紹介します。

「ジオデモグラフィックデータを用いた消費嗜好性分析」

1.ジオデモグラフィックデータとは?

 今回は、ジオデモグラフィックデータを用いた地域別の消費嗜好性分析についてご紹介いたします。
 ジオデモグラフィックデータは、地図(ジオ)上でデモグラフィック(人口統計学)データを用いて町丁目等の小地域単位でエリアをセグメント分けしたデータです。弊社ではジオデモグラフィックデータとして日本全国を30にセグメント化した居住者プロファイリングデータなどをご提供しております(図1)。居住者プロファイリングデータは国勢調査をベースに、年齢別人口、世帯人員別世帯数、産業別就業者、住宅所有・建て方、家族形態など居住特性を表す主要項目を用いて統計解析を行い、地域をセグメント化しています。

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【図1 居住者プロファイリングデータ】

2.ジオデモグラフィックデータとサイコグラフィックの融合

 ジオデモグラフィックデータは地域別の居住特性を把握するのに有効ですが、このデータのみでサイコグラフィック的要素(嗜好性、価値観、ライフスタイル)を探るのは少々困難です。ジオデモグラフィックデータ上でサイコグラフィック要素をつかむには、顧客データやネットリサーチなどの消費行動、嗜好性等のデータを取り込むことが必要です。今回は居住者プロファイリングデータ上にネットリサーチデータを取り込み、消費嗜好性を分析していきます。
 今回はネットリサーチデータ(2010年時点)と、居住者プロファイリングデータ( 2010年国勢調査を基に作成)を用いて分析を実施しました。

3.分析の手順

 ネットリサーチデータを利用する場合、回答サンプルの居住地情報(郵便番号等)が必要になります。
・まず居住地情報を地図上に取り込み、居住者プロファイリングデータ上でサンプルを集計します(図2)。
・次に回答率を算出します。クラスター別のサンプル数を分母とし、クラスター別の回答者を分子として算出します。クラスター別の回答率を評価するために全サンプルの回答率も併せて算出します。
・次にクラスター別のindexを算出します。
 indexは以下の式で表わされます。全体回答率とクラスター別回答率のGap分析のような形です。1以上であれば全体平均よりも回答率が高く、1以下はその逆を意味します。

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【図2 データの取り込みイメージ】

4.分析結果

 衣料品の購入先として3つの衣料品チェーンの傾向を分析しました。各衣料品チェーンの特色は以下の通りです。
○チェーン店舗A
 女性をターゲットとした郊外型衣料品店
○チェーン店舗B
 ターミナル駅周辺の商業集積地に出店するファストファッションチェーン
○チェーン店舗C
 全国展開のファストファッションチェーン

 各店舗のindex値を地図上に当てはめた結果が図3~5のマップ(消費嗜好性マップ)です。
 チェーン店舗A、Bはターゲット層が絞られており、クラスターによってindex値に違いが出ましたが、チェーン店舗Cのように老若男女、万人が対象となるチェーン店舗では違いが現れません。ターゲット層が絞られている場合は消費嗜好性にメリハリが出るため、例えば買回り品などタッチポイントの高い商材の場合は今回ご紹介した分析手法が有効です。一方、最寄品など近くの商店で買い物を済ませるような商材では嗜好性の違いが表れにくくなります。これらの傾向を踏まえて分析を行うことがポイントとなります。

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【図3 チェーン店舗A】

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【図4 チェーン店舗B】

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【図5 チェーン店舗C】

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【付録 チェーン別index表】

 ○チェーン店舗A地方型居住特性クラスターでindexが高い

 ○チェーン店舗B都会型居住特性クラスターでindexが高い

 ○チェーン店舗Cindex値が1に近く嗜好性に差異のないindexのクラスターが多い

  →全国に浸透しているチェーン店舗のため、居住特性別の消費嗜好性が現れなかった。

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