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高齢者住宅市場における地域ニーズの定量的把握法の検討

月刊GSI 2012年12月号(Vol.23)

 地域包括ケアシステムの拠点施設としての整備が期待される「サービス付き高齢者向け住宅」事業には医療法人、不動産業者等を中心に福祉事業者以外の業種からの新規参入が相次いでいる。しかし、当該事業を円滑に推進するための需要算定方法は未だ確立していないように見受けられる。本研究では、センサス等の公的データのみを用いて、小地域推計や空間解析方法によって地域ニーズの定量的把握法を検討し、試行する。結論として、高齢者住宅事業と関連が強い、世帯類型や年収階級等を加味した小地域ニーズ推計を実用的に行うことが可能であることを示す。

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1.研究の背景と目的

■1-1 背景
 政府の高齢者住宅拡充方針を受けて、昨秋から始まった「サービス付き高齢者向け住宅(以下:サ付住)」登録制度は、医療法人、不動産業者、サービス業者等の福祉事業者以外の業種からの参入が相次いでいる。勿論、これまでも高齢者住宅事業や有料老人ホーム事業に対する民間の参入事例は少なくはなかったが、今回のサ付住制度は地域における在宅医療、訪問看護、介護機能を大幅に強化する、地域包括ケアシステムにおける高齢者の重要な居住拠点としての役割が期待されており、事業者が自治体や地域医師会と密接な連携を取りながら住宅サービスや関連サービスを提供する事例も見られる等、その社会的な意義も重要視されている。

 本研究は主として民間事業者によるサ付住事業を中心とする高齢者住宅市場における地域ニーズ、すなわち高齢者の高齢者住宅に対する需要量をそのテーマとするものである。

 

■1-2 問題意識
 公的補助や介護保険収入が見込めるとはいえ、民間事業である限り、サ付住事業もまたリスクを伴う。従って、慎重なプランニングやマーケティング調査は必須である。これまでの高齢者住宅経営においても地域ニーズの質と量を把握しなかったため、提供サービスの品質と価格のミックスを間違え、オープンしても入居者の募集に失敗するという事態が度々発生してきた。

 事業者の参考資料として、一部の都道府県が持つ「高齢者居住安定確保計画」が挙がる。ここには都道府県域における将来に渡る住宅需要量の推計に基づいた整備計画戸数が示されている。しかし、市区町村別配分等の具体的数値まで落とし込まれていない。また、多くの介護保険者(市区等)は日常生活圏域別介護ニーズの把握を前提として「介護保険事業計画書」を作成することとなっている。しかし、この資料も地域ニーズを充分に定量評価しているとは言えず、民間事業者の参考資料としては、他市区との比較可能性等の面で、その有用性は限定的であると言わざるを得ない。

 高齢者住宅事業の計画において必要な資料やデータが得られず、フィールドワーク等のマーケティング調査に多大なコストと時間を割かねばならない現状があるとすれば、社会的に多大な損失であると考える。

 

■1-3 目的
 本研究ではセンサス等の容易に入手可能な公開データを組み合わせて分析することによって、高齢者住宅市場における地域ニーズを定量的に把握する方法を検討し、実用的な方法として提案する。

2.経営診断との関係

■2-1 自治体経営(介護・保健事業)
 自治体において内部の行政データを用いて定量的地域診断を行い、保健活動に活用している所も少なくない。本報告で提案する方法は民間事業者による事業診断を想定してはいるが、データの入手が困難な他市区との比較やベンチマーキングの際には有用であろうと考える。

 

■2-2 新ヘルスケア産業事業者
 医療・介護の保険適用外の新サービス産業の創出は、我が国「新経済成長戦略」における潜在需要掘り起こし施策の中で大きな位置を占める。この新しい産業創出の時期において、事業の実現可能性を診断するための需要把握法を早急に確立する意味は大きいものと思われる。

 

