ホーム > マンスリーレポート > マイクロ・ジオマーケティング時代のドラッグストア経営(後編)

マイクロ・ジオマーケティング時代のドラッグストア経営(後編)

月刊GSI 2013年4月号(Vol.27)

 前号ではDgSチェーン各社の経営戦略を中川宏道氏(2007)によるフレームを用いてご紹介しました(図1)。今回はその後編として、マイクロ・ジオマーケティングの観点から、DgSチェーンの経営戦略(専門性強化戦略とディスカウント戦略)と店舗立地との関係についてお話をします。

◆印刷用PDFをダウンロード

1.専門性強化戦略をマイクロ・ジオマーケティングで捉える

  前号ではDgSチェーン各社の経営戦略を中川宏道氏(2007)によるフレームを用いてご紹介しました(図1)。今回はその後編として、マイクロ・ジオマーケティングの観点から、DgSチェーンの経営戦略(専門性強化戦略とディスカウント戦略)と店舗立地との関係についてお話をします。

image4【図1 中川(2007)「DgS戦略と立地展開フレーム」】

 ヘルスケア(HC)重点型とビューティケア(BC)重点型とでは、立地と市場に対する捉え方が異なるのは前号で述べたとおりで、また戦術レベルで各社のマーケティングの取り組みを見ていけば、更に細分化した多種多様な方向性が見えてきます。

 図2のバブルチャートは、各社の専門性強化戦略を俯瞰するためのポジショニングマップです。各社の売上高構成比率から作成しています。位置が右上方にあれば、専門性強化重視型の経営と言えます。また右下はBC重点型、左上はHC重点型となります。バブルの大きさは収益規模です。ここで示したのは、各社の有価証券報告書を用いた企業別集計ですので、様々な立地別に複数の業態や店舗フォーマットを展開している企業では、それら全ての店舗を含有した位置を示しています。

image5

【図2 専門性強化戦略ポジショニングマップ(2012年度)】

 

 右上にひときわ大きく位置するのは、マツモトキヨシHDです。業界の中で、最も専門性が強化された企業と言えます。そこから少し離れた所にウエルシア、スギHD、ココカラファイン、サンドラッグの大手4社が一列に並んでいます。HCとBCの構成比率を変えながらも、それぞれ専門性強化により成果を上げている企業群と言えましょう。

 このポジショニングマップを用いて、競争戦略のモニタリングを行ないます。図3はマツモトキヨシHDの中長期的(2001年~2012年)な専門性強化戦略におけるポジショニングの移動軌跡を示したものです。もともと都心部でのBCに強みを持つ同社は、90年代後半には、それまでの駅前型店舗だけではなく、郊外立地の日雑品を扱うスーパーマーケット型モデルの出店による経営規模の拡大に成功しました。立地展開の主軸を駅前から郊外へ移すということは、専門性の希薄化に繋がります。この図3からは2001年以降に、同社がどのような戦略的な立ち位置を選択してきたかが読み取れます。移動軌跡の向きは概ね右方向です。全般的に見れば、BC重視を志向してきた、と分かります。

image8

【図3 専門性強化戦略における軌跡(マツモトキヨシHD)】

 

 このことをマイクロ・ジオデータから眺めてみましょう。年代別の出店データを整理して作成したのが図4です。各店舗の駅までの距離(「駅前」性指標)と足元商圏の小売販売額(「繁華街性」指標)から、出店商圏のタイプを示しています。これも出店戦略のポジショニングマップです。年代別の出店店舗の平均値をプロットした移動軌跡からは、同社の出店戦略テーマの変遷を確認できます。先ず80年代から90年代前半にかけて、グラフはまっすぐ右に進んでゆきます。都心部繁華街において店舗ブランディングを確立し、その存在感を増してきた時期にあたります。その後90年代後半、グラフは左上に方向を変えます。駅前・繁華街を離れ、郊外に新たな主戦場を求めます。2000年に入ると、グラフは再び右下に向けて反転します。駅ナカのような都市型立地の再発見という事情もあるかもしれません。また競争のフィールドを全国に求めてゆく上で、地方都市の繁華街は、旧来からの強みを活かした戦い方が可能な格好の標的になりつつある、ということかもしれません。いずれにせよ、2000年以降の駅前・繁華街化傾向は、図3のBC重視志向と符合します(同社は、既に様々な立地・形態でのマルチフォーマット経営を行なっていますので、一概にBC強化が進展していると解釈するのは誤りです。エリアや店舗の商圏・市場の多様性に応じてHCとBCのそれぞれの開拓余地の測定や経営計画がなされているものと考えられます)。

image9

【図4 年代別出店タイプの変遷(マツモトキヨシHD)】

 

