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マイクロ・ジオマーケティング時代のドラッグストア経営(前編)

月刊GSI 2013年3月号(Vol.26)

 このところ小売業の経営成績は、震災特需の影響もあって好業績のところが少なくありませんでした。前年度、上場企業に限れば8割の企業が営業利益ベースでプラスを達成できました。それから半年、今年度上期の決算では打って変わって6割以上の企業が減益に陥っています。復興需要も一巡し「特需反動」と呼ばれる状況の中で、低価格競争に疲弊しているところも目立ってきました。苦戦する業態が多い中、ドラッグストア(DgS)業界だけが気を吐いているように見えます。

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1.はじめに

 このところ小売業の経営成績は、震災特需の影響もあって好業績のところが少なくありませんでした。前年度、上場企業に限れば8割の企業が営業利益ベースでプラスを達成できました。それから半年、今年度上期の決算では打って変わって6割以上の企業が減益に陥っています。復興需要も一巡し「特需反動」と呼ばれる状況の中で、低価格競争に疲弊しているところも目立ってきました。苦戦する業態が多い中、ドラッグストア(DgS)業界だけが気を吐いているように見えます。

 目立ったところでは、九州を地盤にチェーン展開するコスモス薬品です。ディスカウント型の食品MD戦略によって、九州での小売業首位を達成したニュースは、新聞や雑誌にも取り上げられました。リテール業界の中だけではなく、医療・介護業界でのDgSチェーン企業の存在感も増しつつあります。訪問看護や高齢者住宅の運営を行うなど、地域包括ケアシステムでの事業展開を開始するところも出てきました。

 これまでDgS業界は、次世代型のビジネスモデルを求めて、次々と新業態開発の試みにチャレンジしてきました。こうした試みは今後も続くものと思われます。業界専門家によると、その方向性は大きく分けて、専門性、利便性及び低価格の3方向だといいます。後述しますが、そのいずれもが「狭小商圏」すなわち、地域住民の生活に密着したマイクロエリアを巡って展開されます。狭小商圏を相手に店舗運営をすることの難しさは、地域特性の多種多様性にあります。市場(顧客)特性と競合条件は、商圏によって異なり、また時間とともに変化します。

 マイクロ・ジオマーケティングとは、時間(タイミング)と空間(立地)とを巧みに読み解く、狭小商圏対応型のマーケティング活動をいいます。本稿では、DgSチェーンの経営戦略をマイクロ・ジオマーケティングの側面から捉えてみたいと思います。

 

2.DgS経営の業態進化論

 DgSチェーン各社の経営戦略とその店舗立地との関係について、中川宏道氏(2007)が明快に整理したフレームがあります(図1)。横軸は、HBC(ヘルス&ビューティケア)すなわちDgSの専門性(スペシャルティ)強化の度合いを示します。縦軸は、粗利率すなわち価格重視(ディスカウント)政策に対する企業の考え方を示しています。先ずこのフレームを手がかりに、DgSチェーン各社の戦略動向をフォローしてゆきたいと思います。

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【図1 中川(2007)DgS戦略と立地展開フレーム】

 フレームの右半分は、高いHBC専門性のグループが括られています。駅前・繁華街型DgSと郊外住宅地型DgSが含まれます。前者は繁華街立地のマツモトキヨシ店舗、後者は住宅地内に深く入り込んだスギ薬局のイメージです。ビューティケア(BC)重点型、ヘルスケア(HC)重点型と言い換えても良いでしょう。これら二種類の店舗群の立地像は、ここ数年の店舗開発トレンドの中で、大きく変貌を遂げてきたように感じます。
まず駅前・繁華街型は、御存知の通り、都心シフトと駅ナカ立地の再発見というトピックがありました。百貨店が振るわず、都心部から郊外へという流れが90年代以降続いてきた訳ですが、リーマンショック以降、大型アウトレットモールや郊外型リージョナルショッピングセンターの開発も一段落し、都心回帰への志向が目立ってきたように思います。本稿のテーマからは外れますが、スマートフォンや携帯タブレットの普及によりSNSと位置情報を用いた送客マーケティングが急速に実用化・普及してきたことも繁華街マーケティングにおける大きな変化です。詳述は避けますが、駅前・繁華街型立地は、これまでのように単なる専門性やブランド力が発揮可能な広域商圏市場という意味だけではなくて、都市生活者の生活時間シェアを争う新たなマーケットの場に変貌しつつあります。場所が重要なのではなく、そこを通過(滞留)する消費者の時間にフォーカスが当たるようになってきたのです。一例として時間帯別のMDがあります。マツモトキヨシHDもスマートフォンアプリLINEを用いた販促活動を開始しました。都市型小売企業・サービス企業の有力プレイヤー達は、既にその準備を始めつつあるようです。