■2-3 統計データの利活用
 公的データの利活用、それ自体に意義があることについても触れたい。近年、欧米各国にて相次いでオープンガバメント、若しくは公的データの戦略的利活用について具体策が発表されている。これはビッグデータ活用における検索、分析等の実用技術の進展によって、これらデータの経済的価値が認知され始めたからだと考えられる。遅ればせながら、我が国においても公的データの商用を含む二次利用を原則認める方針が発表されてはいるが、情報開示における旧弊たる慣行を改めるのは容易とは考えにくい。本報告は、公的統計データの小地域集計の分析結果が実用的な経営診断の用に役立つことを実証することを主旨とするが、ビジネス一般における公的データ利活用の経済的な価値についても示したい。

 

3.需要の捉え方

 高齢者住宅事業の診断及び経営計画において、需要の把握は以下の2方向から分析され得るものと考える。1つは需要の将来的変化量、もう1つは需要の種類別・セグメント別推計量においてである。前者は中長期的な事業の継続性の検討、後者はマーケティング戦略の策定と関連する。

 

■3-1 将来予測・推計 
 事業の持続性診断のために、現状の需要見込みだけではなく、将来変化量の推計を考慮することは不可欠である。また収益構造において公的補助や医療・介護保険に依存する部分が大きい場合には、自治体財政の破綻リスクが需要に及ぼす変化についても考慮の必要があろう。  
 将来予測は重要なテーマではあるが、国立社会保障・人口問題研究所がコーホート要因法によって市区町村別性別年齢帯別将来人口推計を公表し、自治体もそれを基に施策を計画しているのであれば、概ねそれに従うこととして、本研究の検討内容には含めない。

 

■3-2 セグメント別推計
 地域ニーズに対応したマーケティング戦略を検討することの重要性は、言わずもがなであろう。本報告では高齢者数若しくは高齢者世帯数を(1)世帯類型と住宅所有、(2)世帯収入と健康度(要介護度)の2基準で推計することで、高齢者セグメント別ニーズの定量的把握とする。

 

■3-2-1 世帯類型と住宅所有
 介護が必要な状態になっても、できれば引き続き自宅に住みたいという高齢者の意識は強い。高齢者住宅への住み替えニーズは世帯類型および住宅所有の違いにより有意に異なる。例えば、高齢単身で且つ借家住まいの世帯では住替え希望者の比率(11.1%)は高齢者を含む世帯全体(1.55%)に比較して7倍以上にも及ぶ[1]。小地域における世帯類型別・住宅所有別世帯数のクロス集計表を推計し、住替えニーズの地域格差を捉える。

 

■3-2-2 収入と要介護度
 見守り・生活支援サービス等の保険適用外サービスの包括的な提供を前提に事業を進めるのであれば、地域居住者の経済状況(収入若しくは可処分資産)を充分に把握する必要があろう。また事業の推進主体が医療機関ではない場合には、地域医療との連携体制が不可欠である。要介護度別入居者数の想定は地域高齢者の健康度を知らずして判断することはできない。ここでは小地域別・高齢者世帯の収入帯別・要介護度別数のクロス集計表を推計する。

 

4.先行研究

 高齢者住宅の需要量を扱った同様テーマに佐藤ら(2011)[2]があり、市区別推計を目的としている。本研究では、市区より小さな空間単位を対象とする。これは地域包括ケアシステムにおいて、同一市区内における「日常生活圏域」レベルにおける社会経済的格差やその個別性やニーズの多様性に応じた事業戦略の想定がより重要になるだろうと考えてのことである。

 小地域推計については先行研究における方法を参考に、当該分野で応用可能かどうかを検討することにした。浅見・木戸(1998)[3]は小地域においてセンサスの複数のクロス表をIPF法を用いて合成している。IPF法の計算についてはSimpson & Tranmer(2005) [4]が一般的な統計ソフトウェアを用いた方法を提案している。小地域別収入帯別世帯数の推計法については上杉・泰司(2010)[5] が具体的に検討している。

 