このようにマイクロ・ジオデータを財務データと併せて用いることで、大雑把ではありますが、企業経営の足跡をたどることができます。経営戦略の方向性を正しく認識し判断する上で、自社や自店舗が置かれた市場や競争環境を把握することは必須です。マイクロ・ジオマーケティングはそのための材料を提供することができます。

 

2.狭小商圏対応型のDgSは地域包括ケアシステムの主要プレイヤー

 小売業マーケティングの世界では、足元商圏の深耕・浸透戦略を意図した「小商圏(狭小商圏)対応」がキーワードですが、同様の小地域のことを、地域医療や介護の世界では、地域包括ケアシステムが運用される「日常生活圏域」という言葉で表現します。

 日常生活圏域は、自治体によってやや捉え方にバラツキがありますが、行政界を中学校区程度の小エリアに区分したものです。それらの小地域の中で、高齢者に対するトータルな生活支援に一体的に取り組むことを目標としています。高齢化による活動力の低下によって、生活者の行動範囲は、否が応でも狭くなります。近年フードデザートが問題視され始めましたが、高齢者視点に立てば、小さなエリアの中で、生活を支える財やサービスの提供に対するニーズは非常に切実です。

 地域包括ケアのプレイヤーとして、既に流通や外食チェーン、スポーツクラブ等が名乗りを上げ始めています。

image10

【図5 神奈川県東部の日常生活圏域別ヘルスケア需要増マップ】
左:2010年の後期高齢単身世帯数、
右:2025年までの後期高齢単身世帯数の予測数)

 

 高齢者住宅事業には、様々な異業種からの参入が相次いでいます。DgS業界の中で、この分野に関する取り組みで有名なのはスギHDです。訪問看護ステーションの運営等、地域医療を担ってゆく上で重要なのは、地域社会へのコミットメントと効率経営のセンスです。両者を兼ね備えたプレイヤーというのは、他になかなか見あたりません。既存の医療者・介護事業者と比較しても、DgSチェーン企業に分があるように思えますが、如何でしょうか。

 さて「狭小商圏=日常生活圏域」をフィールドにHC専門性を強化してゆく際に、留意しなければならないのは、それぞれの圏域によって、市場環境が大きく異なるという点です。地域間における高齢者率の格差や高齢者間の所得格差は、今でも問題視されますが、こうした格差は今後更に拡大していくものと予測されます。

 図5は、2010年から2025年にかけての後期高齢(75歳以上)単身世帯の増加数を日常生活圏域別に予測推計したものを元に商圏分析用GIS(地図情報システム)MarketAnalyzerを用いて作成しています。
 単身世帯の後期高齢者は、地域包括ケアが最も重点的に手当しなくてはならない生活者です。彼らの増加は、ヘルスケアの需要増と同じ意味を持ちます。これまで、そうした高齢者の多くは旧市街に多く居住していたのですが(図5左)、団塊世代の後期高齢化に伴って、次第にかつてのニュータウンや住宅地で急増するようになります(図5右)。これらの地区では、生活環境が大幅に変化することが予想されます。まず医療資源不足が心配されます。需要の急増に対して既存の医療・介護事業者だけでは対応できなくなるでしょう。民間による保険外生活支援サービスに対するニーズも強くなる筈です。独居高齢者対策として、自治体によって大規模な集住を促す施策も採られるようになるかもしれません。

 既存の流通業やサービス業の多くは、何らかの形で地域包括ケアに関与する時代になるものと思われます。その中で、変化対応業として機動力に磨きを掛けてきた小売業、とりわけHC専門性に強みを持つDgSが担う役割は大きいように感じます。狭小商圏における生活環境の変化をいち早く察知し、先手を打って課題を解決するのがマイクロ・ジオマーケティングです。地域社会がそれを歓迎しない筈がありません。