 一方、郊外住宅地型立地も大きく変化しました。国民の4人に1人が高齢者となり、至る所に介護事業所が見られます。生活の場としての住宅地は、今や高齢者ヘルスケアの場となりました。地域包括ケアシステム体制の確立は、医療者や介護事業者だけの問題ではなく、地域社会全体の課題として語られるようになりました。

 予防介護事業に取り組むスポーツクラブ、お年寄りの遠隔見守りサービスを始めた携帯キャリア、総合スーパーやCVSは、そのロジスティクス力を活用した生活支援サービスを開始しています。DgS業界に近いところでは、訪問調剤や訪問看護、それに高齢者住宅の分野も有望な事業領域です。 

 以上見てきたように、DgS経営の業態進化(深化と分化)は、それぞれの商圏における市場環境の急激な変化に対応する形で、次なるステージに進みつつあるように感じます。
 次回は、マイクロ・ジオマーケティングの観点から、DgSチェーンの経営戦略(専門性強化戦略とディスカウント戦略)と店舗立地との関係に関わるお話をします。

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【次号紹介 専門性強化戦略ポジショニングマップ】

参考文献
宗像守『ノンフードビジネス原論』、2000年
田村正紀『先端流通産業』、2004年
橋元理恵『先端流通企業の成長プロセス』2007年
中川宏道「ドラッグストアチェーンの戦略と今後の成長性」『流通情報』2007年1月号
本藤貴康「小商圏小売業態のリピート率と売価訴求効果分析」『東京経大学会誌』266号
駒木伸比古「業態間競合を背景としたドラッグストアの『再編』」『地理』2011年2月号

 

『クラスター分析の基礎と商圏分析事例』~世帯人員編~

1.クラスター分析の概要と利用場面

  クラスター分析とは、複数のサンプル(母集団)を算術的な手法で似通った特性ごとに分類(クラスター分け)する分析手法の総称です。

 マーケティングにおいては1人1人の顧客をある程度のまとまった顧客グループに集約することで、現実的な商品開発やプロモーションが行うなどの活用場面があります。

 今回の自主調査では、クラスター分析の事例として、大阪府、兵庫県にある約19,000※1の小地域(4次メッシュ※2)にクラスター分析を施した場合、どのように分類されるか、分類ごとの特性、差異はどのように解釈できるか、世帯人員を例に紹介します。商圏分析用GIS(地図情報システム)MarketAnalyzerを用いてクラスター分析を行う際の一連の手順としてご参考ください。また、クラスター分析の基礎情報については前号で詳しくご紹介していますので、ぜひご参考ください。

※1:人口の値がない地域を除いた小地域数
※2:約500m四方の地域単位

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【表1 分析結果の成果物例:クラスター別概要】

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【図1 分析結果の成果物例:クラスター分布】

2.クラスター分析例:街の分類、類似する街の検証

 クラスター分析の事例として、大阪府、兵庫県にある約19,000の小地域(500mメッシュの数)を世帯人員により分類していきます。今回は非階層クラスター分析(k-means法)を使用します。また、投入するデータ(属性)は予め偏差値に変換した値を使用しています。

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■事例 世帯人員構成で10分類する。

【目的】
 地域別で個々に異なる世帯人員構成の特性を、類似
する特性に集約する(ファミリー層が多い地域、若い単身あるいは高齢単身が多い地域など)。

【設計】
 一般世帯数、非一般世帯数※、世帯主が20-29歳1人世帯数、高齢単身者世帯数を使用。
※世帯総数から一般世帯数を除いた数

【クラスターの特性】
 各クラスターの解釈の結果、世帯密度と世帯構成のバランスにより次の特性が導き出されました。解釈にあたって使用した世帯種別ごとのクラスター別平均値は本稿の末尾(参考1、参考2)をご参照ください。

