商圏分析 用語集

~基礎からトレンドまで~

重回帰分析

重回帰分析は、二つ以上の要因があるとき、どれがどのように影響(寄与)するかを分析できる手法です。
ある数学的に説明したい変数(目的変数)を、要因(説明変数)ごとに区切って次の式を満足させる値を求めることで計算します。
y=(a1x1)(a2x2)(a3x3)....(anxn)

商圏分析ではチェーン企業の売上予測で説明変数を複数持つ重回帰分析を行うことも多いです。マーケットアナライザー(MarketAnalyzer™)シリーズでは重回帰モデル作成機能を搭載、分析することができます。

売上予測 相関係数
→【関連コラム】重回帰モデルによる売上予測の精度向上について


■ 重回帰分析とは

 重回帰分析は多変量解析手法のひとつで、売上を予測したい目的変数とし、それを複数の変数(商圏データなど)で説明する式のことです。既存店のデータ分析することによって作成します。新規出店時には当然売上は未知数ですが、商圏データは事前に得られるため、それらを用いて売上を算出します。

重回帰モデル式のイメージ

【重回帰モデル式のイメージ 】

・準備するデータレイアウト

まず、必要なデータのレイアウトを下に示しました。自社の店舗リストは当然として、実績を示す売上や面積、駐車場台数などの属性項目もあるとよいでしょう。店舗属性項目によく採用されるものとして席数や営業時間、従業員数、レジ台数などもあります。店舗リストをGISにインポートし、各店舗の商圏データを紐付けます。例えば店舗半径1km商圏内の夜間人口、昼間人口等です。その他に商圏内の競合店舗の要素も、GISがあれば瞬時に集計可能です。

データレイアウト

売上は目的変数、その他の項目が説明変数の候補となります。このようなデータが重回帰分析のスタート地点となります。次のステップでは、売上に影響を与えるデータ項目を探索していきます。

■ 売上に影響を与えるデータの探し方


・相関分析の活用

売上を説明する変数を見つけるための手法の一つに、相関分析があります。売上が上がるのは商圏人口が多いからなのか?商圏内に競合店舗が多いからなのか?売上と変数の関係性を相関係数という数字で読み取ります。相関係数は-1から+1の間に現れ、絶対値が1に近いほど関係性が高いと解釈します。

 例えば年齢とコレステロールの相関係数が+0.81だった場合、両者には関連性があり、年齢が上がればコレステロール値も上がると解釈できます。相関分析自体はExcelでも可能です。


・相関係数の落とし穴


相関係数の落とし穴

相関係数自体はデータ間の関連性を示しません。結果を解釈する必要があり、その際に注意しなければならない点があります。上の図は相関係数が同じで異なるデータの散布図です。左側は相関係数だけを見ると関連性が高いように見えますが、一部のデータが偏っており、それを除くとまったく関連がないという結果になります。単なる相関係数だけではなく、データの分布(散布図)を見ることも重要です。


・相関係数が高い指標の例(参考)

 弊社では分析支援業務の中で、お客様の分析作業に多く立ち会っています。過去の事例をいくつか紹介します。


(学習塾)
子ども向けの学習塾の場合、子供が多くいるところに開設すれば生徒数が増え、更に親の年収と親の最終学歴(大卒・院卒)とも相関が高い。

(スポーツカー)
単身者、賃貸住宅・社宅が多く、富裕度がある程度以上のエリアは購買顧客が多い。

(アイスクリーム)
おもちゃ屋が入っているショッピングセンターに出店すると売上に好影響を与える。

(ファミリーレストラン)
競合Aチェーンはマイナスの相関だが、競合Bチェーンは好影響を与える。単価とメニューの違いか。



■ 重回帰モデル式作成


次に実際のモデル式を作成します。大枠の流れとしては、まず売上予測式に採用できそうなデータ項目を選択します。相関係数の高い項目を選択するとよいでしょう。そして選択した項目群のなかで、最適な組み合わせをステップワイズ法によって自動計算します。この方法は異常値が少なく、最も信頼性の高い予測式の組み合わせを算出してくれます。統計解析ソフトやマーケットアナライザー5(MarketAnalyzer™ 5)の重回帰分析機能が必要ですが、結果の解釈もし易いためおすすめです。


・重回帰モデル評価指標の見方、ポイント(参考)

 統計解析ソフトやMarketAnalyzer™の重回帰分析機能で作成したモデル式の評価指標として、代表的なものとその見方を例示します。


ステップワイズ法のイメージ


【ステップワイズ法のイメージ 】


モデル式評価指標の見方

【モデル式評価指標の見方 】



・精度向上のためのポイント(参考)