3.ディスカウント戦略は一日にしてならず

 HBC専門性強化と並ぶDgSチェーンのもうひとつのオプションは、ディスカウント戦略です。言うまでもなく郊外展開型のDgSチェーンの多くは、ドミナント展開と低価格販売を武器に、地域の業種店、他業態店を餌食化することで急成長を遂げてきました。

 図6は、各社の粗利率をもとに作成したディスカウント戦略上のポジショニングマップです。営業損益ライン上で、大手チェーンの多くは、価格競争による疲弊を避け、高付加価値化(右上方向)ゾーンに推移しています。その中で、マップ左下に孤高のポジションで存在感を示すのが九州の雄、コスモス薬品です。
 同社の強みが、ローコスト経営の可能な仕組みづくりにあることは度々指摘されています。

image12

【図6 ディスカウント戦略ポジショニングマップ(2012年度)】

 資本効率性分析(図7)からは、面白い事情が見えてきます。この分析では各年度における資本と利益の関係を回転率(企業規模に対する売上高)と利益率(売上高に対する利益額)とに分解することで、経営状態を浮き彫りにします。(※分析法は様々あります。ここでは成長企業の戦略プロセス研究を行った橋元氏(2007)の方法に準拠します。ROAやROICの値とは異なります。)

image13

【図7 資本効率性分析(コスモス薬品)】

 

 2004年から2008年までは、目立った利益率の改善が見られること無く、回転率が一貫して下がり続けますが、これはどうしたことでしょう。一般に企業規模が大きくなるにつれ回転率は次第に低下しますが、この時、次のビジネスステージに昇格するための正しい投資が行われていたかどうかは、その後の財務データで明らかになります。
 さて、コスモス薬品の売上高本業キャッシュ利益率は、2008年を底にして4年連続でぐんぐん上昇していきます。販管費率の圧縮が利益率の上昇につながった、と分析するのは簡単ですが、重要なのは、『圧縮』の意味です。そこには、少なくとも4年以上、回転率を犠牲にして投資を持続してきた戦略の意志と重みが感じられます。
 同社は、早い時期から、情報システムとロジスティックシステムに対する計画的な先行投資を行なってきたといわれます。小商圏ドミナント戦略を明示的に掲げてきた同社にとってお手本となるのは、店舗作業の効率化を極限まで追求する大手コンビニエンスストアの物流戦略でしょう。有価証券報告書に「永続的な成長を実現するためには、その時点の企業規模よりも常に先を見据えた組織とシステムの構築を推進する」と記載があります。当時、身の丈以上の過大投資と思われたロジスティック戦略が慧眼であったことは、その後の決算書が証明しています。2008年以降の劇的なコスト削減には、そうした背景があったようです。

 図8は、同社の近隣店舗までの距離の平均値の推移を表したものです。ドミナント展開が充実してゆく様子が読み取れます。店舗数は倍増しているのに、近隣店舗までの距離は減少しています。店舗ネットワークの網の目が次第に密になり、ドミナント力が育っているということです。一度地中深く根付いた店舗網を、他社が切り崩すのは容易なことではありません。このように見てゆくと、同社のディスカウント戦略というのは、それ自体がテーマというよりも、将来に備えるためのインフラ整備の手段として捉える方が適切のように思えます。

image14

【図8 ドミナント出店展開の推移(コスモス薬品)】

 

参考文献
宗像守『ノンフードビジネス原論』、2000年
田村正紀『先端流通産業』、2004年
橋元理恵『先端流通企業の成長プロセス』2007年
中川宏道「ドラッグストアチェーンの戦略と今後の成長性」『流通情報』2007年1月号
本藤貴康「小商圏小売業態のリピート率と売価訴求効果分析」『東京経大学会誌』266号
駒木伸比古「業態間競合を背景としたドラッグストアの『再編』」『地理』2011年2月号

「2010年推計年収階級別世帯数データ」~ 店舗分析における利用データの変遷と最新データにおける地理的検証 ~

1.地図情報システムの普及

 店舗分析という分野において、1990年代後半からGIS(地図情報システム)が広く普及しました。当初は出店候補地や既存店の商圏内人口・世帯を定量的に把握できると共に、スピーディに分析できるという点から企業で活用されるケースが増加しました。この時多く用いられていたデータが1995年国勢調査です。この時期には革新的なGISの機能追加がありました。例えば単純な同心円での商圏設定では地理的要因を考慮した分析ができません。そこで自動車到達圏をシミュレーションする機能が開発されました。川や踏切といった商圏分断要因を加味した消費者志向の来店シミュレーションが可能になり、GISを使ってより精度の高い分析が可能になりました。