5.推計方法の検討

■5-1 世帯類型と住宅所有
 世帯類型と住宅所有は、それぞれ国勢調査小地域(町丁字)集計表から取得できる。これらを用いて表1(上) のようなクロス表を作成したい。方法は複数検討できるが、他にデータを必要としないIPF法を用いた。

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 【表1 小地域高齢者セグメント別推計のイメージ】

 

■5-2 収入と要介護
 小地域別要介護者数の推計値については、既に数社から推計データが市販され、利用されている。年収データについては、一般世帯に関するものは数社から市販されているが、高齢者のみに限ったデータは見当たらないので、新たに推計方法を検討した。

 既存の推計方法を検討したところ、複数の統計テーブルを組み合わせて、新たに年収分布を形成する方法(以下、合成法と呼ぶ)と年収分布の型に何らかの仮定を置いた上で、地理的な共変量から回帰モデルを作成して推計する方法(回帰法と呼ぶ)とに大別できることが判明した。両者をそれぞれ試し、比較検討する。

6.推計法の試行結果

■6-1 世帯類型別・住宅所有別世帯数の推計
 1都3県内の全ての町丁字に対して、それぞれが所属する市区町村別にIPF法を適用した。ソフトウェアはSPSSのGENLOGプロシージャを用いた。通常のPCにて実用的な時間内で計算を終えることができた。完成した小地域別・セグメント別高齢者数に対して「H20住生活総合調査」内の高齢者属性別の住替え意向者比率を掛け合わせることで、セグメント別の高齢者住宅ニーズの強弱を加味した地域的な需要格差を捉えることができた(図1)。高齢者数が多くても住宅需要が少ない地区や、またその逆の地区も存在する。単に高齢者数だけを見ていたのでは、需要を見誤る恐れがあることを指摘しておく。

 

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【図1 高齢世帯の住替え意向】
(左上)町丁字別高齢者の住替え希望者比率 (最小値:3.85% 最大値:11.72% 中央値:1.82%) (右上)町丁字別高齢者数と住替え希望者の散布図(下)高齢者における住替え希望者の比率マップ

 

■6-2 収入階級別世帯数の推計
 収入の世帯分布は、合成法と回帰法の両者を比較した。合成法は市販の各社作成法を参考に、住宅土地統計を基に作成した。回帰法については、上杉(2010)の方法を踏襲し、その妥当性を確認した。全国969市区の収入階級に対数正規分布を仮定しモデル化したうえで適切な共変量を探索し、回帰モデルを決定した(図2左上)。都道府県別モデル、23区モデル等、複数モデルを試行した。都道府県別に見ると説明力のバラツキ(決定係数の最小値30.35% 中央値86.36%)が大きい(図2右上)ことも判明した。経済・産業の構造等において、異質な市区が混在している県では、適切なモデルを決定するのは難しいのではないか、と考える。

 但し、モデルが適切な場合には合成法以上の説明力をもたらす。精度の検証として、入手可能な都民税徴税額(世田谷区)データと照合したところ、 東京23区で作成したモデル(r=0.70)は合成法(r=0.25)よりかなり説明力が高い(図3)。巧みなモデル作成法や実用的なモデル評価法の確立は課題として残る。

 また世帯収入の分布を示すデータはセンシティブな性質を含むため、取り扱いやその解釈について充分な考慮が必要であろうと考える。

 

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【図2 高齢世帯の所得分布推計モデル】
(左上)回帰法による収入帯階級別世帯数推計法 (右上)都道府県別の決定係数 (下)一都三県の市区を対象に決定したモデル例

 

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【図3 所得分布推計の検証】
(左)合成法による高齢者平均収入 (中)回帰法(23区モデル)による高齢者平均収入 (右)一人あたり都民税徴税額
※それぞれ5階級で等量分割のコロプレス図:濃い色が高収入地区

 