1回の分析で納得できるモデル式が出来上がることは残念ながらほとんどありません。トライアンドエラーを繰り返しながら精度を上げていく必要があります。以下経験上のポイントを幾つかご紹介します。


(1)データを正規化する
実データの数字そのままでは統計処理上、効果が出ない場合もある(対数や率も検討する)。

(2)多重共線性を避ける
投入する項目同士の相関が高いと、実際の精度が悪くなる場合がある。

(3)店舗を分類し、分類ごとにモデル式を作成する
コンセプトや商圏特性が全く異なる店舗同士を同時に投入しない。



■ 失敗事例


 統計学上の予測精度を向上させることは時間をかければ難しくはありません。売上予測数値をビジネスにおける意思決定に使うためには、テクニカルな側面よりも重要なことがあります。ほとんどの失敗事例はデータ分析技術の欠如が原因ではなく、それ以前の問題であることが経験上多くあります。
以下、チェーン企業の売上予測モデル構築における失敗事例をご紹介します。


・某小売チェーン

過去よりGISを活用し、出店候補地の商圏データを参照していたが、出店精度を上げるために売上予測モデルの構築を社内プロジェクトとして実行することになった。プロジェクトの途中で分析担当と責任者が変更となり、前任の分析結果が新任の経験と勘と合わずに何度もやり直すことに。結局プロジェクトは一向に進展せず、途中で息切れ。

何をもってゴールとするかというプロジェクトの目標設定と担当窓口の一元化が必要だった。


・某サービスチェーン

店舗データ整備のために店舗の前面通行量が必要という仮説を立てた。調査を専門業者に外注する予算がないため各店長に実査してもらった。バラバラなカウント基準やデータ不備によって売上との相関も出ず、徒労に終わる。

同じ基準で整備されたデータの重要性に気づいていなかった。


・某アミューズメント施設

分析の結果、立地タイプに応じた2通りのモデル式が完成。1つは高精度で予測可能だが、2つ目のモデルは予測精度が低かったので、重回帰ではなくニューラル予測モデルに変更した。ニューラル予測モデルは高額な統計解析ソフトが必要なため、社内では運用できず、都度外注し予測金額を出してもらっていた。費用対効果が悪く運用しきれなくなった。

自社で再現できないモデルは運用を継続できないケースが多い。


・某飲食チェーン

担当者の統計知識が非常に豊富で、数年かけて高精度な重回帰モデルが完成し、現場では重宝していた。
出店のための社内会議で根拠として分析結果を提示するも経営陣には伝わらなかった(統計解析に懐疑的)。結局別の方法を取ることになった。

全社の理解が得られないと意思決定に利用されない典型的な例。



■ 売上予測モデルの成功に向けて


小売や飲食などチェーン企業における活用は年々高度化しており、新規出店時の売上予測というテーマでGISのデータを統計解析し、売上予測モデルを構築している企業も多くあります。しかしながら、統計解析のテクニカルな部分を高度化するだけでは本当の意味での成功は難しいのが実情です。

データに基いて意思決定する時代にあって、実績を示すデータと市場を示すデータを組み合わせることは重要です。さらに売上を予測することもデータ分析において頻出する課題ではないでしょうか?売上予測のひとつの手法として重回帰分析を紹介しましたが、作業はGISというツールに任せておき、そこから得られる結果の解釈や運用に注力することが一番重要だと思います。


・商圏分析ツール(GIS)の活用

商圏分析GISとは、商圏分析用の地図情報システムです。地図上にさまざまなデータが搭載されており、商圏分析やエリアマーケティングを簡単に行なえます。商圏分析を行うのであれば、商圏分析GISの導入と利用を検討しましょう。
現在、商圏分析GISを利用していない、あるいは商圏分析GISの変更を考えているならば、技研商事インターナショナル株式会社のMarketAnalyzer™ 5がおすすめです。

自社が保有する店舗や顧客のデータ(実績)をGISにインポートし、需要と供給と実績を地域・商圏ごとに見える化することで、データに基づく各種戦略の立案を実現するものです。国内では20年以上前よりチェーン企業を中心に活用されています。

(おすすめポイント)
・高度な分析も簡単に行える豊富な機能と拡張性
簡単に商圏分析を始めたい方から、本格的な商圏分析を行いたい方まで、幅広いニーズに対応しています。

・すぐに使える幅広いデータラインナップ
GPS・Wi-Fiなどの人流データやWeb行動(興味・関心)など、分析目的に応じた3rd Partyデータを取り揃えており、よりリアルで精度の高い商圏分析が可能です。

・エリアマーケティング専用の高速エンジン搭載 データ処理速度にも優れ、繰り返し商圏分析や仮説検証を行わなければならないマーケターや企画担当者に適した製品です。

製品について
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