●クラスター1(CL1)
 クラスター内で2番目に小さな値を示しており、小規模な集落。際立った世帯特性はありません。

●クラスター2(CL2)
 世帯密集度が高く、20代単身世帯、高齢者世帯が多い地域。住宅に住む世帯が多く、経済的に安定しているものと推測されます。

●クラスター3(CL3)
 世帯密集度が中程度、比較的高齢者世帯が多い地域。住宅に住む世帯が多く、経済的に安定しているものと推測されます。

●クラスター4(CL4)
 世帯密集度が中程度、比較的20代単身者が多い地域。住宅に住む世帯が多く、経済的に安定しているものと推測されます。

●クラスター5(CL5)
 世帯密集度は中程度、世代による際立った特徴はありません。 住宅に住む世帯が多く、経済的に安定しているものと推測されます。

●クラスター6(CL6)
 世帯密集度は中程度、世代による際立った特徴はありません。 住宅に住む世帯が多く、経済的に安定しているものと推測されます。クラスター5より世帯密度がやや高めです。

●クラスター7(CL7)
 阪神地域で1か所(動物園前駅周辺)だけ出現しています。世帯密集度が一番高く、住宅以外に居を構える世帯、高齢者単身世帯が極端に多いのが特徴です。

●クラスター8(CL8)
 世帯密集度が高く、20代単身世帯の値がクラスター内で最も大きいのが特徴です。

●クラスター9(CL9)
 世帯密集度が2番目に高く、住宅以外に居を構える世帯、高齢者単身世帯が多いのが特徴です。

●クラスター10(CL10)
 クラスター内で1番小さな値を示しており、小規模な集落。ほとんどの世帯が住宅に住んでおり、世代による際立った特徴はありません。

【クラスターの地域分布】
 それでは、今回導き出した各クラスターを地図に展開し、地域ごとにどのクラスターが出現しているかをご紹介します。
 各クラスターは下図の配色で表しています。

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●姫路市付近

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  姫路市付近ではクラスター1、5、10が目立ち、一部にクラスター6があります。クラスター2、3、4、7、8、9は出現しませんでした。世帯密集度は低~中程度で、20代単身や高齢者単身世帯が集まる極端な地域はみられませんでした。

●神戸市付近

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 神戸市付近ではほとんどのクラスターが出現しています。世帯密集度の高低はもちろん、20代単身世帯の集まる地域が神戸市の中心に集まっています。

●大阪府北部

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 20代単身者の多いクラスター4、8と高齢者単身の多いクラスター3、6、際立った特性はないクラスター5がそれぞれ固まるような現われ方をしています。特に御堂筋線沿いに若い単身世帯が集まり、それ以外の広範囲で高齢者単身の傾向が強いことがうかがえます。

●大阪市付近

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 大阪市においてはクラスター3が目立ちます。広い範囲で高齢単身者の傾向が強く、大阪市の高齢化が如実にうかがえます。一方、新大阪駅から難波間の御堂筋線沿いにクラスター8が集まっており、若い世代の単身者の存在がうかがえ、両極端となっているようです。

 

3.最後に

 クラスター分析では属人的な判定を排除して処理されるため、経験則に基づいて実施された顧客分類や店舗分類と比べることで新しい発見があるかもしれません。また、クラスター分析はそのアルゴリズムやクラスター数の設定などに自由度がある反面、初めのうちはなかなか思う通りに解析ができず、活用に苦労することがあると思いますが、弊社では空間解析と統計解析を充実させた商圏分析ソフトMarketAnalyzer™を駆使し、貴社の課題にお応えします。ご興味いただけましたら、ぜひ弊社までご相談くださいませ。

 

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【参考2 クラスター別世帯属性別平均値】

配色の説明:
赤枠内の値に対し、条件付き書式のカラースケールを適用しています。緑色が大きな値、赤色が小さな値を示します。
上段は全体の値を比較、中断は同一クラスター内の値の比較、下段は世帯属性内で値の比較を行っています。

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