■6-3 要介護度別要介護者数の推計
 要介護者の数は、高齢者に対する要介護者比率を用いて推計されることが多い。ただし市区別の要介護者数は、一般には75歳を境に高齢者の前期・後期の別で集計されたもののみ公表されている。都道府県別集計では、性別・年齢帯別に細分化されたテーブルが国保連から公表されているので、これを手がかりに市区の年齢構成に応じて調整し、市区別・性別・年齢帯別・要介護度別・要介護者数とその比率を推計し、町丁字別に要介護者期待値を算出することができた。

 

7.診断実務に向けて -小地域分析の意義

 高齢者住宅事業者の多くは、対象顧客に対して、縦軸に収入・横軸に健康度(要介護度)のマトリクスを想定した上で、その中に自社の事業ポジショニングを置いている。本研究ではこれら事業者の事業戦略に対応して、地域のニーズを見える化するためのニーズマトリクスを作成することができた(図4)。

 

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【図4 地区別年収階級別・要介護度別高齢世帯数の分布】

 

 団塊世代が後期高齢化を迎える2025年にかけて、高齢者ケアのニーズが倍増することは誰しもが疑いようのない事実ではあるが、地域別に多様なニーズを比較検証可能な形で定量把握する手法についての議論は、未だそれほど多くはない。

 政府の「公共データの開放・民間利活用」方針に多くを期待するとして、診断実務において、データ利用の高度化・付加価値化を更なる課題とし、活用事例の提示を続けていきたい。

 

【参考文献】
[1] 国土交通省(2010)「平成20年住生活総合調査」
[2] 佐藤栄治ら(2011)「サービス付き高齢者向け住宅の整備方針確立に向けた基礎的研究」『日本建築学会計画系論文集』7(667)、pp.527-1535
[3] 浅見泰司・木戸浩司(1998)「国勢調査住宅関連統計のIPF法による度数分布表推計の精度 : 東京大都市圏を例として」『日本建築学会計画系論文集』(514)pp.185-189
[4] Ludi Simpson & Mark Tranmer (2005) “Combining Sample and Census Data in Small Area Estimates,” The Professional Geographer, Vol 57, Issue 2
[5] 上杉昌也・浅見泰司(2010)「小地域の所得分布推計および転居の所得要因分析」『Discussion Paper』No.103 東京大学空間情報科学研究センター

 

生活圏域を用いたエリアマーケティング分析~横浜市内における高齢者の所得と要介護度データ活用~

1.高齢社会でのエリアマーケティングの課題

 2010年国勢調査にて65歳以上の人口比率が23%を超えたという数値は記憶に新しいと思われます。1985年に10%、2005年に20%、現在は4人に1人が高齢者という状況に近づいており、「本格的な高齢社会」に突入していると言われています(内閣府『平成23年版高齢社会白書』著)。更に図1で表されるように2025年には30%を超え、2040年には36%に達すると予測されています(2025年、2040年の高齢者人口比率は、国立社会保障・人口問題研究所ホームページより抜粋)。

 既に超高齢社会への移行期に入っている日本では、医療・介護分野の事業者は勿論、様々な業種で高齢者が安全にかつ安心して生活していくことのできる地域サービスを展開しようと模索している時期でもあります。


 しかし、エリアマーケティングにおいて高齢者を取巻く環境を分析することは容易なものではなく、これまでの小売・流通業で利用されてきた店舗戦略における消費行動分析モデルでは通用しない現状があります。


 本自主調査のテーマは、民間企業における高齢者向けのサービス展開を行う上で、欠くことのできない生活圏を用いたエリアマーケティングです。

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【図1 日本の将来人口】
(国立社会保障・人口問題研究所ホームページより抜粋)

 

2.高齢社会でのエリアマーケティングの考え方

 これまでのエリアマーケティングでは、店舗を開店して集客することが主な目的であり、どこに出店するかというテーマに沿って、ドミナント戦略や出店余地・売上予測、どこから集客したらいいのかという販促エリア最適化などの分析モデルが用いられていました。更に最近では、政府公開データの多様化、推計モデル・精度の向上により、居住者のライフスタイルに合わせたニューファミリーエリア、都市近郊富裕層エリアなどのエリア分析も可能になっています。