 

2.集計データの狭小化

 その後、2000年国勢調査がリリースされた際に、また一つの革新が生まれました。それまでの町丁字・1km四方のメッシュ単位のデータに加え、500m四方のメッシュが全国公表されたという点です。1995年国勢調査ではDID地区(人口集中地区)のみ500m四方のメッシュも公開されていましたが、店舗分析は行政単位だけでなく、店舗からの距離圏で実施することが一般的です。その際、DID地区を外れる商圏設定がなされた際、データ集計が不可能になり、全国展開する企業においては、自ずと1km四方のメッシュを使わざるを得ないという課題がありました。この問題は、図1の通りGISにおいては面積按分という手法でデータ集計を行うことに起因しています。例えば豊洲駅前半径1km圏内での集計値は、1kmメッシュの場合人口35,620人であるのに対し、500mメッシュの場合41,911人となっており、その差は5,000人に上ります。このように商圏設定が狭域になればなるほどこの誤差の与える影響は大きく、店舗分析にブレが生じるため、500mメッシュデータの公表は画期的でした。

image16

【図1 1kmメッシュで集計した場合(人口総数)】

image17

【図2 500mメッシュで集計した場合(人口総数)】

3.データの多様化

 その後、2005年国勢調査がリリースされました。この時期のエリアマーケティング分野では、消費者のライフスタイルの多様化がキーワードになり、単なる人口・世帯集計のみでなく、年齢別人口・家族構成・住宅所有関係などはもとより、世帯年収・消費支出といった消費の多様化に対応したライフスタイル分析が活発になってきました。

 図3は商圏分析用GIS(地図情報システム)MarketAnalyzerを用いて、人口総数と推計世帯年収をマトリクスで比較した地図です。ここで前述した人口総数のみの地図と比較してみます。図2を見ると、中心から右側に人口集中していることがわかります。また図3を見ると、中心から右側は人口のボリュームはあるものの、推計年収1,000万円以上の世帯は、中心から上側及び左側に分布していることがわかります。このように多様化したライフスタイルを把握するために、様々な推計データが開発され、広く使われるようになりました。

image55

【図3 人口と年収のマトリクス地図 】

4.年収データの推計にあたって

 前述した年収は、メッシュ・町丁字の小地域はもとより市町村・都道府県単位でも国勢調査では公表されていません。そのため、住宅土地統計調査にて公表されている市町村別の世帯年収のデータを使い、小地域データを推計するモデルが一般的です。弊社で開発した推計年収階級別世帯数データも同じモデルを採用しており、マイクロシミュレーション法を使って小地域の推計処理を実施しています。

 ではここで、先般リリースした最新の「2010年推計年収階級別世帯数」と「2008年推計年収階級別世帯数」を比較してみたいと思います。

 図4は、年収1,500万円以上の世帯数が100世帯以上増加しているエリアです(※1kmメッシュ内にて比較)。この結果を見ると都心駅前に増加が集中していることがわかり、駅前高層マンションの増加も起因していると想像されます。

image20

【図4 年収1,500万円以上世帯が100世帯以上増加したエリア】

5.今後求められるデータ

 このように世帯年収のデータを活用することで、より細かい分析ができるようになってきました。今後については、少子高齢化と人口減が進む日本では、シニアマーケットを的確に掘り起こしていくことなどが鍵になってきます。

 例えば図5、6は、年収1,500万円の世帯分布と有料老人ホームの分布です。この2つの地図を比較すると、中心右上に65歳以上世帯主の高所得層が多いことがわかります。介護施設などがより効率的な施設運営を目指す際、立地は最も重要な要因の一つと言っても過言ではなく、こうした分析が役に立ちます。

 また、これまで活用してきた年収データに加え、業種・業態・提供サービス毎に指数(特に年齢層)を変えていくことが求められます。

image21

【図5 年収1,500万円以上世帯数分布(全世帯)】

image22

【図6 65歳以上世帯主の内、世帯年収1,500万円以上の世帯分布】

ご相談・資料請求はお気軽にどうぞ!
無料で資料請求 ➤
GSI
 ☎ 03-3506-1800
(受付時間:9:30~18:00 祝祭日を除く)