 ただしこれらモデルは、健常者が電車・バスなどの交通機関やマイカーなどで来店することが前提になっていることが多く、高齢者へのサービス提供の観点からは、必ずしも適した分析モデルであるとは言い難い面があります。


 なぜなら、人間の行動範囲は年齢と共に小さくなるからです。高齢者は行動エリア(居住エリア)に欲しいものが無ければ、諦めざるを得ない場合も少なくありません。高齢社会では、こうした買いたくても買えない買い物弱者や在宅限界を視野に入れたサービス提供に必要なエリアマーケティングが望まれています。


 また一概に高齢者と言っても様々です。65歳以上人口の中には、退職したばかりのアクティブシニア層、単独では日常生活が困難な要介護(要支援)認定者などのシニア層があり、それぞれ必要とされるサービスは異なります。これらの層を一つの「高齢者」として扱い、サービス展開をしていいのでしょうか。答えは明快です。提供されるサービス別に高齢者を分析する必要があります。

3.生活圏域単位でのエリアマーケティング

 厚生労働省は、地域包括ケアシステムの一環として日常生活圏域単位でのサービス提供を保険者に要請しています。この地域包括ケアシステムとは、医療・介護・予防・住まい・生活支援が切れ目なく、継続的かつ一体的に提供され、また人口1万人程度のエリア(小中学校区レベル)において日常的な医療・介護サービスが提供されることを推進するシステムです。ただし、この日常生活圏域の概念は、保険者に委ねられているため、各保険者により異なります。例えば、名古屋市では小学校区単位を基本と考えているのに対し、横浜市では中学校区単位を基本と考えているものもあります。

 行政サービスの場合、保険者によりエリアが異なることは仕方ありませんが、民間企業のサービス展開におけるエリアマーケティングの場合は望ましくありません。

 弊社では、高齢者向けのサービスを展開する民間企業のエリアマーケティングにおいて、政府公開データを用い、小学校区を指標としたオリジナルの生活圏域単位で分析することを推奨しています。

 

4.生活圏域とは

 弊社が推奨している生活圏域は、国土交通省が公表している小学校区をベースに作成したものです(図2参照)。しかし小学校区を公表していない市区町村も多く、公表されていないエリアでは、小学校の位置から判断して近隣の町丁・字を結合させるという独自のロジックにより作成しています(図3参照)。

5.生活圏域単位でのデータ推計

  前述の通り、生活圏域は保険者毎に異なっているため、生活圏域単位の統計データの公表はありません。都市圏の生活圏域はほぼ町丁・字の集合体として扱うことができるものの、地方都市や山岳地帯や離島などでは必ずしも町丁字の集合体ではありません。これが何を意味しているかと言うと、地図情報システム(GIS)を使った面積按分ができないということです。GISを使った面積按分とは、例えば町丁・字単位と市区町村単位といった異なる境界のデータを面積比率に応じて一方が保有しているデータをもう一方に按分することです。

 弊社ではこの部分について、平成22年国勢調査の基本単位区を基にした人口ウェイト按分方式にて推計を施し、補正を行いました。この人口ウェイト按分方式では、全国に約200万箇所ある国勢調査の基本単位区データの位置情報を使って、境界内にある基本単位区別の人口合算値を分母とし、各基本単位区の人口を分子として按分比率を算出しています。この手法には、単純な面積ではなく、人口密度を考慮した按分データが作成できるメリットがあります。

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【図2 小学校区が公表されているエリアの生活圏域】

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【図3 小学校区が公表されていないエリアの生活圏域】

  

6.生活圏域を使った分析例

  今回は高齢者向け住宅供給におけるエリアマーケティング事例をご紹介します。政府の高齢者住宅拡充方針を受けて、昨秋から始まった「サービス付き高齢者向け住宅」(サ付住)登録制度は、医療法人や不動産業者・サービス業者等の福祉事業者以外の業種からの参入も相次いでいます。今回の制度におけるサ付住は、地域包括ケアシステムにおける高齢者の重要な居住拠点としての役割が期待されており、その社会的な意義も重要視されています。ただし民間企業の観点から見ると、無造作にサ付住を建設しても入居者がいなければ負の資産になってしまいます。

 一般的に高齢者向けの居住拠点分析では、所得と自立度が用いられます。高所得層には有料老人ホーム、自立度が低く中低所得層には介護老人福祉施設、介護老人保健施設、介護療養型医療施設(介護保険3施設)と言われます。サ付住は、比較的自立度が高く、中間所得層をターゲットにしているといわれています。ここで出てくる所得と自立度は高齢者を限定したものです。高齢者の年収データについては次章で紹介いたします。

 図4は横浜市の生活圏域毎に、平成22年国勢調査の高齢者人口比率を表したものです。図5は同じく横浜市の生活圏域毎に、高齢者の年収(所得)と要介護度(自立度)を表したものです。図4はこれまでの分析でよく目にするデータですが、図5は弊社で新しく開発している推計データです。この図を比較すると、図4では高齢者人口比率は中央から西側と南側エリアに高いことがわかりますが、図5ではさらに、サ付住のターゲットとなる「比較的自立度が高く中間所得層エリア」は中央から南西方向へ伸びるエリアであることがわかります。高齢者の分析というだけでも、地図を見比べるとこれだけの違いが出てきます。

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【図4 高齢者人口比率】

7.高齢者年収データの推計にあたって

  前述した年収データは、弊社が独自に開発した高齢者のみに絞った推計年収データです。従来の推計年収データは、居住している全世帯を対象にしたデータが大半です。この従来型推計年収データの特徴は、単身の新卒会社員・ファミリー・三世代同居ファミリー・高齢夫婦など様々なライフステージの世帯を包括的に作成されています。これまでのように小売流通業における出店分析や販売促進といった不特定多数の世帯が来店することを想定したエリアマーケティングでの活用には、適したデータであるといえるでしょう。

 しかし、高齢者に照準を合わせたサービスにとっては、ターゲット層が広くなってしまい、高齢者に限定したエリアマーケティングに適しているとは言い難いのが課題でした。
 そこで高齢者に照準を合わせた年収データを、平成20年住宅土地統計調査と平成22年国勢調査データを用いて推計をしました。国勢調査データから高齢者のいる世帯を住宅の所有関係別(持家世帯、借家世帯等)に振り分けます(マイクロシミュレーション)。そこへ平成20年住宅土地統計調査で公表されている高齢者住宅と年収の確率分布表を乗じていき、小地域の年収推計を行なっています。

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 【図5 高齢者の年収(所得)と要介護度(自立度) 】

8.まとめ

  このようにターゲットを特定する際のマーケティング手法は、これまで行なっていた手法と変わりません。ただ、これからのシニアマーケット分析にはサービスの需給バランスを考慮して、的確にサービス提供をしていくことが要求されています。すなわち可視化されるエリアデータの見方、ポイント(店舗など)からエリア(居住空間)への視点の転換が重要になってきます。

 今回は介護分野の高齢者向け住宅のエリアマーケティングを事例として取り上げました。今後、小売・流通業をはじめ様々な業種・業態で、高齢者の期待するサービスや消費嗜好をどれだけ的確に可視化していくのかが、シニアマーケット分析のテーマになると思われます。

『相関分析による自社ターゲット指標の探索(前編)』

 エリアマーケティングにおいて、統計解析手法のひとつである相関分析は、簡単な分析フローとその結果の分かりやすさから広く用いられています。本コラムでは、エリアマーケティングにおける相関分析の事例についてご紹介します。

 

相関分析と相関係数とは?

 相関分析の結果は相関係数という数字で表されます。相関係数とは2つの変数間の類似性の度合いを示す統計学的指標です。相関係数には単位はなく、-1と+1の間で表されます。

 身近な例を挙げると、ビールの販売量と気温の相関係数は+0.78となり、強い正の相関があります。また、先進国の失業率と実質経済成長率の相関係数は-0.84で、強い負の相関があります。気温が高ければビールの販売量が多くなり、失業率が高ければ成長率は低くなるという訳です(図1)。

 

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【図1 相関係数のイメージ】

 

■エリアマーケティングにおける相関分析
 エリアマーケティングにおいては、店舗の売上と商圏特性との関係性を探り、店舗の売上に貢献している指標を見つけ出したり、小地域毎の顧客分布と小地域単位の統計データから、来店しやすいターゲットエリアを見つけ出したりします。
以下、実際の事例を2つご紹介していきます。

 

2.事例1:自動車ディーラー様 店舗の売上に貢献する統計指標を探る。

 某自動車ディーラー様の事例です。新規に出店する候補地が2つあり、どちらに出店したほうがより良いかという課題がありました。自社に優位な商圏特性はどちらの物件かを分析する際に相関分析を用いました。

■事前準備
 まずはGISに取り込む店舗データを用意します(表1)。

 

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【表1 店舗データのイメージ】

 

このデータを商圏分析用GIS「MarketAnalyzer」にインポートし、各店舗に商圏を作成します。ここでは一律の円形商圏を作成しました。そしてあらゆる統計データを集計し、店舗の属性に付与します。(図2、表2)

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【図2 店舗分布と商圏の作成イメージ】

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 【表2 店舗データの属性に商圏データを付与したイメージ】

 

 売上という列と商圏データの各列との相関係数を算出します。相関係数の高い項目から、以下の解釈を試みました。今回の自動車ディーラー様にとって優位な統計指標(ターゲット指標)は次の結果となりました。

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【自動車ディーラーのターゲット指標】

 ■POINT

 この自動車ディーラー様の分析に投入した売上は、実は特定の車種(スポーツ系車種)の売上です。嗜好性の高いスポーツカーを選ぶのはある程度自由になる収入があり、自分の趣味で車種を選択できる単身層であると解釈できます。逆に言えば、持ち家のファミリー層は、やはりファミリーカーを選択するということでしょうか。この結果は実際のお客様が持っていた仮説と一致したとのことでした。 

3.事例2:フィットネスクラブ様 顧客分布と統計データ分布の関係性は?

 先の事例では店舗の売上と商圏データとの相関を見ました。ある程度の店舗数がないと分析しにくい方法ですが、次の事例は単店の顧客データを用いたものです。

 某フィットネスクラブの顧客データを用いた相関分析です。まずは顧客データリストをGISに取り込み、点でその分布を把握します(図3) 。


 次に点の顧客データを町丁・字単位に集計し、町丁・字単位の統計データとの相関を分析します(図4) 。

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【図3 顧客分布と投入した顧客データイメージ】

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【図4 顧客分布を町丁・字単位に集計したイメージ】

 

結果から以下のような解釈となりました。 

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【フィットネスクラブのターゲット指標】

 

4.その他の相関の例

 先の2つの事例のように、ターゲットとなる指標(相関の高いデータ項目)は業種業界・企業によって異なります。その他に以下のような事例もあります。

■学習塾:「年齢(小学生)、親の年収、親の最終学歴」
 ターゲットとなる生徒が通える範囲(多く居住する)のエリアが良いのは勿論、通塾の意思決定は親がするもので、親の富裕度と学歴が高いほうが教育投資に熱心だという具合です。

■リフォーム会社:「持ち家、一戸建、面積、居住年数」
 持ち家の広い一戸建てに長く居住しているとリフォーム需要が高いということです。

 今回はエリアマーケティングにおける相関分析の事例をご紹介しました。比較的分析も容易で、専門家だけではなく現場にも浸透しやすい手法です。一度是非お試しください。

 

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